https://www.joetsutj.com/articles/51714711 【「夏は来ぬ」に歌われる「卯の花」はコレだ!】より
卯(う)の花の、匂う垣根に 時鳥(ほととぎす)、早も来鳴きて 忍音(しのびね)もらす、夏は来ぬ
ご存知、上越市大潟区(旧中頸城郡大潟町)出身の小山作之助が作曲した唱歌「夏は来ぬ」である。いまも多くの人に愛され、歌われている曲である。
作詞者の佐々木信綱の故郷は三重県鈴鹿市で、生家と資料館がある。この地域では歌にちなみ「卯の花の里」づくりに取り組んでおり、初夏には家の庭先など「卯の花」が咲き誇るそうだ。
作曲者、小山作之助の出身地、旧大潟町でも、歌にちなんで防災無線のチャイムに「夏は来ぬ」を採用したり、卯の花の植栽を進めた。大潟町の花でもあった。
ところで、上越地方で卯の花を見かけることは少ないが、どんな花だろうか。
卯の花はウツギのことで、アジサイ科の落葉低木。茎が中空のため空木(うつき)の意味ともいわれ、卯月(旧暦4月)に咲く花の意とも言われる。
https://www.ndl.go.jp/koyomi/chapter3/s8.html 【和風月名(わふうげつめい)】より
旧暦では、和風月名(わふうげつめい)と呼ばれる月の和風の呼び名を使用していました。和風月名は旧暦の季節や行事に合わせたもので、現在の暦でも使用されることがありますが、現在の季節感とは1~2ヶ月ほどのずれがあります。
和風月名の由来については諸説ありますが、代表的なものを紹介します。
和風月名
旧暦の月 和風月名 由来と解説
1月 睦月(むつき) 正月に親類一同が集まる、睦び(親しくする)の月。
2月 如月(きさらぎ) 衣更着(きさらぎ)とも言う。まだ寒さが残っていて、衣を重ね着する(更に着る)月。
3月 弥生(やよい) 木草弥生い茂る(きくさいやおいしげる、草木が生い茂る)月。
4月 卯月(うづき) 卯の花の月。
5月 皐月(さつき) 早月(さつき)とも言う。早苗(さなえ)を植える月。
6月 水無月
(みなづき、みなつき) 水の月(「無」は「の」を意味する)で、田に水を引く月の意と言われる。
7月 文月
(ふみづき、ふづき) 稲の穂が実る月(穂含月:ほふみづき)
8月 葉月
(はづき、はつき) 木々の葉落ち月(はおちづき)。
9月 長月
(ながつき、ながづき) 夜長月(よながづき)。
10月 神無月(かんなづき) 神の月(「無」は「の」を意味する)の意味。全国の神々が出雲大社に集まり、各地の神々が留守になる月という説などもある。
11月 霜月(しもつき) 霜の降る月。
12月 師走(しわす) 師匠といえども趨走(すうそう、走り回る)する月。
http://www.worldfolksong.com/songbook/japan/natsuhakinu.htm 【夏は来ぬ 歌詞の意味】より
卯の花の匂う垣根に ホトトギス早も来鳴きて
『夏は来ぬ』(なつはきぬ)は、作詞:佐佐木信綱、作曲:小山作之助により1896年に発表された日本の歌曲。
「来ぬ」とは、「来る」の連用形「き」に、完了の助動詞「ぬ」の終止形が加わった形で、曲名全体では「夏が来た」という意味になる。その他の歌詞の意味については後述する。
卯の花(ウツギの花)
写真:卯の花(ウツギの花)出典:Wikipedia
歌詞では、卯の花(ウツギの花)やホトトギス、五月雨(さみだれ)に田植えの早乙女(さおとめ)など、5月の初夏を象徴する季語や動植物がふんだんに織り込まれている。
「夏が来れば思い出す」が歌い出しの『夏の思い出』と並ぶ、日本の夏を象徴する季節の歌として愛唱されており、2007年には「日本の歌百選」に選出された。
その他の有名な日本の夏の歌については、こちらのページ「夏の童謡・唱歌・日本のうた」で一覧にまとめている。
歌詞:『夏は来ぬ』
卯の花の 匂う垣根に 時鳥(ホトトギス 早も来鳴きて 忍音(しのびね)もらす 夏は来ぬ
さみだれの そそぐ山田に 早乙女が 裳裾(もすそ)ぬらして玉苗(たまなえ)植うる 夏は来ぬ
橘(タチバナ)の 薫る軒端(のきば)の窓近く 蛍飛びかいおこたり諌(いさ)むる 夏は来ぬ
楝(おうち)ちる 川べの宿の門(かど)遠く 水鶏(クイナ)声して夕月すずしき 夏は来ぬ
五月(さつき)やみ 蛍飛びかい水鶏(クイナ)鳴き 卯の花咲きて早苗(さなえ)植えわたす 夏は来ぬ
歌詞の意味は?
