https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/science/43813/ 【第5回 菌との共生が私たちの体内の循環と健康を支えている?!】より
今回から新しいシリーズとして、体内微生物との共生関係についてみていきましょう。
ヒトは微生物なくしては生きられない!
私たちヒトの体の中に微生物がいることを、皆さん知っていますよね。
では、どのぐらいの数の微生物がいると思いますか?
実は、体の中には1000兆個ものの微生物がいる事が知られています。
ヒトは母親の胎内にいる時から少数の細菌が既にすみついていると言われ、産道を通って産まれてくる時に母親が持っている細菌を、そして母乳や食べ物、外気などとの接触を通じて様々な細菌を獲得します。そうした菌を、常在菌と呼んでいます。
常在菌は口や鼻、皮膚、胃、小腸・大腸、生殖器など体内に約1000種類存在します。その種類や組成は場所によって異なりますが、共通しているのは人体と良好な共生関係を築き、基本的には健康を守ってくれているということ。つまり、ヒトは細菌なくしては生きていけません。
体内で、常在菌が最も多い場所が腸内、とりわけ大腸に大部分の細菌がすんでいます。腸内を占めるガス成分の50%は窒素ガスで残りは炭酸ガスや水素、アンモニアで構成され、酸素がない暗黒世界。第1回で紹介したように、約38億年前、まだ酸素がなかった地球上で最初に誕生した生物は細菌であり、細菌の多くは、その生育に酸素を必要としない性質を持っています。
細菌は、大気中に酸素が増えると海中や地中、そして植物や動物の体内に逃げ込んだことから、人体ではかつての地球に近い環境である腸内にすみつき、体の中に送り込まれる食べ物の残りかすや剥がれた腸粘膜を栄養にして生きています。ただ、その菌が実は私たちの体の働きを助けてくれているのです。
よく知られているビフィズス菌を始めとする腸内細菌の99.99%は酸素を嫌う「偏性嫌気性菌(へんせいけんきせいきん)」であり、その数は600兆個以上。なんと体内全体にすんでいる菌の平均的な重さは男性では2.2.kg、女性は2.5kgもあるんです!
第1回から第4回で紹介したように、細菌をルーツにもつきのこ等の菌類は、食物連載における分解者として生態系を作り、物質を循環させることで地球の健康を整えてきました。
実は私たちの体の中でも、大循環が行われています。
私たちは日々、食欲がわいて食事を摂り、食べ物を分解します。その時、栄養素を体内に吸収し、代謝が行われることで、私たちは元気に活動でき、やがて体内でいらなくなったものや消化酵素等で分化されなかった食物繊維は大腸を通じて大便として排泄されます。きちんと排泄することで腸内環境が整い、また食欲へと繋がります。
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その循環の中心となっている腸は健康的な生命活動に欠かせない器官であり、その働きを大きく下支えしているのが腸内細菌を含む微生物なのです。
きのこの豊富な食物繊維が病気を未然に防ぐ腸内細菌を活性化!
ヒトの体の中にいる細菌のうち、もっとも多くの細菌がいるという大腸。その大腸内には、大きく分けて3種類の菌がいます。
体に良い働きをする善玉菌、悪い働きをする悪玉菌、そしてどちらにも属さず、善玉菌と悪玉菌の優勢な方に味方する日和見(ひよりみ)菌です。
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人体が健康であれば、善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%のバランスで保たれています。それが不健康な状態になると、悪玉菌が作り出す毒性のアンモニアや硫化水素などの有害物質が増え、肌荒れや肥満、便秘、さらに大腸ガンや潰瘍性大腸炎など様々な病気を引き起こします。
おびただしい数の腸内細菌がすんでいることから、細菌たちがうまく機能しなければ病気にかかる可能性も高まります。つまり、腸内環境を整え、細菌を味方にすることが健康寿命に大きく関わってくるのです。
