https://ameblo.jp/tsuredure-an/entry-12470648986.html 【俳句日記1501 第2部 授業実践報告。「言霊・俳句・短歌」「子供の感性をいかに伸ばすか」】より
「第2部」 高3「現代の短歌」授業実践報告
こうして子供たちの「感性」を育てています
「言霊」と「俳句」「短歌」とのコラボ
長いので教育関係以外の方は、見出しを中心に拾い読みしていただければ結構です。
以下の「第2部」は、本ブログ「第1部」を受けての高3「現代の短歌」の授業実践報告です。実践したのは6月上旬です。全6時間でした。
=授業実践の2つのねらい=
「俳句」や「短歌」の仕組みを「言霊」の原点から学び、協同学習を通して、
●実際に生徒たちに「言霊」の力を感じ取らせること
●そして子供たちの「感性」を育てること
この2つを目的とした高3「現代の短歌」の授業実践報告です。
必ず、第1部の<俳句は言霊、「言霊」15句>をご覧になってからお進みください。
なお、途中に、授業の核心部分がよくわかるように、導入に使った補助教材が載せてあります。合わせてご覧になるとわかりやすくなります。
=授業実践の流れとまとめ=
●序論・前置き
前置き1 生徒の感性を育てるより、意味解釈中心の今の短歌の授業。なかなか生徒の生活感覚「感性」に響かない教科書の短歌
高3レベルの「現代の短歌」になると、「和し」「寿く」心は消え、作者の個性が強く表れたプライベイトな作品が多くなります。人生経験の浅い生徒たちにとって、そんな自分たちの生活感覚に合わない短歌は面白くもありません。ただ、点数を取るための文学上の知識としか思っていません。したがって、意味解釈するだけで生徒自身は満足してしまいます。生徒の感性を育てるまでの授業には至っていないのが現状です。今日の授業はそんな現実への挑戦となります。
前置き2 「言霊」は生徒に今は馴染みの言葉
生徒たちは「言霊」と言う言葉を結構知っています。「言霊使い」などがアニメやゲームの世界ではしばしば登場してきます。そのためでしょう、授業に入っても、特に違和感もなくスムーズに授業は進んでいきました。
●本論・授業展開8つのステップ
授業ステップ1 まず「言霊」を通して、現代の短歌・万葉の短歌・和歌・俳句の違いを学びます
教室で「俳句」「短歌」「和歌」の仕組みを教える時、時代背景は言うまでもなく、第1部でご紹介した「言霊」の俳句⑪⑫⑮を使って「言霊」の話を詳しくすると、なぜ575(77) なのかが鮮明になります。日本人として、教えられていなかった祖先の精神文化にも触れることにもなります。そして、「現代の短歌」が、「万葉集の短歌」「和歌」、そして「俳句」と、どこでどう違ってきたのかも、文明開化の影響なども絡めて話すと、鮮明になってきます。これで1時間近くかかりました。
当然、ここのところでは教師の十分な下調べが必要になります。そして、生徒には、冒頭、動機づけとして、「歌の意味解釈だけではつまらないこと」「現代の短歌が身近なものに感じられるように、その仕組みからとらえ直してみると理解しやすくなること」をはっきりと伝えておく必要があります。
授業ステップ2 短歌から作者の感情を取り除きます。そして、3つのアイテムで短歌を575に戻させます(原句化する)
まず、生徒たちに、教科書中の「現代の短歌」から作者の感情を一切を取り去って、575の「感動の本体そのもの」だけの自称「原句」の状態に戻させます。
●この時、生徒が一番知りたい歌の意味解釈は最初からオープンにしておきます。
●さらに575に戻す時に必要な、歌に見合う俳句の季語も示しておきます。
●念のために575に戻した原句の先生手作りのお手本も示しておきます。
これは、短歌の原句化を試みる時、生徒が否が応にも教科書の短歌と向き合うことになるので、その手助けをするためのものです。
