https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%B3 【ミラーニューロン】より
ミラーニューロン(英: Mirror neuron)とは、霊長類などの高等動物の脳内で、自ら行動する時と、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞である。他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように"鏡"のような反応をすることから名付けられた。他人がしていることを見て、我がことのように感じる共感(エンパシー)能力を司っていると考えられている。このようなニューロンは、マカクザルで直接観察され、ヒトやいくつかの鳥類においてその存在が信じられている。ヒトにおいては、前運動野と下頭頂葉においてミラーニューロンと一致した脳の活動が観測されている。
ミラーニューロンは、神経科学における20世紀末から21世紀初頭にかけての10年においては非常に重要な発見の1つであると考える研究者も存在する。その中でも、ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン[1]は模倣が言語獲得において重要な役割を持つと考えている。しかし、その分野での認知度にも拘わらず、ミラーニューロンの活動が模倣などの認知活動において、どのような役割を果たすのかという疑問に答える神経モデルや計算モデルは、2008年現在においては存在しない[2]。
加えて、1つの神経細胞がある現象を引き起こすとは一般的には考えられていない。むしろ、神経細胞のネットワーク(神経細胞群(neuronal assembly))全体が、ある活動を行う際に活性化していると考えられている。
ミラーニューロンの機能については多くの説がある。このようなニューロンは、他人の行動を理解したり、模倣によって新たな技能を修得する際に重要であるといえるかもしれない。この鏡のようなシステムによって観察した行動をシミュレートすることが、私たちの持つ心の理論の能力に寄与していると考える研究者も存在する[3][4]。また、ミラーニューロンが言語能力と関連しているとする研究者も存在する[5]。さらに、ミラーニューロンの障害が、特に自閉症などの認知障害を引き起こすという研究も存在する[6][7]。しかし、ミラーニューロンの障害と自閉症との関係は憶測の域を出ておらず、ミラーニューロンが自閉症の持つ重要な特徴の多くと関連しているとは考えにくい[2]。
自閉症に関係するとされている脳領域。ミラーニューロンは自閉症との関連性が指摘されているが、確固とした証拠はまだ見つかっていない。
ミラーニューロンの発見
ミラーニューロンはイタリアにあるパルマ大学のジャコモ・リッツォラッティ(英語版)らによって、1996年に発見された。リッツォラッティたちは手の運動、例えば対象物をつかんだり操作したりする行動に特化した神経細胞を研究するため、マカクザルの下前頭皮質に電極を設置し、この実験においてマカクザルがエサを取ろうとする際の特定の動きに関わる神経細胞の活動を記録していた[8]。リッツォラッティたちは、実験者がエサを拾い上げた時にマカクザル自身がエサを取るときと同様の活動を示すニューロンを発見した。その後、さらなる実験によってサルの下前頭皮質と下頭頂皮質の約10%のニューロンが、この「鏡」の能力を持ち、自身の手の動きと観察した動きの両方で同様の反応を示すことが判明した。
この研究が論文として発表された[9]うえで追試による検証が行われ[10]、ミラーニューロンは脳における下前頭皮質と下頭頂皮質の両方に存在することが判明した。最近になって、機能的核磁気共鳴画像法 (fMRI)、経頭蓋磁気刺激法 (TMS)、脳波計 (EEG) や行動実験によって、実際の行動とその観察との両方に反応するシステムの存在が、ヒトにおいても強く支持されている。また、そのような脳領域とマカクザルで発見された領域には類似が見られた[11]。
より最近になって、カイザース (Keysers) らはヒトとサルの両方で、この鏡のようなシステムが行動の音にも反応することを示した[12][13]。
サルにおける研究
マカクザルの新生児が相手の表情を真似ている。
ミラーニューロンが細胞単位で研究されている唯一の動物がマカクザルである。マカクザルにおいて、ミラーニューロンは下前頭回(F5領域)と下頭頂葉で発見されている[11]。
ミラーニューロンは他の動物の行動の理解の仲介役を担っていると信じられている。例えば、サルが紙を引き裂くときに反応するミラーニューロンは人が紙を引き裂くのを見たり、引き裂く音を (視覚的な手がかり無しで)聞いたりする際にも反応する。このような性質から、研究者は、サルや他の動物が行う'紙を引き裂く'という行動の抽象的な概念を、ミラーニューロンがエンコードしていると信じている[14]。
