http://anzenmon.jp/page/10243168 【その14 瞑想のパラドックス】より
ビル・モイヤーズの著書『こころと治癒力(一九九三年、邦訳・草思社)』のインタビューの中で、ジョン・カバット= ジンは、瞑想の目的とは何かと問われてこう答えています。「瞑想に目的はありません。目的を与えたとたん、瞑想は〝どこかへ向かう〞とか、〝何かの目標を達成する〞といったほかの行為となんら変わらないものとなってしまいます」
そして、さらに質問を深められると、カバット= ジンは、「マインドフルネスに基づくストレス緩和プログラム」の患者たちがそれぞれ何らかの目的をもってクラスに参加していることを認めた上で、次のように説明しました。「でも皮肉なことに、ここで大きな成果をあげているのは目標を達成しようとしている人ではなく、ただ一心に瞑想を通じて今このときに起きているできごとを受け止めている人なのです」恐怖や不安と上手に付き合う
あなたがこの本を読んでいるのは、おそらく恐怖や不安、パニックなどの感情を克服したいという気持ちがあるからでしょう。あなたには明確な目的と目標があるわけです。そしてきっとこれまでも日々の生活を送るなかで、恐怖や不安、パニックという感情の持つ力について学んだり、それを克服し、取り除くために、ありとあらゆる努力をしてきたことでしょう。不安やパニックから抜け出すには瞑想がいいと、誰かから勧められた人もいるかもしれません。すべてもっともな話です。
瞑想のパラドックス
けれども、ここで気をつけなければならないのは、何かを取り除く目的でマインドフルネスを利用しても効果は得られないということです。何も判断せず、努力をせず、否定をしないのがマインドフルネスです。マインドフルネスを発揮するとは、今ここにあるものと結びつき、思いやりと慈しみの気持ちで意識を向けてそれを受けとめることです。恐怖や不安、パニックなどの体験も今ここにあるものの一部です。
ですから、不安やパニックをマインドフルネスで撃退してやろうという「ひそかな目標」を抱いている人は、今ここで体験しているものを受け入れるのがマインドフルネスであることを今一度肝に銘じてください。瞑想中にいらだちを覚える原因は、たいがいこの何かを取り除いたり変えたりしたいという目的意識です。確かに、瞑想によって変化は現れますが、それは不安やパニックなどの心をかき乱される不快な精神状態を注意と意識を向けて受け入れる場合だけです。
瞑想では、何かをすることではなくただそこに存在することで、目標が達成できます。瞑想を通じて恐怖や不安、パニックを始めとした日々の暮らしのなかで生じる苦痛にうまく対応できるようになるためには、次のようなマインドフルネスの基本事項を押さえることが大切です。
・すべてのことは今というこの瞬間に起きている。
・恐怖や不安、パニックは今この時に起きているできごとにすぎない。
・瞑想とは、心身を穏やかに保ちながら注意を集中して、意識をする力を養いつつ理解と知恵をはぐくみ、思いやりと慈しみの心を活性化させる内なる変化のプロセスである。
・恐怖や不安、パニックに対して正しいやり方でマインドフルネスを発揮することにより、それらの体験から得られる教訓をはっきりと理解し、自分のとるべき行動がみえてくるようになる。
ここに、マインドフルネスのもう一つのパラドックスがあります。それは瞑想を通じて変化を起こしたいなら、その何かを変えたいという気持ちを捨てなければならないということです。あなたに必要なのは、今このときに集中することだけです。今という瞬間のあるがままの状態に十分注意を集中するのは、なまやさしいことではありません。そのためには、人生の不思議さと美しさにじかに触れ、それを心から感じ取らなければならないのです。変化はこの結びつきと意識から生まれます。
不快な体験を受け入れる
恐怖や不安、パニックは御しがたい感情です。それは、あなたの内的世界を根底から覆してしまうこともあり、とても不快で強烈なものであるため、広い心で受け入れるのが難しいことがあります。瞑想でこうした感情を克服するための具体的な方法があるのでしょうか?
