俳句でポン!

https://www.nhk.or.jp/matsuyama/lreport/article/002/03/  【松山市出身 俳人 神野紗希さんが選ぶ「移動手段を詠んだ俳句」】より

兼題『移動手段を詠んだ俳句』に全国から306句寄せられました。松山市出身の俳人神野紗希さん選の俳句を解説とともに紹介していきます。

※愛媛県で平日夕方に放送中の番組「ひめポン!」のコーナー「俳句でポン!」でお伝えした内容を掲載しています。

特選

早春の免許返納かぜやさし

伊予郡砥部町 とべのひさの

神野さん

「この句からわかるポイントは【変化を肯定的に受けとめる】です。年を重ねて免許返納することは、不便になるとマイナスに捉えられることもありますが、この句は早春の明るさや「かぜやさし」によって、優しく肯定しています。変化してゆく人生を、肯定的に受け止める姿勢に、俳人としてのしなやかな強さを感じました」

番組紹介句(神野さん選10句)

【愛媛ならではの風景を詠んだ5句】

坊ちやん電車降り来道後の湯の熱し (長野県 杏乃みずな)

風光る「しまなみ」よ空飛ぶペダル (今治市 はるかん)

水仙花歩き遍路の空に月 (八幡浜市 菊池ココ)

大試験三津の渡しで迎ふ母 (松山市 いもとまと)

軽トラのダッシュボードに蜜柑二個  (松山市 定位置)

「一句目は坊っちゃん列車、道後温泉の温度の高さも実感がありますね。二句目はしまなみ海道です。自転車だからこそ風を感じるということで、春の季語『風光る』が効いています。四句目は三津の渡しだから舟。渡し舟のこちら側で、試験を終えたお子さんを待つ母、移動するのは人間なので、そこに人生のドラマも生まれます」

【冬の厳しさと隣り合う5句】

赤本を枕に凍つる夜のフェリー (東京都 深山むらさき)

粉雪の舞う駐輪場船欠航 (今治市 たかひさ)

バス停に小さき雪だるまと二人 (鬼北町 ことら)

寒の内寝息優しき夜行バス (西予市 お京)

この土砂を超えて運べよ雪は降る (宇和島市 木原 恵子)

「一句目、寒い寒いフェリーに乗って、受験に向かうのでしょう。問題集の赤本を枕にするという描写もリアルです。五句目は能登の被災地への思いですね。厳しい雪が降る中、一刻も早く必要な救助や物資をどうか運んでほしいという願い、私も祈る気持ちです。雪や寒さの中で、移動手段は、やさしさや救いともなりうるのだと気づかされる5句でした」

添削

お父さん新幹線ですぐ会える (松山市 けいた)

お父さんに会えるよ春の新幹線

✏添削のポイント

「単身赴任のお父さんを思う若い作者の句です。四国に新幹線が出来たらお父さんにもすぐ会えるのに、と希望を詠んでくれました。さらに季語を足して、気持ちを表してみましょう。

〈お父さんに会えるよ春の新幹線〉

春は希望あふれる季節です。季節に希望を託してみると、そんな未来がより近づくよう」

長靴と菜の花そろそろ 日の出前  (東温市 みつお)

朝霜に濡れる長靴菜の花黄

✏添削のポイント

「みつおさん、今回、初めて俳句を作ってくださったとのこと。毎朝の犬の散歩では、朝の霜で濡れるため、長靴を履いているとのこと。朝の霜の冷たさや菜の花の嬉しさを、感覚的に足してみましょう。

〈朝霜に濡れる長靴菜の花黄〉

具体的に朝霜を示したほうが、ひんやりした朝の空気も迫ってきますね。菜の花も「黄」と色を足すとより鮮やかです。五感を大切に描写を考えると、臨場感が出てきます」

佳作

出港の凍晴に消ゆ汽笛かな (松山市 窪田 大晴(中2))

軽トラのヒーター妻は手を翳し (久万高原町 青雪)

東風吹く福岡行き航空券(チケット)買はむ (大洲市 山根円壱)

台風や今日の最後の渡船出づ (今治市 もひー)

砂漠ゆく駱駝の上の朧月 (新居浜市 越智勝利)

ペダル漕ぐ老医者の背に春の風 (大阪府 島田和子)

初夢や銀河鉄道零時発 (松山市 大野 玲子)

凩のホーム復旧電車発つ (兵庫県 播磨陽子)

リハビリの散歩は犬と息白し (西予市 しのしの)

機窓下の花やわらかしマイタウン (松山市 直線的)

