「今」を生きるマインドフルネス瞑想法

http://anzenmon.jp/page/10243153 【その2 「今」を生きるマインドフルネス瞑想法】より

 マインドフルネスを培うというのは、リラックスした状態で、ありのままで前向きに今という瞬間に意識を向けるのを学ぶことです。こうした資質は、あるがままに受け入れようという好意的な姿勢で、今この瞬間に存在するものに意識的にじっくりと注意を払うことで養われます。マインドフルネスは日々の瞑想をとおして培われるものです。

 恐怖や不安、パニックへのよりよい対処法を学ぶためには、リラックスして、「意識的に注意を払える」ようになることが重要です。瞑想を通じてマインドフルネスをはぐくんでいくにつれ、リラックスしながら今に意識を向けられることがわかってくるでしょう。恐怖や不安、パニックから逃げたり、それらがあたかも自分そのものであるように感じたりせず、それらと向き合えるようになるでしょう。

 恐怖や不安を自分の敵や「問題」ではなく、今の時点での状態だと見なすようになるにつれて、それがあなたの人生を支配することはなくなるでしょう。あなたは恐怖や不安、パニックにもっと効果的に対応するようになります。

 以下に、本書で繰り返し述べられる考え方をあげます。

・恐怖や不安、パニックに苦しんでいる人にも、人生を変えるために必要なものはすでに備わっています。マインドフルネスや慈しみ、思いやりはあなたのなかにあるのです。

・そうした変化のための基盤となるのは、意識しながら今を生きる姿勢です。つまり、判断を加えず、努力せずに、すべてを受け入れようという姿勢で今に意識を向けるということです。マインドフルネス瞑想法では、何かをすることでなく、ただ存在することに重きがおかれます。

・じかに注意を向けてみると、恐怖や不安、パニックといった体験はその姿を変えていきます。マインドフルネス瞑想法では、恐怖や不安、パニックが生じたら、それと向き合うよう指示されます。ひるんだり、逃げたり、それらを押さえこもうとしてはいけません。

・こうした対処法は、マインドフルネスが生きる姿勢となったとき、最も効果を発揮します。マインドフルに生きるというのは、人生の今の瞬間に生じては過ぎ去ってゆくひとつひとつのできごとと向き合い、結びつくことです。マインドフルネスを手段やテクニックと考え、恐怖や不安、パニックを感じて苦しんでいるときにだけ利用しようとしているかぎり、さしたる効果は現れないでしょう。日々の瞑想に基盤をおき、それを生活に取り入れていくとき、マインドフルネスは生きる姿勢となります。

・本書で紹介するものをはじめとする個々の瞑想法は、マインドフルネスを生きる姿勢にできるよう、皆さんをお手伝いすることを目的にしています。瞑想法によって主眼は異なるものの、どれもそのねらいは、そのときあなたの内部や周囲で何が起こっていようと、あなたが人生の瞬間瞬間に意識を向けるのを助けることなのです。

マインドフルネス瞑想の効用

 マインドフルネスが役に立つかどうかを知るためには、とにかく実践してみるしかありません。ただ、医学的研究の結果、不安やパニックなどのさまざまな問題に直面する人々が日々の瞑想に打ちこんでマインドフルネスを培うと、すばらしい恩恵が得られることを示す心強い証拠が増えていることは確かです。

 マインドフルネス自体は人間に基本的に備わった資質です。これは意識しながら今を生きる能力です。判断を下さず、すべてを受け入れようという好意的な姿勢で今に意識を向けるということです。

 何千年もの間、人々は瞑想を通じてこの資質を体系的に発達させてきました。歴史的には、精神修養を推し進め、人生におけるより高次の目的や意味への気づきを促すことが狙いとされてきました。

 一九六〇年代以降、大規模な社会の変化によって、欧米の人々の間に瞑想や東洋の精神性、意識変容状態への関心が呼び起こされ、健康や癒しとの関連で瞑想やマインドフルネスに対する関心が高まりました。

 リン・フリーマンはローリスとの共著のなかでこう指摘しています。人は何千年にもわたって瞑想を実践してきたが、「欧米文化において瞑想が医療行為として研究されだしたのは、過去二五年ほどのことにすぎない」。フリーマンらによれば、こうした研究が注目してきたのは、超越瞑想、ハーバート・ベンソンが考案した瞑想法、キャリントンらの編み出した臨床標準化された瞑想法、マインドフルネス瞑想という、異なる四つの瞑想法です。