そして、生徒は上記の●3つのアイテムでゲーム感覚で原句化に取り組みだします。以下の過程も含めて1時間に3首のペースでできます。
特に、教師側から示す原句化したお手本が大切で、これによって生徒は原句化のイメージがぱっとつかめます。具体的には下図の導入用例歌の場合をご参照ください。
授業ステップ3 原句575を作って感じた自己の思いを明らかにし、「紹介文」の中に書き込みさせます
次に、生徒に、原句を作ってみてどんなことを感じたか、原句の横の「紹介文」欄に書かせます。「紹介文」には、感動の本体を表した原句の「情景説明」と、自分自身がそれから感じたことを書くことになります。この時、生徒たちは、もう元の短歌には縛られなくなっていますので、自由に感じたことが書き込めます。当然、元歌とずれることもありますが、それも構いません。ここで生徒自身の感性が試されます。
なお、具体的に、「どんな印象を受けたか」「どんな雰囲気の句か」「感じられた思いは何か」と観点を示して、些細なことでも気づいたことを書かせます。「五感(匂いを確かめ・目で確かめ・耳を澄ませ・手で触れ・食べて味わう)のすべて使って、想像力を働かせればいいのだよ」と言い換えるとよりわかりやすくなります。現実の授業では、生徒は「妄想でもいいの?」と聞いてきました。もちろんOKです。感性を使って自由に書かせることが肝心です。
さらに、情景は浮かんでも、何も感じられない生徒が予想されますので、そんな生徒の為にも、次のステップが用意されています。
授業ステップ4 原句と「紹介文」を回覧し、アイデアの交換。そして、原句と「紹介文」の推敲と清書
「紹介文」を書き終わったところで、二列ずつ時計回りでそれらを回覧しあい、お互いに作句のアイデア、句から感じたことの情報交換をしあいます。こうすることで、最後まで迷っていた生徒も、ヒントをもらって、原句とその「紹介文」を書くことができるようになります。これが終わったら、回覧後の推敲、そして清書となります。もちろん、「紹介文」の推敲、修正もします。
なお、机を合わせた普通の班学習より、この二列回覧方式(一巡12名で7分程度)の方が秩序もあり効率的です。
授業ステップ5 完成した575の原句の発表、そして相互選句へ
そして、完成したら、クラスの半分の生徒が自作の575の原句を板書し発表します。その後で、残り半分の生徒が前に出てきて選句をします。今回はこれを交互に4回繰り返しました。
なお、推敲・清書の終わった生徒からどんどん前に出て書かせます。待ち続ける必要はありません。一方、選句する生徒たちには、板書発表が終わってから、5分間の選句の時間を取ることが肝心です。
授業ステップ6 教師の評価・判定
教師の評価基準は、生徒の575の原句が「感動の本体そのものをしっかり捉えているか」ただそれだけです。後は生徒任せです。極力口は挟みません。
授業ステップ7 生徒相互の評価・判定
生徒たちは、びっしりと原句が書かれた黒板を眺めて、思い思いに、その印象・雰囲気・感じられる隠れた思いを想像して評価しあいます。わいわいがやがやと、隠れた気持ちを確認しあう言葉などが飛び交って、とても良い雰囲気になります。そして、一人3句まで選句させ、票がたくさん集まった上位3句を、先生が代表して大きな声で読みあげてやります。
授業ステップ8 仕上げとして、自由創作短歌2首、「紹介文」も忘れずに
こうして、すべての短歌が終わったら、今までの体験を元に、仕上げの課題として短歌2首の創作に入ります。その時、第1部の「言霊」の俳句⑪⑫を思い出させ、575と77の役目をもう一度確認してから作歌に入ります。自歌の横に短い「紹介文」を書かせることは言うまでもありません。
なお、作歌の苦手な生徒のために、今まで作ってきた手持ちの原句を活用して、それに「77」を付けることでも良しとしました。
そして、評価の基準は、「575と77との区別ができているか」「そして紹介文がきちんと書けているか」だけにします。、初心者ですので歌の上手下手は評価に入れませんでした。
