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✨秋山弘子氏「日本は幸福な長寿社会モデルの先駆けになれる」🌈
https://www.minnanokaigo.com/news/special/hirokoakiyama1/
日本が高齢化に突入した頃、東京大学名誉教授である秋山弘子氏はジェロントロジー(老年学)が芽生えていたアメリカに渡り、1978年にイリノイ大学でPh.Dを取得📚米国国立老化研究所研究員、ミシガン大学社会科学研究所教授などを経て、1997年より東京大学大学院で教鞭をとっています👩🏫超高齢社会の問題が山積する日本で、今求められることを伺いました🎤
https://www.minnanokaigo.com/news/special/hirokoakiyama1/?fbclid=IwAR3jiX7ShY6gOnqNPKPujpR45YUkDltvHo8p2d1nAJEsyT4LMEQHzz-NADQ 【賢人論】より
日本が高齢化に突入したのは1970年代から。その頃はまだ高齢化問題は日本の大学においては研究・教育の対象ではなかった。しかし、東京大学名誉教授である秋山弘子氏は当時から問題意識を持っていた。そしてジェロントロジー(老年学)が芽生えていたアメリカに渡り、1978年にイリノイ大学でPh.D(心理学)を取得。米国国立老化研究所研究員、ミシガン大学社会科学研究所教授などを経て、1997年より東京大学大学院で教鞭をとる。長年高齢化の問題と向き合ってきた秋山氏は、超高齢社会にある日本で今何が必要だと考えているのか。お話を伺った。
取材・文/みんなの介護
人生100年時代、個人・社会・産業界それぞれの変革を
みんなの介護 ジェロントロジー(老年学)を専門にされたきっかけをお聞かせください。
秋山 幼い頃から高齢の方と接することが多かったのです。そのため高齢者の日々の生活における喜びや悩みに関心がありました。私が育った家は祖父母が隠居して離れに住んでいました。そこにご近所さんや親戚のお年寄りが来ていろいろなことを話していました。
私は初孫だったのでとてもかわいがられて育ち、祖父母がいる離れで1日過ごすことも多くありました。高齢者の喜び・不安・寂しさなどを身近に感じる環境で育ったのです。
その後、1970年代の初頭にアメリカの大学院に留学して30年近くアメリカで過ごしました。私が留学したのは日本の高齢化率が7%になり高齢化社会に突入していくタイミングでした。有吉佐和子さんの『恍惚の人』という本がベストセラーになった頃です。
認知症になったお舅さんのために介護離職をした中年女性の話が克明に書かれています。この本で高齢社会の課題を多くの人が意識するようになりました。
私は心理学を勉強していたのですが、当時の発達心理学の対象年齢は20歳ぐらいで止まっていてその後はありませんでした。身体の老化や成人病(のちに生活習慣病と改名)の研究が始まっていた医学の分野以外では高齢者研究はあまり注目されていなかったのです。
このような時代に私はアメリカに留学しました。そしてジェロントジーというアメリカにおいても萌芽期の学問があることを知って専門にする道を選びました。高齢者は急速に増えるのに、高齢化問題を研究・教育する大学は日本になかったからです。
みんなの介護 秋山さんは超高齢社会の課題はどこにあるとお考えですか?