『夏は来ぬ』の歌詞を見てみると、古典文学者により作詞された19世紀の古い歌曲ということもあってか、普段聞きなれない若干堅めの表現が多用されている。曲への理解を助けるため、分かりにくい単語・歌詞について簡単に補足してみたい。
1番の歌詞:ホトトギスと卯の花
1番の歌詞で冒頭に登場する「卯の花(うのはな)」。これは初夏に白い花を咲かせるウツギの花を指す。旧暦の4月(卯月)頃に咲くことから「卯月の花」=「卯の花」と呼ばれた。
「早も来鳴きて」とは、「早くも来て鳴いている」の意味。
「忍音(しのびね)」とは、その年に初めて聞かれるホトトギスの鳴き声を指し、『古今和歌集』や『枕草子』などの古典文学作品にも登場する古語の一つ。
2番の歌詞:山村の田植え
『夏は来ぬ』2番の歌詞では、山村での田植えの様子が描写されている。さみだれ(五月雨)とは、旧暦の5月頃に降る雨を意味する。五月(さつき/皐月)は田植えの月として「早苗月(さなえつき)」とも呼ばれた。
「早乙女(さおとめ)」とは田植えをする女性、裳裾(もすそ)とは衣服のすそ、「玉苗(たまなえ)」は、「早苗(さなえ)」と同様、苗代(なわしろ、なえしろ)から田へ移し植えられる苗を意味している。
3番の歌詞:「蛍雪の功」
3番の歌詞では、まずミカン科の柑橘類の一種であるタチバナ(橘)が描かれる。『古今和歌集』でも取り上げられ、「五月待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする」(よみ人しらず)などと詠まれた。
歌詞の後半で「蛍飛びかい おこたり諌(いさ)むる」とあるが、これは中国の故事「蛍雪の功(けいせつのこう)」からヒントを得た表現であろう。
『夏は来ぬ』の歌詞においては、「蛍雪の功」の故事をふまえ、夏の夜も怠らず勉学に励めと、まるで飛び交う蛍に諌められているかのような表現となっている。
「蛍雪の功」に関連する歌としては、卒業ソング『蛍の光』や『仰げば尊し』が有名。
4番の歌詞:農村の夕暮れ
冒頭の「楝(おうち)」とは、夏に花をつける落葉樹のセンダン(栴檀)を意味する。水鶏(クイナ)は、古典文学にたびたび登場するヒクイナ(下写真)を指していると思われる。
ヒクイナの鳴き声は戸を叩くようにも聞こえることから、古典文学では「くいな」、「たたく」、「門」、「扉」などの単語と関連付けられて用いられてきた。
一例を挙げると、次のような古文や俳句が詠われている。
くひなのうちたたきたるは、誰が門さしてとあはれにおぼゆ。<紫式部 『源氏物語・明石』>
此宿は水鶏も知らぬ扉かな<松尾芭蕉>
5番の歌詞:総まとめ
『夏は来ぬ』最後の節では、1番から4番までの歌詞で登場した既出の単語をまとめて再登場させ、歌全体を締めくくるような構成がとられている。
初夏に関連する季語をズラっと並べて、様々な風物詩を通して夏の訪れを豊かに表現している。
「五月(さつき)やみ」とは、「五月闇(さつきやみ)」、つまり陰暦5月の梅雨が降るころの夜の暗さや暗やみのこと。
ホトトギス
時鳥、郭公、不如帰など、ホトトギスを表す様々な別名の由来まとめ
「テッペンカケタカ」や「トッキョキョカキョク(特許許可局)」など、ホトトギスの鳴き声に人間の言葉を当てはめる有名な「聞きなし」の意味・由来まとめ
織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の三人と鳴かないホトトギス
四季を告げる鳥の歌声 歌詞に鳥が出てくる世界の歌まとめ
