https://globe.asahi.com/article/12002404 【死者年7万人、米国で広がる世界最悪の薬物蔓延の現場を歩いた】より
オピオイド系鎮痛剤「オキシコンティン」=ロイター
世界で薬物の直接的な影響による死者は、2015年で約17万人。そのうち最多の死者を出しているのが米国だ。17年に史上最多の7万人以上が過剰摂取で亡くなった。特に深刻なのが、オピオイド(麻薬系鎮痛剤)などの広がりだ。民主党が強い東西沿岸部のリベラルな州を中心に大麻の解禁が広がるが、トランプ大統領の支持が根強いラストベルト(さびついた工業地帯)を歩くと、まったく別の深刻な薬物蔓延の光景が広がっていた。(五十嵐大介)
■「成績優秀生」の転落
2018年3月、米オハイオ州北東部のエリー湖沿いの港町、アシュタビュラには雪が舞っていた。かつて世界3位の鉄鉱石の集積港として栄えた町だ。
平日の昼頃、町外れの白い建物を男性たちが次々と訪れていた。薬物依存者らを支援する非営利施設「コミュニティー・カウンセリング・センター」だ。
薬物依存者を支援する「コミュニティー・カウンセリング・センター」の建物。平日の日中でも、若い白人男性らが次々と訪れていた=オハイオ州アシュタビュラ、五十嵐大介撮影
この施設で、長年薬物依存に苦しんできたヘンリーと出会った。めがねをかけ、紺色のコート姿。両手首の袖からタトゥーがのぞいてみえる。ソフトな語り口は知的な印象を与え、とても薬物中毒だったようには見えない。
だが話を聞き始めると、彼の過酷な経験がみえてきた。
「この辺りは、手に入りやすいドラッグがとにかく多い。そして安いんだ」
ヘンリーは29歳。勤勉な両親のもとで一人っ子として育った。地元アシュタビュラのレイクサイド高校を成績優秀で卒業し、同じ州のクリーブランドの南にあるケント州立大学に入学した。奨学金を得ながら大学で学べる、軍隊の将校を養成するための訓練課程にも参加していた。
だが、在学中のある夜、飲みに出かけたときに酔っ払って未成年の少年を殴ってしまう。暴行の罪を認め、大学から退学処分を受けた。奨学金も失った。「そこから、人生が悪い方向に転がり始めたんだ」
センターの入り口の注意書きには「この建物に銃器を持ち込むのは違法です」と書かれていた
その後、ヘンリーは、アシュタビュラから南西に50キロほど離れたミドルフィールドという町の医者の存在を知る。背中が痛いということでかかり始めたが、毎月1回の診療で、500ドル(約5万7000円)ほどを払えば好きな処方薬を何でも手に入れられたという。
「みんなこの制度を悪用していたから、自分も同じことができるとわかっていた。そこから、オキシコンティン(OxyContin)の中毒になったんだ」
オキシコンティンはオピオイド系鎮痛剤の一種だ。製薬会社パデュー・ファーマ(本社コネティカット州)が1990年代から販売してきた。がん患者の鎮痛剤などとして使われているが、強力な効き目から劇薬ともされる。
■密売で月収130万円
ヘンリーによると、オキシコンティンは、1錠15~30ドルほどで手に入った。月に90~180錠の処方を受け、それを1錠80~120ドルで売っていたという。「当時は相当いい暮らしをしていた。月に9000ドルから1万2000ドル(約136万円)は稼ぐことができた」。薬物の密売でお金を稼ぎ、クリーブランド近郊に家も買った。
だがその頃、ある事件が起きた。薬の処方を受けていた医師が、妻に殺害されたのだ。地元報道によると、09年夏、男性医師(当時73)が、妻(当時57)と夫婦げんかとなり、夫を刃物で刺したとして妻が殺人容疑で逮捕された。
ヘンリーは薬の「仕入れ先」を失い、唯一の金もうけの手段を失った。当時すでに薬物に依存しており、唯一の代替物が、いとこが持っていたヘロインだった。
「ヘロインは、自分の人生の全てをコントロールするようになった」。ヘンリーはその後、自宅の住宅ローンを返すことよりも、ヘロインを買うお金を優先するようになっていく。うつ病を患い、家も失った。「勤勉な両親のもとで育ち、欲しいものはすべて与えられていた。学校では勉強もスポーツもできた。人気者で、かわいい彼女もいた。それでも、ヘロイン中毒になったんだ」
