歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密 ②

https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/science/50402/ 【第9回 腸が「若さ」を左右する?!美と健康を司る「腸」の秘密】より

今月のテーマは「若さ」にも関わる腸内細菌と代謝の関係。

現代社会に生きるヒトは、排気ガスやストレスなどが原因で発生する老化物質「活性酸素」に阻害されやすい環境で暮らしていて、健康的な若さを保つのが難しくなっています。そんな環境で“人生100年”時代を元気に過ごすには、腸内環境と「きのこ」がカギを握っていました——。

ヒトの代謝を低下させる「活性酸素」とは

私たちヒトの体内では、摂取した食べ物などを体内で分解して栄養素とし、それを身体の各組織に送って脳や内臓、血液、皮膚、髪、体脂肪などの細胞を新しくつくる「新陳代謝」が行われています。人体を構成する細胞は約60兆個。その中では、常に新陳代謝が行われ、古いものが新しいものに入れ替わりながらカラダを正常に若々しく保っています。

代謝力が低下すると、老化や不健康な肌、痩せにくい体質、慢性的な冷え性などに繋がり、逆に代謝がよければ、人間は若々しく健康な状態をキープすることができます。そして、代謝を下げる主な原因が「活性酸素」にあります。

ヒトは呼吸によって取り入れた酸素を使って食事から栄養素を燃やし、エネルギーをつくりだしています。その過程で取り入れた酸素の約2%が、強い酸化作用を持つ活性酸素に変わってしまうのです。

この活性酸素には、強い攻撃力で体内に侵入したウイルスや細菌を退治するという、身体を守る上で必要な機能があります。ただ、その活性酸素が生活習慣の乱れやストレス、紫外線、ビタミンやミネラル不足といった偏った食生活などの原因で必要以上に増えると、体内の抗酸化力とのバランスが崩れ、健康な細胞まで酸化してしまい、細胞を生まれ変わらせる機能が低下してしまうので、代謝力低下の原因となるのです。

この状態を酸化ストレスといい、その防止の一助を担っているのがきのこです。

若さを左右する抗酸化物質と腸内細菌のチカラ

ヒトの身体の中には、もともと活性酸素の攻撃から細胞を守る抗酸化力が備わっています。その中心が、活性酸素の攻撃力をなくす抗酸化酵素ですが、その量や活性力は加齢とともに減少していきます。そこで、食事からとりいれる抗酸化物質を補うことで、細胞の酸化を防ぐことができるのです。

代表的な抗酸化物質は、きのこに含まれているβグルカンや、野菜などに多いビタミンC・E、ミネラルのセレン、銅、マンガンや亜鉛などが知られています。そういった抗酸化物質と、ポリフェノールやカロテノイドといった「フィトケミカル」(植物性食品由来の化学物質)を同時にバランス良く摂ることで抗酸化力の活性化が期待されます。

さらに、活性酸素を無毒化する、知られざる物質が「水素」です。

人体を形成する細胞の主成分である脂質とたんぱく質はとても酸化しやすいため水素を体内に備えておくことが大切なのですが、その水素は、実は体内では腸内細菌からしかつくることができません。

つまり、腸内環境を整えておくことが過剰に増えた活性酸素の攻撃を防ぎ、代謝を高め、若々しさを保つことに繋がるのです。

老化に加えて「退化」がアレルギーを引き起こす?!

現代の排気ガスやストレスといった環境は「老化」に繋がってしまいますが、さらに現代の“便利さ”が現代人の身体自体を「退化」させているという見方もあります。その代表的なものが、この半世紀のうちに急激に増えた花粉症などをはじめとするアレルギー。アレルギー疾患は、生活習慣病や認知症、がんなどと並び“文明の進化により人体機能が低下することで起こる”という意味から「退化病」とも呼ばれています。そして、腸内細菌はこのアレルギー反応にも深く関わっています。

たとえばスギ花粉のアレルギーの場合、スギ花粉という抗原が体内に侵入すると体内でIgE抗体が産生されます。それは普段は花粉から守ってくれる物質ですが、抗原と接触することで粘膜が炎症を起こし、アレルギーが発生します。

