小津夜景(おづ・やけい)

https://edist.ne.jp/guest/ozu_yakei/ 【南仏から遠来の客人 小津夜景を迎えて】より

 「自由。自由。自由。自由。自由。それより他に、何の想ふことがあるだらう?」

 南仏から豪徳寺に翔んできた俳人・小津夜景は、亭主である歌人・小池純代師範からのリクエストを受け、対談中に「オンフルールの海の歌」を朗読した。照度が落とされた会場に俳人の真っ直ぐな声が静かに響く。

 2018年8月4日(土)、風韻講座特別篇「半冬氾夏の会・夏秋の渡り」が本楼で催された。第一部は小池師範から参加者への事前課題に小津氏が寸評をする”お遊戯”。お題は、小池師範が選んだ小津夜景の十句から各人が栞にしたい一句を選び、さらにその栞を挟みたい本を選ぶというもの。

 例えば、「かつてこの入江に虹という軋み」にエドマンド・バーグ『崇高と美の観念の起原』。あるいは「夜の桃とみれば乙女のされかうべ」に澁澤龍彦『高丘親王航海記』。はたまた「からくりのしんがりに佇つ光かな」にジョージ・ガモフ『不思議の国のトムキンス』。

 句から栞へ、栞から本へ。メディアを跨ぎながら、17文字から広がるイメージを引きのばしたり、膨らませたり、折り畳んだり、風に吹かれて韻(ひびき)に耽る。

朗読をする小津夜景氏

小池純代師範との対談

 休憩を挟み、第二部は松岡正剛校長が加わって三者鼎談。第一部で披露した朗読に触れて、小津氏は「定型に生きることは自由を放棄することではない」「自由に対しては闘争的である」と自由への想い入れを明かした。ついで「定型、型の中に何層ものレイヤーがある」と俳句ならではのレイヤーの魅力を語らった。

松岡校長を加えての鼎談

 閉会後のお土産には小池師範お手製の小津夜景句の栞が用意されていた。お気に入りの句とともに参加者たちは風韻の夢見心地もいっしょに持ち帰る。

 半冬氾夏の会のあと、『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(小津夜景/東京四季出版)の帯が<松岡正剛氏推薦>に変わることとなった。そこにはこう書かれている。「すばらしい。俳人のオヅさんが、好きな漢詩の数々を21世紀に移し、瑞々しい日々の想像力の糸で、これらを紡ぎなおしてみせた。脱帽だ。」


https://sectpoclit.com/ozu-48/ 【かき冰青白赤や混ぜれば黎 堀田季何【季語=かき氷(夏)】】より

「楽園」, 「澤」, かき氷, ば, や, 三色, 堀田季何, 混ぜる, 白, 赤, 青, 黎, 黒

かき冰青白赤トリコロールや混ぜれば黎くろ  堀田季何

太極拳を始めてかれこれ25年になります。太極拳は「柔」の代表的武術といわれていますが、きちんと身につけるには「剛」も合わせて学ぶとよいらしく、ここ12年ほどは白鶴拳も学んでいるんです。それでつくづく思うんですよ、自分の適正とは必ずしも一致しない白鶴拳が、しかし太極拳について考えるのに非常に役立っているなって。

と、なんでこんな話を枕にするのかというと、下の句を読んだからです。

 かき冰青白赤トリコロールや混ぜれば黎くろ  堀田季何

堀田季何『人類の午後』より。表からみると完全な写生句で、あいまいな心象に依存するところがありません。それでいて裏からみると、自由・平等・友愛の精神を象徴する「トリコロール」がぐしゃぐしゃになって出現した「黎」が見事です。「黎」には黒のほかに人民の意味があり、そこから個の自己保存と世界の安寧といった普遍的なテーマが思い起こされる仕掛けになっています。

堀田季何『人類の午後』は人類史を参照しつつ、フィクションの力を借りることで主に上述の普遍的テーマをとりあつかった、一冊単位で考え抜かれた句集でした。殊に一読して恐れ入ったのは知的なスタミナです。堀田という人は生来的には観念的な書き手であると思いますが、そういった自己の体質とけっして狎れ合わず、超越性に向かう契機を急がず、言葉との距離を冷静に保ちながら、句にとっての最適解を模索していくその粘り強さがすごかった。

「言葉との距離を冷静に保つ」などと書くと心情の次元の話と誤解されるかもしれませんが、むしろ句を相対化しうるのは別の定型に翻案してみるとか、いつもとは違う技巧で書いてみるとかいった、なんらかの言語的技術の運用です。掲句の場合は、これが「澤」調と呼ばれる方言で書かれているという点が、相対化の方法として機能していると私は思いました。つまり、思うに堀田にとって「澤」調とは母国語と同じ程度にあやつることのできる異国語であり、さらにいえば有季定型すらもそうであるーーあるいはひょっとすると失われた故郷かもしれないーーのです。おそらく。

以下、きままに数句(句集では全て正字)。

 菓子鑄型底凸凹や聖樹の繪  堀田季何        噴水や生前生後死前死後

 あつまりて緋目高や傷ひらく色          虹を吐き虹を飲みこむユフラテス

 撃たれ吊され剝かれ剖かれ兎われ         惑星の夏カスピ海ヨーグルト

 閉館日なれば圖書みな夏蝶に

(小津夜景)

【執筆者プロフィール】

小津夜景(おづ・やけい)

1973年生まれ。俳人。著書に句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂、2016年)、翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版、2018年)、近刊に『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(素粒社、2020年)。ブログ「小津夜景日記」


https://yakeiozu.blogspot.com/2017/05/blog-post_90.html 【俳句の普及についての一形態】より

今日、堀田季何さんのツイッターで、フランスの文学自動販売機に関するこんなリツイート記事を見たのですが、そこで呟かれている情報がずいぶん古いもの(「この販売機はグルノーブルで試験的に8台が稼働中」とか。いえいえ、全国にあります)だったのでちょっと宣伝。

実はわたし、これについて【みみず・ぶっくすBOOKS】の第13回で「文学無料配布マシンと俳句コンテスト」という記事を書いたことがあります。このマシンを運営しているShort Editionは、自社サイトで短編小説や短詩系作品を日常的に募集しており、誰でも投稿することができるんですね。ちなみに短詩の募集ジャンルはアレクサンドラン、俳句&短歌、スラム、ソネット、寓話詩、散文詩、歌詞、自由詩、8ないし10音節詩行、の計9つ。

実際にサイト内を散策すると分かる通り、たいへんシンプルかつスタイリッシュな「広場」です。

各投稿作品には♡ボタンがついていて、人気のある作品はShort Editionの月刊誌に載ったり、配布機に入ったり、書籍になったりするといった仕組みも楽しい。でもそれよりもっと嬉しいのは、このサイトのトップページにいつも季節の俳句コンテストの募集広告が出ていて、そのデザインがかわいいこと。日本の俳句協会も真似したらいいのにって思うくらい。



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