https://www.miraiku.com/sanku13/ 【地球をテーマにした俳句(厳選三句)】より
マリが住む地球に原爆などあるな 白泉
白泉は西東三鬼ら親しく付き合い「京大俳句」に会員に推された。だが、昭和十五年に当時の治安維持法にひっかけられ、平畑静塔以下主要会員の一次検挙に続いて白泉も第二次検挙された。当時の句に「三宅坂黄套わが背より降車」(黄套は将校のカーキ色の外套)、「戦争が廊下の奥にたつてゐた」などがある。そんな戦争への陰湿な思いを払拭したい思いで、この句は作られたのだろう。句は“わが敬愛する人の長女十二歳誕生日”と前書きをつけた三句の中の一句。決してこの地球に原爆などと言う破壊兵器は存在してはならないと、訴えている。この句は、渡辺白泉の句集「夜の風鈴」より引いた。
寝転べば地球の吐息 草いきれ まゆみ
草いきれは夏草がむせるような匂いと湿気を発することを言うが、作例は江戸時代にいくつかあるが、歳時記には挙げられていない。子規の『「分類俳句全集』に草いきりの項に「草いきれ人死をると札の立て」(蕪村)ほか五句挙げられている。この季題の本意は、蕪村の句によって定まって、近代多用されるようになった。さて、この句は草叢に寝そべって、むせ返るような夏草の生命力を地球の吐息と感じ取った。草いきれは草の息ともいう。人が生きているという実感を強く意識させる句。この句は「青玄合同句集11」より引いた、高石まゆみの句。
地球儀ひとまわし パスタを茹でている 節子
地球儀は大航海時代に1606年ブラウ(オランダ製)など他、多く作られるようになったが、その頃は日本は地球儀上には当然存在していなかった。宣教師が盛んに訪れるようになり、16世紀末にほぼ現在の位置に書かれた。現在販売されている地球儀は多くは五万分の一である。とすれば富士山はたった0.06ミリ、成層圏までの距離は0.2~1ミリということになることを思えば面白い。さて、節子は地球儀をひと回しして、止まった所がイタリアだったのだろうか?そうだ、今日のメニューはパスタにしよう。そんな風に想像したら、面白い。ちょっとオシャレな句だ。この句は「青玄合同句集11」より引いた、高田節子の句。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784898064153 【世界へ飛んだ蛙―芭蕉から地球俳句へ 近藤 蕉肝【著】】より
内容説明
俳テクが文化を創る。万物のイメージに遊ぶ文学、地球俳句の地平線を拓く!
目次
1 イメージこそ命―古池や蛙飛び込む水の音(古池をのぞいて見てごらん;古池や英語にすれば見えてくる;俳句が分かるとはどういうことなのか;季語は宇宙の花時計;森羅万象の曼荼羅;小さな一句でも世界を動かせる)
2 芭蕉は地球俳句をどう思うでしょうか(芭蕉の言葉の謎を読み解く;芭蕉が詠んだ最期の俳句)
3 今や世界文学となった俳句(地球俳句100年の概観;渦から生まれた地球俳句;ヨーロッパの多彩な俳士達;北アメリカの新しい池のにぎわい;俳句でノーベル賞を受賞するための条件;宇宙からのメッセージ)
著者等紹介
近藤蕉肝[コンドウショウカン]
1949年、宮崎県日南市生。京都外国語大学(言語学修士)、コロンビア大学(英語教育学修士)、南イリノイ大学(哲学博士、単位取得満期退学)。1980~82年産能大学講師、1986~91年東海大学助教授。1992年から成蹊大学教授。1982~83、ランカスター大学でイギリス政府招聘研究員、1998~2000、ハーバード大学で客員研究員。義仲寺総代、落柿舎評議員、連句協会常任理事、京都府連句協会理事、連句国連代表、伊勢原連句会・慈眼舎連句会主宰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
https://www.muji.net/lab/living/151104.html 【俳句とHAIKU】より
「古池や 蛙飛び込む 水の音」。これは松尾芭蕉が詠んだ有名な一句です。さて、この句を英語に訳すとどうなるのでしょう。
今、海外で俳句が静かなブームになっているとか。今回は日本から海を渡って多くの人々に親しまれようになった「HAIKU」に焦点を当ててみました。
俳句の英訳
Old pond
Frogs jumped in
Sound of water.
