雲って何だろう

https://diamond.jp/articles/-/43101 【雲って何だろう~身近な「なぜ」を探究する[1]】

なぜ「天高く馬肥ゆる秋」なのか?

 教科書で出合うこの「天高く馬肥ゆる秋」という諺(故事成語)、その「意味」や「理由」を説明できますか?

 元は中国初唐の詩人、杜審言(としんげん、645年~708年)の詩『蘇味道(そみどう)に贈る』から来ています。杜審言はかの杜甫(とほ)(*1)の祖父にあたります。近体詩の基礎を作った人物です。そこで彼は「雲浄(きよ)くして妖星(ようせい)落ち、秋高くして塞馬(さいば)肥(こ)ゆ」と書きました。見慣れぬ怪しげな言葉が入っています。

 ●妖星:彗星もしくは大きな流星。凶兆とされていた

 ●賽馬:北方の馬

 秋に雲が少なく、空が澄み切って高く見えるのは良いとして、それがなぜ凶兆であり、そして特に北方の馬が大きく育つと言うのでしょう?

これは実は「匈奴(きょうど)の侵略に備えよ」という警句だったのです。中国において北方の騎馬民族は常に頭痛の種でした。それが収穫の秋になると、大挙して略奪にやってくることを、前漢の趙充国(ちょうじゅうこく、BC137年~BC52年)は見抜き、「馬が肥ゆる秋には必ず事変が起きる、今年もその季節がやってきた」と北方を警戒していました。杜審言はそれを詩としたのです。

なんとこの秋の時候の挨拶「天高く馬肥ゆる秋」が、もともとはそんな軍事的緊張感バリバリの文句だったとは……。

*1 律詩の表現を大成させた。中国文学史上最高の詩人「詩聖」と称される。「国破れて山河在り」の「春望」など。

なぜ秋、天は高いのか?

 秋に天が高いのは良いとして、と書きました。本当でしょうか? 本当だとしても、なぜ秋、空は高く思えるのでしょうか。

まず秋の空は「雲浄くして(雲が少ない)」なのか、快晴(*2)率で比べてみましょう。このグラフは、東京の月別快晴率(雲量1.5未満の日/月日数)です。

 晴天率が圧倒的に高いのは、秋でなく冬。秋たけなわの10月の晴天率は9%(月に3日弱)で、春3~4月と同程度です。太平洋側であればこの傾向は大体同じ。日本海側では冬の晴天率は激減しますが、やはり秋の晴天率は、春のそれ以下であることに変わりはありません。

少なくとも日本において、秋、空が特別高く感じられるのは、「雲が少ない」せいではないということです。そう、本当の理由は「雲の種類」ですよね。中学校の理科で習ったあれです。

*2 「快晴」とは雲量が1以下の状態。雲量2~8の状態が「晴れ」。空の何割が雲に覆われているかで示す。

秋の雲はどんな雲?

 雲にはいろいろな種類がありました。主には10種。夏モクモクと立ち上がる夏の積乱雲(入道雲ともいう)。長雨を降らせる梅雨や初秋の乱層雲(あま雲)。低く東京タワーや高層ビルを隠す春の層雲。

出所:山と比べる10種の雲のできる高さ(写真集『雲三昧』より)

 そして、秋本番登場するのが、巻雲(すじ雲)や巻積雲(うろこ雲、いわし雲、さば雲)、高積雲(ひつじ雲)(*3)などです。これら秋の雲は、高度5000メートル以上に現れる雲でした。

最上層に住む、巻雲の上端(*4)は高度1万5000メートル。エベレスト山を2つ、重ねたくらいの高さです。そこはもう、大気がまともに存在する対流圏の外縁。ジェット機が飛べるのもここまでです。空気中に水分は少なく、気温はマイナス40℃以下。だから巻雲の本体は小さな氷晶であり、水粒ではありません。

その氷晶が落ちながらゆっくり蒸発(液体でなく固体だから蒸発しにくい)し、高層の強風(正確には高度による風速差)に流されます。なので、巻雲にはきれいな白い尾がなびいているのです。

快晴の空は気持ちのいいものです。でも「高さ」はわかりません。対象物がないからです。でも、秋の空は澄んでいて、しかもその先にどの季節よりも「高い」雲たちを飼っています。ヒツジやらイワシやらサバやら……。だから、高く見えるのです。

 空の高さは、空が決めるのではなく、雲が決めていたのです。

*3 高積雲は2000~7000メートル。

*4 「快晴」とは雲量が1以下の状態。雲量2~8の状態が「晴れ」。空の何割が雲に覆われているかで示す。

空を映す壁

 こんなことを考えたのは、東京山手線の大崎駅でのことでした。乗り換えに失敗し(笑)、しばらくホームに佇んでいました。秋の爽やかな午前中でした。空は青く、そこにはモコモコとした積雲が浮かんでいました。

ホームの前にはビルがあり、その外壁はハーフミラーのガラスで覆われていました。そしてそれが、空を映していたのです。

 いや、雲がなければ、きっと私はそのビルがそこにあることすら気がつかなかったでしょう。空が青一色だったら、ビルも青に染まり、ただそこに屹立(きつりつ)するふつうのビルとして、認識するのがせいぜいだったでしょう。

雲がそこにいたから、わかったのです。このビルが、「空を映す壁」だということが。中で働くヒトたちには味わえない、SF映画の一シーンのような風景でした。

顔を上げ、周りを見渡して風景を味わいましょう。そしてそこに潜む意味や理由を、探究するのです。

参考サイト・図書

「たった10種類だけの無限 雲の名前を覚えよう。」自然人.net

「過去気象データ検索」気象庁HP

「お天気豆知識 巻雲」バイオウェザーサービス

「故事ことわざ辞典」

コズミックホリステック医療・現代靈氣

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