https://tenki.jp/suppl/hiroko_furuya/2022/05/01/31119.html 【風薫る…日に日に変わる「五月の緑」を微妙に表現している日本語は何?】より
古屋裕子古屋裕子
五月の美しさは花もさることながらやはり木々を色づかせる緑ではないでしょうか。梅や桜の開花が春を待つ心をときめかせるものならば、花の後を追うように木々に生まれてくる緑には、ホッと心を休ませてくれる癒しを感じませんか。「芽吹き」「新芽」「新緑」「若葉」「青葉」など、ふだん何げなく使っている春から初夏の緑を表すことばですが、それぞれに微妙な違いがあるようです。自然とともに生きてきた人々の心に感じた違いとは何でしょう? ちょっとのぞいてみませんか。
「緑」とは色だけではありません「新緑」へと橋を渡します
「緑」ということばには第一義として「新芽」という意味をもっているのをごぞんじですか? まだ葉の形にもならない微かな緑色です。ささやかな緑に新しい命を見つけた喜びは「緑さす」から「新緑」へ、溌剌とした初夏の到来をことほぐことばへとつながっています。
「わがせこが衣はるさめふるごとに 野辺のみどりぞ色まさりける」 紀貫之
今も昔もまったく変わっていないなぁ、と思わずクスッとしてしまう歌です。ひと雨降るごとに枯れた土色の大地が日に日に緑色に染まっていく様子を、今年もまた目にしてきました。緑の芽吹きの勢いには毎年目をみはってしまいます。
「新緑に命かがやく日なりけり」 稲畑汀子
「新緑が新緑を染め人を染め」 星野椿
「新緑」には「緑」に秘められたエネルギーが時を得て吹き出す、そんなイメージが感じられます。作者が感じる喜びが素直に叫びとなっているストレートな句は、明るい夏へとつながっていくようです。
「緑」とは「芽吹く」こと。「緑さす」「新緑」へと生まれたての新鮮さを表すことばが、連想ゲームのように湧き出てきたよう感じられます。そういえば赤ちゃんを「みどり児」というのもうなずけます。五月は身体を開いて思いっきり「新緑」の息吹を取りこんでいく時のようです。
「若葉」一つのことばが表す世界は多彩です!
「立夏」までもう少しとはいえ、五月の声を聞けば気分はすっかり初夏モード。「若葉」は1年の中でも穏やかで過ごしやすいこの時季の緑といえましょう。北海道へ渡った桜前線の後を追うように、つぎつぎと木々にあふれる葉は、日差しを浴びて輝き柔らかな美しさを見せます。これが「若葉」の特徴でしょうか。四月にスタートした新しい生活にでてきたちょっとした疲れも、「若葉」を見ればホッとひと息つけそうです。
「吹入るる窓の若葉や手習い子」 惟然
「若葉」とひと括りにできないのも「若葉」の特徴です。よく見ればそれぞれの木々で色合いや風情など個性はそれぞれ。「楓若葉」「樫若葉」「樟若葉」と木の名前で呼び分けたくなることもあるようです。
「水撒きの女出て来ぬ萩若葉」 岩垣子鹿
「それぞれに名のりて出づる若葉かな」 千代女
また場所によっても「若葉」の風景は違ってくるようです。「里若葉」「山若葉」「寺若葉」「庭若葉」このような見方もまたされています。
「濃く薄く奥ある色や谷若葉」 太祇
「鳥啼てしづ心ある若葉かな」 蓼太
「若葉して手のひらほどの山の寺」 夏目漱石
天候の変化も取り入れた「若葉寒」「若葉風」「若葉雨」は、音数を節約しながらも情景を読み手に見せる俳句ならではの工夫といえるかもしれません。多彩な表情をもつ「若葉」は大いに俳人の感性を刺激するようです。時を越えて心に響く句が残されています。
「町いまが一番きれい若葉風」 黒川悦子
「雨雲のかき乱し行く若葉かな」 暁台
「リストラの噂に呑まれ若葉冷え」 大竹多可志
あなたの心にも「若葉」のイメージが数々と湧いてきているのではありませんか。
さあ「青葉」の季節です
「新緑」や「若葉」に感じるのは初々しさや淡い色あいですが、「青葉」には青々と漲る生気が表されています。夏に向かって厚みを増す葉には、緑濃く繁りゆく躍動感を感じます。やがて夏の強い光を遮り心地よい緑陰を作りだしてくれることでしょう。初夏の風情をいかんなく表している句として有名なのが次の句です。
「目には青葉山ほととぎす初鰹」
