Facebook清水 友邦さん投稿記事·
今朝八幡平でクマと出会いましたがなんとクマと遭遇した今日は星野道夫の命日8月8日でした。去年もちょうど8月8日にクマに出会ってます。不思議なめぐり合わせです。
以下星野道夫についての昔の文章です。
テディベアのぬいぐるみやクマのプーさんを可愛いと言います。
しかし、現実のクマは一撃で人を倒す事ができて、人を食べることもあります。
実際、日本でもクマによる人身事故は後をたちません。
写真家の星野道夫は「満員電車に揺られながら学校に向かう途中ヒグマが気になった。自分が生きている同じ国で、ヒグマが同時に生きていることが不思議でならなかった。」と少年の頃からヒグマに思いを寄せていました。
星野道夫はカムチャツカでそのヒグマに襲われ命を落としたのです。
星野道夫の死
事故は、TBSの「どうぶつ奇想天外」というテレビ番組撮影のため、三週間の予定で赴いたカムチャツカのクロノッキー自然保護区に介在する、クリル湖畔のグラシー・ケープという所で起こりました。
クリル湖畔は、世界有数のヒグマ高密度地帯といわれています。この地域では、以前にも人身事故が起こっていました。星野の一行についていたロシア人兄弟ガイドの兄の方も数回襲われかかりましたが、いずれも日中の突然の出会いによるものでした。
以下「ベア・アタックス」(北海道大学図書刊行会)より引用
一行は、星野氏、TBS取材班三人、ロシア人兄弟ガイドニ人の六人。一九九六年七月二十五日彼らは現地入りした。そのとき、ガイドがキャビンにクマが侵入して肉の缶詰とコンデンスミルクが食われているのに気づいている。
小さなキャビンに星野氏を除く五人が泊まり、星野氏はそこから十メートルほど離れた所にテントを設営したという。
七月二十七日、アラスカから別の写真家がやってきた。そのとき、彼はキャビンの外壁にクマの爪跡があるのを見つけた。キャビンが満員なので、彼は星野氏のテントから四メートル離れた所に設営した。
彼が寝てから六時間後、大きな金属音で目覚めた。見ると、十ニメートルほど離れた食料庫の金属板の屋根の上でクマが跳びはねていた。彼は大声をあげ手を叩いた。クマは一瞬跳ぶのを止め、彼の方をむいた。尚も大声をあげると、クマはゆっくり屋根を下り、星野氏のテントの後方に回り込むように歩いた。そのときテントから頭を出した星野氏に、「あなたのテントから三メートル後ろにクマがいるよ。」「どこに?」と星野氏。「すぐそこ、ガイドを呼ぼうか」と写真家。「うん呼んで」と星野氏。写真家は「クマがいる」と叫びながら鍵のかかったキャビンのドアを叩いた。ガイドは、クマ除けスプレーをもって出てきた。クマは三百キロ前後はありそう。額には特徴ある赤い傷があった。三人は大声をあげ、鍋を叩き鳴らしてクマを追いはらおうとした。クマは三人を無視する様子だった。
ガイドはついに七~八メートルの所からスプレーを噴射した。写真家が見たところでは、スプレーはクマの手前で地面に落ちたようだ。クマは立ち止まり、地面の匂いを嗅ぐと、そのまま三人を無視し続けた。ガイドはスプレーの届く所に行こうと、三十分あまりイタチゴツコをした。クマはやっと立ち去った。クマはその後五、六度キャンプにやってきた。
こうした経緯が何度かあり、ガイドは星野氏に考えを変え、キャビンで寝るように頼んだ。しかし星野氏は、今までどおりテントで寝るほうを選んだ。一方、現地に来たその日、恐怖の夜を過ごした
写真家は、翌日五百メートル離れた、サケ観察タワーに居を変えた。七月二十九日、ペトロパブロフスクからローカルテレビ局の経営者がヘリでやってきた。彼が、額に赤い傷のある雄と思われるクマが、フライパンのようなものから物を食べるのを、ビデオカメラで撮影してるのを、写真家とキャンプにいたほとんどが見ているという。この巨グマは、食料をねらってヘリの窓を破ったという。
