『坂の上の雲』から学ぶ

https://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/1103/14/news049.html 【『坂の上の雲』から学ぶビジネスの要諦 今見習うべき明治のグローバリゼーション 】より

身分制度や鎖国という足かせが一挙に取り払われた、そんな新しい時代を生きる青年たちの熱い想いに注目したい。

明治のグローバリゼーション

 わが国は、近代に至るまでに主に中国や朝鮮半島から言葉、宗教、政治、経済などを学んで日本固有の文化に多くを取り入れてきた。これらは日本文化醸成に大きな貢献を果たしてきたが、世界の先進国に並ぶであるとか、日本が政治や経済で世界に影響を与えるところまではいっていない。

 しかし、明治時代の学びは、世界レベルまで日本を持ち上げる勢いであり、わが国にとって本格的なグローバリゼーションの第1期であったといえる。

 政府は、殖産興業・富国強兵を掲げ、欧米列強に負けない国づくりを目指した。その施策の1つとして、海外に派遣団や留学生を送り、海外からの専門家を多く導入した。

 前回、秋山真之の勉強法を説明したが、このように多くの人材が海外各地に学んだ。「坂の上の雲」の登場人物の留学歴を見てみよう。

伊藤博文 イギリス  大山巌 スイス  東郷平八郎 イギリス  乃木希典 ドイツ 

秋山好古 フランス  秋山真之 アメリカ  広瀬武夫 ロシア

 幕末から明治にかけての留学生の多くは、武士やその子女であった。当時は、船の安全性も今に比較して乏しく、大変なリスクと苦労を覚悟しての留学である。

 福沢諭吉は、「学問のすすめ」や「福翁自伝」に、「天は人に上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」という平等思想のほかに、「個人の独立なくして国家の独立なし」という強い国家意識を書いている。儒教などの過去の学問だけに捕らわれず、西洋の学問を推奨しているが、要点は国家の独立であり、わが国のよいところは大切にして、取り入れるべきは取り入れよと指摘している。

 「坂の上の雲」ではこういう場面がある。

つまりは、運用じゃ。英国の軍艦を買い、ドイツの大砲を買おうとも、その運用が日本人の手でおこなわれ、その運用によって勝てば、その勝利はぜんぶ日本人のものじゃ。

(司馬遼太郎、坂之上の雲、文春文庫、2巻319頁)

現代のグローバリゼーションの問題点

 今ICTの発達ともに世界が急激にグローバル化されてきている。世界の多く人が携帯電話でメールを使い、インターネットで画像を見ることができる。イギリスの子どもも日本の子どもも同じように携帯電話でデータ送信をしていることもグローバル化である。企業でいえば、グーグルやアップルをはじめとする多数の会社がグローバルにビジネスを行っている。また、ナイキ、マクドナルドをはじめとするブランドもグローバル化している。

 グローバル化の中で、世界の労働力の差が産業構造を変えつつある。例えば、デザインは他国でされても、生産拠点は中国やベトナムなどに、資本は外国であろうとIT労働の拠点がインドなどに集中してきている。国際的価格競争力が急激に高まり、わが国も対岸の火事として傍観してはおれない。

 中国、マレーシア、韓国など多くのアジアの国のグローバル化が急激に進行している。残念ながら、そういう国々にも日本はグローバル化に大きな遅れをとっていると思えてならない。

 テンプル大学ジャパン現代アジア研究所所長のロバート・デュジャリック氏と米国ブリンマー大学の竹中歩准教授は、日本の現状を「鎖国への逆戻り」であり、「リバース・グローバリゼーション」(逆グローバリゼーション)であると警鐘を鳴らす。その実例として、わが国は移民をほとんど受け入れていないこと、日本からの海外への留学生数が減少してきていること、また、企業の国際進出・対外投資が少ないことなどを挙げている。

 若者もなんだか弱々しい。海外を目指すより国内指向であり、企業の取締役にはなかなかなれないので部長を目指すのが精一杯だとか。

 日本の企業統治を見ても、グローバル化している国々と比較して社外役員の数が極めて少ないことは言うまでもなく、外国人社外役員を置く企業は数えるほどしかほどしかない。

 年寄り臭いことを言うようだが、日本の若者は、国内だけを見るのではなく、世界のグローバル企業の一員としても活躍するぐらいの気概が欲しい。日本の会社だけではなく、世界のエクセレントカンパニーの役員になることぐらいは目指して欲しいものである。

