http://anzenmon.jp/page/10243158 【その7 瞑想トレーニングを深めるために】より
心構えや習慣的な考え方、感じ方といった内面的な条件は、マインドフルネス瞑想の実践を支える決定的な要素と言えますが、外的な条件にも同じように目を向けなくてはいけません。瞑想を確実に習慣化するためには、確固たる基盤が必要だからです。
正式な瞑想トレーニングを行う時と場所、家族の支え、さまざまな場面で自分を今に引き戻す習慣、本や録音テープなどの教材の効果的な活用といったことは、すべて瞑想を実践するうえでの強力な基盤となる要素です。
また、トレーニングの妨げとなる条件についても前もって考慮しておいたほうがいいでしょう。
正式な瞑想トレーニングとふだんの生活における実践
本書をはじめ、一般にマインドフルネス瞑想では、正式な瞑想と普段の生活における実践の二つを念頭においています。
正式な瞑想とは、もっぱら瞑想のみを行う時間のことです。少なくとも一日一回、三〇分間は正式な瞑想を実践することをお勧めします。
普段の生活における実践とは、日々のさまざまな場面で、そのとき起きていることに意識を向ける訓練をすることです。自分の行動に意識的に注意を払う、意識的な呼吸を利用して自分の行動とつながったり、心と体を今に結びつけたりする、といったことです。
本章であげるポイントを参考にして、正式な瞑想トレーニングを行うのにできるだけ最適な条件を整えてください。正式な瞑想をしていれば、自然と普段の生活でも実践していけるようになります。
正式な瞑想トレーニングを支える外的な条件
外的な条件について詳しく見ていきましょう。トレーニングで最大限の効果をあげるための実際的なヒントをご紹介します。
瞑想の場所
実際に瞑想を行う場所を用意しましょう。そのつど場所を探す手間が省けますし、場所が決まっていればトレーニングが習慣化しやすくなります。習慣化してこそ、瞑想の効果が上がるというものです。
自宅の一室を選び、すわり心地のいい椅子やクッションをいつもの瞑想の場所にしましょう。もちろん、時には別の場所や戸外でトレーニングしてもかまいませんが、決まった場所を持つことがひとつのポイントです。
部屋の雰囲気がよければ、やる気も高まります。部屋をきれいに整えましょう。散らかり放題で気が散って、片付けのことばかり頭に浮かぶようなら、まずは片付けをして、部屋を整頓しておきます。
また、安心感が感じられるような物を置くといいでしょう。恐怖や不安を感じながらも今を意識しようと努めるとき、心強い味方になります。
さらには、適度な静けさもポイントとなります。トレーニングを進めていくと、あらゆる物音や雑念への対処法がわかってきます。ですから、完璧な静寂は必要ありませんが、電話やポケベルは別の部屋に置き、テレビやラジオ、パソコン、CDプレーヤーなど周囲で音を出すもののスイッチを切っておくといいでしょう。
よく言われるように、外界は心のなかの世界を忠実に映しだします。そして、周囲の世界を平穏に保てば、ある程度は、心の平安と再びつながりやすくなります。毎日の瞑想の場を用意する際には、外的世界と内的世界のこうした関係を利用してください。平穏で落ち着きと美しさに満ちた内的世界を、瞑想を行う場の整え方に反映させましょう。
瞑想の時間
瞑想の場所を決める必要があるのと同じように、瞑想の時間も決めておく必要があります。一日のうちで、瞑想を行う時間と活力が一番持てそうなのはどの時間帯でしょう。歯磨きと同じように瞑想を習慣化するのがねらいですから、ほぼ毎日、だいたい同じ時間に行えるように配慮します。といっても、それほど厳密な話ではなく、朝一番とか昼下がり、夕方といった決め方で十分です。毎日、朝の九時きっかりに瞑想する、などというのは無理があるでしょう。生活の雑事やほかの人に邪魔されにくい時間帯を選びます。
はっきり目覚めていて、瞑想のための活力が十分ある時間でなくてはいけません。就寝前にやろうとしても、眠くてできないことがあります。就寝前の瞑想に効果がないとは言いませんが、たびたび寝入ってしまったり、眠気でぼうっとして注意を集中できないようであれば、ほかの時間を選びましょう。
いつが最適なのか、いろいろ試して確かめましょう。一日のうちで特に不安を感じる時間帯があれば、その時間にやってみてもいいでしょう。その場合は、さほど不安を感じない時間にも瞑想してみてください。不安のために自分を見失うことがなく、不安の全体像をとらえやすいでしょう。瞑想とは、明晰な意識のただなかに不安をとらえることなのです。
