https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20240227 【965. 紅海・黒海・パナマ運河 - 世界貿易サプライチェーンのアキレス腱をとりまく不確実性】より
国際連合貿易開発会議(UNCTAD)は、昨年来の紅海における船舶への攻撃、黒海輸送をめぐる地政学的緊張、そしてパナマ運河への気候変動の影響と、複合的な危機が世界貿易サプライチェーン寸断による経済への影響をエスカレートしかねないとの懸念を表明しました。
世界の物流の80%が海路経由とされています。スエズ運河に向けた輸送船に対する武装組織フーシ派による船舶への攻撃が、航路の妨げとなり、地政学的な緊張を高めています。UNCTADによると、紅海は2023年の世界海運コンテナ貿易の22%を占めていたとされますが、2024年2月前半までに586隻の船舶が迂回を決定し、スエズ運河経由の貨物は82%落ち込んだと推計しました。スエズ運河が通れなくなることで、アジアと欧州間の輸送は迂回を迫られ、輸送時間・費用ともに大幅に負担が増えます。
緊張が続いているウクライナ・黒海を取り巻く情勢によって、既に原油・穀物貿易ルートは大幅な変更を余儀なくされていました。一方、世界貿易の動脈の一つであるパナマ運河も、深刻な干ばつに直面し、水位が大幅に下がり、ピーク時に比べて1月までに取引量が49%減少、さらに減ることが見込まれています。気候変動による運河への長期的な影響が、世界貿易に及ぼすインパクトへの懸念が高まっています。
紅海での危機に直面し、海運業の主要なプレイヤーの中にはスエズ運河航路を停止した企業もおり、コンテナ船の航行は67%落ち込み、タンカーやガス輸送船の航行も大きな落ち込みを経験しています。一方で輸送費は上昇しており、12月初旬来1月末までに、上海と欧州間のコンテナ輸送費は256%上昇、またスエズ運河を経由しないにもかかわらず上海からアメリカ西海岸への輸送費も上昇しました。保険料も急騰し、輸送コストを引き上げています。さらに、スエズ運河・パナマ運河を回避した船は、迂回にかかる時間を取り戻そうとスピードをあげるため、マイルあたりより多くの燃料を使用し、結果二酸化炭素の排出も多くなって環境への悪影響の懸念も高まります。
現在の貨物費は、COVID-19危機の際のピークに比べまだ半分程度ではありますが、時間差で価格転嫁されて消費者に影響を及ぼすことが予想されます。
今回の危機は、世界食料価格にも影響を及ぼすことが想定されます。穀物輸送の寸断は、食料輸入依存の途上国の食料安全保障にとって死活問題です。
UNCTADは、今回の危機が、世界貿易が地政学的な緊張や気候変動による問題に極めて脆弱であることを示したとし、ショックに脆弱な国々の支援を含む持続的な解決策に向けた国際協調を呼びかけました。
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
https://www.bbc.com/japanese/67825529 【ロシア、黒海で軍艦に損傷と認める ウクライナ空軍が攻撃】より
ロシアは26日、黒海の港で同国の軍艦がウクライナの攻撃を受け、損傷したと発表した。
ロシアが占領しているクリミアのフェオドシヤ港が26日未明、空襲を受けた。
ロシア国防省は、大型揚陸艦「ノヴォチェルカッスク」が、誘導ミサイルを搭載したウクライナ軍機に攻撃されたと認めた。
ウクライナ空軍のトップはそれ以前に、ロシアの戦艦を破壊したと発表していた。
ロシアが任命したクリミア地域行政トップのセルゲイ・アクショノフ氏によると、この攻撃で1人が死亡。また、負傷者も数人出ているという。
アクショノフ氏はまた、建物6棟が損壊し、少人数が一時的な宿泊施設に収容されたと付け加えた。
攻撃による火災は収まっている。港は一時封鎖されたが、その後、輸送業務は通常通り機能しているという。
大きな爆発
ウクライナ空軍の司令官ミコラ・オレシュチュク中将は、港での大きな爆発を映したとされる映像を公開した。
この映像は独自に検証・確認されていない。しかし12月24日に撮影された人工衛星画像には、フェオドシヤ港に「ノヴォチェルカッスク」と同じ全長とみられる船が停泊しているのが写っていた。
