https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD221V20S4A320C2000000/ 【「マハーバーラタ」 増えすぎた人類減らす神のはからい】より
災禍と神話(1) 和光大学教授 沖田瑞穂
カバーストーリー
2024年5月1日 5:00 [会員限定記事]
人類は古来、戦争や災害などの災禍に見舞われてきた。世界各地の神話にはその厄災が記録されている。神話は災禍をどう伝え、人類はどう受け止めてきたのだろうか。和光大学教授の沖田瑞穂氏が解説する。
◇
人類は太古の昔から争い合って生きてきた。それは今でも変わらないことは、現在の世界情勢を見ても明らかだ。
人間とは、争う生き物なのである。
神話もまたそれを証明する。戦争を描く神話は各地に多く残されている。..
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%82%BF 【マハーバーラタ】より。
『マハーバーラタ』(サンスクリット: महाभारतम् Mahābhāratam) バラタ族にまつわる大叙事詩。バラタ族とは物語の中心となるクル族の別称である。『ラーマーヤナ』とともにインドの二大叙事詩と称され、ギリシャの叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』としばしば比較される。第6巻にヒンドゥー教の聖典である『バガヴァッド・ギーター』を含む。インドの古典語であるサンスクリットで著され、その94%がシュローカ(8音節×4韻脚)と呼ばれる韻律によって構成されている[1]。
Fitzgeraldによれば、ナンダ朝とマウリヤ朝の勃興(紀元前4世紀頃)、とくにアショーカ王(在位は紀元前3世紀頃)によるダルマの宣布により『マハーバーラタ』のテキスト化が開始され、紀元前2世紀中葉〜紀元後1世紀末頃に完成されたとみられる。このテキストは紀元後4世紀(グプタ朝期)にさらに拡張され、後代に伝えられるサンスクリット写本群の元となった[2]。
世界で最も長い叙事詩であり、『マハーバーラタ』自身の語るところによれば10万詩節を含む[3]。ただし、現在底本として用いられることの多いプーナの批判校訂版では7万5千詩節弱、補遺である『ハリ・ヴァンシャ(ハリの系譜)』と合わせて9万詩節を越える程度である[4]。
全18巻の構成を取っているが、全100巻に分ける区分も並存している[5]。各巻の内容は「マハーバーラタの構成」を参照のこと。
この長大な物語には、古代インドにおける人生の四大目的、法(ダルマ)・実利(アルタ)・性愛(カーマ)・解脱(モークシャ)が語られており、これら四つに関して「ここに存在するものは他にもある。しかし、ここに存在しないものは、他のどこにもない」と『マハーバーラタ』自身が語っている[6]。これは『マハーバーラタ』という物語の世界観を表す、非常に有名な一節である。
内容
パーンドゥ王の息子である五王子(パーンダヴァ)と、その従兄弟であるクル国の百王子(カウラヴァ)の間に生じた長い確執と、クル国の継承を懸けたクル・クシェートラにおける大戦争を主筋とする。18日間の凄惨な戦闘の末、戦いはパーンダヴァ側の勝利に終わったものの、両軍ともに甚大な被害を出す。この主筋の周辺に、さまざまな伝説や神話、哲学問答などが組み込まれ、古代インド文化の百科事典的な様相を呈している。
第1巻〜5巻はクル族の祖先にまつわる物語と大戦争に至るまでの経緯を語り、第6巻〜10巻は大戦の詳細、第11巻〜18巻は戦後処理と五王子らの昇天までの後日譚を描く。 第12巻〜13巻の大部分は後世の追加であると考えられ、王権や社会のあり方、哲学的思想などが説かれている。
大戦時における両陣営の主な戦士の構成は以下の通り。
《パーンダヴァ側》
ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァ(以上が五王子)、クリシュナ[7]、ドルパダ王、ドリシュタデュムナ、シカンディン、ガトートカチャ、アビマニユ等。
《カウラヴァ側》
ドゥルヨーダナ、ドゥフシャーサナ他(百王子)、ドリタラーシュトラ王[8]、ビーシュマ、ドローナ、アシュヴァッターマン、カルナ、クリパ、シャクニ等。
第6巻23章〜40章に哲学詩篇『バガヴァッド・ギーター』を含み、第1巻62章〜69章に『シャクンタラー物語』、第3巻50章〜78章に『ナラ王物語』、第3巻111章〜113章に『リシャシュリンガ(鹿角仙人)物語』、第3巻257章〜276章に『ラーマーヤナ』、第3巻277章〜283章に『サーヴィトリー物語』など有名な説話が収録されている。