http://www.worldfolksong.com/calendar/japan/uzuki-april.html 【卯月 うづき 4月 意味・語源・由来】より
草木が茂り地面をおおう旧暦4月の別名・異名 そのルーツは?
日本の旧暦4月は「卯月(うづき)」。現代の暦でも4月の別名・異名として使われる。
漢字の「卯(う)」は「ぼう」と音読みされるが、これは古代中国の「冒」または「茂」に由来しており、その意味は「草木が茂(しげ)り地面を冒(おお)う状態」を表しているとされる。動物のウサギの意味は当て字だという。
「卯月(うづき)」の前月である旧暦3月「弥生(やよい)」は、草木が「ますます生い茂る」という意味があるが、4月はそれが更に進んで「草木が茂り地面を冒う状態」になる月なのだろう。
卯月 うづき 4月 意味・語源・由来
旧暦は現代の暦と比べて1か月前後のズレがあり、旧暦4月「卯月(うづき)」は現在の4月下旬から6月上旬頃にあたる(年によって異なる)。
ちなみに、「卯」と「月」の間に「の」を入れて「卯の月(うのつき)」とすると、4月ではなく陰暦2月を表す場合があるので注意が必要(理由は後述)。
4月の別名・異名「卯月(うづき)」の語源・由来や意味合いの解釈については諸説ある。このページでは、ネットでよく見かける有名な説について簡単にまとめてみたい。
卯の花説
「卯月(うづき)」の語源については、卯の花(うのはな)が咲く月だから「卯の花月(うのはなづき)」であり、それが略されて「卯月(うづき)」となったと考える説が有力なようだ。
卯の花とは、アジサイ科ウツギ属の落葉低木ウツギのこと。日本の歌『夏は来ぬ』の歌詞にも登場する。ウツギという名前は、茎が中空なので「空木」(中が空ろな木)の意味から名付けられた。
卯の花(ウツギの花)
写真:卯の花(ウツギの花)出典:Wikipedia
この卯の花説は、ウツギの別名の由来と合わせて考えると問題が生じる。ウィキペディアで「ウツギ」を調べると、「花は卯月(旧暦4月)に咲くことから『卯(う)の花』とも呼ばれ」と解説されているが、卯月の語源は卯の花だとする説との関係が、まるでメビウスの輪(帯)のように表裏が良く分からない状態になってしまう。
こうした理由からか、卯の花説以外にも「卯月(うづき)」の由来について様々な説が提唱されている。続いて他の説も見ていこう。
田植え説
上述のとおり、旧暦4月「卯月(うづき)」は現代の磨で4月下旬から6月上旬頃にあたり、田植えの始まる時期と重なる。
田植えと早乙女
一説には、苗を植える月という意味で、「田植苗月(たうえなへづき)」、「苗植月(なへうゑづき)」、「植月(うゑつき)」、「種月(うづき)」と呼ばれ、「植える」の「う」が転じて「卯月(うづき)」となったと考える説があるようだ。
「卯月(うづき)」の翌月である旧暦5月は「皐月(さつき)」と呼ばれるが、「さつき」の「さ」は田の神に由来すると考えられており、「卯月(うづき)」の名前に田植えが関連するというこの説もなかなか説得力があって興味深い。
十二支の順番説
「卯月(うづき)」は正月から数えて4番目の月(4月)だが、これは「子・丑・寅・卯(ね・うし・とら・う)」から始まる十二支において、「卯」が4番目に登場することに由来すると考える説がある。
十二支の順番を由来と考えるこの説は単純明快で非常に分かりやすいのだが、この説に対しては、4月以外では十二支に由来する和名が無い、中国の陰暦では「卯」は2月を表す、などの異論もあるようだ。
中国の陰暦で「卯」が2月を表す理由・歴史的背景については次のとおり。
なぜ中国では2月が「卯」なの?