この問いに対する最終的な答えは、瞑想を生活の一部とし、直接自分で体験していくことによって得られます。まず、一切の目的や到達目標を持たず、ただ注意を集中することだけに専念して、日々正式な瞑想としていろいろな形でマインドフルネスを実践していくことです。そしてそれと併せ、普段から生活のさまざまな場面で注意を集中し、ものごとに意識を向けることによって、マインドフルネスを深めていくのです。
こうして生活のなかにマインドフルネスの基盤ができあがると、恐怖や不安、パニックにいつ何時襲われても、うまく対応できるようになります。どういうやり方が自分にとって一番ふさわしいかは、実際に注意を集中してそうした強烈な感情に対処してみることでわかります。
マインドフルネスで恐怖を克服する
父親が集中治療室で人工呼吸器につながれ、生死の境をさまよっている。その姿を目の当たりにしてすっかり気が動転し、恐怖に直面している。
腸の内視鏡検査の結果、自分がガンであることがわかった。ショックに打ちのめされ、恐怖に直面している。
たった今、上司との打ち合わせで、「経費削減のため」クビを言い渡された。怒りと混乱の極みにあり、恐怖に直面している。
飛行機が死ぬほど怖いのに、家族の一大事のため、乗らなければならない。これから搭乗するという今、恐怖に直面している。
恐怖を感じるときの例をあげればきりがありません。よくよく注意を集中してみると、現代の世の中は恐怖の体験に満ちているようにみえてきます。怖さの原因は特定できる場合がほとんどですが、その恐怖の感情にうまく対処していかなければならないことには変わりありません。
マインドフルネスや慈しみの心は、日々の生活で生じる恐怖の感情を克服するために、どのような形で役立てることができるでしょうか? 本章ではこのあと、恐怖、不安、パニックへの対処法を個別にみていきます。もっとも、簡単な答えはありません。瞑想は、苦痛や不快感を進んで受け入れる気持ちや忍耐を要するものがほとんどです。それは、動揺のさなかにあっても、自分の中にある安らかで穏やかな部分を見つけ出す力を培う訓練なのです。
以下は、そうした訓練によってマインドフルネスを身につけてきた多くの人々の体験から導き出された、恐怖克服のためのポイントです。
マインドフルネスは、今ここにあるものを忠実に映し出す鏡
まずは、「これは恐怖という感情だ」と思えるようになることです。「恐怖とはこういう感じのものだ」「今、私はこういう感覚を感じている」と自分自身に言い聞かせられるようになるのです。
今ここにあるものを認識すると、現在に身をおき、そこで起きているできごとが何かわかるようになります。そして、それにより、恐怖を呼び起こす状況に対して無意識に反応する習慣が断ち切られます。またこのようにして、今という瞬間に存在するものに意識を向け続けることで、恐怖という感情が変化したり消滅したりするのを感じ取ることができます。恐怖は永久に続くものではありません。それはあなた自身でもありません。こうした真実もまた、今ここにあるものに意識を向けたときに明白となるのです。
心身を穏やかに保ち注意を集中する
今という瞬間に注意を集中する方法にはいろいろありますが、本書では、呼吸を利用する方法を中心に述べてきました。呼吸に注意を集中するやり方については、「その9」の気づきの呼吸のトレーニングで見たとおりです。それは、呼吸に意識をそらしたり、呼吸を逃げ道とすることではなく、今この瞬間に起きているできごととともに呼吸をすることです。恐怖という体験とともに意識的に呼吸をしてみましょう。ボディースキャンでも同様の呼吸が行われますし、選択をしない気づきの瞑想では、呼吸が意識をつなぎとめる役割を果たします。
意識をする力や理解、慈しみの心といった瞑想の基本となるその他の要素は、心身を穏やかに保ち注意を集中することができれば、おのずと養われていきます。実際、恐怖感や恐ろしさを感じる状態に対処するときに最も難しいのが、たいがいこの注意を集中し今に意識をつなぎとめることなのです。