八月一日の夜、ツアーで訪れた環境保護団体のグループが、同じキャンプに設営した。このとき、例のクマと思われるのが、誰かのクツをくわえ去ったという。この日、サケ観察タワーに泊まっていた写真家が小旅行に出たあと、環境保護団体の一入が、そこに泊まった。このときは、一晩中巨グマがタワーによじ登ろうとしたり、柱に体をこすりつけたりして眠れなかったそうである。
八月六日夜、星野氏のテント近くを巨大グマが動き回った。その都度ガイド兄弟はスプレーを使ってクマを追いやらねばならなかった。ガイドは、星野氏にキャビンで寝るよう強くすすめたが、夏でもあったし、彼は屋内で寝ることになれていなかったという。
八月七日、写真家は巨大グマが、タワー近くの川で、群れをなして遡るサケを獲ろうとしたり食っているのをタワーの上から見ている。
八月八日午前四時少し前、取材班の杉山氏が、「テント ! ベアー ! テント !」と叫ぶ声に、ガイドが目を覚ました。そのときの様子を、彼は次のように語っている。「二秒ほどで私と弟、それに取材班全員がキャビンの外に出ると、道夫の叫び声とクマの喰り声が聞こえた。外は真っ暗で、懐中電灯でテントのあたりを照らすと、テントは壊されていた。それから十メートルほどの草むらのなかにクマの背中が見えた。すぐにわれわれは大声をあげたが、クマは頭を上げもしなかった。私はシャベルと金属の腕木を見つけて、クマから三~五メートルくらいのところでガンガン叩いた。クマは一度ちょっとだけ頭を上げたが、それから道夫の身体をくわえたまま暗闇の中に姿を消した。」クマは動かなくなった星野氏の体を引きずって四百~五百メートル先の林の中に入っていった。途中、ある場所で、クマは身体の一部を食べ始めた。自然保護区の規則で、キャンプに銃はなかった。
ガイド兄弟は、ほかの日本人の安全を守ることはできたが、銃もなく、星野氏はすでに死んでいることを考え、クマを追跡しなかった。ほどなく、ガイド兄弟は無線で助けを呼ぶことができた。昼頃、特殊部隊の隊員一人、プロハンター一人、ほか数入を乗せたヘリが到着した。やがて兄のガイドを乗せたヘリは、追跡を開始、頭上七~十メートルでホバリングしながら銃撃、クマは倒れたが再び逃げた、更に追跡して銃撃、また倒れたので、ヘリは着地した。更にとどめを撃った。
(以上 引用文献 「ベア・アタックス」 S.ヘレロ 北海道大学図書刊行会)
死によって 、星野道夫が出演する予定だった地球交響曲第三番は星野道夫の足跡をたどる追悼の映画となりました。
星野は「まだクマに人間が殺されるような自然が残っていることにほっとする」
「真の野生は、人間を敵視するものではなく、心を開いて接すればクマは恐ろしい動物ではない、アラスカのクマはおとなしい」と生前、語っていました。
アラスカを旅するなかでアメリカ先住民クマ族と出会い、イニシエーションを受けクマの神話に出て来る名前「カーツ」をあたえられ星野道夫はその神話世界に入っていったのです。
「木も、岩も、風さえも、魂をもって、じっと人間を見据えている。ぼくは、まるでひとつの生命体のような森の中で、いつか聞いた、インディアンの神話の一節を、ふと思い出していた。」(「ノーザンライツ」新潮社)
「われわれは、みな、大地の一部。おまえがいのちのために祈ったとき、おまえはナヌーク(シロクマ)になり、ナヌークは人間になる。いつの日か、わたしたちは、氷の世界で出会うだろう。そのとき、おまえがいのちを落としても、わたしがいのちを落としても、どちらでもよいのだ。」(「ナヌークの贈りもの」星野道夫 小学館 )
