https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=77973?site=nli 【数字の「3」に関わる各種の話題-数多くの場面で現れてくる数字だが-】より
中村 亮一
はじめに
数字の「3」は、各種の場面で現れてくる。その意味では最も馴染み深い数字の1つだといえるだろう。これまで「25」以下の数字について、順序不同で紹介してきたが、いよいよ残るは「1」、「2」、「3」となっている。これらの数字はあまりにも幅広く使用されている数字なので、正直申し上げて、何をトピックとして取り上げたらよいのか、本当に困ってしまう。
今回は、このうちのまずは数字の「3」について、それが現れてくる例やその理由等について調べてみた。「3」については、数多くの場面で現れてくることから、このレポートで紹介するのはその一部に過ぎないことを述べておく。
数字の「3」のイメージ
数字の「1」が物事の始まりを表すとともに、孤立をイメージさせ、数字の「2」が2つの異なるものの統合を表すとともに、一方でそれらがマッチしない場合の対立をイメージさせかねないのに対して、数字の「3」は「調和」、「安定」を表しているイメージがあるようだ。
政治の世界では、米国や英国のような2大政党制では、多数決によって、明確な白黒が付けられるというメリットはあるものの、一方で特に近年においてはまさに対立が分裂を引き起こす可能性を惹起させている。一方で、一党体制は「独裁国家」のイメージにつながることになる。一定の存在感のある3つ目の政党があれば、3つ目の政党が、他の2つの政党間のバランスを取る形で、適正な結論を導き出してくれるかもしれないとの期待を抱かせることになる。
「三角形」が表すバランス感
数字の「3」を語るときに、具体的にどんなテーマから始めたらよいのだろうかと迷ってしまうが、そこは数学に関係しているということで、「三角形」についてから始めたいと思う。
おそらく、多くの人、特に日本人が「3」と言う数字に何となくの安定感や親近感(?)を感じてしまうのも、この「三角形」が有しているイメージからくる、微妙なバランス感みたいなものに対する感覚があるからなのではないかと個人的に思っている。
平面上の任意の異なる3点を取った場合、それらが一直線上になければ、「三角形」が形成されて、1つの面が出来上がることになる。この面が有する領域が特定の意味合いを有する形になっていたりする。
「三角形」については、古くから各種の研究がなされてきているが、これらについての具体的な話題は別途の機会に譲ることとする。例えば、ピタゴラスの「三平方の定理」に代表されるように、古代の数学者や哲学者にとっても、三角形は特別な意味合いを有していた。エジプトのピラミッドは、底辺が正方形、側面が三角形の四角錐の形状となっている。
「三角形」は、その安定的な形状から、また三角関数や三角法といった手法との関係等から、建設、エンジニアリング、設計の分野等で数多く利用されている。
以下で紹介する数字の「3」が現れるケースの多くにおいては、この「三角形」が有する、その形状によって表される一種のバランスに対する信頼感がベースに存在している中で、「3」という数字が使用されてきているのではないかと思われる。
「3つの〇〇」
物事を表すときに、3つのもので代表するケースが数多くみられる。例えば、以下のような具合である。
・三権分立
「三権」といえば、「司法、立法、行政」という国の3つの権力を指している。「三権分立」は、これらの3つの権力が1つの機関に集中することを回避し、それぞれが互いに抑制し、均衡を保つことで、権力の乱用を防ぎ、国民の権利と自由を保障しようとする考え方となっている。
・三種の神器
「三種の神器」といえば、日本の歴代天皇が古代よりレガリア(君主としての象徴)として伝世してきた三種類の宝物を指しており、具体的には「八咫鏡(やたのかがみ)」、「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」、「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」のことをいう。
