マインドフルネス瞑想

マインドフルネス瞑想

21世紀は心の時代と言われています。

西欧社会では 瞑想を簡素化して科学的に解明しグーグルやフォードなどの企業内研修において 仕事の能力開発のため、また医療機関にて、病気を治す一つのアイテムとして、導入されていると聞きます。

多くの疾患に、ストレスが関与していることは、医療の世界でももはや常識となっています。

瞑想は不安を減少させる効果が脳科学で明らかにされて いるというのに、ほとんどは投薬治療におまかせです。

しかも精神医療での投薬は大きな問題を呼んでいます。

しかし 瞑想の良さを知り、実践しようとしても、初めての方には抵抗が起きてしまいます。

ここでは やり方を簡素化したマインドフルネス瞑想をご紹介したいと思います。 期待される効果は以下です。

・認知機能や記憶の向上

・不安を減少させ前向き脳に環境を整える

これらのほかに、生活習慣病などにも素晴らしい効果があるといえます。

ウィスコンシン大学、そして、スペインにあるバルセロナ・バイオメディカル研究所とフランスの研究者たちは「あなたの意識の状態は、自律神経や内分泌だけでなく 細胞の遺伝子発現におおきな影響を与える。」と結論付けています。まさに病は氣(氣持ち)からですね。

【マインドフルネス瞑想のやり方】

1・ 自律訓練法・・・リラックスしていると自己暗示

①静かな落ち着く環境を準備。楽な姿勢で座り(椅子に座っても良い)

②目を閉じて、「今、和多志は、落ち着いて安心して穏やかな氣持ちで座っている」と、自己暗示をかける。声に出して宣言することから始めても良い。

③ゆっくりと呼吸を行う 意識せず、楽な自然の呼吸で良い。

④意識の集中を、胸から始めて身体の各部位に移動しながら、「感じ取っている感覚に意識を向ける」

*力んで行わない事

*感覚以外の雑念を呼ぶ思考が表れてきたら、それをただ認め、

*「雑念が出てきたな・・・もとの感覚に意識を戻す」と、頭の中でつぶやき、感覚に持続的に意識を向ける。

*雑念が次から次へとでてきても、唯これを繰り返し行う。

*身体への意識は、床に触れている足 椅子に触れている腰 てのひら 肘 肩 など、数か所行ってもよい。

ただし、めまぐるしく速く身体意識を移していかない。

*所定の時間行う・・・・15分以上

2・感覚に意識を向ける・・・思考感情が鎮まる。

*吸う息とともに膨らんでいく胸 吐く息とともにすぼんでいく胸、など、意識を呼吸と共に変化する身体に向ける(身体感覚に向ける)

*この時に呼吸はこれでいいのだろうか?もっとこうした方がいいのではないだろうか?など、思考を働かせず「胸の感覚」のみに意識を向ける。2分から3分行う

3.集中したリラックス感(トランス)の効果を確認しアンカリングする

⑤身体の感覚に意識集中が終われば、「とても穏やかで、リラックスしている」と、自己確認を行う。

⑥再度呼吸に意識を戻してきて、自然な呼吸を行う。

⑦プラスの暗示をつぶやき、目を開ける

例えば「とても明るい氣分で氣持ちがいい」 アファメーションでもよい。

最初は15分からはじめて 30分・・・40分へと時間を伸ばしていくようにしてください。感覚集中が高まれば、40分はあっという間に感じます。


https://fuanclinic.com/warakukai_blog/4144/ 【マインドフルネスの臨床効果と脳科学⑫ なぜマインドフルネスで人生が変わっていくのかー精神医学的考察(ケセラセラvol.106)】より

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

前回は社会不安症があり嫁ぎ先でのストレスを背負い込み慢性的なうつになっていましたが、一念奮発してマインドフルネスに熱中し、どんどん改善していったA夫人の手記を紹介しました。

今回はこの臨床経過について精神医学的解説を加え、マインドフルネスの素晴らしさを皆様にお伝え致します。

A夫人はマインドフルネスで対人恐怖も慢性軽症うつ病も大変良くなりました。

その状況をこんなふうに書いています:

マインドフルネスを始めて、いつも私の中にはもう一人の自分が存在するようになりました。肉体として今を生きている自分と、それを俯瞰し常に冷静に物事を判断ができる自分です。生活の中で辛いこと苦しいこと、自分の苦手なことに直面すると、今まで通り緊張したり動悸がしたり発汗する事があります。今までとの違いは、その時に心まで全て持っていかれないということです。もう一人の自分が身体で起きている事を冷静に見つめています。なぜこうなっているのか、今何を一番にすべきなのかを慌てずに判断し、もう一人の自分に伝えます。すると元の状態に適度な時間で戻ることが出来ます。日々の生活の中でしっかり地に足がついて暮らしている実感があります。

この内容から、A夫人の社交不安は消失してはいないがそれに煩わされることが無いと、解釈できます。この状態は、自分の周辺と自分自身に広く深く注意や気付きを払っている状態でマインドフルアウェアネス(注意コントロール)が十分になされていると言えます。この注意コントロールはマインドフルネス効果の基本であり、この後説明する種々な心理学的効果の基礎となっています。では、引き続き経過を追ってマインドフルネス効果について解説していきましょう。

マインドフルネス開始20回目までで、“呼吸が整い、心が静まる感じ”を述べています。

呼吸が整うということは脳内の情動中枢である扁桃体の興奮性が低下してきていることを示しています。マインドフルネスの最初の自覚効果です。腹が立たなくなったとマインドフルネスの初期効果を表現する人がいます。これは扁桃体の活動性低下によるものです。

開始20回を超えて間もなく、A夫人は、“指先で拍動を感じる”と手記に書いています。これは内受容性感覚が鋭敏になってきたことを示しています。楽しみも悲しみを感じられなくなっていた失感情症の人が回復する兆しです。マインドフルアウェアネスがかなり行き届いてきていることを示しています。

その証拠に30回を超えた或る日、“自分の感情は私の生活には必要がなく、心の奥底にしまい絶対に開けないと固く決意をして暮らしていました。しかし、昨日のシェアリング中に突然その押し殺していた感情が出てきてしまいました”と書いています。また、“突然感情が抑えきれなくなり号泣。… フラッシュバックの様な事が起きる”とも書いています。

これは、マインドフルネス訓練により左右脳のバランスが変化し、感性的右半球脳を抑制していた理性的左半球脳の優位性が崩れて生じたものと考えられます。マインドフルネスによるこのような脳への影響は、このシリーズの第103回の「瞑想は脳の左右前後の連絡を密にする」で述べましたね。このような抑圧されていた過去の不幸な出来事が、意識に戻って再体験され(言語化)、その時に生じる感情の放出をカタルシスと言っています。

さらにA夫人は書き進めています:

“その後フラッシュバックが起こり、過去の出来事が写真のように何枚も思い出されました。子育て中も全く楽しくなく自分は母性に欠けていると苦しみましたが、フラッシュバックで見た心の写真では長男を愛おしく思う自分、次男が生まれて家族が増えた歓びで幸せだと感じている自分がいました。自身の幼少の頃、学生の頃の写真は自分の思いを理解されない苦しみから自分を押し殺そうと努力している姿がありました。マインドフルネス訓練を続けているうちに、封印していた自分自身の心の中の“生きたい”というエネルギーが出てきてしまいました。”

フラッシュバックの中では、辛かった日々の記憶が幸せだと感じて子供を育てる思い出に変化しました。押し殺していた陰性感情と記憶が一気に陽性感情で塗り替えられました。

そしてさらに、“今死んでも80歳で死んでも同じ”と思っていたのが、“生きたい”という強い生命力が沸き上がってきました。

このように拒絶的であった記憶を受容的記憶に変換する心的機構を認知再評価と言っており、陰性感情が陽性感情に変わる状況を感情コントロールと呼んでいます。この様相の根底には、自分の考えや感情を事実であると解釈するのではなく、それらから距離を取って、客観的な視点から捉えるという心的機構が働いていると考えられます。この心的機構を脱中心化と言っています。

A夫人はマインドフルネスについて次のように記しています:

“自分の生きる意味を教えてくれるものです。人間一人一人が、大切な存在であり、自分自身で自分を大切な存在であると心から思えるようになる方法のひとつです。”

さらに、A夫人は、

“自分のことではなく、周囲の人達の助けになりたい、皆に幸せになって欲しいという気持ちが強くなる。”

と書いています。A夫人は元来優しい人であったのですが、自分の苦しみが薄らいできて、このように利他的な気持ちが強くなってきました。これも、その理念の根底に仏教を持つマインドフルネスの効果であると考えられます。

A夫人のように、逆境に直面したときにマインドフルネス訓練の導入が、ポジティブな情動調節を行い、最終的には、人生において快いこと、成長を促すこと、意味のあることを持続的に持てる状態を可能にすることがあります。このような状態を「Posttraumatic Growth 不幸なライフイベント後の心的成長」(Tedeschi & Calhoun, 2004)と言っております。このプロセスは、価値観に基づいた行動を動機づけ、より深い目的意識と自己実現を生み出すものであり、快楽を得ることや苦痛を避けることに依存するヘドニックhedonicな幸福へのアプローチではなく、いわゆる、ユーダイモニック・ウェルビーイング eudaimonic well-being(苦労や努力から培われる幸福)であります。

筆者は、東京マインドフルネスセンターでいつも皆さんに“幸福脳を作ろう”と言っています。この“幸福”はここに示したユーダイモニック・ウェルビーイングであります。その気になって一生懸命マインドフルネスに励めば、きっとあなたもA夫人のようになることが出来ると思います。


https://w-e-w.net/metitation/the_scientific_effects_meditation_mind_body/ 【【特集 マインドフルネスと認知行動療法】#05 マインドフルネス瞑想におけるありのままの気づきとは何か|藤野正寛・野村理朗】より

藤野正寛(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)・野村理朗(京都大学)

シンリンラボ 第10号(2024年1月号)

1.はじめに

マインドフルネスとは,今この瞬間の経験に受容的な注意でありのままに気づいている状態を意味する(Brown et al., 2007; 藤野ら,2015)。“経験”とは,自分の身体やこころで次々と生じている感覚や感情や思考のことである。通常,私たちの注意は,それらの経験の中でも強度の高い対象に無意識的にひきつけられて範囲が狭くなる。あるいは,意識的に特定の対象に注意を向けることで範囲が狭くなる。それに対して,“受容的な注意”とは,注意の範囲を狭くせずに広い状態のままでいることを意味している。しかし,その広い範囲で生じるさまざまな経験の中の特定の対象に対して,反応したり,判断したり,抑制したりすると,注意の範囲が狭くなる。そこで,それらの経験に対して,反応したり,判断したり,抑制したりしない”ありのまま”の態度を維持する必要がある。それによって,今この瞬間に次々と生じているさまざまな経験を意識化する,すなわち“気づいている”状態が実現すると考えられている。

近年,この状態を実現するためのマインドフルネス瞑想を活用した心理療法であるマインドフルネス心理療法が,さまざまな心身の症状を改善したりウェルビーイングを高めたりするための情動調整方略として注目されている。この情動調整方略は,ネガティブな経験が生じた際に,意図的に,そこから注意をそらしたり,それを変えようとしたり,押さえ込もうとしたりするのではなく,それにただありのままに気づいているという点に特徴がある。言い換えると,ネガティブな経験を避けようとしたり無くそうとしたりといったようにその対象から離れようとするのではなく,その対象から離れずにただともにあるという点に特徴がある。このような特徴から,マインドフルネス瞑想は,ネガティブな経験との関わり方が暴露療法と類似しているとも指摘されている(Holzel et al., 2011)。

実際,多くの研究で,ネガティブな経験にありのままに気づいていることで,うつや不安などの症状が改善することが示されている(Goyal et al., 2014)。一方,ネガティブな経験にありのままに気づいているつもりで,実際にはそれに対して,無自覚的に反応したり,抑制したりしてしまい,かえって不安や緊張が高まるなどの有害事象が生じることも報告されている(Van Dam et al., 2018)。それらを踏まえると,マインドフルネス瞑想を活用する際に,有害事象を減らしながら効果を高めるためには,経験にありのままに気づいていることができているかどうかが重要であることがわかる。しかし,経験にありのままに気づいているかどうかは,専門家が外から判断することも難しく,また本人自身が判断することも難しい。また,そもそも,ありのままに気づいているとはどのような状態かもよくわかっていない。そこで,ありのままの気づきのメカニズムを解明することが求められている。