秋山 私は常々、高齢社会の課題は大きく分けて3つあると申しています。「個人の課題」と「社会の課題」と「産業界の課題」です。
長寿時代に生きる個人の課題は、お決まりの人生コースに沿って生きるのではなく、100年の人生を自ら設計して舵取りをしながら生きる新しい生き方に切り替えていくことです。社会の課題は人生100年時代のニーズに対応すること。社会の仕組みを見直していくことが必要です。
今私たちが生きているまちは人生50年・60年と言われた時代にできたものです。この頃は子どもたちが多く、高齢者は5%ぐらいしかいませんでした。そのため住宅・交通機関・教育・雇用・医療・介護などソフトとハードのインフラを長寿社会のニーズに合うように整えることが求められています。
産業界の課題は、人生100年時代の生き方や社会に合わせたモノやサービスをつくることです。個人や行政がいくら新しい生き方やまちづくりを考えても、それに必要なモノやサービスやシステムがなくては実現できません。
日本はほかの国に先駆けて長寿社会の課題に直面します。急速に高齢化したため課題は山積していますが、モデルがありません。
しかしこれを逆手に取ることもできます。長寿社会に対応する新しい産業を、日本の基幹産業の一つに育て上げていくのです。今や地球丸ごと高齢化しており、大きな市場があります。
長寿社会の課題解決には「産官学民」の共創が必須
みんなの介護 学問の垣根を越えて研究を進められているからこそ、可能になることもありそうですね。
秋山 超高齢社会の問題はさまざまな学問が連携しなければ解決不可能です。また学問だけではなく、行政や産業界とも力を合わせて向かい合う必要があります。超高齢社会では医療・介護の問題だけでなく移動手段・雇用制度・お金の問題など複雑で多様な問題が山積しています。
従来の細分化された学問分野で論文を書くだけでは、人々の生活は豊かになりません。幸せにもならないです。課題解決のためには、学際的に連携していくことが必須です。アメリカのジェロントロジー研究所も学際的な組織として運営されています。
みんなの介護 研究結果が実際に社会で生かされることが大切なのですね。
秋山 そうですね。私が今関わっている東京大学の高齢社会総合研究機構でもアクションリサーチを大切にしています。アクションリサーチは、現場に行って住民や行政、産業界と一緒になり課題を解決していく取り組みです。
私は長い間調査研究を行い、「高齢社会の課題は何か」を見つけることに専念してきました。
典型的なものは1987年にアメリカの大学にいたときに始めた、パネル調査と言われる全国の高齢者調査です。
これは同じ人(約6,000名)を3年ごとに追跡して行う調査です。個人が年をとるに従って、その人の健康・経済・人間関係がどのように変化していくかを追跡しています。これにより、超高齢社会の実態と課題を捉えることができます。30年間続けており今年は10回目の調査になります。
しかし、実際に問題を解決するために大学はもっと貢献していかなければいけないと強く感じました。そして15年ほど前に高齢社会総合研究機構の設立に携わったという経緯があります。
そこで取り組んだのがアクションリサーチです。東大は多くの学問分野が集積する総合大学なので、さまざまな分野の教員が連携して取り組んでいます。
人生100年時代に合った社会へつくり変えよう
高齢者がいくつになっても無理なく働ける環境づくりを
みんなの介護 長寿社会になったことで、秋山さん自身変化の必要性を強く感じていることは何ですか?
秋山 私が特に力を入れてきたのは「働く」ということです。働くことに関して言えば、私の父の時代は定年が55歳でした。現在は65歳定年への移行が進んでいます。今年の4月から、70歳まで就業機会の確保が努力規定として企業に課せられました。
私たちは長生きするだけでなく、元気で長生きするようになりました。老化の簡便な指標として国際的に認められている「歩くスピード」もかつてに比べてとても早くなりました。握力もそうです。認知能力が低下し始める年齢も遅くなっているデータがあります。
高齢者が受けてきた教育年数も増加しました。前世代の高齢者に比べて健康で教育も受けている今日の高齢者には「できれば現役でありたい」と願っている人たちが多くいます。
しかし「あなたは定年だからもう終わった人」というふうに扱われています。このような日本の雇用制度は変えていかなければいけません。
人生の後半戦はマラソンの後半戦と同じで、ばらつきが大きいです。体力も自由になる時間も違います。24時間全部自分の時間という人もいる一方で、介護やお孫さんのお世話で時間の制約がある人もいます。経済状態もライフスタイルもさまざまです。
みんなが無理のない範囲で働いて、社会を支えていくことが大切です。まして、生産年齢である若い世代の人口が急速に減っています。
財務省の「高齢者1人を現役世代何人で支えるか」を示した表を参考にしていただくとよくわかります。胴上げ状態だったものが騎馬戦となり、このままいくと肩車になります。下手すると上の方が重い重量挙げのようになるでしょう。
幸いなことに日本の高齢者には「上にいて誰かに支えられるのではなく、下で人を支える側でありたい、現役でありたい」と願っている人が多いのです。
働き手としての高齢者は多様です。いろいろな働き方ができるようにすることが大切です。みんなが無理のない範囲で働ける柔軟な雇用制度に切り替えていくことです。ちょうどコロナ禍でテレワークが一般的になり、働き方の変化を後押ししました。
みんなの介護 ほかにはどんな課題があげられますか?