蛇やネズミ、クモが苦手なのに出くわしてしまったときは、呼吸に意識を向け、今自分に起きていることとともにいるようにしましょう。(逃げている間も)
広場恐怖症や閉所恐怖症の人が、苦手な状況に置かれたときも、まず何が起きているかを認識しましょう。そして呼吸や体に意識を向けます。練習したように、自分の置かれている状況とともに呼吸をし、心身を穏やかに保って、今起きているできごとに注意を集中します。
マインドフルネスの手法を用いた体の動きを伴う精神修養法を行う
たとえば、歩く瞑想、ヨガ、太極拳、気功などがこれに当たります。今に意識をつなぐのにどの方法が自分に最も適しているかを知るには、実際に試してみることが必要です。戸惑うことなく自信を持って行えるようになればなるほど、効果もあがります。マインドフルネスを生きる姿勢として日常の生活に組み込んでいくことが、緊急事態に対処する力をつける最も効果的な方法であるのは、このためです。
忍耐強くなる
恐怖反応に対処するには、気づきの呼吸も歩く瞑想も、かなり長時間行わなければなりません。こうして今感じている恐怖とともにあることで、集中力と注意力が高まっていくのです。
これには忍耐と根気が必要です。ともかく、恐怖とともにあり続けるのです。耐えるべき時というのはあるものです。そこで忍耐を発揮することにより、瞑想の力が高まります。やがてあなたは、今に集中する力が身についてきたことを実感するでしょう。
すべてを受け入れる何にも判断を下さない「気づき」を養う
注意を集中することで、恐怖を感じているときに今に存在するあらゆるものに基盤をおき、それに判断を下すことなくすべてを受け入れる「気づき」を得ることができます。今ここにあるすべてを受け止めるというのがマインドフルネスなのです。そのなかでも特に重要なのは、体に起きているできごとや、心に浮かぶ考えや思いです。それはどんなに強烈で気がかりなものであっても、今この瞬間に生じている単なる状況として扱うことが必要です。くり返しになりますが、恐怖を感じているときには、その体験に心を乱されたりのまれたりしがちです。恐怖感に伴うさまざまなできごとに向けて呼吸をし、息で包み込むようにして受け止めることで、あなたは今とのつながりと集中力を保ち、そうした体験が一時的なもので、あなた自身ではないという真実に気づくことができます。
マインドフルネスは広がりのある軽やかな意識であることを忘れない
マインドフルネスは何事にも執着しません。恐怖反応が起きると、それにのみこまれたり、恐怖の感情を自分と同一視してやみくもに反応しがちなものです。恐怖にとらわれてしまったときには、その恐怖感の周囲の部分にまで意識を広げてみましょう。音や、そのほかの感覚も受け入れるのです。ボディースキャンで、体の特定の部分ではなく全体に意識を広げた、あの要領です。
あるいは、恐怖の体験の細部により注意を払うという方法もあります。体の中のどの部分に恐怖感が存在しているのか、恐ろしい思考や、否定的な考え方、感覚といったものが正確にはどこから始まりどこで終わっているのかを見極めるのです。
このように、意識を広げて恐怖という体験をまるごと受け入れたり、その体験のより細部に目を向けたりすることで、恐怖と自分を同一視する傾向を断ち切ることが可能になります。
ものごとを明確に見定めることから得られる理解や知恵を進んで受け入れる
原因が何であっても、恐怖に陥った状況をはっきりと理解し、自分にどういう選択肢があるかを知ることで、それに対処する効果的な方法が見いだせます。今という瞬間に集中し、恐怖に対抗したり背を向けようとする気持ちを克服できると、選択の幅が広がります。それによってより有効な対応が取れるようになり、自分は困難で恐ろしい状況にもうまく対処できるのだという自信が生まれます。
自分自身や恐怖の感情に思いやりと慈しみの心を向ける
愛と慈しみの瞑想はある程度上達すると、恐怖を感じたときの強い味方となるはずです。私が幸せになりますように。私が健康でいられますように。私の心が平安で満たされますように。私が平穏無事に過ごせますように。こうした言葉を唱えながら、思いやりと慈しみの心を呼び起こして、あなたは今に意識をつなぐことができます。