2.集中瞑想と洞察瞑想

私たちの研究グループは,ありのままの気づきのメカニズムを解明するために,マインドフルネス瞑想を構成している集中瞑想と洞察瞑想のうち(藤野ら,2019; Lutz et al., 2008),特に洞察瞑想に注目してきた。

集中瞑想は,特定の対象を用いて,その対象に意図的に注意を集中する技法である。特定の対象は,物体や音といった外部刺激でもイメージや思考といった内部刺激でもかまわないが,一般的には自然に生じている呼吸を用いることが多い。特定の対象を設定すると,注意の範囲が狭くなる。それによって,注意の範囲外の対象に対する感受性が低下するとともに,範囲内の対象に対する感受性が高まる。そして,いま取り組んでいる課題に必要な注意を阻害するような,注意の範囲外の感覚・感情・思考などといった妨害刺激に振り回されることなく,範囲内の特定の対象に注意をとどめやすくなる。しかし,特定の対象以外の強度の高い感覚や感情や思考などの妨害刺激が生じると,注意はそれらに囚われてしまう。そのことに気づいたら,注意を特定の対象に移動させる。それによって注意を妨害刺激から離すことが可能となる。そして,また特定の対象に注意を集中する状態に戻る。これを繰り返し行うことで,複数の刺激の中から特定の対象を選び出すトップダウンの選択的注意機能や注意を特定の対象にとどめる持続的注意機能が育まれる。

洞察瞑想は,今この瞬間に次々と生じているさまざまな感覚や感情や思考が何であっても特定の対象として選び出したり囚われたりすることなく,それらの経験の流れに気づいている技法である。この瞑想では,集中瞑想と異なり,注意をとどめるための特定の対象を設定しない。そのため,注意の範囲内と範囲外という区分がなくなり,今この瞬間に生じている経験すべてが気づきの対象となる。しかし,それらの気づきの対象のどれか一つに対して,反応したり,判断したり,抑制したりすると,それが気づきの対象から妨害刺激へと変化してしまい,注意はそれに囚われてしまう。そのことに気づいたら,洞察瞑想では,集中瞑想のように特定の対象を設定していないため,注意を特定の対象に移動させることで妨害刺激から離すということができない。そこで,妨害刺激に対して,反応したり,判断したり,抑制したりしない態度を取り戻す必要がある。その際,それらの経験が常に変化し続け,自分の思い通りにコントロールできないものであり,自分そのものではないという視点を持つことが重要となる。たとえば痒みが生じた際に,それが自分で思い通りにコントロールできないことや,今なんとかしようとしてもしなくても,いらいらしてもしなくても,いずれ消えてなくなるものだということが腑に落ちるレベルでわかっていることで,その痒みに対する固着した態度が低下する。それによって,妨害刺激が気づきの対象の一つに戻り,注意が自然と一つの対象から離れていくことが可能となるのである。そして,また経験の流れに気づいている状態に戻る。これを繰り返し行うことで,対象の感情価が快・不快・中性のいずれであっても分け隔てなく接する,開かれた受容的な態度である平静さが育まれる(Desbordes et al., 2015)。

このような集中瞑想と洞察瞑想の特徴からは,集中瞑想がマインドフルネスの状態になる前の基礎的な注意制御能力を育む実践方法となっているのに対して,洞察瞑想がマインドフルネスの状態を実現するための実践方法となっていることがわかる(Lutz et al., 2008)。以下では,この洞察瞑想を用いた2つの研究を取り上げて,ありのままに気づいているとはどのような状態なのかを考えてみる。