腸は他の臓器とは異なり、口から肛門まで食べ物が通る消化管を使って体の中に栄養物を取り込める器官。その腸は体の中に栄養を摂り込む役割があり、脳や心臓とは異なり外から取り込んだ食べ物が直接通過する部位のため、人が意識的にコントロールがしやすい唯一の臓器といもいえます。その腸をきれいにし、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルといった5大栄養素を身体に送り込む重要な役割を果たしているのが“第6の栄養素”と呼ばれる食物繊維です。
食物繊維が豊富な食べ物を代表するのは、なんと言ってもきのこです。
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きのこの食物繊維は腸にとって良い働きをする善玉菌のエサとなるので、腸内環境の改善をサポートし、栄養素の吸収率をアップさせ、私たちの健康を司る腸を整えてくれます。
ヒトの健康に寄与するきのこ。人と菌は運命共同体
これまで紹介してきたように、細菌やきのこなどの菌類は分解者として植物や動物、そしてヒトの誕生・進化を下支えし、いつの時代も大地と生命に寄り添いながら地球を健康な状態に整えてきました。
そして私たちの人体においては腸を通じて、循環させ健康にしてくれるかけがえのない存在だったのです。
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さらに腸内細菌によって作られる酵素は消化を促し栄養素の吸収を助け、ビタミンやホルモン類は代謝や骨の形成を促すだけでなく腸管の働きを調整し、身体を不調から守ってくれます。
また、腸内細菌を活性化させ、健康と豊かな暮らしに寄与するきのこも重要な存在。
腸内細菌やきのこに含まれる食物繊維の力を無くして腸は正常に機能せず、身体の中で栄養素の循環もスムーズに行われません。つまり、ヒトの健康は叶えられないのです。
地球、そしてヒトの環境をも整え、健康を守ってくれる細菌やきのこ等の菌類。
そう考えると、ヒトと細菌やきのこ等の菌類は強い結びつきをもち、ヒトが生きていく上でも欠かすことのできない、運命共同体のような存在と言えるのかもしれませんね。
https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/science/44396/ 【第6回 免疫を呼び起こす腸内細菌と秘められたきのこの驚くべきチカラ】より
今月は前回からはじまった体内微生物との共生関係の第2弾。
ヒトの免疫を支える腸内細菌ときのこの知られざるチカラを探っていきましょう。
免疫機能の約7割を担う腸は人の健康を司る要
前回紹介したように、私たちの体の中では、物質の循環が行われています。
その中で腸は、分解、吸収、排泄という重要な機能を果たしていますが、それ以外にもヒトの健康を大きく左右する役割を担っています。
それが免疫機能です。
口から肛門まで腸を含むヒトの消化管は全長約9メートル。それは一つの長いチューブのように体内に空間をつくっています。つまり腸管は体の中に隠れているようで、実は外の世界に接している“内なる外界”。そこは栄養素だけでなく病原菌やウイルスの侵入経路にもなっているので、防御機能の中枢となり、なんとヒトの全免疫の約7割を担っているんです。
腸の中でも、消化・吸収の場である小腸には多くの免疫細胞が集約されています。小腸の免疫機能は実によくできていて、まず、リンパ組織である「パイエル板」が侵入してきた病原菌にトラップをしかけて捕獲し、病原菌の情報を腸内の免疫細胞に伝えます。加えて、「粘膜上皮細胞」がタンパク質を生み出してブロックするなど、大きく分けて4つの部隊が役割分担をしながら働き、病原菌を撃退します。
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さらに、小腸の免疫細胞の活動やバランスを取るのに欠かせないのが、大腸にいる600兆個以上もの腸内細菌。小腸の免疫細胞が病原菌やウイルスと戦う前線戦士だとすると、腸内細菌は後方支援部隊。腸内細菌の状態が良好なら、前線の免疫細胞が活性化し、外から侵入する病原菌やウイルスをしっかりと撃退することができます。腸内細菌はいわば免疫界の影の立役者であり、免疫のカギを握る存在なのです。
腸内環境を整えることが免疫機能正常化につながる!