 明治の人々の気骨とまではいかなくても、その何分の1かでも持ってもらいたいものである。

 デュジャリック氏らは、明治と現代を比較してこう表現している。

明治は、「WEAK ORGANIZATIONS,AND STRONG MEN」

現代は、「STRONG ORGANIZATIONS,AND WEAK MEN」

 明治は、政府や学校などの組織は弱かったが、人間力が大きかった。現代は、組織は強いが、人の器が小さい。まさに、要点を言い当てている。

グローバリゼーションとアイデンティティー

 今後ますます海外のグローバル企業が日本に押し寄せてくる。また、日本の企業も、グローバル化をしていかないと世界で生き残れない。

 もう1つ。わが国固有の問題として少子高齢化で労働人口が激減していくという現実がある。2050年には15歳から65歳の労働人口と非労働人口がほぼ同数になってしまうという現実である。

 近年のOECDの調査によると、2008年のオーストラリアでの外国人就業比率は27%、米国で17%、ドイツで9%程度であるが、日本はなんと0.3%である。外国人受け入れに非常に消極的なわが国は、女性登用、高齢者の活用に注力しなければいけないだろう。

 ますます日本の企業のグローバル化が必要となってくる。政界規模でデザイン、製造、マーケティング、採用をしているグローバル企業に、1国内で完結する企業にはしょせん勝ち目がない。わが国も、生産拠点の海外移転や海外での優秀な人材を獲得していかなければならないだろう。

 日本在住の米国人の友人が私にこう語った。「1980年代に日本の品質管理やチームワークが世界に注目されたことは、過去のこととしてあったが、今世界はそれを記憶していない。日本人は、まだ同じ状態にあると思っているが」

 その会話を聞いていたもう1人の外国人ビジネスマンがこう言った。「新幹線は東京オリンピック(1964年)、すなわち半世紀近く前からあったが、今頃になってようやく世界への売り込みに参入し始めた。国内にしか目がいっていない」

 多くの日本人が気付かないことがグローバルな人には見えている。いやはや、自分も日本人として情けない次第であり、しっかりグローバル化について考えなければいけない。

 しかし、1点言い忘れてはいけないのが、グローバル化は必要であるが、日本人が日本人としての誇りを持ち続けること、すなわち日本人としてのアイデンティティは大切にすべきということ。

 前段に紹介した福沢諭吉の言葉を現代的に置き換えれば、日本人の得意な製造であるとかサービスの高さという、わが国の優れたところを取り入れて、グローバリゼーションを目指すべきである。この辺りも大いに明治から学ぶところがあると思う。

 『坂の上の雲』は、欧米列強という脅威を目の当たりにしながら、身分制度や鎖国という足かせが一挙に取り払われた、そんな新しい時代を前向きに生きる青年たちの物語である。

 危機感の低い飽食の時代だからこそ、無意識に鎖国政策を採り、逆グローバリゼーションに進んでいるのではないだろうか。

 『学問のすすめ』(福沢諭吉)、『武士道』(新渡戸稲造)や『坂の上の雲』(司馬遼太郎)を再読して、グローバリゼーションの心意気を感じてみるのも今必要な学びである。

著者プロフィール

古川裕倫

株式会社多久案代表、日本駐車場開発株式会社 社外取締役

1954年生まれ。早稲田大学商学部卒業。1977年三井物産入社(エネルギー本部、情報産業本部、業務本部投資総括室)。その間、ロサンゼルス、ニューヨークで通算10年間勤務。2000年株式会社ホリプロ入社、取締役執行役員2007年株式会社リンクステーション副社長。「先人・先輩の教えを後世に順送りする」ことを信条とし、無料勉強会「世田谷ビジネス塾」を開催している。書著に「他社から引き抜かれる社員になれ」(ファーストプレス)、「バカ上司その傾向と対策」(集英社新書)、「女性が職場で損する理由」(扶桑社新書)、「仕事の大切なことは『坂の上の雲』が教えてくれた」(三笠書房)、「あたりまえだけどなかなかできない51歳からのルール」(明日香出版)、「課長のノート」(かんき出版)、他多数。古川ひろのりの公式ウエブサイト。

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