https://botanical-garden-city-fukuoka.blogspot.com/2016/12/20161208.html 【”榠樝(かりん)の実我が青春のあばた貌(がお)”俳句の展示を入れ替えました。】より
野草園の休憩所内に展示している俳句作品を入れ替えました。今回展示した句の中から、いくつかご紹介します。
カリン(榠樝)の句が集まりました。
“榠樝の実我が青春のあばた貌” 波田 てつお (かりんのみわがせいしゅんのあばたがお)
“不器用な我に似てをり榠樝の実” 武藤 典子 (ぶきようなわれににておりかりんのみ)
“枝に生る向きのきままな榠樝の実” 大長 清子 (えだになるむきのきままなかりんのみ)
“クリスマスツリーの如し榠樝の実” 柳井 扶美子 (クリスマスツリーのごとしかりんのみ)
カリンはバラ科の落葉樹です。
毎年秋から冬にかけて10~15㎝ほどの大きな果実がなります。その大きさは、当園の野外植物の中では一二を争います。今年は、当園のカリンも当たり年だったようです。
葉が落ちた枝に大きな実がたくさん下がっている姿は、”クリスマスツリー”のようでもあり、存在感があります。
カリンの実には芳香があります。そのため、カリン酒やシロップ漬けなどを楽しむ方も多くいらっしゃいます。漬けてからすぐはエグ味や苦味がありますが、年が経つとまろやかになると言われます。
句に詠まれている“青春のあばた貌(かお)”のようなゴツゴツとした実も、“向きの気ままな”実たちも、“不器用な”実も、年を重ねて丸くまろやかになり、良い味を出されているものと想像します。
別の句にあるように、まさに、“個性とは育てゆくもの青榠樝” 西 美知子(こせいとはそだてゆくもあおかりん)のようです。
どんぐりの句が二句ありました。
“踏み処なきかに木の実木の実かな” 弓山 紀代子(ふみどころなきかにこのみこのみかな)
“どんぐりや坂道ころころどこへ行く” 長倉 忍(どんぐりやさかみちころころどこへいく)
どんぐりのなる木のうち、植物園内に多いのは、コナラ、アラカシです。
毎年、たくさんのどんぐりを園路に落とします。
少し珍しいものでは、アベマキ、イギリスナラなどのどんぐりもあります。
どんぐりはいつの時代でも子どもたちの宝物です。
大人になった今でも、たくさんのどんぐりが落ちている所を通る時などは、思わず拾いたくなる。そんな気持ちを抑えつつ、せめて踏みつぶさないようにと、注意深く歩く・・・。
子どもの頃の感性を大人になった今でも持ち続けていらっしゃる句の作者の方々に共感します。
《園内のコナラの木は黄葉まっさかりです。》
《秋に落ちたコナラの実は、もう根が地中に伸び始めています。》
*この展示は、植物園で句会を開かれている「植物句会」松尾康乃主宰のご協力のもとに展示しており、約1か月おきに入れ替えを行っています。
https://ameblo.jp/masanori819/entry-12707368245.html 【2021.11.1 一日一季語 榠樝の実(かりんのみ《くわりんのみ》) 【秋―植物―晩秋】】より
2021.11.1 一日一季語 榠樝の実(かりんのみ《くわりんのみ》) 【秋―植物―晩秋】
榠櫨の実落ちて地球を重くせり 阿部輝子
榠樝の実の固さ、重さを感じられる一句。
カリンの果実はリンゴ酸やクエン酸などが豊富で、良い香りがします。しかし熟した果実は一見美味しそうに見えますが、果物といっても酸味や渋みが強く、生食できません。近所の庭木にあり、実をつけているのを見たことがありますが、高い所に実っていて、熟した実が落ちているのをみかけます。
【傍題季語】
花梨の実(かりんのみ《くわりんのみ》)
【季語の説明】
榠樝は中国原産のバラ科の落葉高木。握り拳大の楕円形の実をつけます。咳止めの効能がある。のど飴、カリン酒などに利用される。
肉中に石細胞(せきさいぼう)が多く含まれているので硬く、味もとても渋いので生食には適さない。生食もできないうえに毒性もあるので蜂蜜漬け、アルコール漬けでの加工が必須。
【例句】
くわりんの実越え来し山の風のいろ 原裕
指さされ落ちさうもなき榠樝の実 山尾玉藻
不屈なる子規の横顔榠樝の実 市原久義
ごつごつと光の触るる榠樝の実 坪井信子
呼ばれしや肩先かたきかりんの実 草村素子
【マルメロ】
カリンとよく似た植物に「マルメロ」があります。