●結論・5つの成果
授業の成果1 原句づくりの協同作業と創作短歌によって、楽しく俳句・短歌のからくりが体感できたこと
今回は、「言霊」から見た「俳句」「短歌」「和歌」「現代の短歌」の仕組みとその変遷の説明をしてから、原句づくりをさせました。
原句575に「77」を付けさせ短歌を作るところまでは、時間の制約がありできませんでしたが、生徒たちは、原句づくりと、その「紹介文」に自分たちが感じたことを書きこみ、アイデアの交換をすることで、また短歌2首を実際創作体験することで、575と77との関係、俳句と短歌のからくりを体感することができました。
授業の成果2 「言霊」を体感させることに成功したこと
授業のねらいの一つとした575の「言霊」の持つ力の体感は、原句づくりと、生徒一人一人が原句の「紹介文」で自己の感じたことを明確にし、みんなとそれを回覧交流しあうことで十分達成できました。なぜなら、生徒同士が原句を作り、学び合うことで、「自分だけじゃない。感情を取り除いた、感動の本体そのものの原句から、いろいろな思いが湧いてくる。575には何か不思議な力が隠されている」と、生徒たちはみんな気づいたからです。
授業の成果3 教科書という壁。「現代の短歌」への抵抗感を緩和できたこと
このように生徒同士の協同作業による学び合いを通じて、生徒たちはいろいろな感性と出会うことができました。それが、ひいては「自分たちの生活感覚と合わない、つまらない歌」と思っていた「現代の短歌」の作者にも目を向けることにつながっていきます。意味解釈だけで終わらず、「ちょっと自分のと比べてみよう、もうちょっと調べてみよう」と思うようになってきます。そして、その決定打は、授業最後の短歌2首の創作体験でした。実際に創作体験することで、否が応にも「現代の短歌」への抵抗感は無くなっていきます。
授業の成果4 見えてきた「感性」を育てる方法。「感性」がぶつかり合うことで、「感性」は育っていく
そこまで行けば、後は生徒たちに任せておけばよいのです。子供たちが学び合い、感性と感性がぶつかり合うことで、自然と五感を使い想像力を働かすこと、「気づかなかったものに気づく心」=「感性」がどんどん育っていくのです。
教師の側からすれば、「現代の短歌」に限らず、他の教材でも、どんどん協同学習を取り入れて、「感性」がぶつかり合うような授業を行っていけばいいことに気づかされる授業となりました。これは今回の大きな収穫でした。
授業の成果5 意外な発見。原句化する際、季語が想定できなかった短歌は、かえって自由闊達のびのびとした発想の場に
原句づくりで季語が想定できない短歌が13首中3首ありました。その1例を挙げます。
「仮説たて仮説をたてて追い行くに櫛けずらざる髪も炎え立つ」(岡井 隆)です。
これは<研究に没頭しても、ちっとも成果が上がらない学者である作者のいらだち>を表した歌です。
この原句化の模範例として、私が「研究や実験ノートのふけの跡」と詠んで示したところ、これが生徒たちにバカ受けしてしまいました。
生徒には難しいと思い込んでいた無季の原句づくりは、反対に生徒の心に火を付け、様々な原句が飛び出し、発表の場は活発に、そして過熱感さえ感じるほどでした。まさに「感性」と「感性」が激しくぶつかり合う場面となりました。
これはとても良い誤算でした。大きな教訓でした。
授業はやってみなければわかりません。まさに生徒たちから教師が教えられた授業でした。こんな発見が明日の授業につながっていきます。
最後に
以上、長々と書き、わかりにくい点が多々あったと思いましたが、皆さんにとって何かのヒントになれば幸いです。そして、ご高評いただければさらに幸いです。
梅雨晴れ間気づけばそこに道があり
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