困惑や苦痛を覚えたときは、友愛と慈しみの心で自分を優しくいたわることが、心を落ち着かせるのに大変効果があります。思いやりの気持ちを呼び起こす訓練を重ねるにつれ、自分の中の何かがリラックスしてやわらいでくるのを感じるはずです。そうなれば、心を落ち着けて今に身をおき、そのときに起きているできごとを注意を集中して感じ取ることが自然にできるようになります。
マインドフルネスで不安と心配を克服する
仕事にも友人にも恵まれているのに、しばしばいいようのない恐怖感に悩まされる。そうした思いに襲われると動揺してしまい、人前でふいにコントロールを失うのではないかと恐ろしくなるので、人からの誘いやデートを断るようになってしまった。今では、自分はどうなってしまうのか、手に負えないことが起きたらどうしようと心の中は不安でいっぱいだ。
人前に出るのが苦手で、皆の前で話をすることが怖くて仕方がない。何かみっともないことや恥ずかしい失敗をしてしまうのではないかと気が気でない。そんなに気をもむ理由などどこにもないとわかってはいるのだが、不安は消えない。今は、仕事も含め大勢の人の前で話す必要のある状況を避けて回っているが、そんな自分が腹立たしく、不安の思いはつのる一方だ。
もう半年以上、心配ばかりして過ごしている。ほとんど一日中、人生のさまざまな厄介ごとについて頭を悩ませている。心労の種は健康のことから結婚、仕事、老齢の母親の介護のことにまで及ぶ。ここ数週間は落ち着かないことが多く、疲れやすく夜もよく眠れない。
この先どうなるのかと思うと不安でたまらず、まだ起きてもいないこと、そしておそらくは起きもしないことで悩み続けている。
不安や心配は、誰でも感じることのある非常に心をかき乱される感情です。それはどんな形で現れるのであれ、注意を向けることが肝心です。マインドフルネスや慈しみの心を、不安や心配への対処法として活かしていくには、どうすればよいでしょうか。
土台を築く
マインドフルネスの効果を最大限に発揮するには、まずはしっかりとした土台を築くことが必要です。特に注意を集中する対象が不安や心配の場合は、その原因や治療の可能性、普段の生活習慣の影響などをよく検討することがとても大切です。
治療の可能性
不安には効果的な治療法がいくつもあります。度を越した、日常生活を乱すほどの不安を感じるときは、一度医師やカウンセラーにきちんと診てもらいましょう。瞑想は確かにあなたの強い味方ではありますが、有効な治療の代わりにはなりません。
生活環境
生活の隅々にまで注意を集中してみましょう。普段の暮らしや人間関係や仕事で何か不安をあおる原因となっているものはありませんか? それは改善できることでしょうか?どのように? パートナーや信頼できる友人などに相談して、意見を聞いてみるのもよいでしょう。
生活習慣
生活習慣も重要です。食べ物や飲み物をはじめ、日ごろ自分の身に取り込んでいるものを見直しましょう。飲酒、市販薬や処方薬の服用はもちろん、見るテレビや読む新聞、娯楽の習慣もしかりです。
普段、自分がどんな行動をし、何を取り込んでいるか、そしてそのときにはどんな気分になるかについて、判断を加えることなく注意を向けましょう。不安の原因が突き止められれば、改善の方法もわかってくるものです。
毎日実践する
こうした土台が築かれると、日々の瞑想の効果は最大限に発揮されます。正式な瞑想や普段の生活のなかでマインドフルネスを養ううちに、リラックスしてものごとを明確に見定め、望ましい変化を起こせるようになるでしょう。
マインドフルネスは手段ではなく、生きる姿勢です。ですから、毎日欠かさず瞑想を行い生活のなかに取り入れていくことで、その力が最も活かされるのです。
瞑想の到達点は、感性を研ぎ澄ませて明晰な意識で、ただ今ここにあるものに心を開けるようになることです。瞑想の指導者、ジョセフ・ゴールドスタインは、それを次のような明快な言葉で言い表しています。
瞑想の上達度は、快感や苦痛の大きさでは測れない。瞑想の質は、むしろ、今ここにあるものにどれだけ心を開けるかによって決まるのである。(中略)