そのアレルギーを抑える物質が、腸内で産生されるDiAgやIgA抗体です。これらは腸内環境を整えることでその量を増やすことができ、近年の動物を使った研究でエリンギを毎日100g食べることでIgA抗体が増えることが明らかになっています。さらに、マイタケにはアレルギーの原因物質ヒスタミンの分泌を防ぐ効果が認められています。

また、腸内環境が悪いと食物アレルギーを引き起こす原因にもなります。

その代表的なものが「腸漏れ」と呼ばれる「リーキーガット症候群」。

現代は食料が豊富なため、偏った食生活を送っていると腸内環境が乱れ、悪玉菌が増えます。その状態が過剰になると腸粘膜の再生にも深く関与する善玉菌などの腸内細菌の数が減り、小腸の粘膜に穴が開いて、腸内にある多くの物質が血液中にあふれ出ます。その「腸漏れ」が食物アレルギーやアトピー性皮膚炎、自己免疫疾患などの発症や、風邪などの感染症にかかりやすくなるリスクを高めるので、腸内環境を整えておくことが、これらのリスクを回避するカギとなるのです。

太古の昔と比べれば、現代は格段に便利になりました。

日々の生活の中で知らず知らずに起こっている「老化」や「退化」などのマイナスな状況に打ち勝つには、どちらも「腸」が深く関わっているのです。

きのこは代謝アップに欠かせない存在

そういった腸内環境はきのこが含む食物繊維によって整えられ、活性酸素を無毒化する水素を発生させることで代謝アップにつながります。

腸内環境を整えることで、若々しさを保てる理由は他にもあります。たとえば酵素の働きを支え「体の潤滑油」といわれるビタミン。私たちの腸はビタミン類を合成する機能は持っておらず、食べたものから腸内細菌によって合成されます。その中でもきのこに含まれるビタミンB2は、「発育のビタミン」という別名を持ち、健康的な肌や髪、爪をつくり、細胞の再生やエネルギーの代謝を助けます。

さらにビタミンB2は、肥満予防に欠かせない栄養素でもあり、食事に含まれる脂質をエネルギーに変えて、体の活動に使われるのを助ける働きもあります。

また、きのこや一部の細菌のみが生成できるアミノ酸の一種、エルゴチオネインには強い抗酸化作用があります。化粧品にも抗酸化剤として含まれ、動物実験では紫外線による肌のダメージを軽減することが明らかにされており、紫外線による肌のシミやシワ、たるみ等の老化を防ぐ働きがあると考えられています。

毎日のように食卓に並ぶきのこが、腸を整えることに加え、いつまでも自分らしく健康でいられるための代謝を円滑にしてくれている存在だと知ると、より一層身近に、そして美味しく感じられますね。

https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/science/50954/ 【第10回 人生100年時代を健康に生きる「長寿」と「腸」の関係】より

歴史が育んだ、きのこの効果と人体の秘密<br>第10回 人生100年時代を健康に生きる「長寿」と「腸」の関係

このコラムでは、きのこなどの菌類や細菌類が地球の生命誕生に深く関わり、古代より地球環境を整えてきたことや、私たち人間の身体との深い関係をわかりやすく紹介していきます。

人と菌の物語 過去の記事はこちら

今月のテーマは「健康長寿」。

“人生100年時代”といわれる現代。ただ長生きするだけでなく、健康を保ち最期までいきいきと暮らすためには、腸を健康に保つことが不可欠。腸を健康に保つことで脳などの臓器に良い影響を与えることは今までご紹介してきたとおりですが、実は、それぞれの臓器へのパイプとなる「毛細血管」も健康長寿には不可欠であり、その毛細血管の健康も、腸が握っていました。そして、この二つの器官に健康をもたらすのが、「きのこ」なのですーー。

毛細血管は若さを守る最前線!