クマに襲われる現代人の解釈
星野道夫がクマに襲われたことに対しての現代人の解釈は
「正常な野生のクマに安心して、人間になれた異常なクマに油断した。」(野生動物研究家 木村盛武)
「クマの中には人を襲うものもいることを自覚し、そういうクマが襲ってくる場合のことを想定し武器を携帯すべきであった」(動物学者 門崎允昭)
「クマスプレーは役にたたないこともある。その事故は避けられたはずだ。星野道夫の死は痛ましい。野生動物には注意が必要だ。」
しかし、これだけの話だけでは星野道夫の精神世界はすっぽりと抜け落ちてしまいます。
「クマは人間を襲う恐ろしい動物である。共存ということは奇麗ごとで人間が生きる為には森を伐採しクマは殺さねばならない。」という現代社会と目に見えない精霊とともに生きる先住民の神話世界、この二つの世界を星野道夫は旅をしたのです。
先住民族の精霊文化
世界の先住民族には音楽や踊り、断食、薬用植物を使用して日常意識を超えた変成意識、トランス状態に入り、精霊と交流するイニシエーションの文化があります。近代の合理主義が否定して来たシャーマニズムが先住民の文化には残されています。
多くの狩猟部族ではクマを動物世界のシャーマンとみなしていました。
クマは雑食で人間と同じものを食べます。
クマの食べ物の80パーセントは植物です。
時には2本足で歩き、皮をはがれたクマは人間そっくりです。
クマは冬になると姿を消し、春になると姿をあらわします。
クマは死と再生、癒しの儀礼に関わっていました。
科学的合理主義の時代になると森林が伐採され森に生息していた獣は姿を消していきました。科学でとらえられない精霊は迷信として退けられ、イニシエーションは途絶えました。
自然の智慧を体験する聖なる場所は今も破壊され続けています。
現代人は魂が帰る場所を失ったように見えます。
故郷を見失い不安の中でいたずらにさまよってばかりです。
アメリカ先住民には自然界の英知を学ぶシャーマンのイニシエーションがあります。
手つかずの自然の中に入り力に満ちた聖なる場所で冬眠にはいるクマのように長期間断食して死と再生の体験をします。トランス状態の中でクマは精霊として現れます。
聖なる場所で智慧と癒しの力を授けクマはシャーマンの守護霊となりました。
アメリカ先住民の間ではクマは最も強い守護霊です。
ラコタ族のブラックエルクは自分の癒しの力はクマから授かったものだと語っていました。
ラコタ族の偉大なる精霊ワカンタンカは熊の姿に化身して姿を現すといわれています。夢の中でクマと出会った者は偉大なメディスンマン(呪医)になりました。
クマ狩りの儀礼
アイヌ民族にはクマ狩りの儀礼で有名なイオマンテがあります。春先に冬ごもりの穴から連れ帰った仔熊を、1〜2年飼育した後に盛大な儀礼とともに殺害し、その霊を神の国に送り返すのです。
「もしわしらが大きな木を切るっていうことになれば、木の神様にお祈りをするんだ。それを切るとはいわないよ、休ませるっていうんだ。あなたはもうこのままでは風で倒れてしまうかもしれない老木になってしまう。だからまだ元気ないまのうちに人間の役に立ってくださいと。そうすれば我々も長く永遠にあなたをお祭りしますからお願いします、と。こういうわけだな。
人間の役に立ってこそ神様ではないですかと。熊だってそうだよ。獲ったとか撃ったとか殺したとはいわないもんだ。遊びにくるっていうんだな。火の神様のとこさ遊びにきたっていうんだって。あんたの御先祖のとこへご馳走たくさん持って帰って、またありがたい下界に下ってきて、またあんたの遊んどった場所でゆっくり踊りを踊ったり飛んだり跳ねたりして遊びなさい、ていうことさ。」(葛野辰次郎 エカシ)
