https://eumag.jp/spotlight/e0712/ 【俳句が結ぶ日本とEU】より
日本語だけのものでなくなった俳句
外国語で俳句を詠むと聞くと、5-7-5の17音節や季語はどうなるのか、そもそも外国語で俳句など作れるのか、と疑問を抱く人も多いだろう。だが、そんな疑問がほとんど意味をなさないほどに、俳句は「Haiku」として世界中で親しまれている。
英語俳句を中心に普及している外国語俳句だが、その解釈や定義には幅がある。季語を入れるべきだと考える人、季節感は各国・地域により違うし、季節がない地域もあるので共通の季語は不要と考える人など、多様だ。また、5-7-5に準じて作る人もいれば、形式は自由に作る人もいる。
いずれにせよ、俳句は短詩のジャンルのひとつとして世界的な広がりを見せている。米英を中心に英語俳句があり、アジアや欧州には諸言語で俳句を作る人がいる。日本でも朝日新聞が英語俳句の紙面を提供し、毎日新聞が英語やフランス語俳句のコンテストを主催している。ジャパンタイムスの「週刊ST」は英語学習サイトで毎週、日本の季節感に関する英語の語彙を定めて英語俳句を募集し、優秀作を紙面で紹介している。日本国内にも英語俳句コンテストを実施する大学や授業に取り入れている大学や高校がある。
詩人ヴァンロンプイと俳句
欧州理事会のヘルマン・ヴァンロンプイ常任議長は、句集『Haiku』(※1)を出版するほどの俳句愛好家である。議長はなぜ俳句に魅せられたのだろうか。本年4月19日、ブリュッセルの欧州連合(EU)日本政府代表部に松山市の観光俳句ポストを設置する記念式典の席上、自身と俳句との邂逅について次のとおり語っている(※2)。
「2004年の夏、俳句との邂逅がありました。[……]俳句は私の性格に合っています。私は自然や季節が好きです。科学者や生態学者としてではなく、美意識がそう仕向けるのです。なるべく少ない単語で自分を明快に表現する簡潔さも好みます。それは私を育んだラテン語の伝統に通じるものです。また、驚きや一見矛盾した見方で物事をとらえる逆説的な表現を好みます。[……]
俳句には私が愛してやまないもうひとつの側面があります。複雑で皮肉に満ちた現代世界に単純さを見出し、競争や抗争と嫉妬に満ちた世間に調和を発見する点です。俳句と出会うはるか以前に、私はこういった生き方を身に着けていました。俳句との出会いはいわば、そんな行動と考え方に王冠を戴いたようなものです。必然だったとも言えるでしょう。俳句の方から近づいてきたのではなく、私が俳句を求めて向かっていったのです」
ヴァンロンプイ議長は政治の舞台でも、俳句を詠んで場をなごませることがある。2011年5月28日、ブリュッセルで開催された日・EU定期首脳協議「絆サミット」の記者会見で、同議長は東日本大震災に見舞われた日本に思いを馳せて次の句を詠んだ。
The three disasters. (三つの災害があった)
Storms turn into a soft wind. (嵐は柔らかな風になり)
A new, humane wind. (新しい、優しい風になった)
(嵐去り後に残るは優しき心――菅直人前首相訳)
日本とEUで行う英語俳句のコンテスト
2010年4月、日本と欧州連合(EU)の定期首脳協議に出席するため、ヴァンロンプイ議長の同職就任後初の来日を記念して、日本の外務省とEUが「日EU英語俳句コンテスト」を主催した。開催に際し、近代俳句の創始者・正岡子規(1867-1902)を生んだ愛媛県松山市が後援に加わり、最優秀賞受賞者1名を松山市が受け入れることになった。
コンテストは3行書きを定型とし、季語の代わりにテーマを設定している。第1回はJapan and the EU relations(日EU関係)、第2回はKizuna – bonds of friendship(絆)、本年の第3回はDawn(曙)だ。日本国内かEU加盟国とクロアチア(2013年加盟予定)内に居住する日本国籍またはEU加盟国およびクロアチアの国籍を有する人であれば、誰でも参加できる。
2011年の第2回コンテストから、日本国内とEU域内それぞれ1句ずつ計2件の最優秀賞を選ぶことになり、EU側1名を愛媛県の道後温泉に招待、日本側1名をベルギーに招待している。過去2回のコンテストには日本から316名、EUから571名、延べ887名が応募した。応募者間の交流を図るべく、フェイスブックにコンテストのファンページも開設している。(※3)
ヨーロッパで学ぶ俳句の普遍性
第2回日EU英語俳句コンテストで日本側最優秀賞を獲得した大湯俊介さんは当時大学4年生だった。2009年のG8ユースサミットにも参加した国際派だ。現在は、趣味で絵を描いたり、焼き物や人形を作ったりする知人・友人の作品をウェブ上で紹介し、社会に広く認めてもらうための事業を企画運営している。
「コンテストのことは外務省のサイトで偶然知りました。特に俳句に興味があったわけではありませんが、欧州と英語俳句という組み合わせが面白かったので、応募しました。パッと句がひらめいて、10分ほどで応募作ができたんです」
コンテストの副賞でベルギーを訪れた大湯さん(2011年9月22日、ブルージュ)©Copyright 1998-2012 Delegation of the European Union to Japan.
Delightful moment / learning how to say thank you / in dozens of languages
これが応募作だ(楽しきかな多言語で言う「ありがとう」――編集部訳)。ベルギーを訪ねたときのことを振り返って、大湯さんは次のように語る。
「2011年9月、最優秀賞の副賞でベルギーに招待されました。出会った俳句関係者の多くは高齢でしたが、欧州の俳句人口の多さに驚き、俳句という表現形式のもつ多面性と普遍性をまざまざと見せつけられました。外国に住む彼らの方が日本の伝統文化について多くのことを知っているのは、新鮮な驚きでした。短い期間でしたが、強烈な体験でしたね。どこかで今の仕事につながっているように思います」
ブリュッセルに俳句ポスト設置
1968年以来、松山市は観光俳句ポストを設置しており、その数は同市内を中心に日本国内101カ所に及んでいる。年間の投函数は約12,000件だ。日本語のほか英語や中国語、韓国語でも受け付け、2カ月ごとに選句して、地元の愛媛新聞紙上で発表している。海外初の俳句ポストはブリュッセルの駐EU日本政府代表部の建物入り口に置かれている。松山市は今後EU域内の他の場所にも設置し、英語俳句コンテストの拡大にもつなげたいとしている。
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