腸は消化、吸収だけでなく、第6回で紹介したように人体の7割もの免疫細胞が集中する器官であり、食べものと一緒に外から侵入してきた病原体などの外敵から私たちの健康を守ってくれています。さらに腸にいる腸内細菌は、身体の機能を調整する生命活動にかかせないビタミンやミネラルを作り出します。更に、老廃物の排出も担う腸が正常に働き、体内の老廃物がしっかりと排出され腸がきれいになれば、血液が浄化され、栄養と酸素が充分に身体の各所に運ばれますが、全身の若々しさを保つには、腸の健康に加えて腸で吸収した栄養素を臓器へ運ぶ「毛細血管」が健康になり、更に全身の若々しさが保たれるのです。

大人の身体内のすべての血管をつなぎ合わせると、その長さはなんと約10万キロメートル!単純計算でなんと地球を2週半できる距離です。そのうち毛細血管は99%を占め、体のすみずみまではりめぐらされ、細胞の活動を支えています。

その主な働きは物質の交換です。毛細血管の小さな隙間から血液が少しずつもれることで細胞の一つひとつに栄養と酸素、水分を供給。その一方で老廃物や二酸化炭素、余分な水分を回収し、正しい場所に「ゴミ出し」をします。約37兆個の細胞から構成される私たちの体を支えている毛細血管は、腸と同様に若さを守る最前線なのです。

老化は二つの「もれ」が原因だった!?

健康のために重要な働きをしている腸と毛細血管ですが、生活習慣の乱れやストレス、加齢などにより、これらが傷いてしまうことがあります。

まずは,その一つが、前回も紹介した「腸もれ」です。腸もれとは小腸の腸壁表面を覆う上皮細胞の間に目にみえないほどの小さな穴が空くことで引き起こされます。その隙間から小腸にある腸内細菌や未消化の栄養素、毒素、腐敗物、ガスなどが血液にもれ出し、血管に炎症を起こすことで下痢や便秘などの消化管の不調だけでなく、疲労感や頭痛、糖尿病やがんの原因になるなど身体にとって様々な悪影響が起こります。

もう一つは毛細血管が傷つくことで起こる「ゴースト血管」。毛細血管は、非常に繊細なつくりをしていて、わずかな刺激で傷つき、壊れてしまいます。すると血液が流れなくなり、放置するといずれ消えてしまう。その現象を近年では「ゴースト血管」と呼びます。そうなると毛細血管によって酸素や栄養を届けてもらう細胞は老化し、健康に重大な影響を与えることになります。

一般的に毛細血管は45歳頃から衰え、ゴースト化がはじまると考えられています。それは、正常時にはぴったり隙間なく密着している毛細血管の内外の細胞の連結がゆるみ、余分な血液がもれる「毛細血管もれ」や、過度に浴びすぎる紫外線、糖尿病などが原因で進行します。

毛細血管もれは見た目を老化させるだけではなく、十分な栄養と酸素の供給や老廃物の回収を妨げるため、脳にもダメージを与え、認知症を引き起こします。認知症で患者数がもっとも多いのがアルツハイマー病。それはアミロイドβ(ベータ)とタウたんぱく質という「ゴミたんぱく」が脳内にたまり、脳の神経細胞が死んで減少し、脳が萎縮することで発症します。本来、便として「ゴミだし」されるたんぱく質が毛細血管もれによって脳内に捨てられ、引き起こされるのです。

そのため、この二つの「もれ」を改善することが、長寿のカギとなるのです。

腸内細菌が生む短鎖脂肪酸のすごいチカラ

老化の原因となる「腸もれ」と「ゴースト血管」の改善には、腸内フローラのバランスを整えること、腸壁のバリア機能を回復させること、そして体内で起こっている炎症を抑制することが大事になってきます。

この3つを同時に実現できる成分といわれているのが、体内では腸内細菌だけが作ることができる「短鎖脂肪酸」。短鎖脂肪酸とは、酢酸や酪酸、プロピオン酸などの総称で、腸の蠕動運動と、腸を様々な外敵から守る粘液を分泌するという大事な2つの働きをサポートし、腸壁を守ります。さらに、免疫の力を上手にコントロールして、体内で過剰な炎症反応が起こらないようにする作用も持っています。

短鎖脂肪酸は、大腸内の腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を分解・発酵する際に生じる物質です。

つまり、食物繊維をとることは腸の善玉菌を増やして腸を整えることに加え、短鎖脂肪酸の産生を増やして健康長寿につながるということなのです。

このようにして腸が整い、短鎖脂肪酸がしっかりと産生されることで、腸もれそして、ゴースト血管につながる毛細血管もれの予防にも役立つのです。

よく噛んで食べる!きのこが健康長寿を支える

食べ物の過剰摂取や、着色料や香料、乳化剤など化学合成された食品添加物を多く含む加工食品は腸の粘膜にダメージを与えます。特に保存料や日持ち向上剤などが腸に頻繁に入るようになると腸内細菌は数が減ってしまうのです。