自分なりの瞑想プログラムを作りましょう
場所と時間が決まったら、瞑想のプログラムについて考えてみましょう。作りだした時間の中で何をすべきなのでしょうか。
本書では、マインドフルネスをはぐくむための瞑想法をいくつか学びます。正式なトレーニングとして紹介するのは、「気づきの呼吸」、「選択をしない気づきの瞑想」、「ボディースキャン」、「歩く瞑想」、「愛と慈しみの瞑想」といった瞑想法です。それぞれ、重点が少しずつ異なります。
最初の二、三週間は、気づきの呼吸とボディースキャン、歩く瞑想を集中的に行うことをお勧めします(ヨガの経験がある人は、歩く瞑想の代わりにヨガを続けてもいいでしょう。どちらも体の動きを伴う瞑想です)。四、五週目には、選択をしない気づきの瞑想と愛と慈しみの瞑想を始めます。
一般的には、毎日「静座瞑想」と「体に意識を向ける瞑想」の両方を行うべきです。本書で紹介する瞑想法のうち、静座瞑想にあたるものは気づきの呼吸、選択をしない気づきの瞑想、および愛と慈しみの瞑想で、体に意識を向ける瞑想にあたるものはボディースキャンと歩く瞑想です(ヨガも後者に入りますが、ここでは触れません)。
静座瞑想に二〇〜三〇分、体に意識を向ける瞑想にさらに二〇〜三〇分かけ、二つを別のときに分けて行うパターンが一般的です。
六週間ほど続ければ、さまざまな瞑想法を取り入れた自分なりのプログラムを組めるようになるでしょう。それまでにいろいろな瞑想法を試して、それぞれの方法との相性を確かめておきます。自分が一番なじめる瞑想法を掘り下げていく人もいれば、やりにくいと感じた方法にも多少は時間を割くという人もいます。
重要なのは、何であれ選んだ瞑想法を続けていくということです。プログラムとしては、同じ静座瞑想を毎日(最低でも週に五〜七回)、少なくとも二〜四週間続けるというのが望ましいでしょう。体に意識を向ける瞑想についても同じです。一つの瞑想法を深く掘り下げて体験しないまま、次々に違う方法を試すようなことはやめましょう。
本書で紹介する瞑想法を実践するなかで、それぞれに対する感触がつかめ、自分との相性もわかってきます。明晰で開かれた意識で今を生きる力を高めることが目標です。どの瞑想法も何らかの貴重な示唆を与えてくれます。
「その8」から「その12」の瞑想の指示をテープやCDに吹きこんで、それを聞きながら行ってもいいでしょう。その際には、ゆっくりした速度で読み、セクションごとに何呼吸か間を置くようにしてください。
自分を穏やかに導きましょう
マインドフルネスを生活の一部にしていくことは、いわば心と精神のトレーニングです。あらゆるトレーニングと同じように、これは骨の折れる仕事です。努力や気力、自律心が求められます。穏やかで忍耐強い態度でいることが役立ちます。穏やかに自分を今に引き戻し、瞑想の実践に親しむようにすることが、毎日の瞑想の力強い支えや助けになります。
抵抗感を克服しましょう
自分を鼓舞して正式なトレーニングを実践していくことは、瞑想を習慣化するうえで大いに役立ちます。気が乗らないときはなおさらです。まずは、今生じている抵抗感に気づきましょう。そして、やる気のない自分に優しく寛容であろうと努めます。同時に、よい親のようにきっぱりした態度で、よい友人のように自分を勇気づけてやり、習慣的な抵抗感を乗り越えて瞑想を続けられるようにしましょう。それは誰もが直面することであり、克服すべきことなのです。
普段の生活における実践
一日を通じて今を意識することを心がけ、普段の生活のなかでもトレーニングを積むようにすることは、たいへん有益で、かつ重要なことでもあります。たとえば、「思いだせ」、「呼吸しよう」などと書いた小さなメモを、毎日の日課で必ず目がいく洗面所の鏡だとか電話、冷蔵庫、車のダッシュボード、職場のパソコンのモニターなどに貼っておきます。それを見たら、ただ、自分が生きていることを思い起こします。少しの間、努力や判断を控えて呼吸と体に注意を払い、今に意識を戻しましょう。
日誌をつけましょう
日誌をつけることも役立ちます。その日その日にどんなことをして、どんな疑問や問題に突き当たったかを書き留めることが、瞑想の習慣化に一役買います。多くの人は、瞑想した時間の長さやどんな瞑想を行ったかを記録します。こうした記録が、やがては、トレーニングを深めるための基準や基盤になります。