ウクライナの前線での作戦に影響を及ぼしている西側諸国の支援が弱まっているなか、この船に大きな被害が出れば、ウクライナにとっては歓迎すべき朗報となる。「ノヴォチェルカッスク」は、ドック入りしていたことを考えると、兵士や装備品、あるいはその両方を積んでいた可能性が高い。
元北大西洋条約機構(NATO)アナリストで安全保障・防衛専門家のパトリック・バリー氏はBBCニュース・チャンネルに対し、この軍艦には、ロシアがウクライナの標的への攻撃に使用しているイラン製の無人偵察機シャヘドが搭載されているとみられていたと語った。
また、ウクライナのテレビに出演したウクライナ軍南部司令部のナタリヤ・フメニュク報道官は、このような大規模な爆発は、「船自体の燃料や弾薬以上のものが原因であることは明らか」だと述べた。
フメニュク氏は、ロシアとクリミア半島を結ぶケルチ橋が損傷したため、ロシアは「重要な貨物」の輸送に関して困難に直面していると付け加えた。
「つまり、(ノヴォチェルカッスクの積み荷は)完全に包装された、一種のクリスマス・プレゼントだった可能性が高い」
同艦が運用不能になれば、たとえ一時的であっても、ロシアによる北側の占領地域への兵員補給が妨げられることは間違いない。
しかし、この攻撃が前線にどのような影響を及ぼすのか、どの程度の期間、ロシア軍の作戦が中断されるのかについては、定かではない。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/feature/2024/02/02/37458.html 【スエズ運河ルートを回避!フーシ派の船舶攻撃 世界の物流混乱】より
炎が吹き上がる石油タンカー。イスラム組織ハマスとの連帯を掲げるイエメンの反政府勢力フーシ派による攻撃を受けたものです。
紅海とその周辺での船舶攻撃が止まりません。その影響で多くの船舶がアフリカの喜望峰を回るルートに迂回うかいすることを余儀なくされ、日本を含む世界の物流や経済に影響が及び始めています。
ガザ地区での戦争が世界の人々の暮らしにダメージを与えつつあります。
(紅海攻撃取材班)
喜望峰に船舶集中
アフリカ南端に位置する喜望峰。15世紀、航海者のバルトロメウ・ディアスによって発見された岬で、強風が吹き荒れることから「嵐の岬」と言われていましたが、この沖合を通過してインドへの航路が発見され、「良い希望の岬」という名前に改名されたといわれています。
喜望峰沖を行き交う貨物船(2024年1月)
現地を訪れると、ふだんより多くの貨物船やコンテナ船が行き交っていることが確認できました。ヨーロッパとアジアを結ぶ最短ルートである紅海での攻撃が相次ぎ、迂回する船舶が後を絶たないのです。
紅海周辺で攻撃相次ぐ
攻撃を受け炎上するタンカー(2024年1月)
2024年1月26日には紅海周辺、アデン湾で石油タンカーがハマスとの連帯を掲げるフーシ派によるミサイル攻撃を受けました。イギリス企業が運航するタンカーは右舷の貨物タンク1基で火災が発生したといいます。2023年11月以降のフーシ派による商船攻撃で最大規模のものとなったとアメリカのメディア、ブルームバーグは伝えています。
アメリカ国防総省は、船舶に対する攻撃は30回を超えたと説明。(1月22日時点)フーシ派の勢力をそぐため、アメリカ軍とイギリス軍が繰り返し攻撃していますが、事態は収まっていません。
ガザの戦争が運賃上昇に
アフリカの喜望峰経由に迂回した船舶は燃料消費が増え、輸送コストが上昇。コンテナ船の運賃が急激に値上がりしています。40フィートのコンテナ1個あたりの運賃は、1月25日の時点で3964ドルで、軍事衝突が始まる直前の2023年10月5日時点と比べて2点8倍になっています。(英物流調査会社、ドリューリーの調査)
ガザ地区での激しい戦闘が起点となり、海上輸送という動脈を傷つけ、運賃上昇を通じて世界経済に影響を与え始めているのです。
ドイツのメーカー 減産迫られる
ドイツ 食洗機用の洗剤などを製造するメーカー
紅海周辺の混乱は遠く離れたドイツ企業の生産活動に影響を及ぼし始めていました。ドイツ西部ラインラント・プファルツ州にある食洗機の洗剤などを製造するメーカーを訪れたところ、経営者は困った表情を浮かべていました。船舶の迂回によって中国や台湾から調達している主要な原材料のクエン酸三ナトリウムなどの到着が通常より2週間ほど遅れるようになったというのです。
