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https://minamiyoko3734.amebaownd.com/posts/52295288 【日本語に欠かせないオノマトペ】
https://www.athome-academy.jp/archive/literature_language/0000000198_all.html 【俳句の新しい流れ-五七五は意外に簡単】より
京都教育大学教育学部教授 俳人 坪内 稔典 氏つぼうち としのり
坪内 稔典1944年愛媛県生れ。立命館大学文学部日本文学科卒業。同大大学院文学研究科修士過程修了。大学在学中から全国学生俳句連盟に加盟、流行語などを取り入れた新しいタイプの俳句を確立。“ニューウェーブ俳句”“広告コピー風”等と言われ注目を集める。本文中にもある「三月の甘納豆のうふふふふ」、「河馬を呼ぶ十一月の甘納豆」(坪内氏は河馬に親しみを持つのと同時に著書にも「河馬を通して感じたり見たりすることが、いわば私の場合の本意をずらす工夫の一つ・・・」(俳句のユーモア)と書いている)は有名。
「日時計」「黄金海岸」等の同人誌を経て、76年から「現代俳句」を責任編集。86年より俳句グループ「船団の会」代表となり、会員誌「船団」を編集発行。大阪俳句史研究会の創設にも参画。句集に「坪内稔典句集」(92年、ふらんす堂)、「百年の家」(93年、沖績舎)、「人麻呂の手紙」(94年、ふらんす堂)、評論集に「俳句一口踊と片言」(90年、五柳書院)、「俳句のユーモア」(94年、講談社)、「新芭蕉伝 百代の過客」(95年、本阿弥書店)等がある。
86年、尼崎市民芸術奨励賞受賞。日本近代文学会会員、俳文学会会員、日本文芸家協会会員。専攻は近代日本文学、俳句俳諧。研究テーマは正岡子規、夏目漱石。
1996年9月号掲載
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女性を中心に、今、俳句がブーム
──近年、俳句が大変なブームになっているそうですね。各地にいろんな俳句の会ができていると聞きます。この人気の背景には何があるんでしょうか。
坪内 俳句がブームになったそもそもの大きな理由の一つは、女性です。女性が俳句をつくり始めたことで、俳句人口そのものも急増しましたし、俳句の世界がかなり変わりました。
──そう言われてみれば、時々雑誌などで、女性の俳句グループの記事を目にすることがあります。
逆に考えると、以前は俳句をやる女性はあまりいなかったということなんでしょうか。
坪内 ええ。ご存じのように俳句は、和歌などに比べ形や内容がくだけていますし、もともとは男たちが酒を飲みながらつくって楽しむというような、ちょっと品の落ちる文芸だったんです。だから和歌をやる女性はいても、俳句に興味を持つ人は少なく、昭和30年代までは、俳句の会に女性はほとんどいませんでした。
──いつ頃から女性も俳句を・・・?
坪内 昭和40年代、いわゆるカルチャーブームというのが起こりまして、主婦層を中心に俳句が広がったのが発端だと思います。
ちょうど時代は、高度経済成長によって日本人の生活にある程度ゆとりができてきた頃でしたから、主婦が男たちの遊びに興味を覚え、俳句ならすぐにもやれそうだ、それやってみたら結構面白いじゃないかということで、急速に広がっていったということではないかと・・・。そういう意味では、時代の変化ということが、そもそものベースにあるんでしょうね。
──今、ゴルフをやる女性が増えているのと状況がよく似ていますね。
坪内 まったく同じです。しかも俳句の場合、現在では、全体の約8割が女性の時代になっています。
──女性の方が多いんですか。大逆転ですね。
坪内 ですから、女性は子どもの手が離れた四十歳代くらいからカルチャースクールに行って俳句の勉強を始める。20年くらい経つと、定年になった旦那が何もすることがなくて、奥さんについてくるという例が最近は多いんですよ(笑)
──数十年でずいぶん変わりましたね。
普段使えない言葉も、虚構の世界の中でなら・・・
──しかし最初は男のまねをして始めたにせよ、そこに面白さ、魅力というものがなければ、女性たちの中に俳句はここまで浸透しなかったと思うんです。そこで、月並みな質問かもしれませんが、俳句の面白さ、あるいは魅力って、いったいなんでしょうか。
坪内 まず言えるのは、言葉の取合せの楽しさです。
例えば「古池」と「蛙」を取り合せて「古池や蛙飛び込む水の音」という名句ができる、甘納豆と季節を組み合せると「三月の甘納豆のうふふふふ」なんていう不思議なものができる(笑)。意外な取合せから偶然に思いがけない名句ができる可能性があるわけです。俳句が昔から根強く支持されている理由は、まずその取合せの楽しさではないかと思います。
──言葉の数がどれだけあるか知りませんが、そういう意味では無限の可能性があるわけですね。つくることを考えると、ちょっと難しそうに感じるんですが、うまく取合せができている句というのは、確かにとても心地いいものです。そして、その組合せは、絶対にこうでなければいけないというきまりもないし、受け止め方も人によって全然違う。そういう面白みもありますね。
坪内 それが最大の魅力だと思います。しかも、五七五を使うことで、日常会話ではない虚構の世界に入っていくことができるわけです。普段の生活の中で使えないような言葉や、言えないようなことでも、そういう世界の中では自由にものを言うことができる。その気持ち良さもあります。
言葉の取合せが一番簡単に、しかも見事にできるのが、実は五七五なんです。限られた字数の中で何かを表現しなくてはと考えると一見難しそうに思われるかもしれませんが、五七五というのは、やってみると意外に簡単な取合せの“装置”なんですよ。
句会でこきおろされるのも、意外に気持ちいい・・・?
