Truffle

http://cse.ffpri.affrc.go.jp/akema/public/mycorrhizalfungi/truffle.html  【トリュフのこと(ちょっとだけ)】より

私はトリュフの研究は行っていません。

それでも多少は役に立ちそうな情報もあるので、メモ程度に紹介しておきます。が、こんなページを読むより、ポルチーニのところで出てきた「キノコ・ワールド最前線」を読むほうがいいかも知れません。この項目の主要ネタ本の一つですし。

トリュフ、仏語 truffe、英語 truffle は、いくつかの辞書によると件の「キャビア、フォアグラ、トリュフ」と称される匂いのきつい地下生きのこ、または丸いチョコレート菓子を意味します。あ、仏語は調べてないんだった。まあとにかく、少なくとも私にはあんまり身近なものではないので、鼻と舌で知っているわけでもなく具体的なイメージがありません。なので、「これがトリュフですよ」と言われても「はあそうですか」としか答えられません。これはちょっと困ります。というわけで少しだけ調べてみました。食べてみました、と言えればいいんですが、うーん。

いわゆるトリュフは、子嚢菌の Tuber セイヨウショウロタケ属のきのこです。が、truffle という言葉で地下生菌を全部ひっくるめて呼ぶこともあるようです。こういう用法はあまり辞書には載っていませんが、きのこ関係者は時々そういう使い方をします。翻訳の間違いが起こりやすい点ですね。ちなみにWikipedia(英語版)にはこの用法が載っていましたが、私が普段使っている英和辞典や英英辞典にはありませんでした。

また、「デザートトリュフ」という名前で呼ばれるきのこもあります。デザートといってもスイーツ(笑)じゃありませんよ、沙漠(砂漠)の方です。「沙漠トリュフ」と呼ぶべきかも知れません。といって「サバクトリュフ」というきのこがあると思われると困るので、「沙漠のトリュフ」とでも書くべきでしょうか。おそらく「荒れ野のトリュフ」といった方がより実体を表しているはずです。これにはいくつかの属のきのこが含まれ、比較的よく知られているのはイモタケ属のきのこです。イモタケTerfezia giganteaは日本にもあります。これは形こそ似ていなくもないものの(土の中にできるごつごつした団子状のきのこってだけですが)、セイヨウショウロタケ属とは科のレベルで異なる別物です。

きのこマニアでもない一般の方の関心が高いのは恐らく「キャビア、フォアグラ、トリュフ」と並び称されるあのトリュフの方でしょうから、ここで扱うのはそれに相当するセイヨウショウロタケ属のきのこに限定します。

これまでずっと「セイヨウショウロタケ属」だなんてイカさん名前やなぁ、と思っていたのですが、トリュフ属にしてしまうとこういう場面で再帰的にわけの分からない状況を作り出してしまうかも知れず、実は結構いい名前だったのかも知れません。

セイヨウショウロタケ属の「トリュフ」の仲間には、実は結構たくさんの種類(生物として異なる種)があります。地下生菌なので見つかること自体が少なく、まだまだ未記載種もたくさんあると思われます。そして、その全てが食用になるわけではありません。

なお、この間入手したトリュフ本"Taming the Truffle"を見ると、以下にあるマイナーなトリュフについてはかなり大幅に書き換える必要がありそうです。ちょっと古い情報かも知れないことをお含み置き下さい。

食用きのことしての「トリュフ」は、外側の皮が黒いか白いかで大きく二つのグループに分けられます。「黒トリュフ」と「白トリュフ」です、ってそのまんまかい。

高級フレンチ食材となる黒トリュフにも、いろいろな種類があります。一応私の知る限り一番偉いのが T. melanosporum で、きちんとした和名は聞いたことがありませんが、「ペリゴールトリュフ」という呼び名は他と区別が付くという意味では一番間違いないでしょう。「キャビア、フォアグラ、トリュフ」という場合の(こればっかりやな)トリュフは、本などを見る限りこの「ペリゴールトリュフ」です。というわけで T. melanosporum の和名は「ペリゴールトリュフ」ということでよろしく。

これに次ぐのが「冬トリュフ」T. brumaleで、その他の食用黒トリュフには「夏トリュフ」T. aestivum、「紫トリュフあるいは秋トリュフ」T. uncinatumやT. mesentericum、「中国トリュフ」T. sinense、「インドトリュフ」T. indicum といったものがあるそうです。このうち「紫トリュフ」とされているのは英名で"Burgundy truffle"ですから「ブルゴーニュトリュフ」と言った方がいいのかも知れません。写真で見る限り Tuber uncinatum は紫色には見えませんから、本種の和名は「ブルゴーニュトリュフ」ということにしましょう。

専門家の間で議論されて、あるいは権威ある先生が提唱して学界に認められた和名としては、T. aestivum にはアミメクロセイヨウショウロ、T. indicum にはイボセイヨウショウロがあります。後者は日本でもしばしば見つかっていますし、中国でも生産されています。