マカクザルにおけるミラーニューロンの機能はまだよく分かっていない。成体のマカクザルが模倣によって何かを習得するとは考えにくい。最近の研究では、マカクザルの赤ちゃんは、新生児の時のみわずかな時間だけ人の表情の動きを模倣することが出来ることが示されている[15]。しかし、この行動にミラーニューロンが関わっているかどうかはまだ分かっていない。
成体のサルにおいては、ミラーニューロンは他のサルの行動を理解したり、認識したりすることを可能にしていると考えられている[16]。
ヒトにおける研究
大脳の前頭葉と頭頂葉の位置を示した模式図。脳を左側から見た図で、下前頭葉は青い領域の下側、上頭頂葉は黄色い領域の上側にあたる。
ヒトの脳を細胞単位で研究することは難しい。したがって、ミラーニューロンがヒトの脳に存在するという確証は得られていない。しかし、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)による脳イメージング研究によって、ヒトの下前頭回と上頭頂葉が、被験者が実際に行動する時と他者の行動を観察する時の両方で活動を示すことが分かった。したがって、この領域にミラーニューロンが存在し、ヒトにおけるミラーニューロンシステムを構成していると考えられている[17]。 ヒトにおけるミラーニューロンシステムを研究するために、いくつかの間接的な計測が行われている。例えば、ヒトが他人の行動を観察している際、観察者の運動野がより活動しやすくなる[18]。この変化は経頭蓋磁気刺激法(TMS)により誘発される運動誘発電位(motor evoked potential(MEP))の大きさを計測することで分かる。運動誘発電位は、脳のミラーニューロン領域と強く接続されている一次運動野から発生するので、その大きさの変化はミラーニューロンシステムの活動量として考えられる。最近のデータによると、このような運動誘発電位の大きさの変化は、刺激と反応の対応関係を訓練することで大きく変えることができる。Catmurらのこの研究では、観察した人差し指と自身の人差し指の運動の両方で運動誘発電位の大きさの変化が増加する領域を、訓練によって小指の運動に反応する領域と入れ替えることに成功した[19]。
アイトラッキング装置によっても、ミラーニューロンの処理を間接的に計測することが出来る。他人の手が動いているのを見る時、人はその手がつかもうとする対象へと目線が向いている。それと似た形で、他者の行動を観察するとき、人の目線は他人の行動を予測しながら動いている[20]。
ミラーニューロンの発達
アイトラッキング装置を用いたヒトの新生児のデータでは、ミラーニューロンシステムは生後12ヶ月までに発達し、新生児が他者の行動を理解することを助けているとされている[21]。ミラーニューロンがこの鏡のような能力をどのように獲得するかというのは大きな疑問である。1つのモデルとしてはミラーニューロンはヘッブの法則に基づく学習によって訓練されるというものがある[22]。しかし、前運動野のニューロンが鏡の能力を得るために行動によって訓練される必要があるなら、どのようにして新生児の赤ん坊が他人の表情を真似ることができるのかという問題が残る。他人の表情の真似は、メルツォフとムーア(Meltzoff & Moore)が示したように、今までに見たことがないものに対する模倣だからである。この問題は、他人の表情の真似がミラーニューロンを必要としない特殊なタイプの模倣であると仮定しなければ解けない。
考えられている機能
他者の意図の理解
多くの研究において、ミラーニューロンを、目標と意図の理解と関連付けている。フォガッシ (Fogassi)らは2005年の研究において[23]、2匹のアカゲザルの下頭頂葉 (IPL)にある41のミラーニューロンの活動を計測した。この、下頭頂葉は長い間、感覚情報を統合する連合皮質であると考えられている。サルは実験者がリンゴをつかみ口へと持っていく行動と、リンゴをつかみカップへと入れるという2種類の行動を観察した。合計で15のミラーニューロンが、"つかんで食べる"動きには活発に反応し、"つかんで入れる"動きにはまったく反応しなかった。また、4ニューロンはその反応とまったく逆の活動パターンを示した。ニューロンの活動を決定するのは、リンゴを操作する際の力学的な力ではなく、行動のタイプのみであるといえる。何故なら、サルのニューロンは実験者の二次的な行動 (リンゴを食べる、または入れる) の前に発火が始まっているからである。したがって、下頭頂葉のニューロンは"行動の組み込まれた最終目標によって異なる方法で、同じ行動 (つかむ) をコードしている"といえる[23]。このことは、他者の次の行動を予測し、意図の情報を得るための神経基盤となっていると考えられる[23]。
