chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.ihi.co.jp/technology/techinfo/contents_no/__icsFiles/afieldfile/2023/06/16/c7eb5b93cedfa605f2ef33119e3bd38d.pdf 【渦の話 株式会社IHI テクノソリューションズ内田 博】より
皆さんは「渦」と聞いてどのようなものを思い浮かべますか?平凡社の字通には渦という漢字の元の意味は,まるくくぼんだ形のものとありますので,鳴門の渦潮のような形がその代表といえるでしょうか.個性的な解説で定評のある新明解国語辞典(三省堂)には,その中に一度入ったらなかなか脱出できないものという意味深長な解説もあります.鳴門の渦潮は幅1.3 kmの海峡を毎日2回出入りする速さ約15 km/h の潮流と複雑な海底地形によって生じるといわれています.潮流が海底の丘の後ろに回り込んだりするときに渦ができます.渦の中心は圧力が低いので海面が押し下げられてへこんだ形になります.障害物によって渦が作られる点はビルの風下に発生するつむじ風に似ています.鳴門の渦潮よりもさらに大きな渦の代表に台風があります.台風の元は暖かく湿った空気をたくさん含んだ熱帯低気圧です.暖かい空気は熱気球のように浮力を得て上昇します.上昇気流は含まれる水蒸気が雲になるときに発生する潜熱によってさらに浮力を得て成長します.その結渦の話株式会社IHI テクノソリューションズ内田 博幸果,低気圧の中心は気圧が低くなるので,周囲から風が吹き込みます.しかし,どうして低気圧や台風は放射状ではなくて渦巻きになるのでしょうか?
渦ができる仕組みは次のたとえ話で説明できます.
まず,東京から真南のパプアニューギニア辺りの赤道に向かってボールを投げたところを想像してください.仮に空気抵抗や重力がないとすれば,いずれボールは赤道に届きます.ところが地球は東回りに回転していますのでボールが赤道に届いたときにはパプアニューギニアはずっと東に回っています.したがってボールはずっと右にそれたインド辺りに(?)届くことになります.あたかもボールに右向きの力が働いたように飛びます.自転している地球上の北半球ではどちらに投げてもボールは必ず右にそれる性質があります.野球場のスケールではそんな魔球が見られることはありませんが,水平距離数百 km規模の台風になるとこの力が主役となり,四方から流れ込む風がいっせいに右へそれた結果として左巻きの渦が形成されます.鳴門の渦が速い潮流と海底地形によって作られたのとは違う仕組みでできているのです.
ところで台風は左巻きの渦ですが,二つの台風が近づいたときにどんなことが起きるでしょうか?片方の台風が作る渦にもう一方の台風が吸い寄せられ,その結果,二つの台風がお互いに巻き込み合う現象が,藤原効果として知られており人工衛星からも観察されています.これまでは自然の中の渦についてお話しましたが,最後に飛行機の周りの渦についてお話しましょう.飛行機が空中に浮かぶ仕組みと野球の変化球の仕組みはよく似ています.ご存じのように野球の変化球はボールに回転を与えることによって投げられます.たとえばボールの上側が手前に,下側が相手に向かうような回転,すなわちバックスピンを与えると,いわゆる伸びるボールになります.このときボールの回転による流れと直進する流れは重ね合わさって,上側の流れが速く下側の流れが遅くなり,下側の圧力が上側よりも高くなって上向きの力が発生します.その結果,放物線を描いて緩やかに落下するボールの軌道が上向きに修正されて直線に近くなり,バッターから見るとまるでボールが浮き上がって迫ってくるように感じられるのです.この力はボールでなく丸太を回転させても同じように発生します.しかし,飛行機の胴体の下で丸太を回すのは大変ですので,バックスピンする丸太と同じ働きをするように考案されたのが飛行機の翼というわけです.飛行機の翼は上に反った三日月のような形をしており,前進すると翼の周りに循環流という渦が生じて上向きの力を生むような性質をもっています.また,流線型をしているので抵抗も非常に小さく飛行に適しています.さて,飛行機の周りにできるもう一つの渦に翼端渦があります.飛び去る飛行機の後ろに作られた翼端渦の様子を地上で発生した煙を使ってはっきり撮影した例もあります.上で述べたように翼の下面の圧力は上面よりも高いの飛行機の翼端渦 © NASAで翼端ではこの圧力差によって下から上に回り込む流れが発生します.これが後方に流れ去るときに翼端渦となり余計な仕事である抵抗の一因となります.最近はこれを弱めるためにしばしばウィングレットという小さな羽根が翼端に取り付けられています.小さな羽根ですが燃料消費を4~5%も節減する効果があるといわれています.鳥の翼にも翼端渦ができます.渡り鳥の編隊飛行はこれを積極的に利用したものです.羽ばたく鳥の斜め後方には翼端渦による上昇気流が発生します.ですから,後続の鳥はこの流れに乗って飛べば自分が羽ばたかなくてもある程度の浮力が得られるわけです.それで斜めに並んでV字編隊を組んだりするのです.まさか渡り鳥がこの理屈を知っているとは思えませんが賢さに驚かされます.ちなみに飛行機の写真から想像できるように,前の鳥の真後ろには下降流ができますので決して縦一列に並んで飛ぶことはありません.渦潮や台風の話で渦の中心は圧力が低いといいましたが翼端渦も同様です.この低圧部で空気中の水蒸気が凝結して水滴となり飛行機雲として観察されることがよくあります.飛行機雲の発生原因はいろいろありますが両翼端から伸びていたら翼端渦によるものである可能性が高いです.今度確かめてみてください.以上のように,渦は自然現象や多くの工業製品にかかわっており発生する仕組みにもいろいろあることをお話しました.渦への興味を深めていただくきっかけになれば幸いです.
https://www.youtube.com/watch?v=6Nhw5WIkNHQ
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