そのどれもが飽食の現代社会において、日本人の食生活に深く入り込んでいるものばかりですが、低糖質で低カロリー、そして腸内フローラを整える食物繊維が豊富なきのこを食生活に上手に取り入れることは、健康長寿の現代を生きるカギとなります。

また、きのこをよく噛むことは、腸内細菌の弱体化の原因や、毛細血管へのダメージとなる活性酸素を減少させることができます。噛むことが刺激となって分泌される唾液には、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、スーパーオキシダーゼという抗酸化作用のある酵素が含まれ、食事の時は一口につき、1回1秒、約30回ほどよく咀嚼することで唾液が分泌します。添加物や喫煙などの影響により口腔内で発生する活性酸素が減少することで、腸内細菌が元気になるだけでなく、毛細血管の質も高めてくれるのです。

寒い時期は血行不良や筋肉が緊張することで腸も乱れやすくなります。冬の寒い時期の定番である温かいスープや鍋をはじめ様々な料理にきのこを入れて食べることで、自然と健康的な身体作りが可能に。

すべての健康の要である腸の健康を保ち、健康長寿にも寄与しているきのこは、私たち人間にとって欠かすことのできない人生のサポーターでもあるのです。

https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/science/53262/ 【第11回 万病に繋がる「内臓脂肪」を撃退! ダイエット成功のカギを握る「腸」】より

美味しくヘルシーなきのこ。しかし、「菌類」であるきのこは、私たちを食卓で楽しませてくれるだけでなく、人類が誕生する遥か昔から地球に存在し、生態系の循環や生物の進化を助け、豊かな地球環境を創り上げてきた存在でもあります。

また、人の体の中で最も菌が存在する場所は「腸」。古来の動物は「腸」しか持っていなかったともいわれるほど、腸は脳や全身と密接に繋がっており、人体の健康を司っています。その「腸」を守っているのが、きのこ等の菌類や腸にいる腸内細菌です。

このコラムでは、地球の生命誕生に深く関わり、古代より地球環境を整えてきた微生物の物語や人体ときのこの関係をわかりやすく紹介していきます。

人と菌の物語 過去の記事はこちら

今月のテーマはダイエット。

動物性脂肪を多く含む欧米型の食事が定着した現代日本の食生活では、肥満の増加や腸内フローラの悪化が深刻な問題となっています。その改善へとつながるダイエットの要になっていたのも実は「腸」でした。

ヒトの健康を害する原因は「内臓脂肪」

30代半ばから40代に入り、中高年期がはじまるとヒトは健康に不安を抱え始めます。とりわけダイエットに関しては、色々試してもなかなか痩せず、健康診断でも改善の兆しがみえない……。そういった悪化の元凶は、「内臓脂肪」にあります。

体に蓄積する脂肪は、大きく分けて皮下脂肪と内臓脂肪の二つ。

皮下脂肪は、皮膚のすぐ下につく脂肪のこと、特に女性の二の腕や腰、太股などにつき、過剰にたまると下半身が太り洋梨のような体型になってきます。

一方、内臓脂肪は男性に多い脂肪で、お腹の周りにつきやすいのが特徴。大腸や小腸を広範囲に支えている「腸間膜」という部分に脂肪がつき、各臓器の隙間を埋めるように脂肪が増え、お腹がぽっこりと前にせり出し、丸いリンゴのような体型になることもあります。

その内臓脂肪が増える大きな原因は、糖質の摂りすぎです。

ヒトは30~40代頃から徐々に、生きるための体内のエネルギー生産システムが変わり、糖質が必要不可欠でなくなります。境となっているのが50代頃といわれていますが、それまでと同じ量の糖質をとり続けると、エネルギーとして使い切れなかった分の糖質は中性脂肪に変えられ、体内に内臓脂肪として蓄積されてしまいます。