・光と色の「三原色」
「光の三原色」は、赤(R:レッド)、緑(G:グリーン)、青(B:ブルー)であり、「色の三原色」は、青緑(C:シアン)、赤紫(M:マゼンタ)、黄(Y:イエロー)となる。
これらの三色を混ぜ合わせることで、殆どの色を作り出すことが出来る。
「光の三原色」は、カラーテレビや蛍光灯等で使用されており、「色の三原色」は、カラー写真やインクジェットプリタ等で使用されている。
・物質の三態:固体、液体、気体
・徳川御三家:尾張、紀州、水戸
また、以下のような言葉も多く使用される。
・○○三原則
非核三原則:核兵器を持たない、作らない、持ち込ませない
日本国憲法の三原則:国民主権、基本的人権の尊重、平和主義
防衛装備移転三原則:日本国政府が採る武器輸出規制及び運用面の原則
・〇〇三冠〇
野球の三冠王:打率、打点、本塁打
競馬の三冠:日本のクラシック三冠は、皐月賞、東京優駿(日本ダービー)、菊花賞、牝馬三冠は、 桜花賞、優駿牝馬(オークス)、秋華賞、米国のTriple Crownは、ケンタッキーダービー、プリークネスステークス、ベルモントステークス
・○○三部作
三部作(英語ではトリロジー(Trilogy)と呼ばれる)は、三つに分かれていながら、同じ1つの主題を持つ作品群を指しており、映画、音楽、小説等でよくみられる。クラシック音楽の世界では、プッチーニの三部作(「外套」、「修道女アンジェリカ」、「ジャンニ・スキッキ」)、レスピーギのローマ三部作(「ローマの噴水」、「ローマの松」、「ローマの祭」)等が有名である。
・○○トリオ
トリオ(Trio)というのは、3つ組、三つで構成される形態のことをいうが、音楽、演劇等の分野で使用される。
・○○三兄弟、○○三姉妹
基本的には、それぞれが全員男性や全員女性の場合を指しているが、男女がともに含まれている3人のケースについても、三兄弟と呼ばれる。映画やドラマや小説のタイトル等でも多く見られる。
歴史上も、毛利元就の三子教訓状、あるいは三本の矢の逸話で知られる、毛利隆元・吉川元春・小早川隆景の「毛利三兄弟」や、浅井長政とその正室市の間に生まれた、茶々・初・江の「浅井三姉妹」等が有名である。
・3つのルール
各種の分野で「3つのルール(Rule of three)」という呼ばれ方がされる。
例えば、生活習慣の在り方、仕事の進め方、文章の書き方等において、使用される(なお、統計における「3つのルール」については、後に述べる)。
プレゼンテーションにおける「3つの〇〇」という言い方
企画書等のプレゼンテーション資料では、よくポイントが3つや4つにまとめられている。1つや2つでは何か物足りないという印象を受けるが、逆に5つ以上あるとあまりにも多くて理解が難しくなり、覚えきれないということもあり、「3」や「4」という数字が多くの人にとって適当な水準として好まれているようだ。その中でも、特に、簡潔にまとめているという観点や聞き手の頭に残りやすいという観点から、「3」という数字がより好まれているようだ。
三文字で表されるもの
3つの文字や単語で表されるものが数多くある。これは、「いち、にー、さん」の掛け声等に見られるような「三拍子」のリズム感が日本人にマッチしていることと関係しているようだ。例えば、以下の通りである。
「上・中・下」、「天・地・人」、「松・竹・梅」、「安・近・短」、「大・中・小」、「陸・海・空」、「産・官・学」、「報・連・相」、「雪・月・花」、「金・銀・銅」、「有・良・可」、「心・技・体」、「い・ろ・は」、「A・B・C」、「断・捨・離」、「ホップ・ステップ・ジャンプ」、「じゃん・けん・ポン」、「グー・チョキ・パー」、「チャー・シュー・メン」
「三大〇〇」
物事を代表するものを表す場合に、「三大〇〇」という表現がよく使用される。例えば、以下の通りである。
・日本三大祭り:京都の祇園祭、大阪の天神祭、東京の神田祭
・日本三景:天橋立、松島、厳島
・日本三大河川:信濃川、利根川、石狩川
