電脳界曼荼羅無辺空海忌

https://blog.goo.ne.jp/kitamitakatta/e/d99a14d66d25e630852b92e94f2c9359/?img=c486122958b355864ebb5ad110d0f980 【小川軽舟「曼荼羅」を読む(その2)】

春日宮曼荼羅(奈良市南市町自治会蔵)

小川軽舟鷹主宰が『俳句』5月号に「曼荼羅」と題して発表した50句を3回にわけて山野月読と合評する。山野が○、天地が●。

大試験消しゴム使ふ肘せはし

○試験会場での前の席の人でしょうかね。いくら「せはし」くてもイライラすることなく、句材とする冷静さ(笑)

●作者自身が試験を受けているのでないかもしれませんが、この作者はとにかく力みがありません。この句も気張っていずわかりやすいです。

早春や皿みな白きイタメシ屋

●食通でないので「イタメシ屋」をよく知りませんがイタリア料理店ですか。

○そうですね、イタリアン。確かに「イタメシ屋」の皿は白が主流。

●さて「早春」は効いていますか。

○「早春」が効いて、「白」い「皿」の上のメインに添えられたクレソンとかの緑が感じられます。

街の川薄つぺらなり猫の恋

●中七の描写にはっとしました。言い得て妙、いかにも街の川の情けなさが出ています。

○コンクリートで覆われた、いわゆる三面張り河川ですね。「薄つぺらなり」とあって、水量も少なく、コンクリートの底が見えそうです。

大声で忍び会ふなり猫の恋

○この措辞を納得させるには、この季語しかない感じですね

●「大声で忍び会ふなり」は反転の妙味です。 街の川の句もこの句も季語はこれしかないですね。

萱爆ぜて野焼の煙巻きあがる

●実直な句です。「巻きあがる」というこまやかな見方もいいです。

○下五の「巻きあがる」で臨場感が出ました。

淀の水遠くさざめく春田かな

○なんか味のある句ですねえ。「さざめく」は聴覚的な動詞ですが、これに伴っている騒がしさの要素が「淀の水」を感じさせますね。

●「遠くさざめく」は嘘だと思います。聞こえていないのに聞こえているかのようで、のまされてしまいますね。 待てよ、「淀の水遠くさざめく」ではなくて「さざめく春田」かな。いやそれはちょっと無理、淀川のざざめきでしょうね。

梅散つて風ちりちりと目に見ゆる

●「風ちりちりと目に見ゆる」なる見えないものの書き方は情緒過多と感じぼくはついていけないのですが……。

○「ちりちりと」が「梅」の散りゆく際の細かな動きを感じさせます。

●そうですか。

絵看板濡らす春雨新世界

●「新世界」がえらく効いています。これで濃厚な春雨になりました。

○確かに濃厚ですね。「絵看板」と「新世界」が見事に共鳴している。

のつたりと青鷺羽搏つ春日かな

○暖かな日差しを感じます。作者も公園のベンチとかで「のったり」、のんびり。

●上五で春の気怠さが出ました。

寺多き谷町筋の種物屋

●「谷町筋」大阪ですね。この語感が効いての一句です。

○私の知る「谷町筋」は限られるので寺が多いという認識はなかったのですが、「寺」「谷」「種」の頭韻が句の調べを整えています。

住職は煙草をやめず桃の花

●品行方正と見られがちな職業ゆえ「煙草をやめず」に少し皮肉があっておもしろくなりました。

○「たばこをやめず」なんてフレーズがその主語を「住職」とするだけで一気に膨らみますね。境内での一服を思わせる「桃の花」。

百千鳥墓恍惚と風化せる

○擬人化ですね。「恍惚」と「風化」を同居させる発想はないですねえ。

●そう、その二つの言葉の連結は技です。古い墓石は刻んだ字もかすれ黴が繁茂してきます。その感じがよく出ています。

朧より生まれ霞にかへりけり

●何が朧より生まれ霞にかえったのでしょうか。

○句中に名詞は異なる季語ふたつだけですね。「朧」「霞」ともに視覚的季語ですので、光的なものが喚起され、「朧=生まれ」「霞=かへり」という対から、それは月なのかなと思いますね。