 マインドフルネス瞑想法は「そのほかの三つの瞑想法とは著しく異なる」とフリーマンは述べています。ほかの三つはすべて基本的には集中力を高めるための手法で、ある語句や音など、ひとつの対象にひたすら集中するよう説くものですが、マインドフルネス瞑想はこれとは異なり、意識を広げて「自分の精神活動や思考を、判断を加えずに観察する」瞑想法なのです。

 ジョン・カバット= ジンは一九七九年にマサチューセッツ大学医療センターにストレス緩和クリニックを開設した人物で、マインドフルネス瞑想を初めて医療に応用しました。ここで用いられた手法は「マインドフルネスに基づくストレス緩和プログラム」として知られるようになりました。カバット= ジンらはこのプログラムでマインドフルネス瞑想法とヨガ瞑想法を併用し、何千人もの参加者がストレスや痛み、病気により、効果的に対処することを助けてきました。

マインドフルネスと医学的研究

 一九七九年以降、マインドフルネス瞑想が健康に好影響を及ぼすことを、数多くの臨床研究が立証してきました。マインドフルネス瞑想は不安やパニック、気分障害全般の症状改善にかかわりがある、また、その他のさまざまな疾患でも自己管理の訓練として有効である、と報告されています。

 カバット= ジンらは、一九九二年にストレス緩和クリニックの成果を発表しました。それによると、全般性不安障害、パニック障害、「広場恐怖」(そこから逃げ出すのが難しい場所や状況に身をおくことへの恐怖)を伴うパニック障害の患者で、不安やパニックの症状が著しく軽減しました。

 この患者たちに関するミラーらの追跡調査(一九九五年)によれば、大多数の患者が三年後も引き続き瞑想を実践しており、不安も著しく改善した状態を保っていました。

 スピカら(二〇〇〇年)は、がん患者のグループがマインドフルネス瞑想を行ったところ、大きなメリットがあったと報告しています。瞑想によって気分障害が全般的に軽減し、うつや不安、怒り、混乱がかなり緩和されたのでした。

 一九九八年には、シャピロとシュワルツがマインドフルネスに基づくストレス緩和プログラムを実践した医学生のグループに関する研究結果を発表しました。それによると、不安やうつをはじめとして心理的苦痛全般が大きく緩和され、共感が深まり、精神的体験の尺度となる点数が上がったことがわかりました。

 ジョン・ティーズデールやジンデル・シーガルらは、二〇〇〇年にカナダとイギリスで実施した複数施設における試みの成果を報告しています。これは、大うつ病患者の再発予防のために、マインドフルネス瞑想と認知療法を組み合わせた手法を適用してみたものです。過去に三回以上、大うつの症状が出現した人が、認知療法と組み合わせてマインドフルネス瞑想を行ったところ、再発のリスクがかなり低くなりました。

 

 リネハンは、心理療法に「ものごとを受け入れる」という要素を融合させる方法としてマインドフルネス瞑想を利用した成果を著書にまとめました。リネハンの研究対象は境界性人格障害と診断された人々で、彼女の考案した「弁証法的行動療法」は幅広く利用されてきました。

 ほかにも、慢性的な痛みや線維筋痛症、かんせん、過食症、スラム地区の住民、ストレス緩和にマインドフルネス瞑想が効果を発揮したという報告が見られます。

 マインドフルネス瞑想がこうしたさまざまな疾患の改善にどう役立つのか、わかっていない点もまだ多いのですが、とにかく役立つということだけは明らかなように思われます。

まとめ

 本書では、恐怖反応のメカニズムや不安についての基本的な知識、思考や態度が健康に与える影響について見ていきます。不安やパニックがどうして起こるのか、また、それらに対する最善の治療法は何なのか、医学はまだ最終的な結論に達していません。

 今という瞬間に身をおき、自分の心と体、そして今この時点で起きていることとつながっていられるようになることで、恐怖や不安、パニックといった自分自身の体験を理解する絶好のチャンスに恵まれることでしょう。そうした理解から、癒しを得るための最適な反応ができるようになります。

 数々の有望な新研究で、不安やパニックをはじめとしたさまざまな病状の軽減にマインドフルネス瞑想が役立つことが示されています。

著者等紹介

ジェフ・ブラントリー

医学博士。デューク大学医学部精神医学科顧問医師。同大学統合医学センターの「マインドフルネスに基づくストレス緩和(MBSR)プログラム」の創始者、ディレクターでもある。ラジオ、テレビ、新聞、雑誌などでMSBRプログラムに関する数々のインタビューに応じている。

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