古代中国(周王朝)では、冬至を含む月(11月)を一年の起点(正月)とする習わしがあり、この月を十二支の最初に当てはめて「子月」と定めていた。
その結果、12月は十二支の順番に基づいて「丑月」、1月は「寅月」、そして2月は「卯月」とされた。
月名における十二支の起点(冬至の月)は漢王朝以降も踏襲され、中国の陰暦では「卯月」は2月を意味することとなった。
日本で「卯の月(うのつき)」という場合、この中国の陰暦における2月を意味することがあるので、日本の旧暦4月「卯月(うづき)」との意識的な区別が必要と思われる。
柳田國男による説明
民俗学者の柳田國男(やなぎた くにお/1875-1962)は、「卯月(うづき)」の「う」の語源・由来について、書籍の中で次のように述べている。
或いは初のウヒ、産のウムなどと繋つながった音であって、嘗(かつ)て一年の巡環の境目を、この月に認めた名残かというような、一つの想像説も成り立つのである。
<引用:柳田國男『海上の道』岩波書店>
ウサギは西洋では多産の象徴とされ、産むの「う」が「卯月(うづき)」の「う」につながっているとしたら非常に興味深い。
また、この直前の文章では、「卯」と農業(稲作)の関係について次のように述べられている。
大きな神社の中にも、卯の日を例祭の日としたものが幾つかあるが、それよりも著しいのは田の神の祭、または稲作に伴なう色々の行事、および正月の年の神の去来(きょらい)について、特に卯の日を重視する風は、現在もなお到る処に残っている。
<引用:柳田國男『海上の道』岩波書店>
さらに、稲の御霊である倉稲魂命(うかのみたまのみこと)の名の「う」と通ずるとし、収穫感謝祭である新嘗祭がかつて十一月下卯(げう)の日と定められていたこととも関連するという。
ウサギは山の神(の使い)
山のシンボル ウサギを「山の神」と同一視、あるいは「山の神の使い(神使)」や乗り物とする伝承も日本各地に広くみられる。
可愛いウサギ
ウィキペディアの解説によれば、日本では古来からウサギが「山の神」と同一視、あるいは「山の神の使い」であると考えられていたという。
ウサギが各地で山の神と同一視されてきたのは、人間の暮らす里と神や動物のいる山とを身軽に行き来することからの境界を超えるものとしての崇拝、多産で繁殖力に富むことから豊穣をつかさどる意味<中略>などさまざまな背景があると考えられる。
<引用:ウィキペディア「ウサギ」>
また、月読命(豊産祈願)や大己貴命(大国主命)、御食津神(五穀豊穣)などを祭神とする寺社でもウサギが神の使いとされると説明している。
関連:童謡『大黒様(だいこくさま)』因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)
山の神は「卯月(うづき)」の頃、つまり春に山から野へ下りてきて「田の神」となり、サクラの木に宿り、稲作をはじめとする豊穣をもたらすという「サ神信仰」とも親和性があるように感じられる。
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