批判校訂版
現在主に『マハーバーラタ』研究に用いられる底本は、プーナの批判校訂版(Critical Edition)と呼ばれるテキストである[9]。 それ以前で言えば、初の『マハーバーラタ』完全版として1834年と39年にカルカッタ版が刊行された。それに続き1862年から63年にニーラカンタの注釈が付されたボンベイ版が刊行されている[10]。
1925年、V. S. Sukthankarの主導により、『マハーバーラタ』の批判校訂版を編纂するプロジェクトが始動した。この刊本は1933年から66年にかけて全19巻で刊行された。Sukuthankarはこの第1巻のProlegomenaにおいて、この版の目的は「手に入る諸写本を元に構築しうる最も古い形を再構成すること」であると述べている[11]。この編纂方針に従い、成立の新しいと思われる部分が本文から省かれAppendixに回されたため、それまで用いられてきたボンベイ版やカルカッタ版よりシンプルでテキストが短いことが特徴である。
神話の受容
東南アジアにおける受容
この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。出典を追加して記事の信頼性向上にご協力ください。(このテンプレートの使い方)
出典検索?: "マハーバーラタ" – ニュース · 書籍 · スカラー · CiNii · J-STAGE · NDL · dlib.jp · ジャパンサーチ · TWL(2016年10月)
『マハーバーラタ』の作者ヴィヤーサが象神ガネーシャに神話を語る現代的な表現
(インド・カルナータカ州)
東南アジアではインド二大叙事詩『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』は共に王権(クル族を祖先とする王家の正統性)を強調するものとして翻案され、支配階級のみならず民衆の間でも親しまれている。ベトナム(チャンパー)の碑文やインドネシア(ジャワ、バリ)の古典文学およびワヤン・クリットにおいてはクル族両王家のうちカウラヴァ方への共感が見られる。7世紀のチャンパー碑文によればチャンパーとカンボジアの王はカウラヴァのアシュヴァッターマン王子(ドローナの槍の継承者)の子孫である。ジャワにおける翻案(古ジャワ語文学(カウィ文学))ではパーンダヴァ方の血統でありながらカウラヴァ方についたカルナ(ジャワ語カルノ)がアルジュナ(ジャワ語アルジュノ)と共に二人の主人公と目され、カルナは心はパーンダヴァにありながら、カウラヴァを滅ぼすためにカウラヴァについたと改変されている。
オカルトにおける受容
『マハーバーラタ』に記された「インドラの雷」の描写は、現代の核兵器を想起させるため、『ラーマーヤナ』とともに、超古代文明による古代核戦争説の証拠であると主張する者がいる[12]。
出版情報
ヤクシャガーナ《民族舞踏劇》のクリシュナ(インド・カルナータカ州)
日本語訳
山際素男『マハーバーラタ』 三一書房(全9巻)、1991-98年
カルカッタ版を底本としたM. N. Duttの英訳からの重訳。全訳。
上村勝彦『原典訳 マハーバーラタ』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉(1〜8巻)、2002-05年
批判校訂版を底本とした逐語訳で一般読書者からも大いに受け入れられたが、訳者の急逝により第8巻の中途で未完(全11巻の予定だった)。第1巻に訳者による詳細な解説がある[13]。
部分訳
鎧淳 『マハーバーラタ ナラ王物語、ダマヤンティー姫の数奇な生涯』、岩波書店〈岩波文庫〉、1989年
中村了昭 『マハーバーラタの哲学 - 解脱法品原典解明』(上・下)、平楽寺書店、1998年
山際素男 『マハーバーラタ インド千夜一夜物語』 光文社新書、2002年(上記、三一版の抜粋書)
山際素男 『踊るマハーバーラタ 愚かで愛しい物語』 光文社新書、2006年、同上
※『バガヴァッド・ギーター』は、多くの訳書・論考がある(詳しくはバガヴァッド・ギーターの項目参照)。
https://plus.tver.jp/news/txplus_61772/detail/ 【カオスなエピソードや魅力的な登場人物が揃う!インドの大叙述詩『マハーバーラタ』を神話学者が解説します】より
2017年には歌舞伎座で『マハーバーラタ戦記』が上演、2019年には大人気ソーシャルゲームFGOにおいてインドの古代神話世界が重要な鍵を握る(と思われる)新章「創世滅亡輪廻 ユガ・クシェートラ 黒き最後の神」が配信開始。インドの大叙事詩『マハーバーラタ』、読むべきときが来ているのではないでしょうか――?