共感
ミラーニューロンは共感とも関連付けられている。なぜなら、特定の脳領域 (特に島皮質前部と下前頭皮質) は自身の情動(快、不快、痛みなど)に反応し、かつ他者の情動を観察する際にも活動するからである[24] [25][26]。 しかし、このような脳領域は手の動きに対して鏡のような働きをする領域とは非常に異なっており、しかも、サルの研究では他者の感情に共感するミラーニューロンは見つかっていない。より最近の研究ではカイザース(Keysers)らが、自己評価質問表における共感の値が高い人ほど手の動きに対するミラーニューロンシステム[27]と情動に対するミラーニューロンシステム[26]の活動が高いことを示し、ミラーニューロンシステムが共感と関連付けられるより直接的な証拠としている。
感情は他の人に簡単に移すことができる。これは、対面でのやり取りや非言語的な手がかりなしに、大規模なソーシャルネットワークを通じても発生する可能性がある。不満を持っているグループとオンラインでやり取りすると、不満を感じる可能性もある。一方で、ポジティブなグループと交流することで、よりポジティブに感じる。多くの場合、怒りなどの否定的な感情は、肯定的な感情よりも簡単に伝る。脳内のこの伝染の原因となるのはミラーニューロンであり、自動的に他人の感情を拾うことに特化している。したがって、他人の怒りを自分のものと誤解することさえある[28]。
言語
ヒトにおいて、ミラーニューロンシステムはブローカ野(言語領域)に近い下前頭皮質で見つかっている。このことからヒトの言語は、ミラーニューロンによる身振りの実行/理解のシステムから生まれたと考えることもできる。ミラーニューロンは他者の行動の理解、模倣の習得、他者の行動のシミュレーションをもたらすといわれている[29]。しかし、他の多くの言語進化の理論と同様に、その根拠となる直接の証拠はほとんどない。
自閉症
ミラーニューロンの欠陥と自閉症との関連を指摘する研究者もいる。一般的な子供では、ミラーニューロンの活動の指標であると信じられている、他者の動きを見ている際の運動野における脳波が抑制されている。しかし、自閉症の子供ではこのような抑制は見られない[30]。また、自閉症の子供は模倣の際のミラーニューロン領域の活動が比較的低い[7]。重度カナー自閉症児は他者の顔の表情の模倣を行うことができない。他者が両手の指の特殊な組み方を示しても、それを真似ることはできず、そうある物として認識するだけである。重度の自閉症児は「バイバイ」のような手の仕草も手のひらを自分側に向けて行う場合がある。このような行動パターンから、あくまで「重度の」自閉症にのみミラーニューロンの異常が指摘されている。さらに、自閉症スペクトラム障害を持つ成人の脳では、健常な成人と比較して、ミラーニューロンに関係しているとされる領域に解剖学的な違いが見つかっている。このような領域は全て、健常者に比べて薄くなっており、その薄さは自閉症の度合いと相関していた。さらに、この相関は他の領域では見られないものであった[31]。この結果に基づき、自閉症はミラーニューロンの欠如によって生じ、社会的能力や模倣、共感、心の理論の障害を起こすと主張する研究者も存在する。しかし、この様な理論はいくつもある自閉症の理論の1つに過ぎず、いまだ証明されていない[2]。
心の理論
心の哲学において、ミラーニューロンは、私たちの持つ'心の理論'の能力に関係するシミュレーション説の研究者の注目を集めるものとなっている。'心の理論'とは他者の体験や行動からその人の心理的な状態 (例えば、考えや欲求)を推測する能力のことである。例えばあなたが、'クッキー'とラベルされた缶に手を伸ばそうとしている人を見た時、あなたはその人がクッキーを食べたいと考え、(たとえ、本当はクッキーがその缶の中に入っていないことをあなたが知っていたとしても)その人はクッキーがその缶に入っていると考えている、と推測するだろう。
このような私たちの持つ心の理論の能力に関してはいくつもの異なるモデルが存在する。その内最もミラーニューロンと関連が深いのはシミュレーション説である。シミュレーション説によれば、私たちが無意識に観察している他者の心理状態をシミュレートすることで、心の理論は可能となる[32][33]。ミラーニューロンは、私たちが他者をより深く理解するために行うシミュレーションに必要となる機構だと解釈され、ミラーニューロンの発見は、 (発見の10年前から提唱されていた) シミュレーション説の有効性を証明するものであると考えられている[34]。
性差
ミラーニューロンに関連するMEGの信号が男性に比べ女性の方が強いとする研究が存在する[35]。しかしこの実験のサンプルサイズは比較的小さいため、さらなる検証が必要である [36] 。