もう一方の白トリュフは、高級イタリアン食材です。一番偉いのが T. magnatum で、「ペリゴールトリュフ」のさらに数倍の値段だそうです。もちろん用途が違うので金額を基準に優劣を言うのは無意味です。このきのこについては「ピエモンテトリュフ」という呼び名が「キノコ・ワールド最前線」に紹介されています。イタリア北西部のピエモンテ州(英名Piedmontピードモント)から中部アペニン山脈にかけて採れるそうです。もう一種 T. borchii も食用にされています。それぞれ和名はシロセイヨウショウロ、チャセイヨウショウロです。

上記をまとめると、食用きのことしてのトリュフはこんな感じになるみたいです:

黒トリュフ(フレンチ食材)

「ペリゴールトリュフ」

「冬トリュフ」

その他のトリュフ(日本で採れるイボセイヨウショウロを含む)

白トリュフ(イタリアン食材)

「ピエモンテトリュフ」シロセイヨウショウロ

チャセイヨウショウロ

といっても現地で見聞してきたわけではないので、読みかじりの二次情報に過ぎません。

ものによっては学名以外に二つも名前があって紛らわしいと言われるかも知れませんが、食品としての名前と生物としての名前は必ずしも一緒ではありません。そういう例は決して珍しいものではなく、例えば野菜の「アスパラガス」は植物としての和名でいえば「オランダキジカクシ」です。なお、ここに挙げた名前には、英語名を日本語に直訳したもの(中国トリュフとインドトリュフは後述する海外の文献にあった英語名の和訳)のほか多くは「キノコ・ワールド最前線」に基づいており、なんの根拠もなく私が捏造したものはありません。ていうかそんなこわいことようしません。最近思うところあってそこそこの根拠があれば和名を提唱してみることにしました。誰も相手にしてくれなければ消えるだけのことです。

「トリュフは栽培できないから高い」と言われることがありますが、これは間違いです。黒トリュフのうち最高級とされる「ペリゴールトリュフ」は栽培されています。しかし、原木や培地に菌糸を植えておこなう栽培ではありません。そのような栽培方法は、少なくともきのこや菌根の研究者の間では知られていません。実際に行われている栽培方法は、トリュフの共生相手となるカシなどの樹木を果樹園のように植えて、その地下にきのこを作らせるというものです。面積・時間あたりの生産性はあまり高くないので、単価が高くないと引き合いません。

接種方法としては、「ペリゴールトリュフ」は完熟子実体をすり下ろした胞子懸濁液による接種が一般的です。「ペリゴールトリュフ」を接種する相手は、たいていの場合ハシバミかカシの仲間です。ハシバミはクローンが使えるそうですが、カシ類はクローン増殖が難しいので実生を使います。発芽後3ヶ月とか半年とか。トリュフ汁に根っこどぶ漬けで接種、なんて報告もありますが、濃厚すぎると腐って根を傷めたりトラブルを起こすかも知れません。日本ではマイナーな花木のハンニチバナ科、ゴジアオイとかシスタス(キスタス―「死す足す」「キス足す」ってあんた…知らなきゃしょうがないか>かな漢字変換システム)とか呼ばれる仲間ですが、これとも共生します。

なお、トリュフ栽培の権威 Dr. I. Hall の論文によると、「ピエモンテトリュフ」については胞子による接種はあまりうまくいかないそうです。一番値段が高いのに、残念。別の文献によると、胞子では非常に歩留まりが悪いので、うまくいったものがあれば根から根への感染によって増やすとか。

「ペリゴールトリュフ」は石灰岩地帯のアルカリ性土壌を好むため、南半球のトリュフ園では土壌に大量の石灰を投入して無理矢理アルカリ性にしたりしているそうです。しかしトリュフがみんなそういう土壌を好むとは限りません。あと、「ペリゴールトリュフ」は日本で採れたという話を聞かないので、「外来生物」ということになります。そのため日本に「ペリゴールトリュフ」を導入して南半球式トリュフ園を開こうとするといろいろまずいことがあるかも知れません。え?「日本にもあるよ、ほらこれが証拠の現物、だから栽培してもいいよね」って?いやあの、トリュフだけ見せられたってそれが本当に日本で採れたものであって輸入品じゃないって証拠ないじゃないですか…(もちろんそんなもの見せられたことありませんが)。

一応参考文献の一部を。「キノコ・ワールド最前線」の他、I. Hall らの "The Black Truffle Its History, Uses and Cultivation" (2001) ISBN 0-478-10824-9 と、"Edible Mycorrhizal Mushrooms and their cultivation" (2002) ISBN 0-478-10829-X (いずれもCD)を元にしています。「トリュフ本」はI. Hall, G. T. Brown and A. Zambonelli "Taming the Truffle" (2007) ISBN-13:978-0-88192-860-0です。タイトルを訳すなら「じゃじゃトリュフならし」とすべきかな。あとゴジアオイについてはGiovannetti and Fontana (1982) New Phytol. (1982) 92, 533-537 です。"The Black Truffle.."は普通の銀色をしたプレスCD-ROMでしたが、"Edible..."は元々国際会議のプロシーディングということもあってか、なんと裏が青緑色のCD-Rでした。ってことは注文受けてから焼いてるのかな。なんかピザみたいですね。

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