多羅葉(タラヨウ)

https://sakata-tsushin.com/yomimono/rensai/standard/eastasiaplants/20190108_007741.html 【多羅葉(タラヨウ)[前編]】より

遠く雲南省の地に始まり、日本列島の中南部に終わる照葉樹林帯は、東アジアの地を覆う木々たちの森です。ヤブツバキ、サザンカなどのツバキ科、タブノキ、カゴノキ、シロダモなどのクスノキ科、モチノキ科などなど。どれも常緑の照葉樹です。そこに自生する針葉樹のカヤやナギなども照葉になっています。2019年初めの「東アジア植物記」は照葉樹を特徴づけるクチクラ層(Cuticula layer)の話題からです。

新しい年がやってきました。2014年に始まった連載も6年目です。「よく話題が尽きませんね」と言われますが、「東アジアの植物記」の底は私には見えません。皆さんが今年も「東アジア植物記」を楽しんでいただけるとうれしいです。今年もよろしくお願いします。

さて、私が手に持っているのはタラヨウという植物の葉です。この葉はとても肉厚で硬く頑丈にできていて、人が作った造花の葉のように見えます。長さは15㎝ほどありくぎなどで葉の裏側に字が書けるので、「葉書(はがき)の木」ともいわれ郵便局の木とされています。

照葉樹の一つであるタラヨウの葉は、ツヤツヤしていて葉の表面はクチクラ層が特によく発達しています。このクチクラ皮膜だけを取り出して観察してみたいと思います。どのようにすればいいのでしょうか?

まず、10パーセントの水酸化ナトリウム溶液を作り、葉を浸し2時間ほど鍋で煮ます。とても強いアルカリ性なので危険な作業です。十分注意します。水酸化ナトリウムは肌に付くと皮膚が溶けます。目に飛沫が入らないようにメガネをします。よい子は絶対にマネしないようにしましょう。

2時間ほど煮ると葉が褐色になり柔らかくなりました。水で葉の表面と内部に染みている水酸化ナトリウムをよく洗い流します。お酢(酸)につけて中和する場合もあります。この状態では比較的アルカリに強いクチクラ層とセルロースは健在ですが葉肉は溶解した状態です。

手で葉をもむとクチクラ皮膜が剥がれてきました。葉を水にさらすのが不十分だと手の皮膚が溶けるので注意が必要です。

クチクラ層は細胞ではありません。表皮細胞が分泌した膜なのです。歯ブラシでクチクラ皮膜に付いている葉肉細胞の残骸をクリーニングすると、葉の表に1枚、裏に1枚ずつクチクラ皮膜だけを取り出せるのです。植物は光合成でブドウ糖( C6H12O6 )をつくります。それはさまざまな有機物合成の出発点なのです。ブドウ糖を修飾してセルロースやさまざまな有機化合物をつくり出すのです。クチクラ層の皮膜はそうした炭化水素からつくられるクチンなどの重合体(ポリマー)でできています。

生命が誕生する上で膜が決定的に重要でした。膜がなければ外部と区別ができずに、細胞も存在できなかったと思われます。自らを外部から独立させることによって生命に進化したのです。植物はクチクラ皮膜によって雨水などが勝手に体内に入らないように、そして体内液が外部に漏れないようにしています。しかし、その被膜は透明である必要がありました。光合成するためには光粒子の透過が必要条件だからです。植物のクチクラ皮膜は透明であり、酸やアルカリに、病害虫に耐性があるビニールのようなものだと思われます。

クチクラ皮膜を取った後、丁寧に葉肉細胞を歯ブラシでクリーニングするとセルロースでできた導管と師管が残ります。左は、タラヨウの導管と師管が一体となったもの、右の写真は導管と師管を分けたものです。水の中で生まれた植物のご先祖様は、外部を水に満たされて生活していました。陸に上陸した植物たちは内部を水で満たすために根から水を吸い上げ循環させるために導管を作りました。そして光合成でできた栄養素を水に溶かし体中に運ぶ師管も発達させました。導管と師管は別の組織であり、それぞれ植物体を水で満たすとともに栄養素を循環させる役割を持つものです。

タラヨウは、丈夫な葉の構造からいろいろな実験に使用することができます。導管と師管の位置関係は、葉では上に導管が下には師管があります。写真の左側は、タラヨウの師管だけを取り出したもの。右側は導管と師管が一緒になったものです。私がやった実験では、理由は不明ながら、タラヨウの葉はいつも主脈から導管だけが半分ずつに分かれるのです。面白いですね。

