https://dot.asahi.com/articles/-/217095 【「さだまさし」が語るウクライナ侵攻「何もできないから僕は歌う」 曲が翻訳され静かな反響】より
さだまさしさんインタビュー前編
ロシアで3月17日に結果が判明する大統領選挙。プーチン氏が再選されるとみられているが、あらためて、ウクライナ侵攻の是非が国際社会から問われている。そんな中、ある日本人歌手の曲がウクライナで注目を集めている。ロシア軍兵士に素手で立ち向かうウクライナの女性。その命がけの抵抗を歌ったさだまさしさんの曲だ。曲は「キーウから遠く離れて」(作詞・作曲 さだまさし)。日本語からウクライナ語へ訳され、その歌詞を読んだ戦時下の人から「胸を打つ」との声もあがる。さださんに、この曲を作った理由と、ウクライナ戦争への思いを聞いた。
――ウクライナについての歌を作った理由は。
一昨年2月、戦車が列をなして国境を越えてくる、という時代錯誤の映像に衝撃を受けました。「本当に今起きてることなのか」と。一言でいうと、義憤にかられた、ということですね。その4カ月後にリリースした「孤悲」というアルバムに入っています。
――歌詞は「君は誰に向かって その銃を構えているの」から始まる。「気づきなさい君が撃つのは君の自由と未来」「わたしが撃たれてもその後にわたしが続くでしょう」といったフレーズが印象的です。どんな状況を歌ったのでしょう。
ウクライナのクリミア半島のすぐ北にある町がロシア軍に占拠されました。その街の様子がスマートフォンで中継され、日本のテレビニュースでも流された。その中で、あるウクライナのおばちゃんが、銃を持った若いロシア兵に詰め寄り、怒鳴っているシーンがありました。「ヒマワリの種をポケットに入れておきなさい。あんたが死んだら、地面にその花が咲くだろう。それを私が見てやるから」と言って。その言葉にも衝撃を受けました。この曲は、ロシア兵に語りかけている歌なんです。彼らが聞いてくれれば、と思います。
ロシア兵に詰め寄るウクライナ人女性=テレグラムチャンネルより
――何を訴えたかったのですか。
「銃を撃つことに何の意味があるか分かっている?」という問いかけですよね。あなたが銃の引き金を引く瞬間、あなた自身の「自由」と「未来」に向けて銃弾を撃っている、と気づきなさいと。
――歌詞の訳は、ウクライナ在住のウクライナ人教員が中心に行い、その後、ウクライナ人の文学に詳しい人が監訳しました。その教員がSNSに訳詩をアップしたところ、ウクライナ人たちから「心に刺さる」「ウクライナと日本を近づけてくれてうれしい」といったコメントがつけられました。
ウクライナの人を想定して書いた歌ではないですが、僕のお客さんは明らかにこの歌でウクライナとの距離が近くなったでしょうね。コンサートでこの曲を歌うと、客席のみなさん、ウクライナの悲劇はどうにかならないか、という切ない思いで聴いてくれています。演奏後の拍手の音が、しっかりと自分の意志の入った、「心に染みた」という感じなので、それが分かります。
戦争って、非戦闘員がどんどん殺されていくわけですね。それは、近代兵器ができてからですね。大量殺戮の兵器を持っている国が、大量に人を殺していくという近代戦の恐ろしさが全部ここに出ていますね。
――それでもウクライナでも日本でも人々は歌い続ける。歌の力とは。
「さださんのこの歌を聴いて、私は苦しみを乗り越えてきたんです」という手紙は、かなりたくさん頂戴します。僕らは平和な国の平和なコンサートホールで歌を歌っているけど、人生という大きな「戦場」で、一人ひとりが生きているということですよね。その戦場の中で苦しんでいる人にエールを送るのが歌だなと思っているし、「これは私のために書いてくれた歌だ」と思ってくれる人のためにもヒット曲というのがあると思います。ヒット曲は日本のどこにいても聞けますからね。(ヒット曲でない曲は)僕のコンサートに来てくれる人にしか聞いてもらえないですから。
――「キーウから遠く離れて」の歌詞は、一部のウクライナの人も読んでいます。この曲も含め、「いのち」という言葉が、曲によく出てきますね。
もう僕のテーゼ、テーマの一つです。手を変え品を変え、メロディーを変え、言葉を変えているだけで、テーマは全く動かない。あなたは自分の命を大事にしてください、ということ。自分の命が大切なように、敵の命も大切にしてくださいよっていうのが大きなテーマです。愛の歌は全部、反戦歌だ。僕はそう信じています。だって愛を歌うんだったら、敵の命を奪って良いという論理はありえないですよね。僕に戦争賛美の曲は1曲もありません。戦争が起きるたび、僕はショックを受けるもんですから、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争。これらについて、馬鹿なことを人間は繰り返すんだな、という思いも持ちながら、曲を書いてきました。
――ウクライナ戦争についてはいかがですか。
僕は音楽家なので、銃を人に向けて撃つことはできない。撃った瞬間、自分の歌が嘘になってしまうから。でも、「銃を撃たないで大事な人を守る方法はないのか」というのが強烈なテーマとして、22年2月のロシア侵攻以降、自分の中に生まれました。それについて、今も考え続けています。
https://dot.asahi.com/articles/-/217104?page=1 【音楽は無力なのか?「さだまさし」の曲がウクライナ語に翻訳 「弱きを励ますのが歌」本人が語る役割】より
さだまさしさんインタビュー後編