共感性羞恥心
ミラーニューロン」の働きは「共感性羞恥心」のメカニズムにも関係している可能性があります。共感性羞恥心とは、他人が恥ずかしい状況にあると、自分も同じように恥ずかしさや居たたまれなさを感じる心理状態です。ミラーニューロンは、他者の恥ずかしい表情や態度を観察すると、自分も同じように反応して恥ずかしさを感じることを引き起こすと考えられています。
https://www.nlpjapan.co.jp/nlp-focus/pacing-skills.html 【即理解!人間関係に必要なペーシングの基本と3つの応用スキルとは】より
ペーシングとは一言でいえば、相手の言語、非言語に合わせていくNLPから生まれたコミュニケーションスキルの一つです。
このペーシングを身につけると、短時間で相手の警戒心をとり、安心感や親近感をもってもらうことができます。特に初対面を含め、仕事や家族、また恋愛といった人との関係が、円滑にスムーズになっていきます。なぜなら本文で紹介している、心理学の類似性の法則、本能の影響、また脳科学で言われるミラーニューロンの働きによって、理屈ではない無意識レベルの深い信頼関係、「ラポール」を形成することができるからです。
今回はペーシングの基本的な3つのスキルと、さらに深いレベルで相手との信頼関係を築き、
会話の目的に向かってリードしていく、応用スキル3つをご紹介しています。
ペーシングは、カウンセラーやコーチ、コンサルタントといった相談を受けることが仕事であるプロにとっても、部下や後輩、また家族や恋愛のパートナーをもつ人にとっても、相手との関係性をより良くするために必須のコミュニケーションスキルです。
話し下手な方は肩の力を抜いて、ラクにコミュニケーションがとれますし、話し上手な方はさらに説得力や影響力を高められます。
ぜひこの記事でご紹介しているペーシングを活用して、コミュニケーション能力を高め、
あなたの人間関係、ひいてはあなたの人生を、より良いものに築き上げてください。
1.NLPのペーシングとは
実践的な心理学、または脳の取扱説明書、そして天才たちのコミュニケーションスキルとして開発されたNLP(神経言語プログラミング)から生まれた代表的なコミュニケーションスキルの一つです。
1-1.ペーシングとは
ペーシングとは相手との間に、急速に親近感や安心感、またラポールと呼ばれる無意識レベルでの深い信頼関係を築くための技法です。一言でいえば、相手の言語、非言語に合わせていくことです。
例えば、相手の仕草に合わせていくこと。相手が無意識に活用している声の調子(高低やテンポなど)を合わせていくこと、また相手が使っている言葉を盛り込みながら、会話を進めていくことです。
別の表現をすると、相手が意識的、無意識的に活用している言語や非言語といった情報を活用しながら、会話を進めていくコミュニケーションスキルです。
1-2.ペーシングの効果
このペーシングを活用することによって、相手の警戒心をとり、安心感を与えることができます相手の自分への肯定感や重要感を満たし、信頼関係が増します あなたのことを大切な存在、重要な人だと認識しはじめます あなたの話や提案を受け入れやすくなります
先述したように、プロとして人の話を聞くことが仕事であるカウンセラーやセラピスト、またコーチやコンサルタントなどには必須のスキルになります。
またその他の仕事の場面においては、部下の育成や社員のモチベーション、またセールスや交渉、プレゼンといったコミュニケーションが必須となる場面で有効です。
また家庭での親子関係や夫婦関係、恋愛といった場面でも有効に活用することができます。
1-3.なぜペーシングは効果的なのか
相手との話し方や身振り手振りを合わせていくと、相手は無意識に自分と似たような感覚を感じはじめます。この感覚は「類似性の法則」と呼ばれるものを誘発します。
心理学の類似性の法則とは、
人は自分と共通点がある人には、心がオープンになり、親しみを感じやすい 良好な関係の二人は、同じ動作をする傾向が高くなるというものです。
つまり、この「類似性の法則」を逆に活用していくのがペーシングです。
このほか、動物としての本能レベルでも影響を受けており、異形な物を敵、同形の物は味方という防衛本能も働きます。
つまり相手があなたに対して同じ感覚を持つことによって、あなたへの警戒心を解き、心をオープンにしやすくなる、ということです。
さらにミラーニューロンと呼ばれる脳細胞の働きにより、相手に対するあなたの理解力や共感力が増していきます。
1-4.ペーシングはコミュニケーションフレームの最初のステップ
様々な人間関係、対人関係で必要なペーシングは、以下のコミュニケーションフレームの3つの流れの一つです。
相手とのコミュニケーションの目的に合うように進めていく最初のステップになります。