免疫とは、端的にいえば体全体で働く防御システムのこと。ウイルスなど、体に有害な病原菌や物質が侵入した時に排除し、体を正常な状態に保ってくれます。
その反応が低下すると免疫不全が起こり感染症などに繋がります。かといってむやみに上げすぎると、花粉症に代表されるアレルギー反応など、免疫異常を引き起こす。つまり、免疫は正常な「バランスを保つ」ことがなにより重要なのです。
その中で、腸内細菌は免疫そのものとして働くのではなく、免疫細胞を活性化させる役割を果たします。その機能を左右するのは腸内環境。前回紹介したように健康的な体であれば、腸内は善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%のバランスで保たれています。日和見菌は善玉菌、悪玉菌どちらかの優勢な方になびくので、常に善玉菌が優勢になるように腸内環境を整えることが大事です。
善玉菌の代表格はビフィズス菌と乳酸菌。
ビフィズス菌が生成する酢酸は腸管運動を活発にして、早く排便を促します。さらに、悪玉菌の繁殖を抑えます。ヒトの健康に寄与する機能を持つビフィズス菌や乳酸菌は、免疫細胞に直接働きかけ、その機能を調整します。
また、近年注目されているのが、免疫機能や腸管粘膜の正常化に寄与する「酪酸(らくさん)」。それを生み出す酪酸産生菌は、誰もが持っている腸内細菌であり、がん細胞を抑制する効果があるなどのチカラが眠っています。その秘められたパワーを呼び起こし、活性化させるのが、きのこに多く含まれる食物繊維なのです。
腸を整えるために食物繊維が欠かせないワケとは?
人の健康を司る腸内環境を整えるのに、最も有効なのは食品です。
食物繊維やオリゴ糖など、有用な善玉菌の成長を促す食品成分を「プレバイオティクス」と言います。きのこは食物繊維が豊富なため、プレバイオティクスとして、腸内細菌を活性化する効果が期待できます。
また、健康を維持する生きた微生物は「プロバイオティクス」と呼び、代表的なものはビフィズス菌や乳酸菌、麹菌などの発酵食品が挙げられます。
プロバイオティクスは2〜3日で体内から排出されるため、既に腸内に存在している善玉菌に働きかけたり、腸内バランスを整えるためには、プレバイオティクスである食物繊維を摂ることで効果が出ることが期待できます。
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食物繊維は大きく分けて2種類あります。「不溶性食物繊維」は、水に溶けにくい繊維を指します。大腸内で水分を吸収し、腸を刺激して便通を促進。一方で「水溶性食物繊維」は水に溶けやすい繊維で、ヌルヌルとしているため、大便をスムーズに出す働きをします。
さらに食物繊維は、腸内で酪酸産生菌のエサとなることで酪酸濃度を高めて腸内環境を整え、免疫機能向上に役立ちます。
料理の主役にも名脇役になるきのこの多様なチカラが、人知れず私たちの体をサポートしているのです。
β(ベータ)グルカンが豊富なきのこは、免疫機能に欠かせない存在!
また、きのこの細胞壁に含まれる不溶性食物繊維の一種「βグルカン」には、腸管にいる免疫細胞を促進させる働きがあることで知られています。たとえば腸管にすみつき、外敵を食べる細胞「マクロファージ」の働きを活性化させます。
他にもβグルカンは、抗コレステロール、血糖値の上昇をゆるやかにするといった作用もあるといわれています。
さらに、摂った栄養を体に行き渡らせて代謝を助けるビタミンB1とB2、カルシウムの吸収を助け免疫機能を調整するビタミンD、摂り過ぎたナトリウム(塩分)を排出するカリウムなど、きのこに含まれる様々な栄養素は、ヒトの免疫機能の正常化に密接に関わっているのです。
そういったきのこは、古来より漢方において生薬として使用されてきた歴史があります。漢方の最も古い書物「本草綱目」に記された霊芝(マンネンタケ)、約600年前の明(ミン)の時代に妙薬としてシイタケが使用されていた記録が残されています。
ヒトの器官の中で、免疫に深く関わる腸を守り、助けている腸内細菌——。
そして太古の時代から、その腸内細菌に大きく寄与しているきのこは、ヒトが健康になるために欠かせない存在なのかもしれませんね。
https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/science/44790/ 【第7回 腸脳相関の神秘と心身の健康に寄り添うきのこ】より
今月は、脳や心の機能に関わる腸内細菌のミステリアスなパワーをみていきましょう。
生物の進化の過程で軸となっているのは腸だった!
