選句

https://www.asahi.com/articles/DA3S15247271.html 【選句は「作者と私との対話」 朝日俳壇、新選者に小林貴子さん】より

 朝日俳壇の選者に、現代俳句協会副会長で俳誌「岳(たけ)」編集長の小林貴子さん(62)が4月から加わる。1月に退任し、先月死去した稲畑汀子さんの後任となる。

 長野県飯田市生まれ、松本市在住。信州大学在学中の1981年、信州大学学生俳句会と松本市に本拠を置く「岳」俳句会に入って俳句を始め、「岳」主宰の宮坂静生さんに師事した。

 82年から97年まで「鷹(たか)」俳句会にも所属。創刊主宰の藤田湘子(しょうし)は「まぎれなく稀(まれ)に見る大型新人」と絶賛した。

 俳句を始めたころを、こう振り返る。「文学少女ではあったけれど、社会とうまく接触できず、心の中の泥炭を抱え、硬くうずくまっている状態だった」。だが季語の世界、例えば実物の銀ヤンマ、滝、冬山などと出会うことで心が豊かなもので満たされ、呼吸が楽になっていったという。

 だから今も作句の基本は「季語と仲良くすること」だと話す。「その季語に新しいテイストを少しでも盛り込んで、自分なりに新しい地平に出たい」

 句風は自在。父の臨終に際して詠んだ〈命終(めいじゅう)の銛(もり)打つは誰(た)そ月の夜〉のような荘厳な句も、〈大阪の夜のこてこての氷菓かな〉といったユーモアあふれる句もある。句集に「海市(かいし)」「北斗七星」「紅娘(てんとむし)」、星野立子賞を受賞した「黄金分割」がある。

 選句は「作者と私との対話」と言う。評は「私はこんなふうに心を動かされました」ということを素直に書きたい。選者とは、俳句と読者との架け橋で、作者から受け取ったバトンを読者に手渡す役目でもあると思っている。「気負わず、良い句を見つけて、読者の方々に届けたい」

 朝日俳壇の選者になることが決まってから、担当記者の私に来たメールにこうあった。「身の引き締まる思いです。キュッ!」(西秀治)


https://www.tokyo-np.co.jp/article/12583 【『平和の俳句』選句会 ライブ篇】より

 毎日朝刊一面に掲載している「平和の俳句」の選考会を生で体感してもらおうという東京新聞フォーラム「俳句のチカラ~『平和の俳句』選句会ライブ篇」が三日、東京・両国の江戸東京博物館で開かれた。会場のホールは、約四百人の参加者で満席。レギュラー選者の俳人金子兜太(とうた)さん(96)、作家いとうせいこうさん(55)と、ゲスト選者の俳人夏井いつきさん(59)の三人による選考と軽妙なトークで盛り上がった。

◆東京新聞代表・大島宇一郎あいさつ

 こんなに熱気ムンムンで大勢の方に来ていただいたフォーラムは過去に例がない。喜ばしい限りです。戦後七十年の去年から朝刊一面で連載している平和の俳句のフォーラム版です。普段は狭い会議室で選考していますが、きょうは皆さまの前で行い、その雰囲気をお楽しみいただきたいと思っています。

 選句会は金子兜太さんの「恋バナ」(恋愛話)から始まった。体調を崩して寝込んだ金子さん。「原因は?」と問われると「恋煩いで。私は九十六歳なんですがね、八十五歳の女性が好きになりまして」と語り、会場は笑いに包まれた。

◇第1部 選句

 この日のために寄せられた句は六百以上。第一部は選者の三人が応募作を一句ずつ読み、二十作に絞り込んだ。ビデオカメラが選者の手元を追い、舞台上のスクリーンに映す。それを句の作者でもある来場者が固唾(かたず)をのんで見守った。

 真っ先に選句を終えた夏井いつきさんは「すごく俳句っぽいものから完全にメッセージというものまで、幅が広くてびっくりしました。何でもないつぶやきが『平和の俳句』という枠に入れるとがぜん輝きを放ってきますね」と話した。

◇第2部 選評

観客賞は第1部で選者が選んだ20句から来場者の投票で選ばれた。休憩時間に張り出された句から熱心にイチオシの句を選ぶ人たち

観客賞は第1部で選者が選んだ20句から来場者の投票で選ばれた。休憩時間に張り出された句から熱心にイチオシの句を選ぶ人たち

 第二部では選ばれた二十作を一句ずつ取り上げ、三人がそれぞれの評を披露。互いに意見をぶつけ合いながら、入賞作を決めた。

 大賞に選ばれたのは、萱原祥暢(かやはらよしのぶ)さん(75)=茨城県潮来市=の<原爆忌ボタンひとつで炊ける飯>。いとうせいこうさんは「炊飯器のボタンひとつでご飯が炊ける。そういう科学に頼る自分たちに気づいている。原爆はダメだと反対するだけじゃなく、ユーモアに包んで句にしている。『原爆忌』としたのもいい」と称賛。金子さんも「ウイットがきいてます」と大きくうなずいた。夏井さんは「原爆と(核兵器の)ボタンはよく並べられるけど、炊ける飯とつながるところがいい」と評した。