過去の体験は、もう済んでしまったことだ。自分が再現しようとしている過去の体験に固執しないように気をつけなくてはならない。それは正しいやり方ではなく、わざわざ苦痛を生み出すようなものである。ただひたすら心を開き、落ち着いて、今このときに起きているできごとに注意を集中することが大切だ。
日々の実践に利用する瞑想法の種類や主眼点は変わっていくことでしょう。けれども、どの方法もその本質は同じです。注意を集中することによって、覚醒と変化の道を歩み始めることができ、上の空で時を過ごす状態から脱して、人生を意識して生きられるようになるのです。
不安と心配から学ぶ
恐怖や不安、パニックなどの感情には、自分自身や人生に対する姿勢を知る手がかりが含まれています。それはどんなものでしょうか。好奇心を持ちましょう。好奇心と入念な観察によって、あなたはジョアン・ハリファックスのいう「実りある闇」から教訓を得ることができます。恐怖や不安、パニックの体験から、生きることに関する教訓を得られるのです。
瞑想による心配や不安││はっきりとした原因のない恐怖││の克服法は、原因の特定できる恐怖の場合と同じです。つまりは、心配や不安そのものを注意集中の対象とするわけです。心に浮かぶ思いや感情にとらわれることなく、今という瞬間とのつながりを保ちましょう。そのためには、呼吸に意識を向けながら、不安や心配という体験とともに息をします。
恐怖のときと同様、この不安や心配という体験に意識をつなぐことが、しばしば瞑想の最大の難関となります。不安や心配は不快で心をかき乱すものであるため、反射的な反応にのまれたり、それらの感情と自分を同一視したり、体験から注意がそれたりといったことが起きやすいのです。
中心となる瞑想法を決める
不安の症状別に最適な瞑想法を教えてほしい、という質問がよく寄せられます。たとえば、「頭に」不安の症状が現れる(気をもんだり、特定の思考が頭から離れないなど)人と、「体に」現れる(落ち着きがなくなる等の不快感を覚えるなど)人には、それぞれどんなリラックスエクササイズや瞑想法が向いているかといったことです。
こうした疑問に対する研究はある程度進められているものの、まだ結論を下す段階にはなく、調査によって相反する結果が得られる場合すらあります。けれども、『マインド・ボディ・メディシン』誌(一九九七年)の中で、ジョン・カバット= ジンらが報告した研究結果は、注目に値します。
強度の不安を持つ七四人の患者を対象に行ったこの調査では、「認知的不安が高く体性的不安が低い」(「頭に」不安の症状が現れることが多い)グループは、体を使った(体に注意を集中する)マインドフルネス瞑想を好み、逆に「体性的不安が高く認知的不安が低い」(「体に」不安が現れることが多い)グループは、静座瞑想を好むという結果が示されました。また、どちらのグループも、認知的、体性的両方の要素を含んだボディースキャンをある程度好んでいることがわかりました。この研究だけでは結論を導き出すことはで
きないものの、これが、示唆に富む興味深い調査結果であることは確かです。
マインドフルネス瞑想は、心身両面での体験を対象としたときに最も効果が上がります。ですから、日々の瞑想の際にもこの双方に力点を置くべきでしょう。けれども大切なのは、どの瞑想法を選ぶかではなく、体系的かつ継続的に、心や体にどれほど注意を集中できるかです。
不安の症状が頭に現れることが多い人は(いわゆる「心配性」の人は)体の動きを伴う方法を中心にマインドフルネス瞑想を行うのがよいかもしれません。あるいは、静座瞑想を行うにしても、まずは体を動かしてからにするとよいでしょう。体を動かす方法は、歩く瞑想、ヨガ、太極拳、気功、その他のマインドフルネスの手法を使った精神修養法など、何でもその場でできる好きなものでかまいません。
また、体に意識を向ける力を養うには、ボディースキャンが大変有効です。一般に、頭から体に注意を移動させてバランスを保つというやり方が効果的です。