ヘンリーは過去10年間、ヘロインなどの薬物に依存してきた。強盗などで4度にわたり有罪判決を受け、通算で4年半刑務所に入った。過剰摂取で呼吸困難になり、救急車で運ばれて応急薬で助かったのは11回。「麻薬の密売人を殺して、金を奪ってやろうと考えたこともあった。神様のおかげで、何とかそこまで行かずに済んだ」
カウンセリング・センターに通うヘンリー。自らの中毒経験を赤裸々に語ってくれた
■背景にみえる経済的苦境
自分が刑務所に服役中、母親が支援していた薬物中毒の少女が、18歳で亡くなったこと。自分の母親がアルコール中毒になったこと。高校の同級生が最近、マクドナルドの地域統括のマネジャーになったが、彼の父親がヘロイン中毒で、母親を殺害してしまったこと。ヘンリーの話を聞いていると、この地域の若者が、いかに薬物に囲まれて育っているかを痛切に思い知らされる。
薬物蔓延の背景に透けて見えるのが、人々の経済的な「痛み」だ。
「アシュタビュラには仕事も多くない。以前は鉄道や大きな工場があって栄えていたが、すべて閉鎖した。続ける価値のある仕事が見つかれば、ラッキーだよ」。ヘンリーはそう話す。
実際この町には、グローバル化に翻弄された傷痕が、あちこちに残る。1960年代には世界3位の鉄鉱石の集積港として栄えたが、鉄鋼業の衰退と共に活気を失っていった。ピークには約2万4000人だったアシュタビュラの人口は1万8000人に減少。貧困率は34%と、米国全体の約3倍にのぼる。
エリー湖沿いの港に隣接した貨物鉄道の操車場。アシュタビュラはかつて、鉄鉱石の集積港として栄えた
2016年の大統領選で、住民は不満を爆発させる。伝統的に民主党が強かったアシュタビュラ郡は、1980年代のレーガン大統領以来初めて、共和党の大統領を選んだ。トランプ政権で通商政策を取りしきり、保護主義的な政策を繰り出すライトハイザー通商代表は、この町で育った。
ヘンリーは、自分が子どもの頃と比べて、薬物を取り巻く環境は悪くなっているように感じるという。「麻薬の密売人らが集まる家にいくと、若い少年、少女がいた。年齢を聞くと、まだ高校生だった。その話を聞いて、どれだけ状況が悪くなっているかと驚いた。自分が高校生の頃は、何度か大麻は吸ったことはあるが、ハードドラッグは一度もやったことがなかった」
ヘンリーの横にいた、センターで働く女性は、こう教えてくれた。「自分の患者も何人もOD(overdose:過剰摂取)で亡くなった。子どもたちは小学校3年生ごろからドラッグに手を出し始める。6年生の頃には結構広がって、中学では多くの子どもたちがドラッグに囲まれて過ごす。ヘロインをやっている子どもは運動もできなくなるので、すぐにわかる」
■広がる合成麻薬
オキシコンティンをめぐっては、オピオイドの問題の広がりと共に、パデュー社のセールス担当が、当初の目的のがん専門の医師ではなく、一般の診療所などの医師に効用を偽って販売していた手法が発覚。同社は2007年、連邦裁判所で罪を認め、罰金など6億ドル(約680億円)の支払いに応じた。
だが、同社はその後も、米国の30近い州から、違法な販売手法を使ったなどとして提訴されている。ニューヨーク州は18年8月、詐欺的な手法でオキシコンティンを販売し、オピオイドの過剰摂取の要因を作ったとして、同社を提訴した。クオモ知事は声明で「オピオイドの蔓延は、4000億ドルの産業を作り上げた、無節操な業者によって作り出されたものだ」と非難した。
センターで10年以上働き、薬物問題に取り組むマシュー・バトラー。過剰摂取や自殺者の多くは40代半ばの白人男性という。「希望の喪失や、多くの経済機会がないという認識がある」と話す
カウンセリング・センターの麻薬問題の専門家、マシュー・バトラーは、オフィスでパソコンのキーをたたきながら、アシュタビュラ郡の薬物の過剰摂取による死者数の推移をみせてくれた。画面に現れたグラフは、15年から16年で急激な右肩上がりを示している。
「16年に薬物の過剰摂取の死者は前年から2倍に増えたが、そのほとんどはフェンタニル(Fentanyl)によるものだ。15年は1割以下だったが、今ではフェンタニルが関係しない死亡例は珍しい。オハイオ州北東部では、フェンタニルはそこら中にある」
