Facebook湊 万徳さん投稿記事
かつて、日本にはこんなに自由で一本背骨の通ったニュース番組があった。TBSの[NEWS 23]のキャスターとして活躍しガンで亡くなった筑紫哲也さんが最後の放送で語ったジャ一ナリストとしての使命の言葉です。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000358296
日本のテレビ報道はなぜここまでダメになってしまったのか?金平茂紀さんと青木理さんのジャ一ナリストはいかにあるべきかと対談しています。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92906?page=1&imp=0 【日本のテレビ報道はなぜここまでダメになってしまったのか? 金平・青木が全部バラす】
青木理・金平茂紀対談【後編】
青木 理, 金平 茂紀プロフィール
かつて『筑紫哲也 NEWS23』という画期的な報道番組があった。同番組の編集長を務め、現在は「報道特集」キャスターの金平茂紀が、ジャーナリスト・青木理ととも日本のジャーナリズムの危機と課題について語り合った連続企画の後編をお届けしよう。
少数者であることを恐れるな
青木 それにしても、旧来型メディアの筆頭である新聞やテレビは、これからますます凋落し、崩れ落ちていくでしょう。金平さんはメディアの行く先をどう見ていますか。
金平 悲観的とか楽観的というよりも、オールドメディアがオンラインメディアによってテイクオーバー(征服)されていくのは、時代の必然だと思うのです。オールドメディアとオンラインメディアが対立するのではなく、これから両者は入り組んで融合していくんじゃないですか。
2040年までに、ニューヨーク・タイムズは紙の新聞をやめてオンラインに一本化するそうです。
青木 今やニューヨーク・タイムズのデジタル版契約者数は1,000万に達したようですからね。
金平 紙媒体が激減する中、オンライン版のニューヨーク・タイムズの読者は逆に激増しています。彼らが出す記事の内容、充実ぶりはすごいですよ。読者が読めるのは文字情報だけではありません。アメリカの連邦議会議事堂でトランプ支持者による占拠事件が起きたとき(2021年1月6日)、中にいる記者は、テレビ局の記者と同じように実況リポートをしました。トランプ派の人間がどういうふうに乱入してきて、中で何が起きているのか。彼らのレポートはとんでもなくクオリティが高く、そしておもしろいのです。
青木 考えてみれば、プリント時代のニューヨーク・タイムズは、メディアとしての影響力やステイタスは別としても、発行部数でいうとわずか数十万程度だったわけです。
金平 ニューヨークのローカル紙でしたからね。
青木 一方、アメリカでは中堅の地方紙などが大量に潰れました。そうした地域はメディア、ジャーナリズムの砂漠地帯、空白地帯となり、トランプを熱狂的に支持したレッド・ステートとも重なり合います。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといった一部のステイタス・メディアがデジタル版で読者層を世界中に広げて息を吹き返したとはいっても、メディア状況は全体としていまだ混沌としていて、明るい未来はまったく見えません。
金平 オールドメディアが生き残るため、オンラインメディアの打ち壊し運動なんてできません。独裁国家ならインターネットを禁止するだろうけど。メディアのオンライン化は、もはや後戻りできない流れです。
時々刻々すさまじい情報があふれ返る中、人々は情報の海で溺れかかっています。そういう中で、今みんなが「世の中の見取り図」を必死に求めていると思うんですよ。クリティーク(批評)を提供してくれる論壇の機能を、新聞やテレビ、ラジオといったオールドメディアは果たしていくべきではないでしょうか。
青木 とはいえ、たとえばテレビの現状は惨憺たるものですね。僕も多少は関わってきましたから他人事ではありませんが、各局のワイドショーや夕方のニュース番組などは論外だし、今のテレビには大人の鑑賞に堪えうるクリティークがほとんどありません。
金平 テレビはその機能を自ら放棄してしまったのです。
金平 誰かが「新しい資本主義」と言っていたけど、アメリカの学者は最近「情報資本主義」という言い方をするんですよ。毎日洪水のように流れてくる情報を、視聴者が観終わってただ消費するだけ。消費された情報はただ消えていくのです。電通が打ち出している「コアターゲット論」の弊害ではないでしょうか。
青木 ごく簡単に説明すれば、おおむね10代から40代ぐらいまでの若年層を「コアターゲット」などと位置づける昨今のテレビ界の風潮ですね。その層の消費活動が活発だと見立てた電通などが旗を振り、スポンサーにも売り込んでいるから、「コアターゲット」の視聴率を上げようと各局とも血眼になっている。結果、子どもじみた番組ばかりが増えているわけです。
金平 「視聴者=生身の人間」「視聴者=有権者」という感覚がいつの間にか消え失せて、テレビを作っている側が「視聴者=顧客」と見るようになったのです。「テレビだって商売だ。多くの人に観られてナンボのものだ。顧客を絞りこんで番組を作り、最大限利益を上げていくのは企業にとって当たり前ではないか」というマーケット論が、テレビジャーナリズムにまで触手を伸ばして幅を利かせているのです。
こういう考え方は、テレビというメディアを弱体化させるどころか、滅ぼすと僕は危惧します。筑紫さんはよく「テレビというメディアは『川下メディア』だ」と言っていました。
「新聞の社説や天声人語なんてのは『川上』の清流だ。源流に近い清い流れだから、まだ濁っていない。『川下』には、生活排水やら何やらいろいろなものが混じっている。濁りも含めて、いろいろな流れが混じった大きな川の流れがテレビというメディアなんだ」
筑紫さんはよくそう言っていましたよ。
青木 その筑紫さんは、先輩の政治記者からこう言われたことがあったそうですね。「君たち政治記者は、これから泥水の中に飛びこんでいく。ただし、たまに泥水から顔を出してきれいな息を吸い、同時にまわりを冷静に見渡さないとダメだよ」と。
これって僕らの仕事に共通する原則でしょう。情報源の懐に飛び込みつつ、しかし同時に対象とは慎重に距離を取り、自分の立ち位置を見失わないよう注意する。自らの独立した立ち位置を常に確保し、単に取り込まれた番犬になってはならない。その点で言うと、安倍元首相と親しい某記者はかつて、「あなたが記者として一番大事にしているものはなにか」と問われ、「国益」と答えたそうですから唖然とするしかありません。
メディア環境が激変しているのは時代の趨勢とはいえ、メディアとかジャーナリズムの仕事に関わる者の原則や矜持までがいま揺らいでいるのではないのか。そのあたりの僕の懸念は、『破壊者たちへ』という新刊でも詳しく記しましたが。
筑紫哲也の遺言
金平 亡くなる直前に放送された「最後の多事争論」で、筑紫さんはこう言いました。
「力の強いもの、大きな権力に対する監視の役を果たそうとすること。とかく一つの方向に流れやすいこの国で、少数派であることを恐れないこと。多様な意見や立場を登場させることで、この社会に自由の気風を保つこと」(2008年3月28日放送「NEWS23」)。
「力の強いもの、大きな権力に対する監視の役」を果たすどころか、権力者の愛玩犬になっている記者を僕はいっぱい知っています。「少数派であることを恐れない」どころか、多数派にガッツリすり寄って「お前も多数派につかなきゃ駄目だよ」なんて御託を並べる。「多様な意見や立場」「自由の気風」とは真逆に、全社一丸となって顧客商売に突き進む。
筑紫さんの『遺言』に照らし合わせたとき、これからの日本のジャーナリズムはどうあるべきなのか。これからが僕たちの仕事の始まりです。
(2021年12月2日に開催されたトークイベントの内容に、大幅に加筆・修正しました)
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