【ペーシング】
ラポール形成のために相手の言語、非言語に合わせていくことです。
【ラポール】
相手との親近感や安心感、また無意識の深いレベルでの信頼関係です。相互の影響力が肯定的に反映しあう「つながり」とも言われます。
【リーディング】
あなたのコミュニケーションの目的に向かって話をリードすることです。この3つのステップは、よく「ダンスの流れ」に例えられます。相手とダンスを踊りたければ、まずは相手が踊っているダンスを踊ります。つながることができたら、そこからあなたのダンスに誘う、という流れです。つまり、「ペーシング」⇒「ラポール」⇒「リーディング」の流れです。
2.ペーシングの3つの基本スキル
ここでは基本となる3つのスキルをご紹介します。
2-1.相手のしぐさや表情をペーシングするミラーリング
ミラーリングとは、相手の仕草や表情を合わせていく技法で、名前にあるように鏡のように視覚情報を合わせていくやり方です。
具体的には以下の項目を合わせていきます。
表情や顔の向き(傾き)上半身(手の動きや上体の角度)下半身(足を組むなど) 呼吸
ミラーリングは決して猿まねではありません。相手に気づかれてしまうと、その効果は減少どころか、逆に不快を与えてしまいます。相手を尊重する想いから、「さりげなく気づかれないようにやる」、これがポイントです。同時に同じ仕草をするのではなく、少し遅くなっても全く問題ありません。自己アピールの技法ではなく、相手の警戒心をとき、安心して会話ができる状態づくりのための技法だという認識で活用していきます。
【注意点】
相手との関係性を大事にしてください。
相手が上司であったり、お客様、また目上の人であれば、逆に効果が半減します。
2-2.相手の声の情報をペーシングするマッチング
マッチングとは、相手の声の調子(トーン、テンポ、ボリュームなど)を合わせていく技法です。声、つまり音情報では、具体的に以下の項目を合わせていきます。
トーン(高い、低い) テンポ(早口、ゆっくり) ボリューム(大きい、小さい) リズム
音楽療法の一つの考え方に同質の原理と言われるものがあります。
これは、暗く落ち込んでいる人に元気な曲を聞かせても、嫌悪感が生まれ逆効果になるため、暗く落ち込んでいるときには暗く落ち着いた音楽を聞き、だんだんテンポのはやい明るい曲を聞いていくことで、元気になるというものです。
これは音の世界の「ペーシング」からの「リーディング」です。
例えば、あなたが早口で、相手がゆっくりとしゃべる人だとします。
その場合、話の内容ではなく、会話のテンポのズレでイライラしたり、違和感や嫌悪感をもつことがあります。逆も然りです。
声の調子を意識せず話をしてしまうと、説得や提案やセールスなど、あなたの話を聞いてもらう前段階で失敗します。
コールセンターなど電話を使ったお仕事では、こういった声の調子は大事なスキルになります。
マニュアルのセリフが同じであっても、それをどのように話すかによって、明るい対応、暗い対応、丁寧な対応、軽い対応と、相手への印象を決定づけます。
ですからまずは、相手の声の調子を聞き取り、その相手に合わせて話を展開していくのがおすすめです。
これは誰もが知る企業のお客様センターの責任者の話です。
時に激怒して電話をしてくる顧客の方がいて、相手の声の調子を無視して冷静に謝罪しようとすると、余計に感情が激しくなり、「責任者を出せ!」と火に油を注いでしまうそうです。
文字であらわすと以下のような会話です。
顧客:「どうなってるんだぁ!」担当:「大変申し訳ありません」
顧客:「申し訳ありませんじゃないよ!」担当:「あのぉ~、そのぉ~」
顧客:「いいから責任者を出せ!」
声の調子を無視するとこんな感じになるそうです。
ペーシングすると、つまり相手の声の大きさ、トーン、テンポなどを合わせると、顧客に自分の話を聞いてくれているという感覚を生み出し、早い時間で対応が済むそうです。
文字であらわすと以下のようになります。
顧客:「どうなってるんだぁ!」担当:「大変申し訳ありません!」
相手にペーシングする前に、自分の声の調子を理解し、早く話せるし、ゆっくり話せる。
また、声を高くして話せるし、低くして話せるように日頃から意識しておくことが重要です。
2-3.相手の言葉をペーシングするバックトラッキング
これまでは、視覚情報、聴覚情報といった非言語情報をご紹介しましたが、このバックトラッキングは言語情報、つまり、相手の使った言葉を繰り返していくスキルです。
例えば、
相手 :「この前、久しぶりに映画館で映画を観たんですよ」 あなた:「いいですね~!」
ではなく、
相手 :「この前ね、久しぶりに映画館で映画を観たの」あなた:「映画館で、映画を観たんですか。いいですね~!」と、相手の使った言葉を使って、会話を進めていくやり方です。