作者は芭蕉と同じ時代を生きた山口素堂。「青葉」がみせる初夏の明るさが美しい句です。さらに耳に聞こえてくるほととぎすの囀りと初鰹の味わいが五感に響きます。
日本料理には「あしらい」として自然のものをさりげなく取り合わせて、季節感や風情を添える習慣があります。笹や大葉、木の葉といった緑は四季を通じてあしらいの定番といえるでしょう。緑がもたらす効果はなんといっても新鮮さではないでしょうか。それぞれが持つ葉のみずみずしい艶が料理を引き立て食欲をたかめます。
「みどり葉を敷いて楚々たり初鰹」 三橋鷹女
もてはやされる初鰹ですが、緑の葉に乗せてさりげなくその存在をみせるのは、女性の感性でしょうか。家族で味わう初物の喜びが伝わります。
風に乗って爽やかな香りを届けてくれるのが、木々の枝にいつの間にか出そろった柔らかな葉っぱたち。「新緑」「若葉」「青葉」どれも見る人の心に映るさま。風に揺れる木の葉のバラエティ豊かな色あいに気づくと、初夏の楽しみも広がっていきますね。風薫る五月、木々の緑を存分に楽しんでみませんか。
参考:
『日本国語大事典』小学館
『角川俳句大歳時記』角川学芸出版
https://note.com/macasell/n/n037444452da5 【5月は新緑の季節 “新緑”ってどんな色?】より
こんにちは。macasellです。“新緑”と聞くとどんな色が浮かびますか?
季節の移ろいが豊かな日本では古くから日本の文化や生活に基づいた日本特有の色彩があります。その中から今回は「新緑の色」をお話しします。
若草色(わかくさいろ)
早春に芽吹いた若草のような鮮やかな黄緑のこと。
古くからみられる伝統色で、基は平安装束の重ね色目「若草」が由来。
春は若草 夏は草色 冬は枯野 とそれぞれ季節に合わせて色が変化していく。
浅緑色(あさみどりいろ・あさきみどり・せんりょく)
春に芽吹いた若葉のようなうすい緑色のこと。もしくは黄みがかった明るい緑色。
万葉集にも出てくる色名でその頃からの伝統色。対になる色は「深緑」。
春の柔らかな若葉、特に柳の若葉を指し前回ご紹介した「紅梅色」と合わせて初春によく用いられる。
萌黄色・萌木色(もえぎいろ)
萌黄色とは春先に萌え出る若葉のようなさえた黄緑色のこと。
平安時代から用いられた伝統ある色名。当時、新緑の若ぎ色ということから若さを象徴する色とされ、若者向けの色として愛好された。平家物語では若武者の象徴に。
また同じ読みの「萌葱色」は江戸時代に流行した青葱に由来する濃い青緑色を指す。
柳色(やなぎいろ)
晩春から初夏にかけての柳の葉の色を思わせる明るい黄緑色のこと。
古くからの色名で重色目や織色として平安時代に盛んに使われ、その記録が紫式部日記に残っている。重色目とは、平安時代の衣の表裏、衣2枚以上を重ねた際の色の配合。四季の草花樹葉にちなんで名付けられる。織色とは、染めた糸で折り上げた布帛・織物のこと。
若芽色(わかめいろ)
植物の若い芽のような淡い黄緑色のこと。早春に生えて手間もない草木の色を「若」と「芽」で重ねることで強調した色名。
「若葉色」「若草色」「若苗色」等の「若」がつく和色の中でも色味が薄く黄色に近い色。比較的新しい色で、近代になってから登場。
英色名では「sprout(スプラウト)」フランス語では「bourgeon(ブルージョン)」どちらも「芽」を指す。
若緑色(わかみどりいろ)
みずみずしい松の若葉のような明るく淡い黄緑異色のこと。
晩春の季語として若葉は使用され、本来は「松の新芽」だったが江戸時代に登場し、そのまま色名として定着。年を経た老いた松の色を「老緑(おいみどり)」と呼び対色になる。
日本には様々な樹木があります。例えばケヤキや楓、イチョウ、楠木、桜等。それらが綺麗な新緑の葉を付けるのは
ちょうど今頃です。公園や街路樹を見ると案外、すぐ新緑の緑を見る機会があったりします。
緑を見るとリフレッシュ効果を感じたり、気持ちが穏やかになったりすると言われており、この心理はWebサイト、ECサイト、SNS、アプリ、販促物等あらゆるマーケティングで使用され実証結果が出ています。
それ程までの効果がある「緑色」がたくさん茂る季節なので、お散歩をしたりするのも良いかもしれませんね。
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