https://woman.nikkei.com/atcl/column/21/072700027/113000007/ 【冬の寒さには3タイプ その「落とし穴」と「対策」】より
星のきらめき・遠くの音・丸いスズメが寒さを知るサインに
あっという間に今年も12月。日の入りが早くなり、冬の寒さが強まってきます。気象予報士・伊藤みゆきさんによると、冬の寒さには「風冷え(かぜびえ)」「底冷え(そこびえ)」「湿気寒(しけざむ)」の3タイプがあるそうです。それぞれの寒さの違い、寒さ対策となる冬の装いについて紹介します。
冬の寒さには3タイプ それぞれ体感温度が違うので要注意!
2021年も残りわずかになってきました。カレンダーが残り1枚になった途端、気ぜわしくなりますね。
特にこの記事が公開される12月上旬は、1年間で最も日の入りが早い時期です。気づくとあたりが暗くなっていて「もう夜!」「仕事が片付かない」などと焦ってしまいます。
年間で最も昼が短いのは12月22日の冬至の頃ですが、日の入りが早い12月上旬のほうが昼の短さを強く感じるかもしれません。
札幌・東京・那覇の日の出と日の入りの時刻。国立天文台HPより。 12月上旬は年間で最も日の入りが早く、札幌は午後4時には日が暮れてしまう。一方、日の出が最も遅くなるのは1月上旬という地域が多く、この兼ね合いから冬至(22日)ごろが最も昼が短くなる
東京では夕方に時刻を知らせるチャイムを鳴らす自治体が多く、夏と冬で放送時間を変えているところもあります。中央区や新宿区などは冬時間が16:30で、12月上旬は太陽のほうが早く沈んでしまいますが、12月下旬にはチャイムが鳴ったときに「まだ太陽が出ている」「この時間が前よりも明るくなっている」と気づくかもしれません。
ところで、寒さには「風冷え」「底冷え」「湿気寒」の3タイプがあると、ご存じでしょうか。それぞれ、実際の気温だけでなく気象状況によって体感温度が変わるので要注意です。
風冷え
風冷えの日は空っ風が吹く、「冬晴れ」といわれる日です。
夜景に星がきらめくような澄んだ空気。その分、風が強ければ強いほど体感温度が低くなる
風冷えは冬型の気圧配置となり、太平洋側は風が強く、空気が乾きます。乾燥した空気では風速1メートルで体感温度が1度下がるといわれているので、風速5メートル(自転車に乗るくらいの髪の乱れを感じる風)では体感温度は5度下がります。
風冷えの日の落とし穴は「晴れ、最高気温15度」と天気と気温を確認したのに、想像以上に寒かった……となることです。寒さ対策は風の強さを引き算して、マフラーで首から耳のあたりまで覆ったり、風を通しにくい上着を選んだりするのが正解です。
風冷えの日の天気図と天気分布/西高東低の冬型の気圧配置で、太平洋側は乾燥した晴天、日本海側は雨や雪。全国的に風が強い分、実際の気温より体感温度は低くなる
ただ、風がない屋内に入った途端に体感温度が上がり、それまでの服装が暑く感じることも。このときの調節にも着脱が簡単なマフラーや上着が便利です。室内では「加温」「加湿」で風邪予防にも努めましょう。
風冷えの兆しは「夜空の星のきらめき」でも分かります。地面付近はまだ風が強くなくとも、星をきらめかせる上空の強い風が次第に降りてくるため、翌日は風が強まるという観天望気があります(天気が崩れるという地域もあるようです)。
底冷え
次に底冷えです。
底冷えの日は風が弱く、朝晩と昼間の温度差が大きくなる特徴があります。
霜柱を踏む音も寒い朝ならでは。晴れて風が弱い夜は放射冷却が強まって、霜が降りたり氷が張ったりするが、太陽が高くなると、体感温度はグッと高くなる
一日のうちで最も気温が下がるのは日の出の前後です。私は早朝の番組を担当しているので毎朝2時半(朝とはいえない時間帯ですが)に起きています。すると、多くの人は「冬は寒くて大変だね」といたわってくれますが、実は皆さんのほうが寒い中で身支度しているんですよ、と心の中でいたわり返しています。
午前2時ごろはまだ前の晩の暖かさが建物内に残っていますし、実際に気温も下がり切っていません。昨冬、東京で初めて氷点下まで下がった12月17日も最低気温は6時43分に観測されています。
そして、ここに底冷えの日の落とし穴があります。起きたときの寒さにつられ、着込んで出かけたら昼間はポカポカ陽気で汗ばんでしまうことです。対策としては身支度をする部屋の温度を上げる、朝のうちはカイロなどを使用し、しっかり食事をとって体を温めるようにしましょう。そうすれば昼間の暖かさに合う、軽めの装いで出かけられます。
底冷えの日の天気図と天気分布/冬型の気圧配置が緩んで等圧線の数が少なくなると、季節風が弱まる。日本海側も晴れ間が出やすくなり、昼間は日差しにホッとできるが、朝晩の冷え込みが厳しい