坪内 それからもう一つ、俳句というのは、他の文芸と違って、句会が必ずあります。自分のつくった句を、署名なしで句会の仲間に読んでもらい、お互いに批評し合うわけです。だからすぐに反応が返ってくる、そして意外にも、仲間が自分が思っていたよりすごくいい読み方、批評をしてくれたりすることもある。その楽しみもあると思います。
──それはうれしいでしょうね。
坪内 また逆に、どんな立場の人の句だろうが、こきおろされる時は徹底的にこきおろされるわけです。それが意外にも非常に心地いい。これは体感してみないと分かりません。
──仲間同士のコミュニケーションの楽しさというのもあるんですね。
坪内 そうそう。しかも俳句を通じたいわば文化的な付き合いですから、ある意味ではどろどろした部分のないきれいな人間関係ができるわけです。だから今、吟行というのが盛んになっていまして、句会の仲間同士で俳句を詠みながら旅行したり、おいしいものを食べに行ったり、珍しいものを見に行くといった活動をするグループが多くなってきているんです。
──意外な経済効果もある・・・(笑)。いずれにせよ、女性が大多数になってきたことで、俳句の世界が「酒を飲みながら、ちょっと一句ひねってみるか・・・」という感じから「明るい人間関係の中でみんなで楽しくやりましょう」というふうに変わってきたのかもしれませんね。そういう意味では、俳句は今や、現代人のひとつの「遊び」ととらえてもいいのかな・・・。
坪内 まさに「遊び」なんです。かつては自己表現というとらえかたが主だったんですが、今や、言葉の取合せを楽しみ、仲間とのコミュニケーションを楽しむ、ものすごく豊かな「遊び」だと思います。
子供の頃、夢中になって時の経つのも忘れて、しりとり遊びをしましたね。言ってみれば、あれが俳句の楽しさであり、しりとり遊びが「遊び」であるように、俳句をつくるのも「遊び」でいいんだと私は考えています。
──言葉遊びって、子供も大人もみんな好きなんですね。
坪内 そうですね。でも、もしわれわれが貧しくて、生活にゆとりがなければ、とても俳句をつくる、句会を楽しむなんて余裕はないと思います。その意味で、言葉遊びを受け入れる余地がある今の時代というのは、いい時代だと思います。
「遊び」として、友達、家族で気楽に
──そういう時代背景の中で、先生ご自身も、俳句の世界の中に新しい流行をつくってこられた、いわばブームの火付け役のひとりとも言えるわけですが、さてそこで、この先、この俳句人気はどうなっていくんでしょうか、あるいはどうなっていってもらいたいとお考えですか。
坪内 私の夢としては、俳句がもっと気楽な遊びになって、例えば、友達同士、家族なんかが集まって、今日はみんなで五七五でもやろうか、そんな雰囲気でできるようになればいいな、と思い描いています。
──それはもはや、夢ではないと思いますよ。
坪内 そうかもしれません。確かに、最近は女性ばかりでなく、大学生の間にも句会が広がってきていますし、また、衛星放送でも俳句の番組が増えてきています。四国の松山なんかでは「俳句王国」という番組を全国向けに週に1回放送している。そんなことを考えると、徐々に一般に浸透してきているのかな、と・・・。
──現代人は、人付き合いとか近所付き合いをしなくなってきていると言われますが、どこか根底には、そんなに寂しい状態になりきれないところがあるんじゃないか、と思うんです。だから、自宅でパソコンゲームなんていう時代になっても、一方でパソコン通信が盛んになったりしている。
その点、言葉遊びが楽しめ、仲間とのコミュニケーションもできる「俳句」の人気は今後ますます高まっていくような気がします。
先生も「甘納豆と河馬」(略歴参照)みたいな面白い取合せで、これからもわれわれを楽しくしてくれる名句をつくっていってください、期待しています。今日はありがとうございました。
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