フェンタニルとは合成オピオイドの一種で、モルヒネの50~100倍強力とされる。「問題は、コカインやヘロインを使っている人も、フェンタニルが混ぜられたものを使っていることだ。ヘロインよりずっと強力で、呼吸困難になって死亡率が高まる」。救急隊員は、オピオイドの過剰摂取の患者に「ナルカン(Narcan)」と呼ばれるスプレー式の応急薬を使う。バトラーは「ヘロインの過剰摂取ではナルカン1、2本で足りるが、フェンタニルは7、8本必要になる」と話す。
CDCの先月の発表によると、17年の米国の薬物の過剰摂取による死者は7万237人で、交通事故の死者のピークより高い。そのうち、フェンタニルによる死者は約2万8466人で、13年の3000人から急増している。
米麻薬取締局(DEA)の16年の調査によると、オハイオ州のフェンタニルの押収件数は3800件を超え、全米50州で最悪となった。
■娘の写真を握りしめて
ヘンリーは約1時間の会話の途中、財布から1枚の写真を大切そうに取り出して、見せてくれた。小さな女の子がほほえみかけている。2歳の娘のケリーだった。「この子が俺の人生で重要なものなんだ。彼女がいるから、何とか生きていこうと思えている」
ヘンリーは5年ほど前、執行猶予期間中に違反行為をして、薬物依存者を支援するこの施設に通い始めた。州内の同じような施設に通っても長続きしなかったが、この施設のスタッフは信頼できると話す。「ここの人たちは、本当に親身になってくれる。自分の中で起きていることを話すことができる」。ヘンリーは大学に戻って心理学を学び、将来的には修士号を取りたいという。
■手をさしのべる人々
アシュタビュラの近くの町コニオートでは、前向きに手をさしのべる人にも出会った。
子どもの薬物対策を担う非営利団体「エレベーション」を立ち上げた、コーリー・キャンベルのオフィスを訪ねると、彼女の家族が経営する葬儀社だった。この地で150年間続く老舗だ。明るい雰囲気の店内に入ると、金や銀など、色とりどりの棺おけが売られている。
キャンベルは15年9月、地元の友人らと、エレベーションを立ち上げた。中学校や高校を回り、薬物やアルコール依存防止のための教育活動をおこなっている。
薬物防止活動に取り組むコーリー・キャンベル。「親が薬物依存症の子どもたちが多くいる。薬物依存の親を見て育つと、子どももその方向に流れてしまう。このサイクルを断ち切らないと」
「子どもたちは、自宅にある薬を持ち寄ってボウルに入れて、何かわからないままに飲むパーティーを開いたりしている」。有名なキャンディー菓子「スキットルズ(Skittles)」をボウルに入れて食べるようなスタイルから、「スキットルズ・パーティー」と呼ばれているらしい。親たちには、自宅で不要になった薬を捨てるよう呼びかけている。キャンベルは「高校生になると多くがマリフアナを経験していることもあり、中学生に呼びかけるのが有効だ」と話す。
キャンベルが薬物防止の活動にかかわり始めたのは、薬物で子どもを失う人々に身近に接してきたからだという。
キャンベルは今年、薬物の過剰摂取で亡くなった34歳の女性の葬儀を執り行った。女性の親と、3人の子どもが寄り添っていた。「3人の小さな男の子が、お母さんに別れを告げなければならない状況は、人生を全うした80、90歳の人と全く違う。誰にもこうしたことが起きて欲しくない。何かを変えたいと思った」。人口1万人ほどの町だが、キャンベル自身、年に5、6人は薬物で亡くなった若者の葬儀を手がけるという。
それでも、キャンベルは3年間の活動を通じて、少しずつだが手応えを感じている。
「この地域で誇れることの一つは、みんなで協力して取り組むということ。学校の校長先生、消防署、警察、みんなが協力して、状況を変えようとしている」。この日の会話は暗い話題が多かったが、キャンベルは笑顔をたたえて言った。
「こういう見方をしてみたらどうかしら。少なくとも一人でも助けることができたとしたら、それは多くのことを達成できたと言えるんだと思う」
https://globe.asahi.com/article/12002710 【中国からの厄介な「輸入品」 ヘロインより強力な合成麻薬が米国に蔓延する】より
米シカゴ空港の税関で公開された、フェンタニル入りの袋(2017年11月)=ロイター