・日本三大都市圏:東京(首都圏)、大阪(近畿圏)、名古屋(中京圏)
・三大成人病:がん、脳血管疾患、心疾患
・世界三大宗教:キリスト教、イスラム教、仏教
・世界三大珍味:キャビア、トリュフ、フォアグラ
・三大栄養素:タンパク質、炭水化物、脂肪
・三大発明:火薬、羅針盤、活版印刷
「三」や「3」が付く言葉
「三」や「3」が付く言葉は、昔からの諺(ことわざ)等に多く見られ、例えば以下のものが挙げられる。
・三つ子の魂百まで ・石の上にも三年
・桃栗三年柿八年 ・三人寄れば文殊の知恵
・二度あることは三度ある ・三度目の正直
・早起きは三文の徳 ・仏の顔も三度まで
これ以外にも、例えば以下のような使用例がある。
・○○三昧 ・三面記事
・三日坊主 ・三日天下
・駆けつけ三杯 ・三すくみ
・三本の矢
文芸作品等の題名でも、「3」が良く使用されており、例えば以下のものが挙げられる。
・三匹の子豚 ・三丁目の夕日
・ルパン三世 ・三四郎
以下の例では、「3」はまさに中立的な立場等の意味で使用されている。
・第三者 ・三人称
日本において、「3」という数字は縁起の良い数字と見なされている
数字の「3」が、日本において縁起の良い数字と見なされていることを示すものとして、以下の例が挙げられる。
神前結婚式での「三々九度」は、大・中・小の3つの盃を使用して、新郎新婦がお酒を酌み交わす儀式である。1つの盃で3回お酒を酌み交わすことを1献と呼び、3つの盃で3献ずつ、いただくことから、「三々九度」と呼ばれている。
「手締め」と呼ばれる日本独特の儀式として、「一本締め」や「三本締め」等がある。「一本締め」は、手を3回・3回・3回・1回と打つことを1セット行うものであり、これを3セット行うものが、正式な手締めとされる「三本締め」となっている。因みに、手を1回だけ打つのは「一丁締め」と呼ばれ、これは「関東一本締め」とも呼ばれて、一本締めと混同されているケースが多いようだ。また、「三々七拍子」と呼ばれるものは、手を3回・3回・7回を1セットとして行われる。手を打つ回数がなぜこのような構成になっているのかについては、それぞれに対して由来があるようだが、いずれにしても数字の「3」がベースになっており、これは数字の「3」が縁起の良い数字だということが関係しているものと推定される。
「万歳三唱」は、各種の祝賀活動等において、万歳を3回繰り返す。
「三十三間堂」や「三十三観音」にみられるように、「3」は観音様とご縁がある数字となっている。「三十三間堂」は、堂内陣の柱間が33あることに由来しており、これは観音菩薩が33種類の姿「三十三観音」に身を変えて人を救うという信仰から来ている。
なお、数字の「3」は、その読み方の「みつ」が、「満つ」や「充つ」につながることからも、縁起の良い数字としてみなされることになっているようだ。
宗教における数字の「3」
キリスト教では、「三位一体」と呼ばれる、神と子と聖霊の三つが一体(唯一の神)であるとする教えがある。これ以外にも、「三賢人」、「三大祭(クリスマス、復活祭、聖霊降誕祭)」等に、数字の「3」が現れてくる。
ヒンドゥー教でも、「三神一体」と呼ばれ、創造神ブラフマン、保持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァが同一であり、これらの神は力関係の上では同等で、単一の神聖な存在から顕現する機能を異にする3つの様相に過ぎない、との考え方がある。
仏教でも「釈迦三尊」という、仏教における仏像安置の形式を示す言葉がある。
スポーツにみられる数字の「3」
スポーツで数字の「3」が見られるケースとしては、例えば、以下のものが挙げられる。
・野球においては、打者はストライクを3つ取られると三振でアウトになり、アウトが3つで攻撃側の1回が終了する。さらに、基本的に1試合は、3の3倍の9回まで、選手も9人となっている1。
・プロレスリングでは、両肩をマットに押し付けられて、3つカウントされるとフォール負けになる。
・陸上競技のトライアスロン(三種競技)は、水泳、自転車、マラソンの三種目をこなす。