また言葉だけでなくバックトラッキングの種類には、「事実」「感情や気持ち」「要約」の3種類があり、その状況に応じて活用していきます。
バックトラッキングを意識して、相手との会話を進めていくと、自分のことを聴いてもらっている、受け入れてもらっているという好感や安心感、そして信頼感を相手に与えることができます。
さらに深くお伝えします。
相手が使った言葉を活用すると、相手の無意識の中に「そうそう」「そうなんです」「そのとおりなんです」といった「YES」の意味を持つ、肯定的な言葉が繰り返されます。
「YESセット」と呼ばれる説得の法則があります。
これはセールスや催眠的アプローチで活用されるものですが、先にお伝えしたように「YES」と答えられる質問を繰り返していくと、NOができない状態になっていく、否定できない状態になっていくことを言います。
逆にお伝えすると、答えがYESとなる会話を続けていると、相手がオープンになり、あなたに心を開いてくるというものです。
ここで、バックトラッキングを使わず、会話をすすめる場合とバックトラッキングを活用して会話をすすめる場合を比較します。
ちょっとした違いですが、活用された時の相手の気持ちや感覚を想像していただくとその違いに気づけると思います。
●通常の会話の場合
相手 :「上司のことでちょっと悩みがあって・・・、ちょっと相談いいかな?」
あなた:「なに?どうしたの?」
●バックトラッキングした場合
※( )内は、相手が無意識につぶやく心の声だと思ってください。
相手 :「上司のことでちょっと悩みがあって・・・、ちょっと相談いいかな?」
あなた:「上司のことで悩みがあるんだね(そう)。相談(そうそう)、いいよ。何、どうしたの?」
となります。
このバックトラッキングとは、相手の「そう」「そうそう」といった無意識の声で「YES」をたくさん生み出す効果があります。
ですから、相手が何かを話すたびに、相手の言葉を繰り返すので、抵抗感や違和感を生み出すことなく、「話をしっかりと聴いてもらっている」という安心感や「自分を受け入れてくれている」という肯定感、そして「大切にされている」といった重要感といったものを相手の無意識に蓄積することが可能です。
相手 :「週末に彼女と初めてデートしたんだよ、楽しかったなぁ」
あなた:「良かったな!」
ではなく、
相手 :「週末に彼女と初めてデートしたんだよ、楽しかったなぁ」
あなた:「週末に初めてのデートか(そうそう)、それはさぞかし楽しかったろうな(そうなんだよ)。良かったな!(うんうん)」
というふうに相手の無意識は反応していきます。
「理解してくれている」「わかってくれている」「大切にされている」ということを自然に感じてもらう技法であり、逆にお伝えすると、聴くことをとおして、
「あなたのことを知ろうとしています」
「あなたのことを理解しようとしています」
「あなたのことを知りたいと私は思っています」
といったメッセージを相手の無意識に伝えるコミュニケーション、それがバックトラッキングです。
3.ペーシングをさらに有効活用する3つの応用スキル
ミラーリング、マッチング、バックトラッキングと基本的な3つのスキルをご紹介してきましたが、これからは応用スキル「五感の優位感覚」「無意識のプログラム」「価値観となるキーワード」の3つをご紹介します。
※また「ペーシング」だけでなく、ここでは目的に向かって会話を進めていく「リーディング」の部分も含めてお伝えしていきます。
3-1.相手の五感(VAK)の優位感覚にペーシングする
五感とは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のことです。
NLPでは、この五感を以下のように「視覚」「聴覚」、そして触覚、味覚、嗅覚を含む「身体感覚」の3つに区分しています。
視覚(Visual)
聴覚(Auditory)
身体感覚(Kinesthetic)
これら3つの感覚の頭文字をとって、VAK(ヴィ・エイ・ケイ)と呼んでいます。
「五感の優位感覚」とは、私たちには右利きや左利きと「利き手」があるように、何かをするときによく使う情報の処理のタイプのことです。
例えば、視覚タイプ、聴覚タイプ、身体感覚タイプの3人が、「話がわからない状態」を伝えようとすると、以下のように表現する傾向があります。
【話が分からない】
視覚タイプの人は、「話が見えない」「話の焦点がぼやけている」
聴覚タイプの人は、「話がガチャガチャしてうるさい」「何を『言っているか』わからない」
身体感覚タイプの人は、「話がつかめない」
です。
この五感タイプをペーシングしないと以下のような会話が生まれてきます。
【上司と部下の会話】
※このケースは、上司が視覚優位で、部下が身体感覚優位のタイプです。
上司:君の話は、内容が見えてこないんだよね。
部下:どうしてそう感じるんですか?