音楽は無力――。歌手で作家のさだまさしさんは、そんな言葉を著書に記したこともあった。しかし、ロシアの大統領選を前に、ウクライナ人の抵抗を歌ったさだまさしさんの曲、「キーウから遠く離れて」(作詞・作曲 さだまさし)が多くの人の心を動かしている。日本語からウクライナ語へ訳され、その歌詞を読んだ戦時下の人から「胸を打つ」との声もあがる。歌とはいったいどんな働きをするのだろうか。さださんに、歌に込めた思いを尋ねた。
* * *
――ジョージア大使館の駐日大使が、さださんのウクライナ戦争をテーマにした曲「キーウから遠く離れて」を聞いて、涙を流したそうですね。歌詞は「君は誰に向かって その銃を構えているの」から始まり、「気づきなさい君が撃つのは君の自由と未来」「わたしが撃たれてもその後にわたしが続くでしょう」といったフレーズが印象的です。
東日本大震災(2011年)のチャリティーコンサートをきっかけに、その時お世話になった方のところで毎年小さなライブをしているのですが、昨年、最前列にジョージアの大使の方が座っておられたんです。それでふと、ウクライナのことを思っている日本人もいると伝えておこうと思い、歌いました。それまで僕のトークに笑ってらしたんですが、曲の途中から目頭を押さえていらっしゃいました。ジョージアもウクライナのように、かつてロシアから侵攻されたことがある国です。僕も胸が詰まって少し音程を外しながら歌い続け、「(ウクライナの)痛みを感じていらっしゃるのだろう。また、それを歌う歌手がいる、ということはちょっと理解してくれたのだろう」と思いました。
――東日本大震災の直後、「音楽は無力」という言葉を、自著にお書きになりました。
指揮者の佐渡裕さんの言葉の引用です。彼は震災の時、僕に電話をくれて、電話口で号泣しながら、そうおっしゃっていました。当時、震災で亡くなった方のご遺体が浜辺に打ち上げられていたりする映像を日本のメディアは報道しませんでした。視聴者のトラウマになるという理由だったのでしょう。でも、海外メディアは伝えていた。海外で活動される佐渡さんは、その大変さを知ったうえでの言葉だと思います。
――SNSが普及し、ウクライナ戦争ではそうした映像を国内外の人々が見ています。
やはりえん戦気分も出てきますよね。死にたくないって思い始めますよね。
――一方で、「どうにかなる」「すべて良くなるさ」という歌詞の歌もよく歌われていて、ウクライナ人には、ある種、強い気質もあります。
それを歌わないとやりきれないから歌うんですよ。それを信じているわけじゃないのだと思いますよ。そう言わないと、自分の心が、死んじゃうんですよ。「核兵器を撃ち込まれたら、どうするんだ」とか、マイナスのイメージばかりが心を占めると、何もできなくなる。だから、嘘でも良いから、どうにかなるって言いたいのでしょう。
――「キーウから遠く離れて」を訳してくれたウクライナ人の大学教員が、学生らが避難豪でこの歌を歌う動画をアップしています。
佐渡さんがおっしゃるように音楽は無力かもしれませんが、でも一方で音楽は人を励ます。音楽ってすごく個人的なもので、1人が歌い、1人が受け取るというもの。それが励ましになる場合もある。
(その後、さださんは、ウクライナの学生らが歌う動画をパソコンで見ながら、うっすらと涙を浮かべた。ウクライナ人学生は「すべてはよくなるさ」とリフレインしている)
戦争って、非戦闘員がどんどん殺されていくわけですね。それは、近代兵器ができてからですね。大量殺戮の兵器を持っている国が、大量に人を殺していくという近代戦の恐ろしさが全部ここに出ていますね。
――それでもウクライナでも日本でも人々は歌い続ける。歌の力とは。
「さださんのこの歌を聴いて、私は苦しみを乗り越えてきたんです」という手紙は、かなりたくさん頂戴します。僕らは平和な国の平和なコンサートホールで歌を歌っているけど、人生という大きな「戦場」で、一人ひとりが生きているということですよね。その戦場の中で苦しんでいる人にエールを送るのが歌だなと思っているし、「これは私のために書いてくれた歌だ」と思ってくれる人のためにもヒット曲というのがあると思います。ヒット曲は日本のどこにいても聞けますからね。(ヒット曲でない曲は)僕のコンサートに来てくれる人にしか聞いてもらえないですから。
――「キーウから遠く離れて」の歌詞は、一部のウクライナの人も読んでいます。この曲も含め、「いのち」という言葉が、曲によく出てきますね。
もう僕のテーゼ、テーマの一つです。手を変え品を変え、メロディーを変え、言葉を変えているだけで、テーマは全く動かない。あなたは自分の命を大事にしてください、ということ。自分の命が大切なように、敵の命も大切にしてくださいよっていうのが大きなテーマです。愛の歌は全部、反戦歌だ。僕はそう信じています。だって愛を歌うんだったら、敵の命を奪って良いという論理はありえないですよね。僕に戦争賛美の曲は1曲もありません。戦争が起きるたび、僕はショックを受けるもんですから、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争。これらについて、馬鹿なことを人間は繰り返すんだな、という思いも持ちながら、曲を書いてきました。
――ウクライナ戦争についてはいかがですか。
僕は音楽家なので、銃を人に向けて撃つことはできない。撃った瞬間、自分の歌が嘘になってしまうから。でも、「銃を撃たないで大事な人を守る方法はないのか」というのが強烈なテーマとして、22年2月のロシア侵攻以降、自分の中に生まれました。それについて、今も考え続けています。
https://www.youtube.com/watch?v=lJlCvxsA52k
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