常に物質の循環が行われているヒトの体の中で、健康状態を大きく左右する役割を担っている腸は、生物の進化の過程にも深く関わっています。
第1回で紹介したように、地球上で最初の生命が誕生したのは約38億年前。それはひとつの細胞だけでできた単細胞生物でした。そこから多細胞生物、動物へと進化するにあたって最初につくられた臓器は、心臓でも脳でもなく、実は腸だったのです。
クラゲやイソギンチャクの仲間であり、最も原始的な動物とされている腔腸(こうちょう)動物は、身体の真ん中に腸のような活動をする筒が空いているだけの構造。生物が生きていく上で、栄養の消化・吸収は最優先の活動なので、脳より先に腸がつくられたと考えられています。そこから脊椎動物である魚類になると腸の一部が変化して食道や胃ができ、両生類になると大腸が誕生するなど、進化していく中で、周囲の環境や食べ物によって腸は姿形を大きく変えていきました。
ヒトにおいても同じで、私たちがお母さんのお腹の中にいる時、最初につくられるのは腸の原型となる原腸胚(げんちょうはい)。そこから形成される腸の構造は、あらゆる動物の中で最も複雑です。それはヒトが他の動物と比べものにならないほど雑食だからこそ、腸の仕事が細分化され、複雑な仕組みに進化していったのです。
さらに、小腸の免疫細胞の活動やバランスを取るのに欠かせないのが、大腸にいる600兆個以上もの腸内細菌。小腸の免疫細胞が病原菌やウイルスと戦う前線戦士だとすると、腸内細菌は後方支援部隊。腸内細菌の状態が良好なら、前線の免疫細胞が活性化し、外から侵入する病原菌やウイルスをしっかりと撃退することができます。腸内細菌はいわば免疫界の影の立役者であり、免疫のカギを握る存在なのです。
腸が独自に考え、脳に影響する“腸脳相関”の神秘
ヒトは脳が指令を出し、他のすべての臓器が働いていると思われがちですが、実は腸の中にも脳と同様の機能があることが証明されています。
腸は単なるクダではなく、独自で考え、脳や感情の機能もコントロールしている“第二の脳” ——。
“腸が考える?!”なんて、すぐに納得する人は少ないかもしれませんが、その構造は次のようになっています。
腸の外側には、網タイツのような神経の繊維の束「神経網」が縦横無尽に張り巡らされ、結び目には情報処理・伝達の神経細胞「ニューロン」が多数存在しています。腸はこの神経網の働きにより、自ら意思を持って活動します。
そして腸内に食べ物が運ばれてくると、腸内に点在する感覚細胞の「パラニューロン」が化学成分をいち早く認識。肝臓や膵臓などに指令を発し、内容物を分解する酵素や胆汁を腸の中に招き入れます。
それと同時に消化、吸収、合成といった適切な反応を引き起こし、未消化物を肛門の方向に運んだり、有害な物質だと認識したら下痢を引き起こし体内から排除するなど、健康を維持するために身体を守ってくれます。
寝ている時でも腸内の内容物が腐敗しないことでも明らかなように、上記のような活動は脳に関係なく、腸独自で行っているのです。
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といっても腸と脳は好き勝手に活動しているわけではありません。血管と血液を通じて、腸内と脳内それぞれでつくられた物質を相互に取り入れ、間接的に影響を与え合っています。それを「腸脳相関」と呼びます。
たとえば、運動調節、ホルモン調節や快感を増幅する神経伝達物質「ドーパミン」。その元となる「前駆体物質」(ある化学物質が生成する前段階にできる物質)が脳内に運ばれて行くと、脳内の特定の部位が興奮し、各機能調節を司る神経中枢が刺激されて脳機能が活性されます。さらに、このドーパミン変換にも腸内細菌は関与しており、ドーパミンの産生に抑制的に働いていることが研究によりわかってきました。
また、うつ病の人は便秘に悩むケースが多いのも腸脳相関が一因と言われています。うつ症状は自律神経に影響して腸管の運動を低下させ、排便に悪影響を及ぼします。便が腸内に滞留すると腹痛や膨満感が出てきて、その感覚が脳に届いて不快に感じ、また腸管の運動が低下……といった悪循環に陥ります。
つまり腸と脳は独自で活動しながらも、お互いの状態に深く影響し合っているのです。
腸内細菌がヒトの脳や心、疾患も左右する!?