「貿易赤字が大き過ぎる」などとして、中国に「貿易戦争」をしかけるトランプ米大統領。だが、米国民により大きな悪影響を与えているのは、貿易赤字には表れない合成麻薬なのかもしれない。世界最多の薬物による死者を出している米国で、米国民の寿命を縮める一因となっているのが、中国からの厄介な「輸入品」だ。 (五十嵐大介)
■トランプ氏支持層と重なる蔓延地域
米ニューヨーク・タイムズ紙が先月、米疾病対策局(CDC)の発表として報じた内容によると、17年の米国の薬物の過剰摂取による死者は約7万人で、交通事故の死者のピークより高い。そのうち、フェンタニルによる死者は約2万8000人で、13年の3000人から急増している。
フェンタニルとは合成オピオイドの一種で、モルヒネの50~100倍強力とされる。米麻薬取締局(DEA)の16年の調査によると、全米50州のうちフェンタニルの欧州件数が3800件と最悪だったのは、製造業の衰退で苦境にあえぐ「ラストベルト」の一角をなすオハイオ州だった。
このフェンタニルの主な供給源とされるのが、中国だ。
12月1日、世界が注目した、トランプ米大統領と習近平国家主席との首脳会談。会談後にホワイトハウスが出した声明文では、最大の焦点だった貿易交渉の結果よりも先に、中国によるフェンタニルの規制強化が書かれていた。
トランプ氏は数日後、「中国が密売人に死刑を使ってこの『恐ろしい薬物』を取り締まれば、結果は素晴らしいものになる!」として、死刑を助長するかのようなツイートで「成果」を強調している。フェンタニルなど合成オピオイドの蔓延は、トランプ氏の支持者が多いラストベルトを悩ませている問題だけに、ホワイトハウスのホームページの一番上に「オピオイド問題」のコーナーを設けているほどの熱の入れようだ。
中国は、米国に次ぐ世界第2の製薬産業を抱える。なかでも、低価格のジェネリック医薬品や薬の原材料の生産に頼っており、規制も緩い。
DEAによると、中国の業者がフェンタニルなどを大量生産し、数年間で数十万もの偽装薬物を普通郵便で米国に送り込んでいるという。詳細な量は把握されていないが、中国からメキシコやカナダに渡り、米国に持ち込まれるものもあるという。暗号化されたメッセージアプリやビットコインなど仮想通貨の普及も、こうした取引の温床となっているとされる。
中国からのフェンタニルの流入は、オバマ政権時代から問題視されてきた。中国は15年、フェンタニル関連を含む100種類以上の合成化学物質を規制対象リストに加えているが、わずかに構造を変えただけで規制から外れるため、「いたちごっこ」になっている。
■先進国なのに平均寿命が縮む
米疾病対策センター(CDC)が18年11月に公開した報告書によると、17年の米国民の平均寿命は78.6歳で、3年連続で下がった。この主因となったのが、薬物の過剰摂取と自殺の急増だ。先進国でつくる経済協力開発機構(OECD)の中では、1位が日本(84.1歳)、2位がスイス(83.7歳)で、米国は29位。スロベニアやコスタリカよりも低い。
そもそも、医療や製薬の先進地の米国で平均寿命が下がり続けているのは、「先進国としては驚くべき」(米ウォールストリート・ジャーナル紙)状況だ。CDCのロバート・レッドフィールド局長は声明で「この冷徹な統計は、あまりに多くの若い米国人を失っているという警鐘だ」と訴えた。
米大統領経済諮問委員会(CEA)は、オピオイドの蔓延による経済損失は2015年で5040億ドル(約57兆円)、国内総生産(GDP)の2.8%にまでのぼると試算。日本の国家予算の半分以上にのぼる金額だ。
なかでも、製造業が衰退した中西部やアパラチア山脈周辺のラストベルトで死者数が多い。人口10万人あたりの死者数は、最も多いウェストバージニア州が2010年の28.9人から16年には52人に増加。2位のオハイオ州は、16.1人から39.1人と2倍以上に増えている。
こうした地域では、経済的にも他の地域より苦しい状況にある。景気回復が続く米国でも、オハイオ州の失業率は4.6%で、全米で7番目に悪い。オピオイドの100人当たりの処方率を分布したCDCの地図では、処方率の高い地域が、ウェストバージニアやケンタッキーなど、所得が低い州に集中している。
