現代俳句展望  太田かほり

https://blog.goo.ne.jp/morinokumasan135/e/341990ab917ad4a300227c9985f2afe1/?st=0 【俳句回廊・現代俳句展望より 太田かほりさんの鑑賞文転記】より

 足の指独楽紐編みし憶えあり 菅原 鬨也

 足の親指に糸を引っかけて引っかけた指の力を借りて仕事をする。両手と足指が綱引きしながら紐を編んでいく。農事などに使う紐類も手っ取り早くそうして編んでいたものだ。

囲炉裏端の夜なべ仕事だった。子供達は見様見真似で遊びに必要な紐を作ったものだ。独楽は男児の勇ましい遊びだった。

力技だけでなく、こつや作戦などが効く遊びだ。しかも個人戦である。勝敗がはっきりしている。勝ち独楽になるためには周到に用意した道具がいる。道具といっても単純な紐があればよいのだが、子供の心には紐の長短や太い細いも勝負を左右する大事なものに思えた。独楽とセットになっていた紐が役に立たなくなったか、なくしたか、又は別のものを作ってやろうという意欲故か、自分で紐を編むことになったのだ。

十指では足りず、口も動員し、口で抑えるのでは心もとなくて、足指の出番となる。足の指は強い。強いし、便利だし、役に立つ。自分の身体の構造と柔軟性と自在にできる姿勢によって、肉体がそのまま編み機になるという驚きが、大人への入り口になる。ぐいと力を入れて堅く編み上げていく。紐に限らず用途に合ったものが五万とある世の中、その手加減が、必要でもなく、忘れもした今頃、ふいに思い出される。

身体が覚えている作り方やコツやちょっとした技術、そんなことをしたという記憶が独楽を回した遊び以上に懐かしくよみがえってくる。ささやかな、原始的な、それだから貴重な人間の知恵が受け継がれない淋しさが、やがてじわりと込み上げてくる。


https://masakokusa.exblog.jp/32451427/ 【現代俳句展望  太田かほり】 

  相撲部屋三つまでよぎる着ぶくれて      草深昌子

  着ぶくれて道あれば行く楽しさよ

  芋嵐雲の形の変はりけり           二村結季

  わが畑へ誰か来てゐる野分あと

 「青草」2021年春季号より

  一句目。

看板が掛かっていたか、長い布が干されていたか。相撲部屋が三つともなると興奮しただろう。こんな所もあるものだと偶然に迷い込んだ土地柄に興味が湧く。といってそれ以上の行動はしなかっただろう。

この句の面白さは自分が着膨れていると描写した点にある。力士の大きな体躯との類似性という解釈ではない。

上五中七の描写と下五とのかかわりはあるといえばあるようだがないといえばなく、むしろ後者としたい。

冬でも裸で稽古に励む力士には着膨れは無縁だろう。つまり相撲部屋にも相撲にも縁のない自分が肉体の原型を隠す風体で鋼の肉体を誇る力士たちの町を歩いているという微妙な可笑しさを詠んだのだ。

  二句目。

ウオーキングやジョギングはノルマや目的を達成する楽しみがあるが、何となく道があるので行き、そのこと自体が楽しいと感じている。こんな人っていいな、道連れになりたいな。そう思わせるのだからこの句は成功、季語が人物証明書のように働いている。

  三句目。

 芋の葉の形は何とも面白い。伸びた茎の天辺に馬面のような葉を広げ、雨滴などが溜れば右に左に首を傾げて踊り出す。大振りな葉は強風に吹かれると一枚の田んぼごと大揺れに揺れる。台風の頃かもしれない。「変はりけり」に変化の兆しを認めたか、余波は収まらないが雲行きから嵐の通過を確認したのだ。

  四句目。

台風の通過を待って一番に田畑を見回るのだが、自分より先にもう人が来ている。もちろん顔見知り、被害が大きいこともあれば免れることもあり、良きにつけ悪しきにつけ、情報を交換し合う。

句がもたらす最小の情報から地域で育まれているヒューマンな雰囲気が引き出されている。

ふと、後ろ手に歩く宮沢賢治のシルエットが浮かんできた。

(令和3年10月号「浮野」所収)


https://www.enkan.jp/homura/201909/ 【炎環の軸】より抜粋

結社誌「浮野」(落合水尾主宰)9月号の「現代俳句展望」(太田かほり氏)が、《中世を見し鬼瓦雁渡る 竹市漣》を取り上げ、〈「中世」そのはるかな昔から今日までの長い歳月を、とある寺の鬼瓦が大きく目を見開き、瞬き一つせず、見守り続けてきた。渡鳥もまた長い歳月を死に変り生れ変りしながら繰り返しこの地を訪れてきた。不動の鬼瓦と渡鳥にドラマと歴史がある。飛びゆく雁の美しさ、しみじみとしたあわれ、季語がこの一句の中に大きく働いている〉と鑑賞。句は句集『落慶』より。

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