研究1:ありのままの気づきの生理状態

一般的なイメージでは,マインドフルネス瞑想を実施するとリラックスできると考えられている。しかし,瞑想研究の領域では,ありのままの気づきというのは,さまざまな経験に気づいている状態であることから,ただのリラックスしている状態ではないのではないかと考えられてきた。そこで,マインドフルネス瞑想がリラックスやストレスに関連する生理指標に与える影響が検討されてきたが,その結果にはばらつきがあった。その原因の1つは,マインドフルネス瞑想を集中瞑想と洞察瞑想に分けずに検討していたためだと考えられる。そこで,私たちの研究グループでは,瞑想未経験者でも,集中瞑想と洞察瞑想を実施できるような,それぞれ30分の音声インストラクション注1)を開発して(藤野ら,2019),それぞれ30分の瞑想が生理指標に与える影響を検証した(Ooishi et al., 2021)。

注1)それぞれの音声インストラクションは,「瞑想の概要」「姿勢の取り方」「呼吸の仕方」「瞑想の仕方」「瞑想の終わり方」の5つのパートから構成されている。それぞれのパートは,音声インストラクションの時間と実施するための無音の時間から構成されており,瞑想未経験者でも,音声インストラクションを聴きながらステップバイステップでそれぞれの瞑想を実施することが可能となっている。この音声インストラクションは瞑想研究を実施する研究者に対して提供されている。

実験では,瞑想未経験者41人を対象に,それぞれの参加者に30分の集中瞑想と洞察瞑想を休憩をはさんで実施してもらった。そして,瞑想前と瞑想中の心拍変動から交感神経活動と副交感神経活動を測定した。また,瞑想前後の唾液からコルチゾール濃度を測定した。

その結果,集中瞑想では,瞑想前と比べて瞑想中に,リラックスに関わる副交感神経の活動が増加していた。これは,集中瞑想によって妨害刺激にふりまわされないことでリラックス状態が高まっている状態を表している可能性が考えらえる。一方,洞察瞑想時には,覚醒度に関わる交感神経の活動が増加するとともに,ストレスに関わるコルチゾール濃度が減少していた。これらは,覚醒度は高くなっているにもかかわらず,ストレスレベルは低くなっていたことを示している。洞察瞑想が,さまざまな経験の流れに気づいている技法であることを踏まえると,交感神経の活動が高まっていることはそれらの経験に気づけるような覚醒度が高い状態を表している可能性が考えらえる。またコルチゾール濃度が減少していることはそれらの経験に対して反応したり判断したり抑制したりしないことでストレスが低下していることを表している可能性が考えられる。

研究2:ありのままの気づきの脳状態

それでは,さまざまな経験にありのままに気づいている際に,脳はどのような状態になっているのだろうか。これまでの研究では,そもそも集中瞑想時と洞察瞑想時の脳活動の違いを明確には示せていなかった。そこで私たちの研究グループは,純粋な瞑想時の脳活動を抽出できる実験デザインを立案し,集中瞑想時と洞察瞑想時の脳活動を特定した(Fujino et al., 2018)。

実験では,瞑想実践者17人を対象とした。従来の集中瞑想時と洞察瞑想時の脳活動を比較する研究では,例えば,集中瞑想を6分,安静時を6分,洞察瞑想を6分実施するといったブロックデザインを用いて,その際の脳活動をfMRIで測定するといったことが行われていた。しかし,筆者自身の瞑想実践経験から,6分の瞑想ではなかなか最適な瞑想状態にはなりにくいことを実感していた。そこで,防音室で1時間瞑想を実施した直後に,MRI装置で6分間瞑想を実施し,その際の脳活動を測定することとした。また,1時間瞑想を実施すると,その後もしばらく瞑想状態が続くことを実感していた。そこで,集中瞑想と洞察瞑想の実施日を2日に分けることとした。

解析に関しては,脳領域間の活動の相関関係を検討する機能的結合性解析を用いた。マインドフルネス瞑想は,注意制御・情動調整・身体感覚への気づき・自己観の変容などさまざまな認知機能にかかわっているとともに,広範囲な脳領域にかかわっていることが知られている。その中でも,大脳皮質の下に位置している線条体は,大脳皮質のそれぞれの脳領域と複数の異なる回路を形成しており,運動・注意・情動・動機・学習・記憶などさまざまな機能にかかわっている。そこで,線条体を中心としたそれぞれの脳領域との機能的結合性の変化を調べることで,集中瞑想と洞察瞑想に特有の脳活動を特定し,そこから瞑想の心理過程を推定することとした。