上司:感じる? ・・・・・。
部下:・・・・・あ、わかりました。もう少し胸に刺さる熱いプレゼンをします。
上司:いや、熱くなくてもいいんだ。明確に見える形で示してもらえれば。
部下:承知しました。今度は自分の思いをぶつけていきますので、
その時はよろしくお願いします!
上司:・・・・・・
なんとなく、かみ合っていないのがわかると思います。
相手の優位感覚を理解しないまま、話を続けても部下の評価は上がるどころか、下がってしまい、努力が無駄になってしまいます。
次は、相手の優位感覚を理解して話をした場合です。
上司:君の話は、内容が見えてこないんだよね。
部下:具体的にどの部分が見えてこないんでしょうか。
上司:ここと、ここと、そしてこの「これからの見通し」の部分ね。
部下:この3点ですね。わかりました。イラストやグラフで示せば、これからの
見通しやその先にある私が描く会社のビジョンが見えてくると思います。
上司:イラストやグラフのデザインはシンプルに。強調したいポイントは明確に示してくれると見やすくてありがたいな。
部下:承知しました。強調は赤で示した新しい資料を作ってお見せします。
上司:よろしく頼むよ!
このように上司の視覚優位な感覚の言葉を使うことによって、スムーズなコミュニケーションができてきます。
そしてその結果として、あなたが上司であれ、部下であれ、あなたの評価は上がっていきます。
以下に、「どのタイプが、どんな言葉を使うか」をご紹介しますので、あなたのペーシングのヒントにしてください。
視覚優位の言葉
見る、狙いをつける、ビジョン、観察する、焦点を合わせる、イメージする、見えない、ぼんやり、色、描く、見通し
聴覚優位の言葉
聞く、言う、話す、共鳴、響く、調和する、静か、など
誰かが言った具体的なセリフ
「ガヤガヤ」「ピカピカ」といた擬音語
「え~!」「あぁ~」といった感嘆を表す言葉
身体感覚優位の言葉
感じる、熱い(冷たい)、あたたかい(寒い)、ぬくもり、掴む、触れる、など
心が熱くなる、胸に刺さる、腑に落ちるといった、身体感覚にまつわる言葉を使う
3-2.相手の無意識のプログラムにペーシングする
無意識のプログラムとは、NLPでは「メタプログラム」と言い、本人の自覚なく、自動的に情報を処理する、その人なりの思考のクセのようなものです。
そのうち3つをご紹介すると「主体性」「方向性」「スコープ」と呼ばれるカテゴリーがあり、それぞれに2つのタイプがあります。
【主体性】とは、
情報をインプットしたとき、すぐに行動する主体行動型、そしてすぐに分析し、機が熟すのを待つ反映分析型の2つのタイプです。
【方向性】とは、
目的に向かって情報を処理しやすい目的志向型か、問題やリスクを回避するために思考が動きやすい問題回避型の2つのタイプです。
【スコープ】とは、
情報を全体的に捉える全体型か、詳細にとらえる詳細型の2つのタイプです。
相手がどちらかのタイプを知ることで、効果的なペーシングができ、かつ目的に向かう有効なリーディングに活用することができます。
それぞれのタイプがどういった言葉をもちいて話をしていく傾向があるのか、以下にご紹介します。
【主体性】
主体行動型:「動く」「すぐに」「とにかくやる」「待てない」「やってみる」 反映分析型:「検討する」「分析する」「調べる」「考える」「~かもしれない」
【方向性】
目的志向型:「獲得する」「達成する」「手に入れる」「到達」 問題回避型:「避ける」「回避する」「取り除く」「予防」「防ぐ」
【スコープ】
全体型「本質的に」「全体的に」「一般的に言って」「大切なことは」「要は・・・」
詳細型「厳密に」「正確に」「具体的に」
※また道筋通りに、時系列で、たくさんの情報を提供する傾向があります。
こういった相手が使う言葉を聞き分けながら、相手のタイプを把握し、ペーシング、そしてリーディングに活用します。
リーディングとは、コミュニケーションの目的に向かって会話を進めていくことですが、その時に知っておきたい型が、【ペース、リード、ペース】と呼ばれるものです。
相手に合わせ、リードして、さらに相手に合わせるという話の流れです。
例えば、主体性の例でお伝えすると、考えてばかりで行動しない部下に対して、「とにかく動け、はやく行動しろ!」と言っても、その場では「はい」と返事はするものの内心では抵抗しています。
こんな時に【ペース、リード、ペース】の型をもちいて以下のように伝えます。
ペース:いろいろ分析することは大事だね。