●月ですか。朧は夜ですが霞は昼ですから月というのは考えませんでした。ぼくは生命を詠んだのではないかと考えました。よくカオスという言葉で表現されるもの、その象徴的なものでる生命考えました。生死です。いかがですか。

○命ですか。「生まれ」をそのまま捉えるとそうなりますね。その読みは考えもしませんでしたが、聞けばあり得る読みかなとは思えるものの、間違いないと思えるまでの理解には至りません。わたるさんの嫌うことを言えば、「朧」の中に「月」を孕んでいることも、月説の理由のひとつだったんです。

●そうか、月は「昼月」という消えかかった薄いのがありますね。あなたの言うように「朧月」から「昼月」という推移を思うのが自然ですね。考えすぎました。出色の出来かと思います。

山風に忿怒の相の桜かな

●「忿怒の相」はそうとう踏み込んだ見方です。つまり風に嬲られ散るの花もあるわけです。

○「山風」の様を想像させる「忿怒の相」ですね、疾風怒涛的な。

うつし世に宮曼荼羅の花仰ぐ

●「宮曼荼羅」は、本地垂迹 (ほんじすいじゃく) 説から生まれた神道曼荼羅の一。神域や社殿などの景観を描いたもので、神社の縁起や霊験を説明するために作られた、と本にあります。

○面白い発想の句ですね。

●ネットで宮曼荼羅をいくつか見たのですが仏様や神社は素材にあるのですが桜に遭遇しませんでした。作者は何を見たのでしょうか。絵画の事物が季語たり得るかではモネの睡蓮が有名ですが。それより宮曼荼羅の花は季語性が低いでしょう。この句は無季と読みました。

○どこかの寺で「宮曼荼羅」を拝観して、外に出てきたところではないでしょうか。「花仰ぐ」作者の立つ境内、その伽藍配置に身を置く自身を含めた「宮曼荼羅」を思っているのではないでしょうか。こうした発想は「曼荼羅」の自己相似的な特性に通じるものがありますし。そう読ませるヒントとして「うつし世」が効いているのでは。

●すると宮曼荼羅のある寺の境内の桜ですか。その読みは強引じゃないですか。作者がこれを50句の題にしているだけに読み切れないのがもどかしいです。

惜しむべし老木の花の白襲(しらがさね)

●「白襲」は白の薄物と白の汗取りとを重ねて着ることで作者はこの修辞で耽美的な味わいを追求しています。

○「老木の花の白襲」とは本当に耽美的ですねえ。若くないのがいい。

●「老伎」は<ろうぎ>と読みますが、「老木」は<ろうぼく>であって<ろうぎ>とは読めません。ここで中八になるのが傷ですね。小生ならここは「古木」としますね。

○「老樹」の誤植とか。そんなことないか(笑)

花散るや節榑(ふしくれ)なじむ古机

●中七下五は情趣をかもす表現で秀逸です。

○昔から愛用してきた「机」なんでしょうね。「節榑」そのものにも愛着が生まれているような。

(つづく)


https://blog.goo.ne.jp/kitamitakatta/e/480e8d376e0d0884b98c60bf41990d79 【小川軽舟「曼荼羅」を読む(その3)】より