その結果,安静時と比べて集中瞑想時に,腹側線条体と視覚野の結合性が増加していた。この結合性の増加は特定の対象に対する意図的な注意制御の増加に関わっていると考えられている。これを踏まえると,集中瞑想では特定の対象に対するトップダウンの選択的注意機能が高まるという従来の考えを支持する結果であったと言える。一方,安静時と比べて洞察瞑想時に,この腹側線条体と視覚野の結合性が低下していた。また,腹側線条体と脳梁膨大後部皮質の結合性も低下していた。さらに,生涯の瞑想実践時間が長いほど,その低下の度合いが大きいことも示された。この結合性の低下は,自分の過去の経験の記憶に対する感情的な修飾の程度の低下に関わっていると考えられている。これらを踏まえると,洞察瞑想では,今この瞬間に生じているさまざまな経験の流れにありのままに気づいている際に,トップダウンの選択的注意機能が低下するとともに,それらの経験から引き起こされる自分の過去の経験の記憶に囚われる程度が低下している可能性があると考えられる。

3.ありのままの気づきとは何か

ここまで見てきたように,今この瞬間の経験に受容的な注意でありのままに気づいている状態には,主に洞察瞑想がかかわっていると考えられている。この洞察瞑想を行っている際の生理状態からは,ありのままの気づきは,単なるリラックス状態ではなく,むしろ覚醒度が高いにも関わらずにストレスは低下している状態であることがわかった。また,洞察瞑想を行っている際の脳状態からは,トップダウンの選択的注意が低下している可能性や,過去の経験の記憶に囚われる程度が低下している可能性が示唆された。

これらを踏まえて,改めて,ありのままの気づきとは何かを,通常時,集中瞑想時,洞察瞑想時の状態を表したイメージ図を用いて考えてみる(図1)。スノードームは,頭の中を示している。通常の状態では,目の前の猫を見る際に,猫のイメージ像だけでなく,それ以外のさまざまな感覚や感情や思考が雪のように浮かんできていま取り組んでいる課題に必要な注意を阻害する妨害刺激となり,それらに囚われてしまうことがある。また,集中瞑想の状態では,猫のイメージ像を特定の対象とし,そこに注意を集中することで,それ以外の経験がある程度静まるとともに,静まらない経験にも振り回されにくくなる。しかしこのような状態では,今この瞬間に生じているさまざまな経験には気づけなくなる。これに対して,洞察瞑想の状態では,特定の対象を設定しないため,気づきの範囲が広くなる。これはトップダウンの注意制御が低下することによって実現すると考えられる。そして,猫のイメージ像もさまざまな感覚や感情や思考も,特定の対象や妨害刺激ではなく,気づきの対象となる。ただし,トップダウンの注意制御が低下するといっても単純に覚醒度が低下するのではなく,さまざまな経験に気づいているような覚醒度の高い状態であると考えられる。

それでは,気づきの範囲が広い通常時と洞察瞑想時で何が違うかというと,それは周辺の感覚や感情や思考が妨害刺激なのか,気づきの対象なのかという点である。このような妨害刺激を気づきの対象にするためには,それらの対象が自分にとって渇望や嫌悪といった欲求の対象ではなくなる必要がある。そのためには,過去の経験の記憶に囚われる程度が低下している必要があるのかもしれない。そして,気づきの中にある感覚や感情や思考が妨害刺激でなくなることによって,ストレスが低下している可能性が考えられる。