ところで、競技人数が3人のスポーツは、と聞かれると、殆どの人は具体的な例を挙げることができないのではないか、と思われるが、この答えとして、例えば「セパタクロー」が挙げられる。セパタクローは、ネットを挟んで、主に足、腿、頭を使って行うスポーツで別名「足のバレーボール」と呼ばれている。
その他に、「フットサル」の最低競技人数は3人であり、パラリンピックで有名になった「ボッチャ」のチーム競技は各チーム3名で行われる。
1 これに対して、米国のメジャーリーグでの指名打者(designated hitter:DH)制の導入の普及により、指名打者を加えて、10人でプレーする競技になったとも言われている。
数学における数字としての「3」
数字の「3」については、数学においても数多くの場面で現れてくるが、これらには先に述べた「三角形」とも関わってくるものも多い。ここでは、先に紹介した「3つのルール(3の法則)」のうちの統計に関するものを紹介しておく。
統計分析における「3の法則(Rule of three)」は、「n人のサンプルで特定の事象が発生しなかった場合、0 から 3/nまでの区間が母集団での発生率の95%信頼区間である」というものである2。nが30より大きい場合、これはより感度の高いテストの結果の適切な近似値となる。
この法則は、例えば、製薬会社が新薬を発売した場合、市販後の調査で観測される有害事象の発現に関する発生率を確認するために使用される。具体的には、3,000例の症例の無作為抽出により、有害事象の発現がなかった場合、95%の確率で発現率は0.1%(3/3,000)を超えない、ということになる。
2 この法則においては、log 0.05 =-2.99573…… ≈-3 であることが大きな意味を有している。また、この法則については、(同じ意味合いではあるが)別の形で表現されることも多い。
3月3日は何の日
3月3日は、言わずと知れた「桃の節句(雛祭り)」である。日本ではグレゴリオ暦(新暦)の3月3日に設定されているが、江戸時代までは和暦(太陽太陰暦)の3月3日に行われており、旧暦の3月3日が桃の花が咲く時期であったことにより、「桃の節句」と呼ばれている。
それ以外には、例えば以下の記念日等となっている。一般的に同じ数字が並ぶ日は、記念日に設定されることが多いが、3月3日については、「3」という数字が多くの人に好まれている数字であると思われるのにも関わらず、「雛祭り」のイメージが強いこともあってか、あまり多くはないようだ。
・耳の日:3月3日の「33」が「みみ」と読めることや、「3」が耳の形に似ていること等による。
・平和の日:「女の子の健やかな成長を祝う雛祭りは平和の象徴である」との考えによる。
その他に数字の「3」が現れる例
音楽の和音は、「ド・ミ・ソ」に代表されるように3音から構成されており、これが人間の脳に心地よいものとなっているようだ。
「一日3食」ということで、殆どの人は、朝・昼・晩(夜)の1日3回の食事をとっている。ただし、日本で朝昼晩と3食とる習慣が広まり始めたのは、江戸時代後半といわれており、それまでは1日2食が一般的だったようだ。
「三次元」は、長さと幅と高さの3つの方向の拡がりを有する空間で、人間が認識できる次元数であり、立体が3次元の図形となっている。
最後に
今回は、数字の「3」について、それが現れてくる例やその理由等について、報告してきた。
「3」という数字は、実に多くの場面で使用されている。今回紹介したもの以外にも、日常生活において、数字の「3」に接する機会は極めて多いものと思われる。例えば、中学校も高校も3年生である。1年ごとに「種まき期」、「水やり期」、「収穫期」と区分けされた「3年サイクル」という考え方も広く普及しており、企業の中期計画も3年間で設定されていたりする。
皆さんも、日常生活の中等で、「3」という数字が現れてくる場面をいくつか思い出してみてはいかがだろうか。
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