卵塔

小川軽舟鷹主宰が『俳句』5月号に「曼荼羅」と題して発表した50句を山野月読と合評する。山野が○、天地が●。

飛べば消え止まれば光り蜂の翅

○対となった上五中七の「消え」から「光り」への展開が冴えてます。

●中七の写生がすべて、惚れ惚れする出来です。目の効いた句というのは長持ちします。

張りつめし青空無疵蜂飛べり

●「張りつめし青空無疵」、これは多くの人が言ったところではないですか。特に青空に疵がない、というのはたびたび見ます。

○確かに上五中七の意味内容的には新しくないと思いますが、その表現としては悪くないと思いました。蜂独特の色味が青空に映えますね。

長閑なりサイバーテロを知らぬ昼

○これは「サイバーテロ」という言葉を知らないのではなく、それが現実としてその昼に起きていたことを「知らぬ」ですよね。

●「長閑」と「サイバーテロ」の激突には驚きました。さて「昼」が効いているのか。小生なら「知らぬ我」と自分に引き付けますか。

○わたるさんのその志向・嗜好はわかるような気がしますが、「昼」という時間情報があることで、具体の事件であることが読み取れると思います。

●「長閑なり」は「昼」で受けるのは一般的でわかりますが。

電脳界曼荼羅無辺空海忌

●「電脳」と「曼荼羅」が似通っていてかぎりがない、というのは納得できます。それが空海に通じるという発想も。

○SF的とも思える世界観ですが、いいですねぇ。アニメにしたくなります。

●この句は有無を言わさず押してくるものがあります。

御影供の雨にうるほふ常緑樹

●「御影供」は<みえいく>と読み、真言宗で空海の忌日の3月21日に、その絵像を供養する法会のことらしいです。

○そうですか。初めて知ったので空海を手掛かりに味わうしかないのですが、山深い「常緑樹」を思いますね。

●季語らしい落ち着きのある句です。

茶畑の新芽こぞりて夜明けたり

○「こぞりて」という表件は人や動物に用いる意識があるので、逆に改めて「新芽」が生きていることに思いがいきました。

●無理しないで書いている句で見えるのがいいです。

○斜面に広がる茶畑に「新芽」が輝き始めます。

朝靄を谷間に沈め茶摘晴

●「朝靄を谷間に沈め」で茶畑の斜面が見え奥行きのある景色を描きました。

○「朝霧は(の)谷間に沈み」とはしないんだな、と学ぶ。他動詞「沈め」とすることで、「茶摘晴」がよりクローズアップされますね。

僻村に製茶の塵の芳しく

○「塵」の後の「芳しく」はインパクトありますね。本当に茶葉の薫りを感じそう。

●「僻村」が効いていますね。

鼉太鼓(だだいこ)の轟き近し夏蕨

●「鼉太鼓」は直径2mほどある大太鼓のこと。舞楽に使います。

○「近し」として、毎年恒例のもので、それを楽しみにしている感じ。「夏蕨」もいいですね。

卵塔に筍並ぶ廃寺かな

●卵塔は、台座上に卵形の塔身をのせた墓石。禅僧の墓石に多く用いられる、とのことです。

○そのようなものをどこかで見たことがある気がします。「廃寺」となってもその地ではまだまだ信仰されている「筍並ぶ」ですね。

●この句は「卵塔」という言葉の珍しさでつくった句ですね。

筍や討ち取られたる如くなる

○前句の文脈で読んじゃいますが、「卵塔」に並んでいるんでしょう。

●「如くなる」はゆるいと思います。まだしも「如くあり」と決めたほうがいいと思いました。

○確かにそういう面もありそうですが、「なる」とすることで、「討ち取られたる如くなる」までの時間経過を内包しませんか。「卵塔」繋がりで言えば、誰かが「筍」を持ってきて、そこに供え並べる様を見ていたような。

湯上がりの風惜しみなし初鰹

○気持ちいい句ですね。

●この作者らしいやわらかな言葉の流れの抒情です。最後に季語をパンと効かせてね。

○「湯上がり」の後のお楽しみとしての「初鰹」。

虹に声奪られし我ら虹仰ぐ

●あまり美しくて言葉もない、というのでしょうか。俗といえば俗ですが「虹仰ぐ」で決まっています。

○「我ら」が案外、この句の良さを支えている気もします。

からまつの若葉ほがらにほどけたり

●「ほがら」が俳人はしばしばいうのですが、「ほがらにほどけたり」で個性が出ました。

○「からまつの若葉」を見たことがないのですが、絡まるものなのかな?

●最初、絡まっているのではなく固まっている感じ、だから「ほどけたり」なのです。

空映す広さが湖水ほととぎす

○うわぁ、これはやられたなあ。こういう把握があったのか。

●小生も湖の色は空の色みたいな句を書こうとして挫折したのでこの句はやられたと思いました。月読さん、長い間、ありがとうございました。

○今回もたのしかったです。鷹主宰の句は読み手に負担をかけないとつくづく思いました。


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コズミックホリステック医療・現代靈氣

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