上の英語の句は芭蕉の句を英訳したものです。訳したのは作家の小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。島根県の松江に住み、日本をこよなく愛した八雲は、俳句や短歌などの詩歌を翻訳し、海外に紹介したことで知られています。
The ancient pond
A frog leaps in
The sound of the water.
こちらはアメリカ出身の日本文学者ドナルド・キーンの英訳です。蛙は単数(一匹)で、古池の「古い」を「ancient(古代の)」と表現し、「飛び込む」も「jump」ではなく「leap」と訳しています。「leap」は「jump」より高く飛ぶイメージだそうで、その後に来る「水の音」もボチャンと大きくなりそうです。同じ英訳でも、二人の感覚の違いが現れていて面白いですね。
ただ、もうお気づきだとは思いますが、英訳の場合は日本の俳句につきものの「五・七・五」のリズムが失われます。
五・七・五の意味
そもそも俳句はなぜ「五・七・五」なのでしょうか。俳人の長谷川櫂さんの本「決定版 一億人の俳句入門」によると、「言葉には意味のほかにリズム(拍子)と音色がある」そうで、「この言葉の音楽を和歌では昔から調べと呼んできた」そうです。そして、「俳句の『切れ』はこの言葉の音楽、とりわけリズムと密接な関係がある」とのこと。なるほど、俳句を音楽と考えれば、その句にリズムがあるのもうなずけます。
言葉のリズムが「五・七・五」であることは、日本語の母胎となっている「大和言葉」が二音の単語と三音の単語を基本にしているからだとか。「はな、つき、ゆき、はる」などの二音の言葉と、「いのち、こころ、ちから、ひかり」などの三音の言葉を組み合わせると、自然と五音と七音のリズムが生まれるのです。
もちろん、外国のHAIKUに大和言葉のリズムはありません。詩としてのリズムは大切にされますが、必ずしも「五・七・五」である必要はないのです。
HAIKUの魅力
俳句を世界に広めたのは、イギリス人の文学者レジナルド・ブライスだと言われています。「日本俳句研究会」のホームページによると、戦前に英語教師として来日していたブライスは、戦中に収容所に収監されたにもかかわらず、日本国籍を取得しようとしたほどの親日家だったとか。心から日本の文化を愛し、1949年に「俳句Haiku」第一巻を出版して英語圏に俳句を紹介しました。
俳句が海外に広まった理由は、意外なことに「短くて誰にでも作れるから」だとか。HAIKUには「五・七・五」の縛りがなく、季語も必ずしも入れる必要はなく、ルールとしてあるのは全体を三行にまとめることだけ。その精神は非常に大らかで自由なのです。
rainbow of hope
amidst ocean breeze
the lone pine tree
上の句は、第4回「日EU英語俳句コンテスト※」の最優秀賞に選ばれた一句です。
日本語訳は「希望の虹 海風に立つ 松一本」
3.11の大震災を生き残った陸前高田の「奇跡の松の木」を詠んだもので、「五・七・五」になってはいませんが、詩としてのゆったりしたリズムや、言葉の「切れ」による情景の広がりなどは、まさに俳句の世界そのものです。
自由に詠む
日本の俳句にも「五・七・五」の定型を踏まないものがあります。種田山頭火や尾崎放哉が詠んだ自由律俳句がそれです。
分け入っても分け入っても青い山 種田山頭火
咳をしても一人 尾崎放哉
中心にぽんと言葉を置き、そこから四方に広がっていく余韻を味わうような句です。外国で親しまれているHAIKUは、どちらかというとこの自由律俳句に近いのかもしれません。
俳句というと「季語」や「五・七・五」があって難しいと思われる方も少なくありません。でも、定型やルールにとらわれないHAIKUであれば敷居が低く、気軽に始められるのではないでしょうか。
日本から海を渡ったHAIKUは、いまや世界の70カ国で親しまれるようになりました。短い三行の詩に情景や気持ちを込めるシンプルな言葉遊び。奥深い俳句の世界への入口として、まずはHAIKUの門を叩いてみるのもいいかもしれません。
あなたも英語のHAIKUを始めてみませんか。
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