マルメロはバラ科マルメロ属で、別名は「セイヨウカリン」といいますが、カリンとは別の植物で西洋原産でもありません(ペルシャ地方など中央アジア原産らしい)。
長野県などでカリン同様に栽培されていて、地方によってはマルメロの事をカリンと呼ぶ場合もあるようですが、最近では別の植物としてカリンとマルメロを区別するようになってきています。
カリンは表面がツルツルしているのに対して、マルメロは産毛が生えているので手触りですぐに見分けることができます。
カリン同様に芳香が強く、果実は硬く生食に向かないので加工して食べられています。
http://kakko-kakko.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-1ed1.html 【榠樝(かりん)の実】より
めいめいに歪(いびつ)なりけり榠樝の実 括弧
玄関の脇に植えてある榠樝の木については何度か書いたことがあるような気がする。面倒だからというだけの理由で鉢に寄せ植えして放置したものが、そのまま地下に根をのばして一本の榠樝の木になってしまったもので、そうなってしまった後、この場所に植え込んでから30年は経つ。毎年実を付けるが、葉が落ちきる前に実もぼろぼろ落ちて、最後まで残って冬日の中に黄に輝くのは、年によって違うが、1~10個である。毎日落ちてくるものを1っ箇所に纏めて置く。それらをあらためて観察すると、それらの形が個性的なことに感心する。林檎や梨などのようにほぼまん丸ということはない。はっきり歪なのである。またその「歪さ?」加減に個体差も大きいのである。
我が散歩道でも、畑の片隅などに植えられた榠樝の木によく出くわす。榠樝畑まで存在するから、実を収穫してどこかへ販売しているのかも知れないが、「一体何処へ?」と思う。我が地域で榠樝を原料とする品物が生産されているとは聞かないから、信州あたりへ販売していて、それからできた榠樝羊羹を信州土産として買ってくるなどという「循環」でも成立しているのだろうか。喉の薬の原料の一部として製薬会社が買うのかもしれない。わたしには別にどうでもよいことなのだが
https://www.longtail.co.jp/~fmmitaka/cgi-bin/g_disp.cgi?ids=20101009,20110913&tit=%83J%83%8A%83%93&tit2=%8BG%8C%EA%82%AA%83J%83%8A%83%93%82%CC 【季語がカリンの句】より
校庭のカリン泥棒にげてゆく
久留島梓
大きくて香りの高いカリン(榠と木偏に虎頭に且)だけれど、生の実は固く渋い。薬にもなるというが、食べようと思えば、果実酒にしたり砂糖漬けにしたりと手間がかかる。そんなカリンの実、たわわに実ったうちのいくつかをもいで持っていったところでさして咎められることもなかろうに、泥棒という言葉が与えるスタコラサッサ感が、カリンのやたらにいびつな形と共にユーモラスだ。待て~と追いかけることもなく、その後ろ姿を作者と共に見送りながら、思いきり伸びをして青空に向かって両腕を突き出したくなる。「教師生活三年目をなんとか終え」とある作者の二十句をしめくくっている一句は〈テストなど忘れてしまえ春近し〉上智句会句集「すはゑ(漢字で木偏に若)」(2010年第8号)所載。(今井肖子)
青空やぽかんぽかんとカリンの実
沼田真知栖
掲載句のカリンは漢字。カリンもパソコン表示できない悩ましいもの。か(榠)はあっても、りん(木偏に虎頭に且)がない。りんごや梨のように枝から垂れるように実るというより、唐突な感じで屹立する。この意表をついた実りかたをなんと表現したらよいか、まさに掲句の「ぽかん」がぴったりなのだ。カリンの果実はとても固くて渋いので、生食することはできない。部屋に置いても長い期間痛むことなく、なんともいえない豊潤な香りを漂わせてくれるので、どこに落ちていても必ず持ち帰ることにしている。姿かたちもごく近しいマルメロはバラ科マルメロ属、カリンはバラ科ボケ属とわずかに異なる。サキの小説に『マルメロの木』というユーモア短編がある。愛すべき老婦人の庭の隅にある一本の「とても見事なマルメロの木」のために起きる小さな町の大騒動を描いたものだ。これもぽかんぽかんと実るマルメロがじつによい味を出している。〈小鳥くるチェロの形のチェロケース〉〈さはやかや橋全長を見渡して〉『光の渦』(2011)所収。(土肥あき子)
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