家族や友人にサポートしてもらいましょう
家族の支えはことのほか重要です。一緒に瞑想してもらう必要こそないものの、瞑想するというあなたの選択を尊重してもらうことはだいじです。たとえば、あなたの行動を拒否したり侮辱したりしないとか、もっと積極的な形では、瞑想中はある程度静かにする、瞑想の時間が十分とれるよう子どもやペットの世話などの仕事を引き受ける、など。
せめて時々は一緒に瞑想する相手を見つけると心強いでしょう。仲間と一緒のほうが力強く明晰な意識を向けられるという声をよく耳にします。一週間かひと月に一、二度でも仲間と一緒に瞑想できれば、大きな支えになります。瞑想の習慣がくじけそうな困難な時期にはなおさらです。
専門家からのサポート
瞑想はカウンセリングや心理療法とは違いますし、それらの代わりとなるものでもありません。今日では、専門のカウンセラーやセラピストが、相談に訪れた人にカウンセリングや治療の一環として瞑想をやってみるよう勧めることが多くなり、カウンセリングや治療と瞑想との相乗効果に対する関心が高まっています。
マインドフルネス瞑想を始める人の多くは、カウンセリングなどにかかっておらず、その必要もありません。ただ、不安やパニックを克服するために瞑想を学ぶ場合は、専門家の存在に大いに助けられることがあります。マインドフルネス瞑想を行うと、心のなかにあるすべてのものが表に現れてきます。瞑想とはすべてを包み込む営みです。そこが、あなたを癒し変えていくマインドフルネスの力の根本と言えましょう。
けれども、それには痛みも伴います。自分の意識が深まるにつれ、時にはこれまで以上に不安になることがあるのを覚悟しておいてください。苦痛や古傷、悲しみ、恐怖とつながり始めるとき、それらがあまりに激しくなるようなら、専門のカウンセラーやセラピストの力添えがものを言うでしょう。それは何も恥ずかしいことではありません。そうしたことが自分の身に起きたら、それに気づいて適切な措置がとれるよう、備えをしておきましょう。
瞑想と処方薬
処方薬のなかには、催眠作用や覚醒作用などのために、瞑想の妨げとなるものがあります。そうした薬を服用している場合は、処方した医師に相談して、薬の影響を小さくするようにしましょう。怠りなく今に意識を向けていられるよう、できるかぎりの手を打つことがだいじです。
薬をやめたり減らしたいと思ってマインドフルネス瞑想を始める人も少なくありません。それはそれで立派な目標ですし、人によっては実現可能な話でもあります。けれども、薬をやめたり飲み方を変える前に、まず医師に相談してください。トレーニングを深めるうちに、おそらく薬の量を減らしたりすっかりやめてしまうこともできるでしょう。そうできそうだと感じたら、医師とよく相談し、最も安全なやめ方・減らし方を尋ねてみてください。
瞑想の教材
瞑想については数多くの本や録音テープ、ビデオが出されています。そうした教材を利用する際には、その背景やメッセージを理解しておくことが重要です。すでにお気づきかもしれませんが、別の教材では、一見まったく相反するアドバイスが与えられていることがあります。上手に使いこなすには、瞑想とは体験するもの、自分でやってみるものだという点を忘れないことです。
マインドフルネスとは、今ここにあるすべてのものに対して明晰で開かれた意識を向けることです。瞑想のトレーニングを積むうちに、感受性が鋭くなり、意識も明晰さが増していくでしょう。各教材のねらいは、意識の鋭さ、明晰さを養えるようにすることであり、たいていは、実践に役立つ特定の側面や要素を強調しています。そうした指示を盛りこんだ一教材は、単に一つの方法を示すものであって、それがすべてではありません。
指導者が変われば、指示や力点の置き方もいくぶん変わるのがふつうです。いろいろな指導者についたり、さまざまな本やテープを利用してみると、そうした違いに気づくことでしょう。あまり額面どおりに受け止めすぎず、教えの本質をつかむように努めましょう。指示や言い回しのちょっとした違いに惑わされないようにします。しっかり目覚めて今に存在することをじかに体験することによって、自分の実践方法に確たる足場を築いてください。