秋山 移動手段は大きな課題です。日本の高度経済成長期に、多くの団塊の世代の方たちが地方から仕事のある大都市に出て来られました。そして住まわれたところが、かつてニュータウンと呼ばれた丘陵地にあるベッドタウンです。ベッドタウンは車があることを前提にしてつくられました。
団塊世代が75歳に到達しようとしています。車の運転が難しい人が増えてきています。買い物難民、医療難民と言われるように、移動手段が非常に大きな問題になっています。
ただ単に、良い移動手段が開発されれば解決するという話ではありません。情報システムの面から、遠くまで行かなくてもいろいろなことができる環境を整えることは可能です。例えば仕事は職場まで通わなくてもテレワークでできる時代になりました。市役所の手続きもデジタル化しています。そのような情報システムの活用がもっと行われていく必要があるでしょう。
デジタル化では高齢者のITリテラシーが一つのハードルになっています。誰もが使いやすいデバイスを開発するとともに、高齢者自身もITを積極的に学んでいく仕組みが必要です。
高齢者のIT活用で一番大切なのは「互いに教え合う」こと
みんなの介護 「高齢者の方がデジタルに慣れる仕組みづくり」は超高齢社会のテーマですね。
秋山 それについては、高齢者同士がお互いに教え合うのが良い方法だと感じています。これは「鎌倉リビングラボ」というオープンイノベーションのプラットフォームの実験で感じたことです。ここで「ITを学びやすくするためにどういう方法が一番良いか」を高齢者自身に考えてもらいました。「お互いに教え合う」というのは、住民の方たちから出た意見です。
高齢者がデジタルに親しむために、総務省もいろいろなことをしてこられました。例えば携帯ショップや行政のパソコン教室、お孫さんに聞くなど、いろいろな方法がありました。しかし、なかなかうまくいかない。家族には「この前言ったじゃない」とうるさがられるから、聞きづらいという現状があります。
そこにあって「互いに教え合う」というのは、それぞれの状況に合わせてできることです。スマホの使い方をよく知っている人は、それをほかの人に教えます。少し知っている人は、わからないことは知っている人に聞きます。自分が知っていることは周りの人に教えてあげます。これを日常生活の場で行います。例えば、ラジオ体操・サークル活動・イベントなどで会ったときに教え合うのです。
「スマホ教室」では「カリキュラムがきっちり決まっているから、すでに知っていることやいらないことが沢山あるけど、本当に知りたいことは教えてくれないんだよね」という声がありました。ですので「日常生活の中で会ったときに、その日わからなかったことをちょっと訊く」というのは、一番高齢者の方のニーズに合うのかもしれません。
北欧では今8割ぐらいの高齢者がICTを使えますが、お互いに教え合う方式をとっているそうです。私たちは「鎌倉リビングラボ」の住民の声から考えたので、ヨーロッパのやり方を真似たわけではありません。しかし、図らずも同じ方法が高齢者の方々に受け入れられています。やり方が確立したら、マニュアルをつくってほかの地域でも使えるようにしたいと思っています。
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