https://www.sankei.com/article/20200110-TQ2FQ3NM2BLJPIQ5CMKEU2LOY4/?outputType=theme_tokyo2020 【ハンガリーと栃木を結ぶ世界的彫刻家、ワグナー・ナンドール】より
長く栃木県益子町に住んだハンガリー出身の彫刻家、ワグナー・ナンドールの存在が、2020年東京五輪・パラリンピックで県などが同国のホストタウンになったことをきっかけに注目を浴びそうだ。栃木を愛した世界的彫刻家との縁から同国との民間交流を続けてきた県内の関係者は、五輪を通じて関係をさらに深めようとしている。
■知る人ぞ知る
日本人と結婚し移住、日本に帰化したワグナーは益子町を拠点に活動を続け、約20年前に亡くなった。陶器の里で旺盛な創作活動を行ったほか、日本文化に深い理解を示し、県内の文化・芸術振興にも大きな役割を果たした。ワグナーの遺志を継ぎ、県内の芸術振興や同国との交流事業を続けている「ワグナー・ナンドール記念財団」理事で元副知事の小菅充さん(86)は、生前の世界的彫刻家を知る1人だ。小菅さんは「県立美術館の第1号収蔵品『母子像』や、昭和55年の栃の葉国体のメダル原型制作など、県の文化に深く貢献してもらった」と振り返る。
財団は没後20年の事業などを通して、ワグナーの業績を紹介してきたが、東京大会のホストタウンになった県などにも積極的に協力し、同国の文化なども発信している。
「世界的な彫刻家が栃木で創作活動をしていたことを、長い間知る人ぞ知る状態だったことが不思議」と小菅さん。同国選手団の受け入れを通し、ワグナーの業績に改めて注目が集まることや、同国と県が、「歴史や文化などさまざまな交流ができる」ことを期待している。
■ハスとパプリカ
宇都宮城(宇都宮市)のハスを介して同国と民間交流を続けている印南洋造さん(69)もホストタウン決定を喜ぶ。印南さんは平成18年に発足した「宇都宮城跡蓮池再生検討委員会」事務局長。城のハス池跡から発掘された450年前のハスの種から花を開花させ、ハス池の再生に取り組む活動を続けている。
ワグナーの妻、ちよさんから墓前に白いハスを植えたいと要望を受けたことから、12年前から財団に協力。財団が運営する同町のアートギャラリーのほか、同国にもハスを咲かせようと交流している。一昨年、同国を訪れた印南さんは、同国の代表的な農産物、パプリカの栽培環境などを調査。宇都宮市内の小学校にパプリカの苗を配布し児童に味わってもらったほか、パプリカを用いた同国の郷土料理を紹介するイベントを開催するなど、同国と栃木を結ぶ活動を続けている。
「いよいよ五輪本番の年。どうもてなすか、歓迎の機運を県民全体で高めていかなくては」と印南さん。「五輪後の交流も見据え、本当の国際交流につなげていきたい」と力を込めている。
地道な交流が続いている一方で、同国と栃木の縁を知る県民は少ない。県国際交流協会によれば、県内在住のハンガリー人はわずか5人。栃木から同国を訪れる人は多いが、同国から栃木を訪れる人は極端に少ないという。協会では「五輪を機に、相互理解が進み県にも来てもらえれば」と話している。(松沢真美)
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ワグナー・ナンドール 1922~97年。ハンガリー出身の彫刻家。建築家、反戦、平和思想の哲学者でもある。昭和44年、日本に移住。同45年、益子町にアトリエを建設。同50年、日本に帰化した。代表作の「哲学の庭」は、すべての国の人種と宗教の壁を越えた世界平和への表現とした作品。益子町、東京都中野区、ハンガリーのブダペストに設置されている。
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