不安の症状が体に現れることが多い人は、静座瞑想を中心に行うといいでしょう。まず手始めに、気づきの呼吸や選択をしない気づきの瞑想をやってみましょう。なお、静座瞑想を行うときには、必ず身体的な体験も注意を集中する対象にします。ボディースキャンでも、選択をしない気づきの瞑想に身体感覚を含める場合にも、この体に注意を向けるということが行われます。
不安の症状が主として頭に現れる場合も、体に現れる場合も、慈愛の心や、思いやりの気持ちを呼び起こす瞑想が役立ちます。この瞑想では、特定の言葉をくり返して注意を集
中し、心身を鎮め、リラックスさせることで、「生」とより大きな意味でつながりを持つことができるようになります。こうした広い視野でものごとを見ることによって、不安や心配にのまれたり、とらわれたりすることとのバランスをとり、平静を保つことができるのです。
マインドフルネスでパニック発作と強い恐怖を克服する
パニック発作の症状は、言葉にできないほど激しいものです。発作に襲われたら、まずは基本的なことから始めてみましょう。具体的には、良い医療機関を探す、自分の生活状態を分析する、日々の瞑想の習慣を身につける、などです。
その上で以下のことを試してみます。
これまでもみてきたように、こうした苦しい状況において通常最も難しいのが、今体験しているできごとに意識をつなぐことです。つい体験にのまれてしまったり、不快感にやみくもに反応してしまったりするのです。こうした傾向は、身体感覚にも、思考や行動にもみられます。
こんなときは、パニック発作の体験そのものに注意を集中します。自分と同一視したりのまれたりすることなく、その体験を意識の中にとどめてつながりを保ちましょう。
何が起きているのかを認識することで、心を安定させ落ち着かせます。パニックをパニックとして認めるのです。
呼吸に意識を向け、自分に起きているできごとをあるがままに受け入れて、その体験とともに息をしながら集中力を高めます。
恐ろしい考えにも注意を集中して耳を傾けましょう。それは単なる思考にすぎないことを認識し、その考えとともに呼吸します。そうした思考を鵜呑みにしたり、拒否するのではなく、ただあるがままに受け入れるのです。もしそれがあまりにも強烈で不快な場合は、さらに呼吸に集中するか、周囲の音や体に注意を移してみます。
自分自身やパニックの体験そのものに思いやりと慈しみの気持ちを向けましょう。症状が心に現れた場合も、体に現れた場合も同じです。そして「私の心が平安で満たされますように。私が平穏無事に過ごせますように」といった言葉をくり返します。
あなたはすでに、「勇気づけ」(自分自身に励ましの言葉をかける)などの技法を使いこなせるようになっているかもしれません。必要に応じてそうした方法を使い、心を落ち着かせましょう。今に集中し続けるのです。そして、のまれてしまうことなく、パニックという体験を意識のなかにとどめます。パニックという直接的な体験に注意や意識、思いやりの心を喚起する技術を活かす方法は、実践のなかでしか学ぶことができません。
まとめ
くり返しますが、あなたは必要なものをすでに備えています。心の落ち着きや安らぎを見いだす力を持っているのです。そして、注意を集中することにより、変化を起こすことができます。
一見逆説的に思われるかもしれませんが、恐怖や不安、パニックを克服するという目的を果たすためには、その目的を忘れなければなりません。
恐怖や不安、パニックの体験に、思いやりと慈しみの心をもって注意を向ければ、それらが、マインドフルネスの対象となります。マインドフルネスを発揮するのに必要なのは、何も判断せず好奇心を持ち、注意を集中すること、ただそれだけです。
著者等紹介
ジェフ・ブラントリー
医学博士。デューク大学医学部精神医学科顧問医師。同大学統合医学センターの「マインドフルネスに基づくストレス緩和(MBSR)プログラム」の創始者、ディレクターでもある。ラジオ、テレビ、新聞、雑誌などでMSBRプログラムに関する数々のインタビューに応じている。
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