図1 通常時,集中瞑想時,洞察瞑想時の状態を表したイメージ図。

黒の枠線は気づきの範囲,赤色とオレンジ色の図形は感覚や感情や思考を示している。

このように,洞察瞑想時の生理状態や脳状態を特定することで,ただ「ありのままに気づく」といっても,その背後にはさまざまな心理過程が生じていることがわかってきている。今後は,このような研究を進めていくことで,ありのままに気づくとは何かということをさらに明らかにしていくことが求められる。それによって,マインドフルネス瞑想を活用する際に,有害事象を減らしながら効果を高めることが可能になると考えられる。


https://shinrinlab.com/feature010_05/ 【瞑想の科学的な効果:心と体に及ぼす影響】より

瞑想は古代から実践されてきた心身の健康法ですが、近年ではその効果が科学的に裏付けられ、多くの研究結果が発表されています。この記事では、瞑想の科学的な研究結果と、それが心と体に及ぼす健康効果について詳しく解説します。

瞑想の基本概念

瞑想は、心を静め、意識を集中させる練習方法です。目的はさまざまで、リラクゼーション、自己認識の向上、ストレスの軽減などがあります。瞑想の技法には、マインドフルネス瞑想、集中瞑想、慈悲の瞑想など、多種多様なものがあります。

瞑想の科学的研究

脳の変化

多くの研究が、瞑想が脳の構造や機能にポジティブな影響を与えることを示しています。例えば、ハーバード大学の研究によれば、マインドフルネス瞑想を8週間続けた結果、脳の灰白質の密度が増加し、特に学習や記憶に関わる海馬の部分に変化が見られました。また、感情調節や自己認識に関連する脳の部位でも変化が確認されています。

ストレスの軽減

ストレス軽減の効果は、瞑想の最もよく研究された側面の一つです。マサチューセッツ総合病院の研究では、瞑想を定期的に行うことで、ストレスホルモンであるコルチゾールのレベルが低下することが示されました。これにより、ストレスに対する耐性が向上し、日常生活でのストレスレベルが低下する効果があります。

心に及ぼす影響

女性と猫 瞑想が感情に影響する

感情の安定

瞑想は、感情の安定にも寄与します。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究では、瞑想を行うことで、感情を制御する前頭前皮質が活性化し、ネガティブな感情への反応が減少することが確認されました。これにより、日常生活での感情の波が穏やかになり、精神的な安定感が増します。

集中力の向上

瞑想は、集中力や注意力の向上にも効果的です。オレゴン大学の研究によると、瞑想を行うことで、注意力を司る脳のネットワークが強化され、集中力が持続するようになることが示されています。これにより、仕事や勉強の効率が向上します。

体に及ぼす影響

免疫力の向上

瞑想は免疫系にも良い影響を与えることがわかっています。ウィスコンシン大学の研究によれば、瞑想を定期的に行うことで、風邪やインフルエンザなどの感染症に対する抵抗力が高まることが確認されています。これは、瞑想がストレスホルモンのレベルを低下させ、免疫系の機能を向上させるためです。

痛みの緩和

瞑想は、痛みの感覚を和らげる効果もあります。ウェイクフォレスト大学の研究によると、瞑想を行うことで、痛みを感じる脳の部位が活性化し、痛みの強度が軽減されることが示されています。これにより、慢性的な痛みに悩む人々の生活の質が向上します。

瞑想の実践方法

瞑想の基本ステップ

静かな場所を選ぶ:瞑想を行うためには、静かで落ち着いた環境が必要です。

楽な姿勢を取る:椅子に座る、床に座る、横になるなど、自分がリラックスできる姿勢を見つけましょう。

呼吸に意識を集中させる:目を閉じて、ゆっくりと深呼吸を行い、呼吸に意識を集中させます。

雑念を手放す:心に浮かんでくる雑念を受け流し、再び呼吸に意識を戻します。

一定時間続ける:初めは5〜10分程度から始め、徐々に時間を延ばしていきます。

定期的な実践の重要性

瞑想の効果を最大限に引き出すためには、定期的な実践が重要です。毎日少しずつ時間を割くことで、瞑想の効果を持続的に享受することができます。

終わりに

瞑想は、科学的に裏付けられた心身の健康法であり、ストレス軽減、感情の安定、集中力の向上、免疫力の向上、痛みの緩和など、多くの効果が確認されています。瞑想を日常生活に取り入れることで、より健康で幸福な生活を送ることができるでしょう。初めての方も、ぜひ一度試してみてください。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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