リード:そこで、少し行動してみることで、
ペース:確かなデータが増えて、より良い分析ができると思うよ。
こんなふうに活用します。
逆の例で、考えずに行動して失敗が多い部下に対しては、
ペース:君の行動には感心しているよ。
リード:そこで、より良いアクションプランを考えることで、
ペース:行動がシャープになって、効率よく努力が実を結ぶと思うよ。
といった具合に活用します。
これが「ペース、リード、ペース」です。
こういったことを知らず、また相手や自分のタイプを理解せずに会話をすすめようとすると、昔話の「北風と太陽」のように努力が逆転して、失敗の方向に向かってしまいます。
3-3.相手の価値観になるキーワードにペーシングする
価値観とは、相手が大切にしているものです。
自由、愛、つながり、パワー、一体感、思いやりといったキーワードです。
このやり方は、自分の価値観をねじ曲げて、相手の価値観に合わせることではなく、相手が大切にしているものへの尊重が、重要なポイントになります。
相手の価値観を知りたい時は、「〇〇で大切にしたいことは何ですか?」といった質問をして、相手にとって重要なキーワードを手に入れていきます。
例えば、車のセールスでしたら、
「今回、車の購入の際に大切にされたいことは何ですか?」といった質問です。
すると見込みのお客様は、「家族が増えたんで、6人乗りがいいですね」といった答えが出ます。
つまり、キーワードは「6人乗り」です。
このようなコミュニケーションを意識し、さらに以下のように続けていきます。
あなた:「6人乗りですね。その他に大事にされたいことはなんですか」
相手 :「家族で出かけるのが多いので、安全性ですね」
あなた:「安全性ですね。大事ですよね。その他に大切にされたいことは何ですか」
相手 :「燃費ですね、それからエコロジーにも関心があるので・・・」
と、いった会話を続けながら相手の価値観となるキーワードを手に入れていきます。
そして、リーディングの段階になりますが、紹介していく時に相手の価値観、キーワードを用いて会話を進めます。
相手の価値観になるキーワードをもちいて(つまりペーシングして)、リードする例
あなた:「6人乗りの車でしたら、こちらの6台ですね。
そのうちの安全性を考えると、こちらの4台です。
そして燃費を考えるなら、こちらの2台がおすすめですね」
という流れでセールストークを相手の価値観になるキーワードを用いて進めていきます。
こういったことを理解していないと、
▼フォルムがいいんですよ
▼エンジン音が響くんですよ
▼この色合い、好きなんですよねぇ
と、セールスする人の価値観で話を進めてしまい、商談はうまくいきません。
「〇〇で、あなたにとって大切なことは何ですか?」
この質問のほかに、状況や場面においては以下のような質問も活用することができます。
◯◯はどうなると満足しますか?
◯◯のことを考えた場合、そこに無くてはならないものは何ですか?
◯◯では、何を避けたいですか?
ただし、この価値観は、最初から活用するものではなく、これまでご紹介した3つの基本スキルを活用し、相手との関係ができていないと相手は本音を話しません。
十分にこれまでのスキルを活用して、ラポールを形成し、リーディングのフェーズに誘っていってください。
4.ペーシング活用の注意点
これまで相手との信頼関係をつくるペーシングスキルのいくつかをお伝えしてきましたが、注意していただきたい点があります。
それは相手をコントロールすることやあなたの影響力を高めることが目的ではなく、相手を尊重しよう、相手との関係性を大切にしよう、という想いが大事です。
スキルを活用していくのは大切なことですが、それ以上に、相手を理解していこう、相手に安心してもらって、いい関係を築こうというあなたの想いが大切です。
刃物と同様に、使う人の意図によって、それは有効にも、無効にもなります。
この点をしっかり理解して、よりよい関係性を築いていってください。
5.まとめ
ペーシングは、ラポール形成の第一歩です。
相手を理解し、尊重する気持ちで、基本スキルの「ミラーリング」「マッチング」「バックトラッキング」を活用してください。
さらに「五感の優位感覚」「無意識のプログラム」、そして「価値観」を尊重して、互いに良いコミュニケーションが築けるように各スキルを活用してください。
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