『万の枝』

火柱の見えしと思ふ白雨かな  石田郷子

暗がりに人詰めてをる里祭  同

寄せ合へる椅子のまちまち天の川  同

冬林檎剝けば夕べの月の色  同

万の枝けぶらふバレンタインの日  同


https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784781416861 【句集 万の枝】より

紹介

◆第四句集

つゆけしや夕暮れの声捨てに出て

『万の枝』は、『草の王』以後九年間の作品を収めた第四句集である。

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行を経て、ようやく対面での句会が復活し、「椋」誌もこの秋には創刊二十周年を迎える。私も、この句集を一つの区切りとしたかった。

(あとがきより)

◆収録作品

大瑠璃のこゑに縛されゆくごとし        畝高く立ててあり春待つてをり

碧玉の一湖も秋に入りにけり          足組んで春が深しと思ひをり

みそはぎや胸に棲むこゑひとつある       しろだもの花よ冬日のやうな花

たとふれば炎心の色夏果つる          とうすみの影より淡き翅を閉づ

尾で応ふる猫よ十二月の窓よ          凍つるよをみひらきしまま逝きにけり

秋水に幼な子の名を訊きかへす         藪漕ぎの陽春の野に出でにけり

昔日や鏡の奥に蜘蛛が住み           ほうたるを待つ横顔に加はりぬ

秋入日束の間稜線を溢れ

著者プロフィール

石田郷子 (イシダキョウコ) (著/文)

1958年 東京生まれ

1986年 「木語」入会、山田みづえに師事

1997年  第一句集『秋の顔』にて第20回俳人協会新人賞受賞

2004年 「木語」終刊にともない、「椋」を創刊

句集に『秋の顔』『木の名前』『草の王』(ふらんす堂)、著書に『名句即訳蕪村』『名句即訳芭蕉』(ぴあ)『今日も俳句日和』(角川学芸出版)『季節と出合う 俳句七十二候』(NHK出版)、編著に『俳句・季語入門』全五巻(国土社)、監修に『美しい「歳時記」の植物図鑑』(山川出版)など

「椋」代表、「星の木」所属、俳人協会会員、日本文藝家協会会員


https://www.aoyamahanamohonten.jp/blog/2023/02/28/spring-branch/ 【梅・桜・桃以外に何がある?蝋梅、木蓮、コデマリ、雪柳など、1月〜3月の早春の枝もの17選】より

吹く風は刺すように冷たく身を縮めて歩く日もあれば、暖かい日差しと気温の日もあり、まさに三寒四温の日々。少しずつ本格的な春の季節が近づいていますね。

四季に恵まれた日本では、季節が移り変わるたび、さまざまな樹木の姿を見ることができますが、1月〜3月の早春の季節と言えばどんな樹木を思い浮かべるでしょうか。多くの方が梅や桜、桃の花を思い浮かべることと思いますが、早春の頃に花をつける花木(かぼく)は非常に豊富で、私たちを楽しませてくれます。

この記事では、よく見かけるものからあまり目にしないものまで、生花店に入荷する早春の枝ものを、初級編・中級編・上級編と3つに分けて解説していきます。

株式会社青山花茂本店代表取締役社長北野雅史

この記事の執筆者 株式会社青山花茂本店 代表取締役社長 北野雅史

流通期と開花時期の違い 青山花茂店頭の桜 1月中旬頃、青山花茂店頭に並ぶ桜

それぞれの枝ものをご紹介する前に、生花店で購入できる時期(流通期)と実際の開花時期の違いについてご説明します。というのも、生花店に並ぶ枝ものは多くが開花調整されていて、戸外での開花時期と異なることがほとんどです。

早春の時期の代表的な3つの花木(かぼく)、梅、桃、桜の流通時期と、関東平野部での開花時期を表にしてみました。

梅、桃、桜の流通時期と開花時期の一覧表

梅・桃・桜の流通期と開花期の表

その年の気候によって多少前後しますが、このように分類できます。

特に梅や桃に関しては、屋外で花が咲く頃には生花店での流通は終わっていることが多いため、開花期よりも先駆けて購入する必要がありますね。

次の章では、初級編・中級編・上級編に分けて、枝ものをご紹介していきます。

早春の枝もの<初級編>

初級編は目や耳にすることも多く、一般的に広く知られている枝ものとして、上の表で一覧化した、梅、桃、桜についてご紹介します。

この3種には、花色や咲く時期も異なるさまざまな品種があるのが特徴です。

特に早咲き・遅咲き品種も含めてバラエティに富む桜は、私たち日本人にとって最も身近に感じる枝ものと言えるでしょう。開花予報を伝えるニュースが流れ、“名所”と呼ばれる公園や花祭りには、毎年たくさんの方が訪れていますね。一方、屋外での開花に先駆けて生花店に入荷する梅・桃・桜は、伝統的にはいけばなのお稽古花材としての使用はもちろんのこと、アレンジメント・花束・活け込みなどでも多く使用されます。