次回の「俳句でポン!」の放送は、3月4日(月)の放送予定です。

次回は2023年度『特選の特選』を放送します。そのため、次回の兼題はありません。代わりに神野さんに教えて欲しい、俳句づくりの疑問や質問にお答えいただきます。ぜひお寄せください。

応募は、ひめポン!のホームページからお願いします。

締め切りは2月22日(木)の午後7時です。お待ちしています。


https://www.nhk.or.jp/matsuyama/lreport/article/001/30/ 【松山市出身 俳人 神野紗希さんが選ぶ「旅を詠んだ俳句」】より

兼題「旅を詠んだ俳句」に、全国から257句寄せられました。松山市出身の俳人神野紗希さんが選んだ俳句を、解説とともに紹介します。

※愛媛県で平日夕方に放送中の番組「ひめポン!」のコーナー「俳句でポン!」でお伝えした内容を掲載しています。

特選

北涯はての暖炉の図書館へ往ゆかん

愛南町  升屋

神野さん

「北海道の置戸町(おけとちょう)の図書館には暖炉があるそうでここでアルバイトしながら、カーリングを観るのが、升屋さんの夢だそうです。暖炉の図書館で過ごす時間は、きっととってもゆたかです。どこへ、どんな旅がしたいか。旅のプランを通して、その人の大切にしている価値観や生き方を、表現することもできるんですね」

番組紹介句(神野さん選10句)

地名を詠みこんだ5句

どちらから?愛媛です!知床の夏 (松山市 うずら豆)

鞆の浦待つという字の似合ふ秋 (大洲市 モモリン)

指汚すマンゴージュース澳門マカオ灼やく (今治市 あいむ李景)

靄もや澱よどむ枯木の底にアウシュヴィツ (松山市 森 小畝)

実家なきわれ松山へ帰省せむ (千葉県 水須ぽっぽ)

「一句目、愛媛と知床、具体的な地名が、はるかまでやってきた感慨を強めますね。マカオやアウシュビッツは海外です。靄の枯木といった景物が、その土地の空気感や記憶を引き出します。投句した森さんは「枯木の奥底に潜む、狂気、恐怖と沈黙を肌で感じ取り、戦慄を覚えます」とおっしゃっています。五句目は千葉の方です。ご実家はすでに無くなったのだけれど、その代わり、お正月や夏休みに俳句のイベントで松山へ来ることが増えたそうです。新しく帰省先ができたようで嬉しい、と書き添えてくださいました」

旅先の経験を詠んだ5句

駅弁や旅の車窓を青葉光 (松山市 久保田凡)

朝市の柚餅子ゆべしの味見「こりゃいける」 (石川県 HNKAGA)

駅前のじゃこ天あちち寒の入 (愛知県  栗田すずさん)

風邪薬妻買ひ走るハネムーン (松山市 晴樹)

岨そば道に同行二人の秋北斗  (松山市 萌美路)

「一句目は電車に乗って食べる駅弁。二句目は旅先の朝市で地元の特産品を楽しむ様子でしょう。三句目は揚げたてのじゃこ天がとっても美味しそう、「あちち」に臨場感があります。四句目は新婚旅行で風邪をひいてしまったんですね、薬を買いに走ってくれたパートナーの愛を感じます。エピソードを具体的・感覚的に書くことで、旅の時間がいきいきと伝わります」

添削

新涼の鎖塚ガイドの開拓史(宇和島市 木原恵子)

開拓の史や新涼の鎖塚

✏添削のポイント

「鎖塚は、北海道開拓における過酷な囚人労働を物語る史跡で、鎖につながれたまま酷使されて亡くなった仲間に、そのまま土をかけた塚です。ここに「ガイド」が入ってくると、観光のレジャー感が強くなり、歴史の厳しさが遠のいてしまいます。語順を入れ替えて、〈開拓の史や新涼の鎖塚〉としてみましょう。歴史の時間に直接つながることで、より深く思いをはせることができます」

美観焼けいたはり輝く栴檀せんだんの実 (西条市 元祖tоtо)

倉敷や栴檀の実に照る夕日

還暦祝い栴檀の実に照る夕日

✏添削のポイント

「倉敷美観地区でお子さんたちから還暦祝い。夕日に輝く木の実に感激して詠まれたそうです。その状況が分かる言葉を、俳句本体に加えてみましょう。

〈倉敷や栴檀の実に照る夕日〉と地名を入れると景色が見えますね。あるいは、〈還暦祝い栴檀の実に照る夕日〉とシチュエーションを足すと気持ちが見えますね。状況を具体的に書くことで、何に感動したのか、気持ちもより伝わります」

