コロナ禍の文化活動 ― 医学・医療の世界における「協創」と「競争」―

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皆さんこんばんは

ある学会誌の9月号の巻頭言を依頼され、その原稿を自分でパクって地元の文化協会誌の原稿を書きました。(わかりにくいですか?)。お題はコロナ感染症です。ちょっと長いんですが、よかったら読んでみてください。ことわっているので二重投稿ではありません(笑)。

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文化協会用原稿2021

コロナ禍の文化活動

― 医学・医療の世界における「協創」と「競争」―

屋代 隆

著者はある研究者のお誘いで、「協創&競争サステナビリティ学会」という面白い学会に会員として参加している。設立してまだ数年という新しい学会である。その紹介には「本学会は、知的資産を創成し活用する局面において生じる学術的かつビジネスの諸課題を抽出し、協創& 競争の持続可能性の観点から、それらの諸課題の解決に資するための調査研究を行うことを目的として設立いたします。」と記述されている。知的資産(知財)の概念を環境、社会、統治の金融に関するビジネス分野の垣根を越えた課題、地球サイズのSDGs(持続可能な発展目標) に基づく課題の体系化の要請等の多様な社会環境の諸問題から考えてみよう、という学会である。会員は法学、経済学、経営学、システム工学等の多方面の研究者から構成されているが、私は珍しくも医学・医療系からの参加である。その学会誌である「場の科学」に、現在地球上で私たちが直面しているCOVID-19(新型コロナ感染症)に関する原稿執筆を依頼された。その執筆は7月中旬であり、諸データも含め論議のアップデートは必須であるが、ここにそれをそのまま紹介したい(無論、学会事務局の許可は得ている。)。ある意味で、今回のお題である「コロナ禍の文化活動」にぴったりの内容であると信じる。

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本学会代表理事の菊池先生が書かれた本誌第一巻の巻頭言の中に、『「協創」と「競争」のダイナミックな「場」を科学する。』、とあった。私のようなごく一般の医師・医学研究者にとっては、肩が凝りそうな説明である。一方、同じ文中に「科学することの本質は、広く情報を発信する事、そして、多くの方々から情報を受け取る事であると考えます。つまり、 科学することは、対話することであると考えます。」ともあった。これはわかりやすいし、まったく同感である。ここで、「医学・医療」の世界から、「協創」と「競争」に関して情報を少しばかり発信してみたい。普段私が接することが少ない本学会会員の法学、経済学、経営学、システム工学、社会心理学、情報工学などのご専門家との対話を是非ともお願いしたいと希望している。

数年前に、本学会副代表理事の川上正隆氏の依頼で、「特許による保護がなされない医療分野」と題するお話をとある勉強会でさせていただいた。我々医師・医学研究者が「知的財産制度」をどのように考えているか、という課題でもあった。考えてみると、我々の分野には、知的財産制度で手厚く保護される「創薬(分野)」と保護されない「医療技術(分野)」が不思議に同居している。詳しく分類すると、特許で保護されないのは、1)医療技術:手術方法、治療方法、診断方法の開発であり、保護されるのは、2)創薬、3)診断、治療用の医療機器の開発、4)将来臨床応用が想定される基礎医学研究から得られる知見、の四つがある。例えばどんなに素晴らしい癌の新手術法を開発しても、知財法で保護されないのである。

しかし、古今東西、それこそ2,500年前のヒポクラテスの時代から、医師・医療人は知財の概念で1)が保護されないことを当たり前のこととして受け入れてきた。逆説的に言えば、そのことに誇りさえ持っている。唯一求めているのは、誰が開発したのか・・、という栄誉だけである。と同時に、希望する者がいれば、喜んでそれを無償で伝授してきた。「皆で患者さんを救おう・・・」、としているのである。これは、「協創」以外の何ものでもないと思う。一例をあげる。私の自治医科大学の研究室で学生時代に基礎研究の研鑽を重ねた有名な眼科医がいる。すこしオーバーに言えば、彼が開発した小さな手術器具によって、日本は世界一の白内障の手術数を誇る国になった。年間国内で100万件という世界一の数を誇っている。そのプレチョップ法と言われる手術には、プレチョッパーという特殊な手術器具が必須である。彼はこれを開発したのであるが、あえて特許はとらなかった。世界の数多く国で数多くの眼科医に利用されることを願ったからである。そしてその通りになった。数多くの患者さんを失明の危機から救っている。

一方、今世界にパンデミックをもたらしている100年に一度の発生と言われる感染症Covid-19であるが、その解決の切り札はワクチンである。その有効性を論じるのはやめるが、一年前の今頃は、ワクチンができるのに最低二年はかかる・・・、と多くの医師、医学研究者が言っていた。しかし、どうであろうか、なんとその後半年もかからず昨年末には有効なワクチン製造に成功した。その原動力は、ファイザー、モデルナ、アストロゼネカ、ジョンソン&ジョンソン等の各社と関連研究機関の努力にあることは間違いない。そして、それらの間に激しい「競争」があったからである。(もちろん開発に携わった研究者諸氏に、敬意を表したい。)

一つ心配していることがある。欧州、北米地域では、Covid-19の原因ウイルスSARS-CoV-2に対する社会免疫を獲得しつつあり、日本も少し遅れて獲得するであろう。半年後には一般生活もほぼ以前に戻れることが期待される。しかし、アジア・アフリカ、特に多くのアフリカ諸国はどうなるであろうか。アフリカ開発銀行HPによれば、2021年7月11日時点でのアフリカ大陸における累計感染者数は、591.9万人であり、1週間で12%以上上昇しているという。この日の新規感染者数は28.4万人で、世界全体の9.4%だそうだ。ワクチン接種率が最も低い国は、やはりアフリカ大陸に多い。OECDに加盟しているような諸国では、ウイルスの集団免疫が獲得できる60-70%以上の接種率はそれなりに達成できるが、アフリカ諸国の現状では予算、マンパワーの点で達成はできそうにない。現時点で、全アフリカの接種率は10億余の人口の1%にも満たないという。WHOもそれらを考慮し、ワクチン製造に関する特許を外すアピールをしているが、各メーカーは当然ながら賛同していない。賛同がなければ一接種あたり数十ドルの費用が発生するのでワクチン接種率は伸びず、さらなる感染拡大は避けられそうにない。数10万から100万単位の犠牲者が出ることになる。

これまで世界中で400万人もの方が亡くなられており、さらにこの数字が上昇することが予想されるCovid-19のパンデミックの中に我々はいる。このような時こそ「競争」と「協創」のバランスが要求されている、ということを実感している。菊池先生は前述の巻頭言で、「社会価値を分け合うには新たなルールコードを定めた競争の場が必要になる。」、そして「協創の場と競争の場のルールコードは違うのでしょう。」とも述べている。パンデミックにより多くの人の健康と生命が脅かされている今こそ、その視点に立脚した「ルールコード」が必要であろうと思う。少なくとも、有事であるから・・・。

追記:各種の国際機関(世界銀行、ユニセフ等)が、アフリカ大陸におけるワクチン接種の支援を始めている。期待したい。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

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吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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