https://note.com/chika158cm/n/nb8a483b2824a 【浅川芳直句集 『夜景の奥』】より
浅川芳直さんの第一句集。浅川さんは平成4年生まれ。西山睦さんによる序文には、浅川さんが俳句をはじめたのは5歳のとき、とある。実作者としてはもちろん、論客としてもさまざまなところでご活躍されている。
わたしは大学時代の4年間仙台に住んでいたので、句集『夜景の奥』から感じる仙台の空気感、大学の空気感がとても懐かしく、こころがうきうきとした。
好きな句を10句。
約束はいつも待つ側春隣 給食の麦飯の皿かく軽し
四面書架哲学教授昼寝覚 光りつつ飛雪は額に消えにけり
春昼の酔うてもムツオにはなれぬ 論文へ註ひとつ足す夏の暁
雪となる夜景の奥の雪の山 山ひとつ昭和の団地木の芽張る
鳥帰る窓辺に小さき魔法瓶 ハイビーム枯木つぎつぎ去りにけり
https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12839571223.html 【俳句はいま《風土に没入し対象見る 「澤」「夜景の奥」》神野紗希。(⅖長崎新聞掲載)】より
思想家の西田幾多郎はかつて、 日本文化が憧憬してきたのは「己を空うして物を見る、自己が物の中に没する」無心の境地だと述べた。「私」をからっぽにして見つめれば、私自身が対象の中に没入してゆく ・・・。この感覚は俳人が自然を詠む折の姿勢と共通する。
▼小澤實の新句集「澤」(角川文化振興財団)
★残雪を弾き出でたる熊笹ぞ 小澤實
18年ぶり、待望の新句集「澤」(角川文化振興財団)の冒頭の句だ。早春、積もった雪を弾き熊笹の葉が飛び出した。その躍動を見つめる無心。からっぽになった心に、命に触れた感動が満ちてくる。
★澤水に顔洗ひたる辛夷かな ★夏蕨先端に蟻いくつ乗る
★一蔓にあけび三個や熟れちがふ 人為を超えた自然の諸相に心は没入する。
★鹿島槍夏至残照をかかげた り ★ひとすぢの光は最上鳥渡る
★榛名山万緑の押しのぼるなり 山河の句の屹立も揺るぎない。
★みしみしと増ゆる人類冴返る ★翁に問ふプルトニウムは花なるやと
現代への批評も巨視的な把握で堂々と据わる。
★岩はなれ鮑むささび泳ぎかな の「むささび泳ぎ」、
★餓鬼岳のみづいろどきや蚊喰鳥 のたそがれ時を踏まえた「みづいろどき」など自在な造語も特徴だ。
小澤の句には風土が濃く匂う。似た言葉でも「環境」といえば人間に対する周囲を指す感覚だが、「風土」は人間も自然と一体として融合的に捉える。
★母おはす鼻の頭の汗の玉 ★ケフチクタウケッシテ死ナナイデクダサイ
★新米を握りこぼしぬ新米に
人の営みも、熊笹や蟻と同じく尊い。人間も自然の裡に生きる一つと受け止める姿勢が、大地と人間を結びつけ、おおらかに命を輝かせる。
▼浅川芳直第一句集「夜景の奥」(東京四季出版)
東北在住の若き俳人・浅川芳直の第一句集「夜景の奥」(東京四季出版)にも風土との臍帯(さいたい)を力強く結んだ作がひしめく。
★姥百合の実の時詰めてゐる力 ★山霧を分けくる沢の青さかな
★雪となる夜景の奥の雪の山 没入すれば、姥百合も山霧の沢も雪山も、命として迫り出す。
★あかるくてからつぽしぼり器のレモン の清新な寂しさ、
★一本は海に吼えたる黄水仙 のまぶしい矜持。
★わが深きところへ飛雪息晒す 私の裡に雪が降り、私の息を雪へ差し出す。
自然へと心身をひらけば、風土もいきいきと「私」を容(い)れる。 (神野紗希)
★湯を捨てて屋台しまひや梅の花 小澤 實 ★秋風やカレーにソースかけて父
★船上や生簀分かちて鯛と鰺 ★鯰の口破れたり鉤をはづさんに
★箱眼鏡流れに押すやすべてみどり ★かはぞこもかはらも石やあきのかぜ
★枯木山顔も洗面器も洗ふ ★冷えびえと阿修羅が耳の四つのみ
★寒天干す太陽に雲厚けれど ★水入れて薬罐くもりぬ桃の花
★傾けて小面泣かすくさひばり ★熊が肉(しし)猿(ましら)が肉と一包み
★クレーター内クレーター去年今年 ★獅子舞の金の歯に見え眼鏡の顔
★新春の小石ひとつを蹴つて泣く 浅川芳直 ★約束はいつも待つ側春隣
★水平線もりあがり鳥雲に入る ★城山より見据ゑ阿武隈夏霞
★論文へ註ひとつ足す夏の暁 ★電飾の光が曝す幹寒し
★初雪のこぼれくる夜の広さかな
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