芸術平和学

https://www.psaj.org/editorial/100points-blog/  【100の論点】


https://www.psaj.org/100points93/【100の論点:93. 平和を求める芸術家、文化人の活動にはどのようなものがあるでしょうか。】より

 社会が危機に陥るとき、「芸術」や「文化」に携わる人たちは何をする/すべきでしょうか。

 暴力にさらされた/さらされる可能性のある人々は、その手に力(ことば)を取り戻し、自己を、そして社会を解放する欲求を持つでしょう。そんなとき、アクター(行為者/俳優)へと自らを変革し、問題の解決方法を模索する市民がたくさん必要になります。思考する社会的主体となった「市民アクター」は、現実社会に介入し始めます。

 そもそも、芸術家とは、既成の枠組みを超越する自由な存在であり、市民の本来のありようです。特別な職業芸術家だけではなく、コンフリクト(紛争・対立・問題の所在)を顕現させる平和ワーカーとしての「市民芸術家」は、上記の社会への介入の役割を担うのです。

 芸術には、教育や治癒などの各要素が応答しあいながら作用する側面があります。社会における誰もが、<市民芸術家=アクター>となることによって、ダイナミックな(動態的)平和ワークが可能になります。それは、われわれ一人ひとりの自覚を促し、巻き込み、抵抗・介入・異化による社会変革を起こすのです。

 芸術と平和の関係を考えるとき、芸術は、その外側(国家・企業等)から目的が与えられ、利用されやすいという特徴があります。国民を戦争に動員するプロパガンダとして機能し「暴力を助長する芸術」となるのです。

 これに対し、圧政に抵抗し、痛み・怒りを表現する芸術、祈り、愛を表現する芸術など、「平和を創造する芸術」もまた社会的機能を持つでしょう。だが、不正義の世界・時代に、既存の平和メッセージを発信するだけでは、その機能を十全に果たせないでしょう。

 平和を創りだすためには、コンフリクトを顕在化させ、それによって社会の非暴力転換の契機とする必要があります。武力化したコンフリクトは暴力であり、平和はコンフリクト転換の過程と結果を指します。問題の表面的解決は、根源的なコンフリクトの解消ではありません。可視化できる矛盾の部分と、可視化できない潜在的な要因とを探知し、直接的・構造的・文化的暴力を認識し、問題の深部を非暴力により根本的に転換することが必要になります。

 「平和を創出する芸術」の中でも「紛争が顕現する芸術」の役割は、コンフリクトの存在と構造を暴き出し、社会変革を起こす芸術として注目する必要があるでしょう。紛争が顕現する芸術は、(静態的平和に対して)動態的平和を創り出すという意味において、「動態的芸術」ともいえるでしょう。芸術によってコンフリクトが顕現するという過程の中で、社会の中に平和的変革の行為が潜在的に創り出されるのです。既存の二項対立的言説の枠組みの中に留まらず、新しく自由に感受・思考・行動できるようになるための、平和構築・平和ワークの枠組みでトレーニング・教育を行っている一例を、また関連の書籍を、下記に紹介しておきましょう。(奥本京子)

参考文献・資料

東北アジア地域平和構築インスティテュート(NARPI)

http://www.narpi.net/ 

http://www.narpi.net/02_Courses/Courses.html

日本平和学会編『平和研究』第29号「特集:芸術と平和」(2004年)

奥本京子著『平和ワークにおける芸術アプローチの可能性:ガルトゥングによる朗読劇 Ho’o Pono Pono: Pax Pacificaからの考察』(法律文化社、2012年


https://www.psaj.org/bunkakai15/ 【⑮平和と芸術】より

【連絡先】責任者 湯浅正恵

E-mail: yuasa(a)hiroshima-cu.ac.jp

 21世紀に入り、世界・社会の状況がさらに混迷する中、平和創造の力をさらに蓄え強めていくために、さまざまな学問と現場とが連携しながら平和学を支えていく必要がある。そのために、平和学会の中でも比較的触れられて来なかったテーマである「芸術」要素を取り込んで、現場から学び、学問を追及していくことに、新たな道筋を模索していきたい。

 日本平和学会においても、2004年には、機関誌『平和研究』第29号において芸術の視点からの平和学の可能性について特集されたし、2005年5月1~6日には、スペイン・ゲルニカにおいて開催された国際平和博物館会議でも会議のテーマは「芸術と平和」であった。また、IPRAでも、2004年のハンガリー大会にて「芸術と平和のコミッション」が誕生している。平和と芸術の関係から模索していく平和学の可能性については、国内外の関心がますます高まっていくだろうと考えられるが、日本平和学会においても当分科会の活動を通して、地道に途切れることなく研究と実践を展開していけたらと切に願っている。

 日本においても、世界においても、さまざまな芸術家が、社会変革のため、また、平和創造のために活躍している。さらに、芸術の分野の学問研究も進んでいる。しかし、「平和学」という学問分野の枠の中に、それらの活動・研究を捉えていくということは、まだまだ未開拓なのである。

 平和学が、平和研究、平和教育、そして平和活動などをつなぎ、市民が連帯し、社会・世界に代替案を発信していくものだとすれば、芸術の役割は多岐に渡って期待されよう。平和の価値の創造のために、さまざまな新しい芸術的方法を模索し、今まで蓄積されてきた研究の成果、これから展開されていくであろう活動のひとつの拠点として、分科会「平和と芸術」が果たしていけるであろう可能性は計り知れない。

 具体的には、美術、映像、文学、建築、写真、音楽、演劇などさまざまな分野で活躍する平和に価値を置く芸術家・芸術作品などの分析・研究を報告したり、また、それらの作品を実際に展示したり、芸術家自身によってパフォーマンスしてもらったり、平和活動・平和教育などの中に、われわれがどのように芸術活動を取り入れていけるのか探求してみたりする。また、昼休みの一個の分科会枠を超えた形で、他の分科会と企画・共働したり、懇親会などの時間枠の一部を活用できれば、学会参加者全体を巻き込んで問いかけをしてみたりと、ダイナミックな展開も視野に入れておきたい。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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