こうした原材料はヨーロッパでは調達が難しく、重量もあるため航空貨物での輸送に切り替えることも容易ではなく、倉庫にある原材料は底をつきかけています。
倉庫にはふだんであれば50トンは保管されているクエン酸三ナトリウムが10トンを下回っていて(1月25日時点)、物流の混乱の影響の大きさがうかがえました。
会社は1月24日から取引先に対して出荷量の減少や出荷時期を遅らせる調整を始めています。今後の原材料の調達の見通し次第では、3交代のシフトを2交代に変更して生産を減らす可能性もあるとしています。
この会社は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で今回と同じように中国からの原材料の調達が滞る事態を経験しました。しかし、感染が下火となった今、再び同じ問題に直面するとはまったく想定していなかったということです。
洗剤などの製造メーカー「ゲヘム」マルティナ・ナイスウォンガー社長
「今回の危機は予想していませんでした。2月は厳しい状況になると覚悟しています。原材料が予定どおりに届くことはないでしょう。これからの生産量は、本当に原材料が届くか、そして、どのくらいの量が届くかによって決まります」
日系食品メーカー 値上げの可能性も
イギリスに輸出されたマヨネーズ
イギリスでは日系企業も影響を受けています。日本などからカレーやマヨネーズ、コメといった食品を輸入して日本食レストランや小売店に販売するロンドンにある日系の大手食品輸入会社を訪ねました。
出荷場所などによって変わるとしているものの、海上運賃はふだんと比べて2倍から5倍に上昇しているといいます。
そして事態が長期化した場合は商品の値上げを迫られる可能性があると指摘しました。
大手食品輸入会社 冨永美貴 サプライチェーンマネージャー
「長期化した場合には、調達ルートの見直しが必要になります。また、運賃が上昇しているため、今後、コストの見直しなどが必要になってくるかもしれません」
イギリスの複数の食品輸入会社から聞き取りを行っている「JETRO」=日本貿易振興機構は企業が新規のビジネスを広げにくくなっていると分析します。
JETROロンドン事務所 林伸光 農業・食品部長
「海上輸送が混乱している中、食品輸入会社は今、取り引きしている顧客の注文に確実に対応しようとしています。このため新規の顧客開拓ができないという声を聞きます」
小売り大手も影響を懸念
また、ヨーロッパでは小売り業への影響の広がりが懸念される事態となっています。
スウェーデン発祥の家具大手「イケア」は「一部の製品に遅れが生じ、入手が困難になる可能性がある」と明らかにしているほか、イギリスの衣料品メーカー「ネクスト」は、「スエズ運河を通行できない状況が続けば、ことしの初めには在庫の配送が遅れる可能性が高い。これが長期間続けば売り上げに影響を与える」と懸念を示しました。
さらに、イギリスの大手スーパー「セインズベリーズ」はワインや電気機器などについて、在庫を保つために仕入れの順序を慎重に検討していて、重要な問題だとして政府とも定期的に連絡を取り合っていると明らかにしています。
紅海経由でもコスト増加
影響は紅海・スエズ運河を経由するルートによって繁栄してきたイタリアの街にもあらわれていました。イタリア北東部、地中海に面するトリエステ港です。アジアとヨーロッパ東部を結ぶ物流の拠点として知られています。
船舶の手配を行うステファノ・ビジンティンさん
トリエステを拠点に荷主の依頼を受けて船舶の手配を行うステファノ・ビジンティンさんに話を聞きました。ビジンティンさんは、紅海とスエズ運河を経由して航行を続けた場合でも、貨物の運送コストは大幅に上がっているといいます。
その理由は
▼危険が高まっているとして保険料が値上がりしていること
▼海運会社は攻撃されるリスクを抑えるため、船舶をサウジアラビアのジッダなどの港に立ち寄らせて、より小さく、海運会社の名前などを表示していない船に貨物を積み替えていて、その分の費用が上乗せされること
さらにビジンティンさんは、物流の乱れの影響で、2月半ばころまでは空のコンテナが不足するという新たな問題も出てくると指摘します。
船舶の手配を行うステファノ・ビジンティン氏
「商業的には大惨事です。航行の安全を保つ必要があります。残念ながらコストはさらに上がる可能性があります」
地中海の港がスルーされる?