梅の花流通期:12月下旬〜1月中旬 開花期:1月中旬〜3月上旬

お正月の縁起物として促成栽培された切り花の梅は12月から出回ります。関東の平野部の屋外では早い品種でも咲き始めは1月中旬頃で、遅い品種は3月上旬頃に開花します。実をつける「実梅(みうめ)」は花梅(はなうめ)よりも開花が遅い傾向にあります。

梅といえばその香りの良さでも知られますが、白梅と紅梅は少し匂いが違うことも興味深い点です。

桃の花 流通期:2月中旬〜3月上旬 開花期:3月中旬〜4月上旬

桃は、花も実も邪気を払う効能のあるものとして、桃源郷や不老長寿の伝説などさまざまな古事をもつ植物。そのような謂れから、桃の花はひな祭りに飾られるようになりました。関東の平野部での桃の開花は3月中旬以降。先駆けて生花店に並ぶ桃は、ひな祭りの需要に合わせて生産者さんが促成栽培したものです。

桜の花流通期:12月下旬〜4月中旬 開花期:1月中旬〜4月中旬(啓翁桜〜八重桜)

品種改良が盛んに行われた桜には、早咲きのものから遅咲きのものまで、さまざま品種があるため、長い期間にわたり花を楽しめる枝ものです。

多くの方が染井吉野をご存知と思いますが、それよりも早くから咲く啓翁桜や東海桜は12月から生花店で見かけることができ、2月には河津桜、3月は染井吉野や陽光桜、4月には八重桜が店頭に並びます。

早春の枝もの<中級編>

中級編は、一般の方でも見たことや聞いたことがある(と思われる)、比較的身近な6種類の枝ものをご紹介します。これらの枝ものは、それぞれ日持ちの良さや枝ぶりの良さもあって、私たち生花店にとっては、この時期なくてはならない品種ばかり。公園やお庭でも見られるものが多いので、知っていれば春のお散歩が楽しくなることでしょう。

木瓜(ボケ)

流通期:12月中旬〜3月中旬 開花期:3月中旬〜5月上旬

梅と同じくお正月の花材としてもよく使われるボケは、丸みのある花びらが印象的な花。朱赤が多いですが、ピンクや白の花色もあります。

動きに富んだ枝ぶりや、花もちの良さから、青山花茂ではお正月のアレンジメントや活け込みで頻繁に使用されます。いけばなでは、春の花の頃だけでなく、実がつく秋にも使われる馴染み深い枝ものです。

小手毬(コデマリ)

流通期:1月上旬〜3月下旬  開花期:4月中旬〜5月中旬

白くて小さな花が集まって咲く花姿が、小さな手毬(てまり)のように見えることが名前の由来となっているコデマリ。細い1本の枝にたわわに咲き、枝垂れるようなフォルムで、アレンジメントや活け込みで重宝する花材です。

公園などでもよく見かけますが、近年ではその見た目の可愛らしさから、お部屋に飾る方が増えている印象です。

蝋梅(ロウバイ)

流通期:12月上旬〜1月中旬 開花期:1月上旬〜2月中旬

他の花が少ない冬の寒い時期に、蝋(ロウ)を塗ったような質感の黄色い花を咲かせます。正月の花材としても古くから愛されています。

クセのない爽やかな香りも魅力の一つ。「ロウバイの香りが好き」という方も多く、庭木として植えられているのもよく見かる、比較的ポピュラーな枝ものです。

木蓮(モクレン)

流通期:1月中旬〜2月中旬 開花期:2月上旬〜2月下旬

木蓮のうち、白い花を咲かせる種を「白木蓮(ハクモクレン)」と言い、パープルピンクの花を咲かせる「紫木蓮(シモクレン)」や園芸種の「烏木蓮(カラスモクレン)」などもあります。

木肌やつぼみの見た目が似ている辛夷(コブシ)との見分け方は、全ての花芽が上に向かっているのはモクレンで、花芽が上下左右ランダムに向いているのがコブシと覚えると分かりやすいでしょう。

ツツジ

流通期:2月上旬〜5月上旬 開花期:4月中旬〜5月中旬

4月から5月に道路脇にピンクの花を咲かせるオオムラサキツツジやサツキツツジの印象が強いですが、ヤマツツジやミツバツツジなど、青山花茂にはさまざまな品種が入荷します。どの品種も枝に動きがあり花色も幅広いので、特に活け込みの材料として使うと映えます。

いけばな花材としては2月頃から促成栽培の品物が流通しています。

雪柳(ユキヤナギ)

流通期:1月上旬〜3月中旬開花期:3月下旬〜4月下旬

1本の細い枝にたくさんの小さな白い花を次々と咲かせる、バラ科の落葉低木です。名前に「雪」と付いていますが、開花時期は3月〜4月。満開のユキヤナギは、まるで枝が雪をまとったかのようで、そのさまが名前の由来を彷彿とさせますね。