腸内細菌が、ヒトの免疫機能に深く関わっていることは前回紹介しましたが、それだけでなく、ヒトの思考や行動のパターン、脳の代謝にも大きな影響を与えていることが2010年以降の研究で明らかにされています。
腸内細菌を有するマウスと無菌飼育装置で飼育された無菌マウスを同一条件で7週間飼育した後、大脳内物質を調査すると、検出された196の成分のうち38種類の成分に違いがみられたのです。
その中には、前述したドーパミンや、枯渇すると統合失調症の促進に関係するセリン、乳児の脳発達や行動に関与するN-アセチルノイラミン酸などがあり、腸内細菌の有無による生成量の違いは、脳の発達や働きに影響を及ぼすと考えられています。
つまり、腸内細菌は宿主の思考や行動、感情変化にも影響し、運動や勉強といった日常生活、そして脳の衰弱や病気の発生にも関わってくる可能性があるのです。
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そういった腸内細菌の中で脳機能に有用な生きた微生物は「サイコバイオティクス」と呼ばれ、自閉症や認知症、パーキンソン病など様々な疾患との関係を解明する研究が現在進められています。
腸を整えることでストレスから解放される
その腸内細菌の中の善玉菌を増やし、腸内環境を整えてくれるのが、きのこに多く含まれる食物繊維です。
食物繊維は、数千から数万の糖が結合してできていることから多糖類とも呼ばれ、ヒトの消化酵素では分解されないため、腸まで届いて腸の蠕(ぜん)動運動を促し、腸内を刺激して便通を促進します。
また腸内環境は、ヒトの意思とは無関係に身体の機能を調整する自律神経である交感神経と副交感神経にも関わってくると言われています。交感神経は緊張している時や興奮している時、ストレスを感じている時に優位になり、副交感神経は、リラックスしている時に優位になります。
腸内環境が整うと消化が促進され、身体がリラックスし、副交感神経が優位になる。つまり、腸が整うことで自律神経のバランスが整うと考えられるのです。
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さらに、きのこにはγ(ガンマ)―アミノ酪酸のGABA(ギャバ)も豊富に含まれています。この物質はノルアドレナリンやドーパミンといった興奮系の神経伝達物質の過剰分泌を抑え、副交感神経を優位にすることでリラックス状態へ導くもの。イライラや神経のたかぶりを抑え、深い睡眠がとれたり、免疫力の低下を防ぐなどの効果も期待されます。
どんな料理でも美味しくするだけでなく、腸内細菌を活発にすることで脳や心にも好影響を及ぼすきのこは、ヒトの健やかな暮らしにいつも寄り添っているのです。
https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/science/47441/ 【第8回 腸を整え、病から守る。きのこは健康のパートナー】より
今月は、現代病である生活習慣病と腸内細菌の密接な関係、そしてそこに寄与するきのこのチカラを紹介します。
肥満予防や高血圧予防のカギを握る器官は「腸」
肥満や高血圧、糖尿病、高コレステロール(高脂血症)など、あらゆる食べ物が世にあふれ、いつでも気軽に食べられる現代社会だからこそ起きる生活習慣病。それらはサイレントキラーとも呼ばれ、本人の気付かないうちに動脈硬化を進行させます。
生活習慣病は、慢性的な運動不足、喫煙、飲酒、生活リズムの乱れや睡眠不足、ストレスなど様々な原因によって引き起こされますが、最も気をつけたいのが食生活です。
第5回で紹介したように、食べ物を消化・吸収する腸は、脳や心臓とは異なり、外界から取り込んだ栄養物が直接通過するので、ヒトが意識的にコントロールできる唯一の臓器。日々の食生活の乱れから腸内環境が悪化し、有害な物質が腸から血管を通って体内に入り、生活習慣病をはじめ様々な病気を引き起こします。
つまり、まず腸を整えておくことが大事です。そのカギを握るのが腸内細菌で、一般的にヒトが健康な状態であれば腸内細菌は、善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%。このバランスが保たれていますが、その役割は腸を整えるだけではなく、さらにすごいチカラを持っていたのです。
生活習慣病に繋がる“デブ菌”が存在した!