一方で、娯楽用大麻を合法化した10州を地図に落とすと、カリフォルニア、ワシントン、オレゴン、コロラドなど、比較的所得が高いリベラルな地域が多い。薬物を取り巻く環境を見ても、深刻な格差が横たわる。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/573739315ef57331d339d7cff03a0af731e38741 【全米初「ヘロインを安全に打てる施設」がNY市で開設。その理由とは?】より
ニューヨーク市では11月30日、全米初の公的認可された「違法薬物を『安全に』摂取できる施設」が運営開始されることが発表された。デブラシオ市長が書面で発表し、地元紙のニューヨークタイムズやデイリーニュースなどが報じた。
この施設は「過剰摂取防止センター(Overdose Prevention Center=OPC)」というもの。マンハッタン北部に位置するイーストハーレム地区とワシントンハイツ地区の2箇所に置かれる。この施設内では、ヘロインなどの薬物中毒者が、監視下で逮捕されることなく薬物を摂取することができる。
アメリカをはじめ世界各国では近年、ハードドラッグのオーバードース(過剰摂取)や依存症による死者数が急増し、社会問題となっている。
ニューヨーク市の発表では、昨年1年間だけで、薬物の過剰摂取による死者数は全米で9万人以上、市内では2000人以上に上った。また今年1〜3月の間だけでも596人が死亡している。これは2000年に記録が始まって以来最多となっており、これらの死因に絡んだもっとも一般的な薬物はオピオイドだという。過剰摂取防止センターを開くことで、年間130人の命を救うことができると見られている。
「安全に」ヘロインを打てる施設、なぜ必要?
ハードドラッグ系の薬物中毒者は通常、室内や路地裏、公衆トイレなど隠れた、そして決して清潔とは言えない場所で違法薬物を摂取することが多いが、最近は路上でも堂々と打つ姿が市内でも確認されている。
非営利団体のピュー慈善信託の発表によると、過剰摂取防止センターのような監視された環境は「安全で清潔な場所」と見なされており、そのような場所を提供することで、中毒者(患者)を更正・治療プログラムへと導き、薬物の過剰摂取を防いで、死亡のリスクを減らす効果があるとされている。
このような施設は、世界中で昨今高まるオピオイド危機(麻薬系鎮痛剤の過剰摂取問題)に対応するため、隣国カナダのバンクーバーなど27都市に存在するという。
デブラシオ市長や市の最高保健当局長はこの日の声明で、「過剰摂取防止センターは、オピオイド危機に対処するための安全で効果的な方法だ。ニューヨークもこういったより賢いアプローチにより、問題解決に向かう先行事例都市になることを誇りに思う」と述べた。
2箇所の過剰摂取防止センターは共に非営利団体が運営し、市は資金を提供するシステムだが、直接運営にはタッチせず、人員の配置などもない。また施設では、オピオイドの過剰摂取や急性中毒のためのナロキソンや清潔な針などは提供されるが、薬物自体は患者が持参する仕組みだ。コロナ禍によりしばらくはオンラインが主体の運営となりそうだ。
これまでもデブラシオ市長は市内に同様の施設を開設したい考えを示してきたが、クオモ前知事やトランプ前大統領によって阻止されてきた。市長の任期満了まであと4週間となった今、深刻化する違法薬物への対策として大きく舵を切った形だ。
一方で、このような施設の運営で北米をリードしてきたカナダのブリティッシュコロンビア州などでは、相変わらず過剰摂取による死者数が伸び続けている事例がある。また、このような施設を作ることにより中毒者とドラッグディーラーがその地域にさらに集まり、治安が悪化する事例も報告されている。
こういったことから、施設の有効性については疑わしいという声、施設の開設は薬物乱用を助長するだけであり、麻薬の乱用の根本原因にこそ焦点を当てるべきだと反対する声も出ている。また、このような施設の開設自体が連邦規制物質法に反するものだとし、反発を唱える市議会議員もいる。市長の置き土産とも言えるこの大胆な対策が、この後どのような影響を街に与えることになるだろうか。
https://www.youtube.com/watch?v=M4R-INv_zWQ
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