https://chakolate.blog.fc2.com/blog-entry-607.html 【岡田耕治句集 『使命』】より
風光る出口にビッグイシュー立つ お互いの眼を映し鬼やんま
迎えたる場所まで送り藤の花 扇風機顔に七つの穴がある
石鹸の匂いの中の裸かな 大勢のはじめは二人燕子花
一匹が引き返したる蟻の道 白シャツを入れ抽斗を出る空気
露けしや全力をあげ何もせず 始まらぬ学校に来て雀の子
岡田さんの句は春風のように軽やかで幸せの風合いがある。それが悲しい内容を詠んでいても。
『泉』という句集の届き水の秋
拙句集のことを詠んでくださった句と思う。ありがとうございます!
あとがきにこう書かれている。
「…本句集名の「使命」は、課せられた任務という意味で用いられることが多い。しかし、この時に私に去来したのは、文字どおりこの命をどう使うかという問いだった。
句集『学校』と『日脚』は、共に机上の正面から私を視つめている。そこにこの『使命』を立てることによって、日ごとに「この命をどう使うか」という問いを前にすることとする。」
「この命をどう使うか」 それは深い問となって私にも刺さる。
https://www.kangempai.jp/writing/2022/02okada.html 【句集『使命』岡田耕治】より
何を契機としたのか、/いつからか岡田耕治は/緻密な知識人に変貌していた。
実業における良質な/経験の深さなのであろう。
彼にはあらゆる情況を/受け入れる柔軟さと、/それを進捗する意志の力がある。
相手の想いに向き合い、/自らの思想を/丁寧に提示する姿勢。
これはあらゆる場面でも/変わらない。さらに、/いまひとつ指摘しておきたい。
その根底には/少年時代の鮮烈な感性が/今も存在することである。
僕が岡田耕治を/信頼する所以である。
久保純夫・・・・・栞文より
「生んでくれてありがとう」。後部座席に静まっている母に、そう声をかけようかどうしようか迷っていた。二〇二〇年十二月、クリスマスに近づくなか、九〇歳になる母がPCR検査で陽性と判明。一旦自宅で待機していたが、翌日に自宅から車で三〇分ほどの市民病院が受け入れてくれることになった。一般の駐車場ではなく、2階の緊急搬送口の横に駐車して、車内で待つよう指示があった。
今はワクチンの接種が広がったが、この年の暮は医療従事者への接種もまだ始まっていなかった。新型コロナウイルスの感染による死亡が相次ぐなか、母の年齢を思うと今が別れになる可能性が高かった。しかし、この言葉をかければ、入院中の母の中にそれが繰り返しよみがえってくるかも知れない。
岡田耕治・・・・・「後記」より
○帯「自選十二句」より
元号を使わぬ人の蜆汁 春風の後ろへもたれかかりたる
風光る出口にビッグイシュー立つ ノンアルコールビールを春の季語とする
付箋紙が夏の図鑑を膨らます 小説を読み始めたる素足かな
白シャツを入れ抽斗を出る空気 二学期のええやんあんたそのままで
秋の蚊と一対一になっており 葉鶏頭しばらくこの子あずかりぬ
初氷命の音を交わしけり 紙コップほどの交わり年忘れ
○発行所 現代俳句協会 〒101-0021 東京都千代田区外神田6-5-4 偕楽ビル7階
(定価 1,800円+税)◆句集『使命』: 岡田耕治(おかだ・こうじ)◆
http://mkk0076.blog88.fc2.com/blog-entry-462.html 【カロの一冊 着信や春セーターの胸に点く 岡田耕治 】より
着信や春セーターの胸に点く 岡田耕治
「生んでくれてありがとう」。
後部座席に静まっている母に、そう声をかけようかどうしようか迷っていた。
二〇二〇年十二月、クリスマスが近づくなか、九〇歳になる母がPCR検査で陽性と判明。
・・・市民病院が受け入れてくれることになった。
一般の駐車場ではなく、2階の緊急搬送口の横に駐車して、車内で待つよう指示があった。
・・・母の年齢を思うと今が別れになる可能性が高かった。しかし、
この言葉をかければ、入院中の母にそれが繰り返しよみがえってくるかも知れない。
・・・なんの言葉もかけられずにいると、
白い防護服に身を包んだ三人の看護師がフロントガラスに近づいてきた。
岡田耕治『指命』後記より
岡田耕治句集「使命」の後記を、息をつめて読みました。
岡田耕治 「使命」
言語学者として、句誌「香天」代表として、旺盛な句作をはじめ、批評に編集に、誠実な人柄のにじむ岡田さん。岡田さんの2020年代はこのように始まっていました。
私をはなれんとする時雨かな 幾度も受話器をつかむ寒さかな
緊迫していた頃の句。どんなに心配だったでしょう。でも、岡田さんは厳しく自分に客観を課しています。
寒波来るベッドにS字フック足し
がんばられたお母さま。ちいさなS字フックが命をつなぎとめてくれたよう。
初氷命の音を交わしけり
命が戻ってきたよろこびが清冽な言葉になりました。
この難局を、ご家族と岡田さんは、果敢に乗り越えられました。 後記最後には、 本句集を九十三歳の父と、無事退院することが叶った母に捧げます。・・・の文言が。
笑うから幸せになる初鏡 すばらしいセオリです。
しっかりと見つめていたい寒さかな あなたもしっかりして、と岡田さんに言われた
ように思いました。
ちちははのもうやってくる十二月 季節が変われば父母を思う。
冬に入るドッジボールの物語 物語って、すてきなことば。
紫木蓮君とはちがう色を視て 違うからきれいなのですね。
麦秋のどこにも触れず戻りけり なんとストイックでしょう。
ゴッホ「雲雀のいる麦畑」
夏の星タクシーを出る運転手 タクシーは一番星まで。
『泉』という句集の届き水の秋 杉山久子さんの句集『泉』へやさしい秋の返礼。
ノンアルコールビールを春の季語とする 賛成です!
六林男忌の骨が地面を叩きけり 骨の一語にハッとしました。鈴木六林男の忌日は
12月12日。岡田さんは六林男の高弟。その深い
ことばを受け継ぎます。
「使命」は、課せられた任務という意味で用いられることが多い。しかし、この時に私に去来したのは、文字どおりこの命をどう使うかという問いだった。
岡田耕治 『使命』後記
着信や春セーターの胸に点く 岡田耕治 きっと良い報せ。
難しい言葉を避け、誰にも解る言葉で、誰にも詠めない句を詠む岡田さん。
大切にしたいです。自分のことば、そしてみんなのことばを。
岡田さん、ご恵投ありがとうございました。今後ともご指導ください。カロ
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