腸内細菌が、免疫機能や脳と深く関わっていることはこの連載で紹介しました。それだけでなく、近年の研究で肥満や高血圧にも大きな影響を与えていることが明らかになってきています。
ヒトの腸内には平均200種類、100兆個もの細菌がすみついています。前段で、腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌があるとご紹介しました。
その中で、日和見菌のうち、悪玉菌に加勢しやすい一部の腸内細菌が肥満を引き起こすとされ、通称“デブ菌”とも言われています。
これらは糖類を代謝する遺伝子が多く、ヒトがものを食べると、そこからエネルギーを多く代謝し、腸から吸収させる働きを活発に行います。そして体が消費しきれなかったエネルギーは、脂肪へと変換されて細胞に備蓄。それが中性脂肪となって肥満を引き起こし、やがて高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病につながるのです。
デブ菌は、ヒトが飢餓に陥った時にわずかな食べ物からでも大量のエネルギーを吸収することが本来の役割。つまり、悪玉菌と同様にヒトが生きるために必要な細菌。すべての人の腸内にすんでいてなくすことはできないので、飽食の現代ではうまく付き合っていかなければいけません。
ただその性質は日和見菌なので、常にどっちつかずでその時に優勢な菌の見方をする。つまり、腸内環境でこの菌を優勢にしない状況をつくることが生活習慣病の予防につながるのです。
糖や脂肪の吸収を抑える“ヤセ”菌と万能な短鎖脂肪酸とは?
ではどうすれば腸内でデブ菌を増やさずにすむのでしょうか。
そのためにはデブ菌のライバルである通称“ヤセ菌”を増やすことがなにより大事です。
これらの細菌は、食べ物からしつこくエネルギーを取り出すことはしないので、ヤセ菌が優勢の腸内では、肥満の原因となる糖や脂肪の吸収率が低くなります。
そして、ヤセ菌は食物繊維を消化する過程で、「短鎖脂肪酸」という物質をつくり出します。短鎖脂肪酸は脂肪を減らし、全身の代謝を活発にして肥満を防ぐだけでなく、糖尿病を直接的に改善するホルモン「インクレチン」を増やすなど、生活習慣病予防に欠かせない物質なのです。
さらに「幸せホルモン」であるセロトニンの分泌を促進してアレルギー反応を抑える「制御性T細胞」を増やし、腸のバリア機能を高め、炎症や食中毒、食物アレルギー、動脈硬化といった病気の予防にも威力を発揮。まさに、健康体を促進するオールマイティな存在なのです。この短鎖脂肪酸を増やすためにはヤセ菌を増やすことが重要です。
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その細菌たちが好むのが低脂肪、高食物繊維の食事です。
食物繊維が豊富なきのこで生活習慣病を撃退!
私たちの最も身近にあって、脂肪分が低く、食物繊維が豊富な食べ物——。
そこでまず思い浮かぶのは、きのこですよね。
第6回で紹介したように、きのこには水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方が豊富に含まれています。
水溶性食物繊維には、水に溶けてトロトロになり、食べ物を胃から腸へゆっくり移動させる働きがあります。その過程で、一部の脂肪や糖の吸収を穏やかにすることで血糖値の急激な上昇を抑える効果が期待できます。
また、水に溶けない不溶性食物繊維は水分を吸収して膨らむことから、満腹中枢を刺激し、食べ過ぎを防ぎます。さらに便のかさを増やし、腸管を刺激することでぜん動運動が活性化。それによって排便が促進される働きが期待できます。
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そういった腸内環境を整える食物繊維が豊富なきのこの中でも、特に注目したいのが、脂肪分の吸収を抑制したり、体脂肪の低減効果があるとされるエリンギです。
体に取り込んだ中性脂肪は、小腸で「リパーゼ」という酵素によって体内に吸収されます。エリンギの抽出物は、そのリパーゼの働きを弱め、中性脂肪の体内への吸収を抑制することが分かっています。さらに、体に蓄えられる脂肪である体脂肪の低減が期待できるという研究結果も出ています。
さらにエリンギにはビタミンB、Dを含んでいるため、骨形成や免疫機能を維持するために取り入れていきたい食材です。
つまりエリンギをはじめとするきのこは、健康的に脂肪の吸収を抑制し、生活習慣病を予防する上で欠かせない食べ物の一つなのです。
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生活習慣病は、かつては成人病と呼ばれ、加齢とともに発症・進行すると考えられていましたが、現代では加齢だけではなく個人の生活習慣が大きく関与していることが明らかとなっており、子どもも含めて一生にわたって気をつけなければいけない病気と言われています。自分自身、そして家族がいつまでも健康で笑顔でいられるために、その中でも“毎日の食習慣”は最も気をつけるべきところです。美味しいだけでなく生活習慣病予防に大きな役割を果たしてくれるきのこは、私たちの身近な食材であるとともに心強いパートナーのような存在と言えるでしょう。
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