獲物を届けてくれたカムイに対して恩義を感じ、それ以上のものを返礼贈与として送り返す儀礼は現代の習慣にも残っています。
今はかなり姿を消しましたが昔、田舎の法事に行って蒲鉾やお菓子、味噌、醤油、砂糖、肌がけ布団まであり重くガサばるものばかり両手でもちきれないほどの引き出物の返礼が来た事があります。今はカタログ一冊を持たされるだけになりました。
アイヌをはじめ世界中の先住民の神話にはクマが若者の姿をして人間の女性と結婚をして出来た子供が祖先だという共通の話があります。祖先がクマなのでクマを家族、親戚としてあつかいます。
先祖がクマなのでクマの肉を食べない部族もあります。
朝鮮半島には熊女と神の間にできた子どもが開いた王朝が古代朝鮮の始まりとする神話、伝承があります。
クマ狩りの儀礼はアメリカ先住民だけではなくカナダのイヌイット、シベリアや中央アジア全域、アイヌ、北欧のラップランドのシャーマンに共通して見られます。その起源は約6万年前に遡りスイスの洞窟ではクマの頭蓋骨を崇拝したと思われる礼拝所が発見されています。
5000年以上前の古代ギリシャ、オリエント地方は豊かな森林で覆われ、たくさんのクマが草をかきわけながら歩いていました。レバノンの国旗とコインには有名なレバノン杉がデザインされていますが、いまは見渡すかぎりの禿げ山に変わっています。
古代から森を切り開き、最後にキリスト教徒とイスラム教徒がとどめを刺したのです。クマはおろか無数の生き物の命は奪われました。今は家畜と人間しかいない荒涼とした風景が広がっています。
わしらはやがて大地に戻る
映画地球交響曲第三番に出演したクマ族のウィリー・ジャクソンは
「道夫の魂、守護神はクマだった」
「何故クマがクマの命を奪うのか」
「道夫は自らの命を捧げた」と語りました。
北米クリンギット族のメディスンマンはクマの姿をしてベアダンスを踊って星野の霊を弔いました。
「人間は生まれて来る時に苦しくて大泣きするが、まわりの人たちは新しい命を大喜びで迎える。正しい死に方はその逆で、本人は満ち足りた心で死ぬがまわりの人はその人を惜しんで大泣きする。」
「わしらはやがて大地に戻る。そこに何を持っていく必要があるのかね。この世界で生きて来た喜びと、次の時代を生きる子どもたちに、わしらが母なる大地から教えられた美しさと感動を残してあげられればそれで十分だ。」アメリカ先住民長老
星野道夫の書籍
「星野道夫の仕事〈第1巻〉カリブーの旅」朝日新聞社
「星野道夫の仕事〈第2巻〉北極圏の生命」朝日新聞社
「星野道夫の仕事〈第3巻〉生きものたちの宇宙」朝日新聞社
「星野道夫の仕事〈第4巻〉ワタリガラスの神話」朝日新聞社
「旅をする木」文春文庫
「長い旅の途上 」文春文庫
「アラスカ永遠なる生命」小学館文庫
「アラスカ 風のような物語」小学館文庫
「ノーザンライツ 」新潮文庫
「ナヌークの贈りもの」小学館
「イニュニック アラスカの原野を旅する」新潮文庫
「クマよ」福音館書店
「森と氷河と鯨-ワタリガラスの伝説を求めて」世界文化社
「森へ」福音館書店
「オーロラの彼方へ」 PHP文庫
「最後の楽園」 PHP文庫
「森に還る日」 PHP文庫「最後の楽園」 PHP文庫
「ラブ・ストーリー」 PHP文庫
「花の宇宙」PHP文庫
「大いなる旅路」PHP文庫
「ぼくの出会ったアラスカ 」小学館文庫
「アラスカたんけん記」福音館書店
「アラスカの詩 めぐる季節の物語」新日本出版社
星野道夫 公式サイト
https://www.michio-hoshino.com
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