 金子さんの選者賞は、斎藤政子さん(87)=東京都墨田区=の<供出しなかった梵鐘(かね)のある平和>。「これはわたしが一番好きな句。こういう軽妙な諧謔(かいぎゃく)はなかなか見たことがない。供出しなかった鐘が幸いにも置いてある、それが新鮮な感じがするんですよ。平和を謳歌(おうか)している」

 夏井さんは、石黒みどりさん(61)=千葉県習志野市=の<朝日浴びみなわたくしの影を持ち>を選んだ。「季語らしきものはない。でもわたしたちは朝起きるたびに自分だけの影を持って生きる。朝日の光と影との対比もいいですね」

 いとうさんが選んだのは観客賞にも選ばれた横山淳さん(69)=東京都世田谷区=の<天高く泣いていいんだ赤ん坊>。「説明に『シベリア抑留経験のある先輩が、ソ連軍兵士に見つからぬよう親が赤ん坊の口と鼻をふさぐ光景を見た』とある。このごろ電車などでも赤ちゃんが泣くのが悪いみたいになっているが、この句は『赤ちゃんの自由』ということかなと」

◇振り返って

 入賞作が舞台上のスクリーンに映し出されると観客席からはため息が漏れ、拍手が起きた。選句会を振り返って、夏井さんは「言いたい放題の人(金子さん)が隣にいて、自由に発言できて楽しかった。これだけのバラエティーに富んだ句が集まったことに感動しました」と話した。いとうさんは「いつもは会議室の中でやっていますが、そのときの金子さんの面白い言葉をみなさんと共有できてよかった。夏井さんの指摘もとても勉強になりました」。金子さんは「句を作った方の姿を見られて、栄養をいただいた気持ち。平和の俳句は新聞紙上だけでいいと思っていたが、こういう場所でやって素晴らしい句がたくさん出て、非常に気持ちの良い一日をいただきました」と、晴れやかな笑顔を見せた。

大賞 原爆忌ボタンひとつで炊ける飯(萱原祥暢)

 こんな大きな賞をいただいてびっくりしています。世の中便利になったけど、ボタンを押すのは電気釜くらいにしといてください。そういう思いです。

★金子選 供出しなかった梵鐘(かね)のある平和(斎藤政子)

 夏井先生の番組(「プレバト!!」)が好きで励まされて初めて作った句です。東京大空襲の時、逃げ込んだ壕(ごう)近くの鐘楼に鐘はなかった。昨年、七十年忌で都慰霊堂の鐘を見て、当時を思い出しました。

★夏井選 朝日浴びみなわたくしの影を持ち(石黒みどり)

 とてもうれしい。夫と二人で散歩をしていて人や木や草の影がみんな違うことに気付きました。影が何か主張しているように見え、それぞれ生きていることを表したいと思いました。

★観客賞・いとう選 天高く泣いていいんだ赤ん坊(横山淳)

 二つも賞をいただけるとは驚きました。うちの孫は一歳になる女の子でよく泣くんです。その姿を見て、俳句の先輩の話を思い出しました。子供が泣くのは当たり前です。当たり前の世の中になってほしい。

★入賞 もの言えぬ世の来て平和離(さか)りゆく(早船セツ子)

★入賞 ぽかんとあおぞらただそれだけの終わりとはじまり(橘加代子)

★入賞 花をめでその手で花をあやめる日(久保ゆう子)

★入賞 反省は想像力なり青山河(黒岡洋子)

★入賞 九条を剥がしに掛かる北颪(きたおろし)(田中絢子(あやこ))

 <選者・金子兜太> 1919年生まれ。東京帝国大卒業後、44年にトラック島に派遣される。戦後「社会性俳句」の旗手となり、56年に句集『少年』で現代俳句協会賞。62年に俳句誌『海程』創刊。現代俳句協会名誉会長。

 <選者・いとうせいこう> 1961年生まれ。音楽、舞台、テレビなどで幅広く活躍。88年『ノーライフキング』で作家デビュー。東日本大震災をモチーフにした『想像ラジオ』で野間文芸新人賞。最新作は『我々の恋愛』。

 <選者・夏井いつき> 1957年生まれ。俳句集団「いつき組」組長として創作活動&指導に当たる。「俳句甲子園」の創設に携わり、「俳都松山大使」に就任するなど幅広く活動中。TBS「プレバト!!」俳句コーナー出演中。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

0コメント

  • 1000 / 1000