トリエステ港の関係者がさらに懸念しているのは、事態が長引いた場合の影響です。
中国などから到着した貨物はトリエステ港で荷揚げされたあと、列車やトラックでイタリアのほか、ハンガリーなどヨーロッパ東部の国に運ばれています。
紅海での攻撃が続き、アフリカの喜望峰を回る航路が定着した場合、貨物船は地中海を通らずにオランダのロッテルダムやドイツのハンブルクなど北海の港に向かうようになる可能性があると、トリエステをはじめイタリアの港の関係者は見ています。
海上でも、さらに陸上でも、モノの流れが変わり、イタリアが不利な状況におかれることを懸念しているのです。
イタリア港湾協会 ジャンピエリ会長
「アフリカを回るルートが定着すれば、イタリアの港の仕事が落ち込むことは明らかです。地中海の競争力が落ちればEUにとっても問題です。この危機が長引けば、経済的な影響が大きくなります」
スエズ運河の航行は71%減
アメリカの物流調査会社「プロジェクト44」によりますと、1月26日時点で、推計で362隻が危険を避けようとアフリカの喜望峰を回るルートに変更したといいます。また、スエズ運河を通る船の数は1月21日から1月27日の週で、12月中旬と比べて1日あたり71%余り減少しているということです。
フーシ派 “商船攻撃は続ける”
フーシ派 アベド・トール報道官
今後、フーシ派の攻撃はどうなるのか。
フーシ派のアベド・トール報道官が1月29日、NHKのオンラインインタビューに応じました。トール報道官はアメリカとイギリスがイエメンへの攻撃を行い戦争状態にあるとして、紅海などで行っている船舶への攻撃の正当性を主張しました。そしてイスラエルのハマスへの攻撃停止が実現するまでは同じような船舶攻撃を続けると強調しています。
フーシ派 アベド・トール報道官
「われわれはこれまで間違った標的を攻撃したことはなく、海上輸送になんら影響を与えていません。アメリカこそが海上輸送に悪影響を与えているのです。イスラエルがガザ地区への攻撃を止めればわれわれの攻撃も終わります」
専門家「まったく見通し立たず」
今後の見通しについて、日本の専門家に話を聞きました。
日本海事センター 後藤洋政研究員
「アジアから欧州の運賃が特に上がっています。また、航空貨物など、ほかの輸送モードを使うという対応をとった場合も追加的なコストがかかることになります。いつ、紅海で安全に船舶が航行できるようになるのかは今のところまったく見通しが立っていない状況です。紅海での航行が再開されるとしても、すでにルートを変えて対応している海運会社がまた、スエズ運河経由に船舶を戻すとなると、一定の期間かかることが想定されます」
ガザ地区の惨事 わがこととして
すでに日本でも一部の食品の輸入が滞っていることが判明しています。日本などからの部品の輸送に影響が出たことで自動車メーカーのスズキはハンガリーにある自動車工場の稼働を一時、停止しました。
砲撃を受けた住宅 ガザ地区ラファ2023年12月)
ガザ地区ではきょうもイスラエル軍による空爆や地上部隊による攻撃が続けられ、多くの人の命が失われています。憎しみが連鎖し、武力による応酬が中東の広い範囲に広がって、それが海上輸送を通じて世界の経済をゆさぶり始めているのです。ガザ地区の戦争は決して遠くの場所の出来事ではないと痛感しました。
(1月30日 ニュースウオッチ9などで放送)
https://www.youtube.com/watch?v=x9Sj5KDbVRA
https://www.youtube.com/watch?v=ZtXa6IfrgRw
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