最終的には、テープや本などに頼らないで瞑想を習慣とすることを目指しましょう。トレーニングを進め、自分の体験から学ぶなかで、教材の助けはだんだん必要なくなるでしょう。ただ、いつになっても、いろいろな考えや指示に触れ、それを試していくことは有益だと感じるはずです。そうすることで、トレーニングが常に活気を失わず、自分自身の成長や変化を支えてくれるものとなるのです。
集中トレーニングや瞑想合宿
今に注意を払わず上の空で暮らしていく習慣には根強いものがあります。目覚めている間中忙しくしていようという私たちの傾向から、そうした態度が習慣化します。毎日一時間ほど瞑想を行うことは、こうした習慣を断ち切り、代わりに今を意識していく習慣を身につけるための有力な方法と言えます。長時間にわたる集中的な瞑想は、トレーニングを深めるうえでもたいへん役に立ちます。
多くの瞑想センターでは、終日にわたって瞑想や体の動きを伴う精神修養法を実践する瞑想合宿を行っています。沈黙のまま行われるこうした合宿では、あわただしい日々の生活ではなかなか触れることのできない深い静寂と意識の明晰さを存分に味わうことができます。
こうした集中的な瞑想トレーニングへの参加は一考に値します。瞑想を深めるなかで、長時間の瞑想を体験するのもいいでしょう。二時間とか半日、終日といったプログラムに参加することもできますし、しばらくしたら、週末や一週間とおしての瞑想合宿への参加を考えてみるのも一案です。
いずれにしても、経験豊富な指導者について行うのが賢明でしょう。幸い、指導者のつく瞑想合宿を実施する瞑想センターなどの施設が増えています。
瞑想の障害となるもの
トレーニングの成果を上げるためには、生活上のきわだった苦しみや困難を検討することが重要です。アルコールや薬物の使用、尾を引く心の傷、有害な人間関係などは特に注意が必要です。
アルコールや薬物の使用
アルコールや薬物に酔った状態で瞑想しても、実際には何の役にも立ちません。瞑想の時間を、アルコールや薬物の影響で曇らせてはいけません。自分の生活にじっくり目を向けてみましょう。アルコールや薬物に手を出し始めた、量が増えた、といったことがあったら、それが自分や人間関係、仕事、経済状況など文字通りあらゆることにどんな影響を及ぼしているか、いつわるところなく検討してみてください。完全に絶つ必要はないとしても、それによる悪影響を解消しないと、瞑想が本当に役立つことになりません。
有害な環境
瞑想は魔法の薬ではありません。瞑想を始めることは人生を安定させる強力な要因となりえますが、自分にとって危険だったり有害だったり心の傷になったりするような状況が続いていたら、ただ瞑想を始めただけでそうしたすべてが変わると期待しないように。瞑想によって変化するのはあなたです。あなたの反応や感じ方、意識の向け方が変わるのです。
瞑想を始めた人が、しばらくして生活環境をがらりと変えるというのはよくあることです。立ち止まって自分の環境やそのなかでの自分の反応にじっくり注意を払った結果として、そうした行動に出るのです。ここで心に留めておきたいのが、マインドフルネスとは何かをすることではなく、ただ存在することだという点です。今をもっと意識することで、行いも賢明になります。あり方が行いを決める、と言っていいでしょう。
ですから、有害な環境にある人は、状況が大きく変わる以前に、自分自身が変わる必要があるかもしれません。ただし、そうした環境は、アルコールや薬物、処方薬の悪影響を伴う状況と共通点があります。有害な環境で心をかき乱され、瞑想トレーニングにも支障があるようなら、きっぱりした態度でまずは自分を守る努力をし、瞑想の成果があがるようにしましょう。
まとめ
瞑想を行うことで不安な心を鎮め、生きるに値する人生を生きるようになるためには、これまでお話ししたような、内と外からの支えが欠かせません。精神的な姿勢や外的な条件を整え、困難だけれどもありがちな障害をうまく処理するようになるにつれ、マインドフルネスが人生に大きな影響を及ぼすことに気づくようになるでしょう。自分が出会うものや自分自身に優しく寛容な態度で接してください。それによって、あなたの瞑想トレーニングははかりしれないほど深まることでしょう。
著者等紹介
ジェフ・ブラントリー
医学博士。デューク大学医学部精神医学科顧問医師。同大学統合医学センターの「マインドフルネスに基づくストレス緩和(MBSR)プログラム」の創始者、ディレクターでもある。ラジオ、テレビ、新聞、雑誌などでMSBRプログラムに関する数々のインタビューに応じている。
0コメント