ちなみに底冷えの夜は、遠くの音や小さな音がよく聞こえるといわれます。これは地面付近に冷たい空気の層がドームのように形成されることで、音が空高いところへ逃げずに横に広がりやすくなるためのようです。
湿気寒
最後は湿気寒です。
曇りや雨(雪)で日差しがない分、体感温度が低くなります。乾いた空気よりも湿った空気は風が吹いたときに感じる寒さは弱いのですが、冷たく重たい空気がまとわりつくと体が芯から冷えていきます。
湿気寒は、底冷えのような強い放射冷却がなく、朝の冷え込みが弱いというところが落とし穴です。「今朝はそれほど寒くない」と油断していると、気温が横ばいで昼間としてはかなりの寒さになります。特に長時間、屋外にいる場合には着込んだうえに手袋やマフラーも必須となります。
湿気寒の日の天気図と天気分布/晴天をもたらした高気圧が遠ざかり、西から低気圧や前線が接近。太平洋側も雨で気温によっては雪になる
新型コロナウイルス下で満員電車は減ってきたようですが、以前は寒くなると「着膨れラッシュ」が起こりました。一人ひとりが着込むことによって、それまでと同じ人数でも車内が混んだり、ひどいときには電車に乗り込めなくなったりする状況です。混んだ電車で汗をかき、電車から降りたら一気に冷えるのは体調維持には大敵です。
そういえば寒々しい曇天の日、スズメやハトが体を丸くして膨らんでいるところを見たことがありますか? 「膨ら雀(ふくらすずめ)」といって、羽毛の間に空気をため込んで寒さをしのいでいる丸っこい姿に癒やされます。
日差しのぬくもりがない日は鳥たちも体を丸くして、羽毛の間に空気をため込んでいる。「福良雀(ふくらすずめ)」と当て字をして縁起物とすることも
「膨ら」を「福良」と当て字をして、縁起物とすることもあると知り、丸いスズメ(ハトも?)を見つけたら、新年・新春に向けての吉兆と心を温めています。この冬、寒い日の道すがら、スズメやハトをパトロールしてみてはいかがでしょう? 膨らんだ姿に寒さを共感し、ほっこりできる「一服の涼」ならぬ「一服の暖」になるかもしれません。
今月の季節の言葉
冬三日月と鏡三日月
三日月は秋の季語ですが、冬三日月は冬になってキリっと冷たい空気の中で輝く三日月を指す言葉です。
東京上空の三日月/夕方、まだ明るさの残る西の空に出るのが三日月。右側の弧が輝いている
私が朝のラジオ番組を担当して、詳しくなったことの一つが「月」です。それまでは細い月をすべて「三日月」と呼んでいました。イメージとしては満月~半月(下弦・上弦の月)~三日月~新月という4分類です。何度か「今、三日月が見えています」と放送しては、「それは三日月ではない」とリスナーから指摘が入り、月齢や位置を覚えていきました。
三日月は「旧暦3日に出る月」。
12月は6日が旧暦11月3日ですので、この日に見えるのが三日月となります。晴れていれば、日没ごろの西の空にその姿を見ることができます。
旧暦3日の三日月は必ず夕方に西の空に見える月。明け方の東の空に見える月は旧暦26~28日ごろの月。新月を挟み、時間・方角・月の向き(弧の形)も逆になります。
新月に向かう旧暦26日ごろの月/日の出前に東の空、低いところに浮かぶ月。これを「三日月」と呼ぶと、間違いを指摘される場合も。三日月とは出る方角・出る時間帯・弧の形が逆なので、伊藤さんは「鏡三日月」と呼んでいる
リスナーから「今、三日月がキレイです」というお便りが届き、それをそのまま読むと「違います」と別のリスナーからお便りが届くので、「三日月は夕方の西の空に見えるもので……」と説明することが、毎月のようにくり返されていました。私も1カ月たつとうっかり忘れてしまい、「先月もこの流れだったね」と反省するところまでが1セットになっている状態でした。
それならばいっそ、呼び名を付けたらいいのでは? と思い、「鏡三日月」と呼ぶことにしました。三日月を鏡に映した形だからです。長く聴いてくださる方々には「早朝に見える細い月は三日月ではない」と浸透してきました。鏡三日月は私の造語ですが、三日月と区別するには便利です。
「そんなのどっちでもいいじゃない」と思われるかもしれませんが、一度覚えると、空を見る楽しみが増えます。日時によって表情を変えるお月さまに、いにしえの時代から名前を付けて親しんできた気持ちが分かってきました。月日の流れの早さも実感できます。「この前、三日月を見てから、もう1カ月か」などと焦ることが多いのですが。(笑)
12月10日にかけては三日月が半月に近づいて太りながら、日ごとに金星・土星・木星と寄り添う惑星を変えていきます。
風が冷たくなるたそがれ時、月と濃紺の空のグラデーションが美しく、織りなされます。ぜひ、冬の月を見上げてみてください。
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