脂肪細胞自体は、いざという時のエネルギー源として必要なもの。そして、脂肪細胞からは体に必要な働きをする「善玉物質」と、そうでない「悪玉物質」が分泌されます。比較的健康への影響が少ない皮下脂肪に対し、内臓脂肪はこの「悪玉物質」を分泌する “危険な脂肪”。高血圧や糖尿病、動脈硬化、がんや認知症、肝臓病といった様々な病気のリスクが高まるといわれています。

まさに内臓脂肪は「万病のもと」なのです。

デブ菌の好物を減らし、ヤセ菌を増やすには――。

ダイエットの天敵である内臓脂肪を効率良く落とすには、体を痩せやすい状態にして、体内の脂肪が減っていく流れをつくることが大事です。

そのために重要なカギをにぎっているのが「腸」。

私たちの腸内に棲んでいる100兆個以上の腸内細菌のタイプによって、「太りやすい」か「痩せやすいか」が決まってきます。

第8回で紹介したように、私たちの腸内にすむ腸内細菌の70%を占める日和見菌の中には、肥満を引き起こす「デブ菌」と、そのライバルであり、糖や脂肪の吸収率を下げる「ヤセ菌」がいます。このデブ菌を減らし、ヤセ菌を増やすことで体が痩せやすい状態にシフトするのです。

デブ菌の好物は、白米やパン、麺類など精白された炭水化物をはじめ、ケーキやアイスなどの甘いものや揚げ物など。日頃から糖質や脂質の多い高カロリーの食事ばかりだと、デブ菌が増殖しますが、たとえば白米を五穀米や玄米に変えるだけでもその勢力を縮小させることが期待できます。

さらに、きのこや野菜、海藻、納豆などの食物繊維が豊富な食材を摂ることでヤセ菌が増えます。食物繊維は腸内に長く留まって、余分な糖や脂肪を吸着しながら発酵します。その発酵した繊維が善玉菌やヤセ菌のエサとなります。

短鎖脂肪酸が脂肪を燃焼させるカラクリ

ヤセ菌が食物繊維を食べて消化すると、短鎖脂肪酸をつくり出します。第9回でも紹介した短鎖脂肪酸は、腸内細菌だけがつくることができるオールマイティな健康体促進物質で、内臓脂肪を減らす重要な役割も担っています。

腸で産生された短鎖脂肪酸は、腸の粘膜から血液中に入り、様々な場所で内臓脂肪が増えるのを阻止します。例えば、短鎖脂肪酸が脂肪細胞に行き着くと脂肪細胞にある受容体が短鎖脂肪酸をキャッチし、それを合図に脂肪の取り込みが抑えられます。

短鎖脂肪酸をキャッチする受容体は自律神経にも存在し、血流に乗って短鎖脂肪酸が到来すると自律神経が興奮。より脂肪を燃やしてエネルギーを消費するように号令がかかり、代謝活動を高めて脂肪燃焼を促進させるように働きます。

つまり、普段から食物繊維が豊富な食事を摂ってヤセ菌を増やすことで、腸内でつくられる短鎖脂肪酸の量が増し、内臓脂肪が落ちやすい体内環境をつくることができるのです。

食物繊維が豊富なきのこのパワーで内臓脂肪を落とす!

食物繊維が豊富な食材の代表格は、何といってもきのこです。

エリンギには100g中4.3グラム、シメジには3.7g、シイタケには3.5g、マイタケには2.7gの食物繊維が含まれます。さらにきのこは、血糖値の急激な上昇を抑えたり、腸内細菌のごちそうとなる水溶性食物繊維と腸の蠕動運動を刺激し、便通を促進させる不溶性食物繊維といった2種類の食物繊維をバランス良く含んでいます。

四季を通じて手に入りやすく家計にもやさしいきのこは、和洋中どんな料理にも合うだけでなく、調理も簡単。耐熱容器に入れて塩をかけて電子レンジで加熱し、粗熱がなくなった後に密閉容器に入れて冷蔵保存する冷蔵きのこも常備菜として活躍します。

また、ダイエットの大敵である老廃物の排出におすすめなのが、冷蔵きのこにヨーグルトをかけるだけの「きのこヨーグルト」。きのこに豊富な食物繊維と善玉菌のエサになったり善玉菌の生きやすい環境を作ると言われているヨーグルトの乳酸菌を一緒に摂ることで腸内環境がよりいっそう改善し、蠕動運動が促進されてお通じを良くします。