生育がよく丈夫なので、公園などでも見かける枝ものですが、生花店でもさまざまな用途で使われています。

早春の枝もの<上級編>

続いては、知る人ぞ知る、早春の枝もの上級編。花を趣味や仕事にしている人であれば必ず知っている8種ですが、一般に見る機会は少ない枝ものです。ただ、連翹(レンギョウ)や山吹(ヤマブキ)などは、春の里山では注意していれば必ず見かける花でもあります。

青文字(アオモジ)

流通期:12月上旬〜2月下旬 開花期:3月上旬〜4月上旬

黄緑色のつるっとした実のようなものをつけた枝を見たことはあるでしょうか。

それはアオモジといい、実のように見えるつぼみから淡い黄色の花を咲かせます。日持ちが良い春の枝物として重宝されます。熟した果実は爽やかな香りがあることから「ショウガの木」とも呼ばれます。同じクスノキ科のクロモジは枝が黒く、比較してこちらは緑のためアオモジと呼ばれています。

万作/満作(マンサク)

流通期:1月上旬〜2月下旬 開花期:1月下旬〜3月上旬

細長い花弁を開かせる不思議な花です。自生地では早春に他の花よりも早く咲くため「まず咲く」が花名の由来となっているという説があります。黄色だけでなく、オレンジや白の花(シロバナマンサク)も。

いけばなの世界では、花だけでなく秋に葉がついた枝を活けるなど、とてもポピュラーなのですが、花が少々グロテスクなので、アレンジメントや活け込みではなかなか使われにくい枝物です。

銀目柳(ギンメヤナギ) 流通期:1月上旬〜2月下旬

開花期:2月下旬〜4月上旬

ふっくらと銀の起毛した花穂が特徴的で、「ネコヤナギ」という名前を一度は耳にしたことはあるでしょう。

同じ種が、赤い皮に覆われたつぼみの頃(10月〜12月)は「赤芽柳」と呼ばれ、春が近づいて赤い皮がむけ銀色のモフモフとした花穂が出てきたら「銀芽柳」または「猫柳」と呼ばれます。枝ぶりは直線的ですが、弾力性があるので曲げて使うことも。

山茱萸(サンシュユ)

流通期:1月下旬〜2月中旬 開花期:2月中旬〜3月下旬

早春に小さな黄色い花を咲かせるサンシュユは、いけばな需要だけでなくホテルなどの活け込みでも好評です。

実はこの枝、ブルガリアで伝統的なヨーグルト製造に利用されていた「ヨーグルトの木」の近縁種であるため、枝に乳酸菌が含まれているそうです。温めた牛乳にサンシュユの枝を入れるとヨーグルトが作れます。実験してみるのもおもしろいですね。

連翹(レンギョウ)

流通期:1月下旬〜3月下旬 開花期:3月中旬〜4月中旬

レンギョウは、開花時期になると鮮やかな黄色い花を枝いっぱいに咲かせます。花が終わると緑色の葉が芽吹いた様子も素敵です。

植え込みに用いられることも多く、春になり満開の黄色い花姿を見て、それがレンギョウだったと気がついた経験をされた方は、筆者だけでなはいかと思います。花色の美しさや枝ぶりの良さから、出番の多い枝ものです。

土佐水木(トサミズキ)

流通期:1月下旬〜3月中旬 開花期:3月上旬〜4月上旬

その名前からも分かるように、主に土佐(高知県)の山地にのみ自生するマンサク科の落葉低木です。

枝から垂れ下がるように萌黄色の小さな花をつけるユニークな形状で、似た花に宮崎県原産とされるヒュウガミズキがあります。主にいけばなの世界でよく用いられてきた花材ですが、花の形が面白いので近年では生け込み用にも使われています。

山吹(ヤマブキ) 流通期:3月上旬〜4月中旬 開花期:4月上旬〜5月上旬

自生種は一重のヤマブキですが、八重咲きの「ヤエヤマブキ」や、白い花を咲かせる「シロバナヤマブキ」もあります。古くから枝ぶりの美しい花材として愛されてきました。

里山で咲く黄色い花を見かけた際、同じく枝が垂れて花が咲くレンギョウと混同しやすいですが、開花期が遅いことと、まさに山吹色の濃い黄色の花色で判別可能です。

花蘇芳(ハナズオウ)

流通期:2月下旬〜4月上旬 開花期: 4月上旬〜4月下旬

濃いピンク色の小さな花を、枝に密着するような独特な姿で花を咲かせるハナズオウ。染料の「スオウ」に似た色なのでこの名がついたそうです。枝ぶりは直線的ですが、この時期少ない濃いピンク色の花として、いけばな花材としては需要の多い枝。庭木としても見かけることがある花です。

青山花茂に入荷する早春の枝ものを、初級編・中級編・上級編と分けてご紹介してきましたがいかがでしたでしょうか。春は花木(かぼく)が充実する季節。お出かけ先や、ご自宅で、そのバラエティを楽しんでいただければ幸いです。

(略)


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