オット!タラヨウの葉についてのお話だけで前編が終わってしまいました。後編ではタラヨウという植物について語りたいと思います。

https://sakata-tsushin.com/yomimono/rensai/standard/eastasiaplants/20190115_007744.html?pageNum=1

【多羅葉(タラヨウ)[後編]】

タラヨウは漢字で多羅葉と書きますが中国語では大叶冬青( Dà yè dōngqīng )といいます。多羅葉の名は中国語の由来ではなく日本で作られたことが分かります。そしてその韻はなぜか不思議と文化的背景を感じさせます。多羅葉という名前を語るには、少し説明がいります。それは、言葉を書き写し残すために生まれた紙という記録媒体についてです。世界の板紙需要は4億トンほど。ペーパーレス化が叫ばれるなかでも紙の需要は増えています。文明文化が進めば、より複雑化した事柄をさまざまに書き残し伝える必要があり、半永久的な外部記憶媒体としての紙の役割はますます重要になる気がします。偉大な紙という筆記記録媒体を発明したのは東アジアの中国文明で紀元前150年ごろと推定されています。

紙が発明され普及するまでは、言葉を写し伝える媒体は限定されていました。古くは石碑や粘土板。中国では木簡や竹簡が、ヨーロッパでは羊皮紙が使われ、インドではヤシの葉に文字が刻まれました。お釈迦様の教えを刻んだヤシの葉を取ることができる植物をサンスクリット語で pattraといい、音写してターラ樹 と呼んだのです。多羅葉はターラ(多羅)樹と同じように葉に文字が書けるので多羅葉と名付けられたのです。

タラヨウ(多羅葉)Ilex latifolia(イレックス ラティフォリア)モチノキ科モチノキ属。種形容語のlatifoliaとは幅広の葉を意味します。タラヨウは円錐形(えんすいけい)をした樹形をしていて、長さ15~20cmもある長楕円(だえん)形葉を持ち、縁に小さな鋸歯があります。肉厚な葉の裏側に字が書けることから「葉書(はがき)の木」といわれることは前編で述べました。

タラヨウは4~5月に前年に伸びた枝の葉腋(ようえき)からすてきなジェードカラー(ひすい色)の小花を咲かせます。

タラヨウは雌雄異株なので雌木にだけ実を付けます。夏になると実も8mm程度に膨らんできます。

秋になるとタラヨウの実は他のモチノキ科の植物同様に赤く色づきます。苦いので人間は食べませんがムクドリなどの鳥が食べます。鳥たちは結構味音痴なのだと思います。

タラヨウの世界的自然分布の北限は、静岡県といわれています。これより西南に生え、日本では本州、四国、九州に原生します。タラヨウは、その他中国大陸の長江以南の福建省、広東省、雲南省、浙江省などに原生する東アジア的植物です。

タラヨウは温暖で夏に降水量の多い照葉樹林帯に点在する木ですが、自然に生えている自生株を見つけるのは意外と難しいと思われます。なぜならば、人の開発によって豊かな照葉樹林の多くが失われてしまったからです。今、大規模で自然な照葉樹林は、神仏に守られた森である鎮守の森に存在する場合が多いです。

今、自然な照葉樹林は、森林面積の1パーセントに満たないと推定されています。写真は、そんな貴重な森が多く残っている香川県の金比羅山の社寺林です。ここでは、カゴノキなど暖地の木に混ざってタラヨウを見ることができました。

金比羅山の鎮守の森に生えるタラヨウの古木です。タラヨウは成長が遅くゆっくりと時を刻みます。その代わり組織をしっかりつくり、円錐形(えんすいけい)の樹形が美しい高木です。庭に植えた場合、自然と形になるので剪定は必要ありません。

こちらもタラヨウの古木です。幹が太く直立する姿はなぜか神々しく不思議な余韻を感じさせます。タラヨウは暖地の木です。前に述べたように静岡県以西に原生しますが、関東地方にも植栽され公園などでも見ることができます。

照葉樹はどれも同じように見えるかもしれません。しかし判別が付くようになるとユニークで独特な彼らの存在に木(気)が付くはずです。自然の中でのタラヨウはどの木も光り輝いていました。

公園に植えられたタラヨウにすてきな葉書が残されていました。その字を見ていたら、若者たちの純粋で真剣な生き様が見えてきて胸が熱くなりました。どの若者たちも幸せになってほしい、そのように願うばかりです。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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