佳作

フィンランドはもう秋サーモンサンド食はむ (松山市 ちゃんこ)

四国から二度乗り換えてねぶた客 (新居浜市 越智勝利)

オリーブの影をいびつにマラガ灼やく (神奈川県横浜市 巴里乃嬬)

旅の朝ビュッフェの秋果美しく (四国中央市 星月彩也華)

秋宵の終着駅へゆっくりと (今治市 松本 だりあ)


https://www.nhk.or.jp/matsuyama/lreport/article/001/55/ 【松山市出身 俳人 神野紗希さんが選ぶ「ことしの記憶を詠んだ俳句」】より

12月の「俳句でポン」では、兼題『ことしの記憶を詠んだ俳句』に全国から222句寄せられました。松山市出身の俳人神野紗希さん選の俳句を解説とともに紹介していきます。

※愛媛県で平日夕方に放送中の番組「ひめポン!」のコーナー「俳句でポン!」でお伝えした内容を掲載しています。

特選

人生に俳句以前と以後セロリ

高知県 毬雨水佳

神野さん

「人生のターニングポイントはさまざまですが、俳句と出会う以前と以後で人生が大きく変わった実感を簡潔に詠んでくださいました。俳句は世界の見方を変え、人生が変わります。最後に飄々と置かれた「セロリ」も、今を楽しんでいる軽やかさがあります」

番組紹介句(神野さん選10句)

個人的な出来事を詠んだ5句

神無月四年振りなる同窓会 (新居浜市 KAZUピー)

卒業や千百七十グラムだった子よ (新居浜市 そまり)

初耳の猫の寝言や夕月夜 (松山市 空郷 阿房人)

新しく出来た句友や冬ぬくし (八幡浜市 紅まどんな)

絵日記の西瓜すいか割る吾よ外は雪(長野県 藤 雪陽)

「一句目、四年ぶりなのはコロナ明けだからでしょうね。今年ならではの感慨です。二句目、あんなに小さく生まれた子も、成長して卒業を迎えた、子どもの成長も大切な記録です。三句目のようなささやかな発見も楽しいですし、五句目のように夏の絵日記を見返す場面を描写することで、一年を振り返るということそのものを詠むのも面白い視点でした」

世界に目を向けた5句

大谷の長きバットや夏燕つばめ (広島県 長月憂)

ガザの地に泉を掘ってあげたしと  (西条市 砂山恵子)

オリーブの実病院は瓦礫がれきになった  (愛知県 みやこわすれ)

チャンネルを変えれば平和の霜夜かな (宇和島市 ちとせ)

すべての子へ温き布団と良き夢を  (東京都 深山むらさき)

「一句目、大谷選手の活躍が目覚ましかった一年でしたね。夏燕の軌跡が、のびやかな打球を感じさせます。二句目から五句目は、ガザやウクライナを思っての作。今回、戦火へ目を向けた句がほかにも多く寄せられました。泉やオリーブ、布団などに、どうか命をつなぐ安らぎを、という祈りがこもっています」

添削

春日の伊予路五年ぶりのサブスリー (松山市 カツさん)

五年ぶりの春日の伊予路サブスリー

✏添削のポイント

「サブスリーとはマラソン用語で、フルマラソンを三時間切りで走ることを指すそうです。上五は字余りしてもわりと許されるんですが、後半のリズムががたがたしているのを整えたいですね。

〈五年ぶりの春日の伊予路サブスリー〉

こうすると、後半の75がリズムを作ってくれます。前後の語順を入れ替えると、しらべがまとまることも多いので、入れ替えて推敲してみてください」

秋の潮友に教わり竿さおを振る (松山市 梶原菫)

〈友に教わり秋潮へ竿を振る〉

✏添削のポイント

「このままでもシンプルにできているのですが、やや単調に情報が並んでいる感じもします。これも語順を入れ替えてみましょう。

〈友に教わり秋潮へ竿を振る〉

俳句は575というけれど、全体で17音くらいでリズムがよければ、わりと自由なんですね。推敲した形は755、入りに勢いが出るので、釣りの竿を振る勢いともリズムが合いそうです」

佳作

鎮魂の花にはあらず向日葵ひまわりよ (宇和島市 木原 恵子)

凍る夜や火のごと赤きネイル塗る (松山市 ちゃんこ)

戦禍の中子等泣き叫ぶ師走まじか (松山市 ゆうゆう)

狼おおかみの眼の中の吾見る吾よ (東京都 迫久鯨)

まぼろしの野戦病院天の川 (今治市 松本 だりあ)