さらに、毎日の食事にきのこを取り入れる生活習慣を実践することで、乳酸菌やビフィズス菌といった腸内の善玉菌が増加し、内臓脂肪の蓄積が抑制されたという実験結果もあります。

古くより日本の食卓に寄り添ってきたきのこは、現代社会においては特に、食生活を整えて健康な身体をつくるのに一役買う存在。まさにダイエットの強い味方だったのです。

https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/science/53807/ 【第12回「なんとなく不調」の 原因「腸疲労」を解消するきのこの秘密】より

美味しくヘルシーなきのこ。「菌類」であるきのこは、私たちを食卓で楽しませてくれるだけでなく、人類が誕生する遥か昔から地球に存在し、生態系の循環や生物の進化を助け、豊かな地球環境を創り上げてきた存在でもあります。

また、ヒトの体の中で最も菌が存在する場所は「腸」。古来の動物は「腸」しか持っていなかったともいわれるほど、腸は脳や全身と密接に繋がっており、人体の健康を司っています。その「腸」を守っているのが、きのこ等の菌類や腸にいる腸内細菌です。

このコラムでは、地球の生命誕生に深く関わり、古代より地球環境を整えてきた微生物の物語や人体ときのこの関係をわかりやすく紹介していきます。

人と菌の物語 過去の記事はこちら

今月のテーマは「腸疲労」。

文明が発展する一方で、現代はストレスフルな社会になりました。とりわけ都市部においては、はっきりとしない慢性的な疲労やメンタルの不調に悩む人も多い。それらの原因は腸、そして腸内環境にありました。

現代社会が引き起こす「腸疲労」とは

1990年代からのインターネットの発展で高度情報化社会となり、スマートフォンが普及したことで急激にグローバル化が進む現代。自宅にいながら世界中の人やモノと繋がることができる便利な世の中になった反面、匿名での攻撃やハラスメント、SNS依存などストレスを感じる局面も増えています。また、先行きが不透明な社会や老後への不安、新たな感染症の脅威といった心労の種も尽きません。

そんなストレスフルな現代社会では、常に体がだるい、疲れやすい、眠れない、なんだかイライラする……といった「なんとなく不調」を感じている人も多いのではないでしょうか? その原因のひとつは「腸疲労」にあります。

もともと腸とストレスは深い関係にあります。腸にはたくさんの神経細胞が集中しており、脳が感じたストレスは自律神経や脊髄を通してすぐさま腸に伝わります。すると、善玉菌など人間の身体に良い働きをする腸内細菌が減少し、心身の不調に繋がります。そこに不規則な生活リズムや暴飲暴食、添加物まみれの偏った食事が加わることで「腸疲労」が引き起こされるのです。

腸が正常に働かない「腸疲労」の状態になると、便秘や下痢だけでなく、第6回、第9回でも紹介したように腸はヒトの免疫機能の大部分を司っていることから、免疫不全に陥り、アレルギー疾患にも繋がります。

さらに、セロトニン、ドーパミンといった「幸せ物質」とよばれる脳内神経伝達物質の産生能力が低下。ドーパミンと腸の深い関係は第7回でもお伝えしましたが、ヒトの心身を平穏に保つセロトニンの9割が存在するのも腸。それが不足すると、自律神経が乱れ、腸管の運動も乱れることから腸内環境が悪化し「腸疲労」につながる……といった悪循環に陥るのです。

腸内細菌が心と身体を元気にする!

こうした「腸疲労」を防ぐためには、腸内細菌を増やし、腸内環境を整えることがなによりも大事。そのバロメータであり腸内環境の良し悪しを垣間見ることができるのが便なのです。便の半分は腸内細菌が占めており、大きい便が出れば腸内細菌自体が腸内に多い状態、さらにその形や匂いなどで便の良し悪しが判断できます。良い便とは、味噌ほどの硬さのバナナ状。はじめは水に浮かび、ゆっくり沈んでいくと良い状態です。

そこで腸内環境の理想とされるバランスは、善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌7割。善玉菌が悪玉菌より少し優勢な状態になると、日和見菌が善玉菌に加勢し腸は良好な状態に。善玉菌が消化吸収をより促進し、腸内の腐敗を防ぎ、悪玉菌の動きを阻止して病原菌や有害物質が増殖しないように働きます。

また腸内細菌は免疫システムの作用を支え、免疫細胞がよく働くように刺激してくれます。免疫機能に関係する身近なアレルギーといえば花粉の季節のムズムズ。その症状は「腸疲労」によってTh1、Th2という免疫細胞のバランスが崩れることで引き起こされますが、腸内環境を整えることによって改善が期待できます。

さらに、腸内細菌が増えると心の健康に大きな影響を与えるセロトニンやドーパミンの産生が活性化されます。セロトニンはトリプトファン、ドーパミンはフェニルアラニンといった前駆体である必須アミノ酸からつくられます。その前駆体がつくられるのに必要なビタミンB6やナイアシンなどのビタミン類は、体内で腸内細菌だけが合成できるので、腸内細菌が正常に働くことで、セロトニンやドーパミンの産生が増え、心身が安定し、更に腸内環境も整い・・と良い循環が生まれます。

季節の変わり目で自律神経が乱れやすくなったり、花粉の飛散がはじまるこの時期は特に「なんとなく不調」が起こりやすい時期。腸内細菌を増やすことが、不調対策や心と体の健康に繋がるのです。

きのこは腸内環境改善を支えるサポーター

その腸内環境を整える方法として最も大切なのが日々の食事です。腸内環境を整えるには、腸のぜん動運動を活発にする不溶性食物繊維と腸内の有害物質の吸収を阻止し、便通を促進する水溶性食物繊維の摂取が不可欠です。どちらも便秘の解消や生活習慣病を予防する作用があることは、このコラムでも紹介してきました。また、食物繊維は腸の善玉菌のエサになって、腸の中にいる善玉菌を増やす手助けもしてくれます。

その水溶性、不溶性食物繊維を多く含み、腸内の免疫細胞にダイレクトにはたらきかけてくれる食物繊維のβグルカンも豊富な食べ物といえば「きのこ」です。それだけでなく、きのこには心の健康に欠かせないセロトニンやドーパミンの合成にかかせないビタミンB6やナイアシンも含みます。

現代は「なんとなく不調」が起こりやすい=「腸疲労」が起こりやすい環境と言えますが、その「腸疲労」の改善につながる腸内細菌を活性化させ、腸内環境を整えるうえ、心の調子も整えてくれるきのこは、私たちの健康的な毎日に欠かせない頼れるパートナーなのです。

監修:藤田 紘一郎

東京医科歯科大学医学部卒、東京大学医学系大学院修了。医学博士。東京医科歯科大学名誉教授。NPO自然免疫健康研究会理事長。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。『原始人健康学』『水の健康学』『パラサイト式血液型診断』(新潮社)、『笑うカイチュウ』(講談社文庫)、『免疫力を高める快腸生活』(中経の文庫)、『アレルギーの9割は腸で治る!』(だいわ文庫)など著書多数。

希望に満ちた未来に寄り添う“きのこ”

このコラムでは、ヒトときのこの切ってもきれない関係を、地球や人類の歴史、そして人体との深いかかわりを通して紹介してきました。

きのこをはじめとする菌類は、人類が生まれる遥か昔、何度も生物の絶滅の危機を救いながら、地球の物質循環を整え、今日に繋がる豊かな生態系を築いてきた存在。

一方でそのきのこは、人体において欠かすことのできない器官「腸」を整える存在でもあり、腸は、免疫機能の7割を司るだけでなく、腸内細菌を整えることで生活習慣病予防に大きな役割を果たし、美と健康長寿を助けてくれています。

地球環境にとって不可欠な菌類の代表格、きのこは人体の健康を守る上でも欠かすことはできず、美味しいだけではなく、いつの日も、そしてこれからもヒトの良き相棒であり、希望にあふれる未来に寄り添ってくれるでしょう。

出典

・藤田紘一郎,腸を鍛えればストレスは消える!,竹書房,2014年

・藤田紘一郎,消えない不調は「腸疲労」が原因 最強の免疫力のつくり方,だいわ文庫,2018年

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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