花冷やカバの「まんぷく」転園す (松山市 久保田凡)

あの猛暑生き抜いて来て独り言 (今治市 茜)


https://www.nhk.or.jp/matsuyama/lreport/article/001/84/ 【松山市出身 俳人 神野紗希さんが選ぶ「静けさを生かした俳句」】より

1月の「俳句でポン!」では、兼題『静けさを生かした俳句』に全国から285句寄せられました。松山市出身の俳人神野紗希さん選の俳句を解説とともに紹介していきます。

※愛媛県で平日夕方に放送中の番組「ひめポン!」のコーナー「俳句でポン!」でお伝えした内容を掲載しています。

特選

夫と吾と蜜柑みかん畑の鋏はさみの音

松前町 ゆすらご

この句からわかるポイントは『言葉のいらない豊かな静けさ』です。「静けさ」という言葉は直接ふくまれていませんが、黙々と収穫の作業をする夫婦の姿から、蜜柑山のおおらかな静けさが伝わってきます。夫婦の阿吽の呼吸。静けさは孤独で寂しいだけでなく、言葉がいらないゆたかさを表現してもくれるんですね

番組紹介句(神野さん選10句)

【音を示した5句】

そろばんの冬のしじまに弾はじく音 (松山市 窪田 悠晴)

冬耕の音止みてより峡無言 (宇和島市 佐々木一美)

胎動の音聴く君と冬の月 (西予市 りー)

冬隣新聞めくる音高し (新居浜市 東口あこ)

吾と君で被る毛布や秒針音 (松山市 ちゃんこ)

そろばんの音、冬の山あいで畑を耕す音、おなかの赤ちゃんの胎動の音、新聞をめくる音、二人で被った毛布の中で聞く時計の秒針の音、どれもまわりがうるさかったら聞こえてこないだろう、ささやかな音ですよね。小さなささやかな音を描くことで、それが聞こえるほど静かな空間だということまで伝えられるんですね

【静かな素材を詠んだ5句】

年惜しむひとり教室床を掃き (西条市 丹下 矢武規)

花炭のほのとくづるる朝あしたかな (愛知県 栗田すずさん)

冬霧の水面をすべる鳥の群 (宇和島市 麗)

大口開け待つ鯨オーロラ飲む (宇和島市 くじらボウズ)

つつがなき農業日誌山眠る (松山市 大野玲子)

一句目、年末にひとりで教室を掃除しているのは静かな場面ですね。二句目の花炭とは、松ぼっくりなどをそのまま炭にした美しいもので、この花炭が静けさをまとっています。冬霧の水面やオーロラの鯨など、静けさの中にも躍動が感じられます。静けさを内包している素材を使うことで、静かと言わずとも静けさが表現できるんですね

添削

冬雲に寝かされ残った海の月 (八幡浜市 石地の棘がつらい)

冬の月覆う雲あり海光る

✏添削のポイント

1つめのポイントは、『客観的な描写で伝える』です。雲に寝かされたという擬人化・見立てを入れてしまうと、うまいこと言ったね、という表現のほうが目立ってしまいます。内容をより深く心に届けたい場合は、客観的な描写を心がけましょう。

〈冬の月覆う雲あり海光る〉

「冬の月」から入ったほうが、夜の場面だとすぐイメージしてもらえます。言葉を組み替えながら、しっくりくる表現を探しましょう

ストーブ燃え子らは静かに語り聴く (松山市 ゆうゆう)

ストーブ燃え子らは膝抱き語り聴く

✏添削のポイント

2つめのポイントは『静かさを動作で示す』です。先ほどは素材で静けさを見せましたが、動作を描き出すことで静かさを見せることもできます。「静かに」の部分を、静かにと言わず、どう表現するか。

〈ストーブ燃え子らは膝抱き語り聴く〉

たとえば「膝抱き」とすると、真剣に語りを聞いているのが伝わりますね。動作が物語る情報量はとても多いんです

佳作

恋人よ本を閉じなよ雪催もよい (西条市 メプチン)

夜汽車過ぎすべてが眠る冬の駅 (松山市 直線的)

直感を休めたき夜毛糸編む (西条市 砂山恵子)

冬日射すおやすみの日の保育室 (八幡浜市 紅まどんな)

大晦日みそかナースコールの鳴らぬ夜 (松山市 小藤たみよ)

まっさらのページに祈り初日記 (松山市 小林 リラ)

月煌々こうこう褞袍どてらで読んだトルストイ (松前町 松田夜市)

帰省子の帰り行きたる日の夕餉げ (今治市 和)

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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