聖書の4倍近い長さもあってとっつきにくさもありますが、カオスなエピソードや魅力的な登場人物が揃う『マハーバーラタ』。神話学者の沖田先生にお話を伺い、世界観や見所を教えていただきました。
『マハーバーラタ』の基本情報
●『マハーバーラタ』について
『マハーバーラタ』は紀元前4世紀~紀元後4世紀ごろに成立したサンスクリット語の叙事詩。『ラーマーヤナ』と並んでインド二大叙事詩に数えられ、ヒンドゥー教における最も重要な聖典の一つとされている。世界最大級のボリュームで、全18巻、約10万詩節からなる。「マハー」は「偉大な」、「バーラタ」は「バラタ族」を意味し、直訳すると「偉大なバラタ族の物語」。インドの宗教や哲学の原典としての価値も非常に高い。
●内容
人類が増えすぎて、大地の女神がその重みに耐えられなくなったことを発端に起こる大戦争を描く。
全体を通して、パーンダヴァ五兄弟(ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァ)とカウラヴァ百兄弟の王位を巡る対立が軸になっている。五兄弟はそれぞれダルマ神やインドラ神など、天空の神々の化身として誕生している。両家の争いは多くの神々や英雄、賢者を巻き込み、やがて18日間に渡る大戦争「クル・クシェートラの戦い」へと発展する。
『マハーバーラタ』は神と人の物語
――沖田先生から見て、『マハーバーラタ』はどんな物語だと言えますか?
私は、"神と人の物語"なんじゃないかなと思っています。アルジュナもクリシュナも人の子として生まれますが、クリシュナのほうは神格化されています。インドラ神の化身ながらもあくまで人の子として描写されるアルジュナと、ヴィシュヌ神の化身としてのクリシュナ、ふたりの親友のような盟友のような、そのつながりの大切さを説いているのではないかと思うことがあります。
例えば、キリスト教では神は絶対的存在で、人間には絶対に超えられないものがあります。一方でヒンドゥー教では神も人も親しい友情関係を結んで行動を共にする。そういうものが表現されているのが『マハーバーラタ』なんじゃないかなと。
――インドでどのくらい読まれているのでしょう?
国民的な物語として広く受容されているということは言えると思います。『マハーバーラタ』がインドでテレビ放映されたときには、放映時間に道から人がいなくなったという話もあります。『サザエさん』的といいますか。
――少年漫画のような盛り上がりもあります。異能力バトルものと言いますか......。
武器もいろいろ出てきますしね! アグニ神の武器のアーグネーヤとか、ヴァルナ神の武器ヴァールナー。
――「五兄弟vs百兄弟」という設定も物凄いです。
実は、優れた少数と多数との争いは『マハーバーラタ』のなかでは繰り返されるテーマです。例えば、『マハーバーラタ』に載っている鳥と蛇が争う神話。鳥の母と蛇の母は姉妹で、鳥のほうの母ヴィナターはガルダという鳥を産みますが、蛇のほうの母カドゥルーは蛇(ナーガ)の一族を産み、こちらは千匹います。1対1000の戦い、構造が似てますよね。
――更にすごい......。ただ、作中に出てくる「化身」という表現がいまいち分からないのですが。
化身はアヴァターラとも言って、神が自分の分身を地上に下したっていうイメージなんです。特にヴィシュヌの化身に対して使われますね。神がまるごと地上に降りたというよりは、自分の一部分を地上に下している。本体は変わらず天界の神として存在しています。
民衆に愛された英雄カルナには義経との共通点が!?
――パーンダヴァ五兄弟のなかでも、特に三男のアルジュナがカルナと深い因縁を持つのには何か理由があるのでしょうか? ふたりは王家の御前試合でも武芸を競い合い、最終的にアルジュナはカルナを殺害しています。
確かに『マハーバーラタ』におけるカルナの行動は、全てアルジュナに対抗しているんですよね。「アルジュナがこうだから自分はこう行動する」というふうに動いています。
アルジュナはインドラの息子で、カルナは太陽神スーリヤの息子なんですが、インドラは雷雨の神なので、太陽神であるスーリヤとは元々相性が悪いんですよね。雷雨が起こったら太陽は隠れざるを得ない。自然現象にまで遡った仲の悪さです。
――カルナはインドの人たちに特に人気がある英雄だと聞いています。
はい。私の夫の部下がインド人で「カラン」という名前なんですが、これはカルナが由来だそうです。本人に訊いたら「マハーバーラタの太陽の息子の名前をとても誇りに思っている」と。
でも原典を緻密に読んでみると人気のタネが分からないんですよね......。カルナは主に民間伝承のほうで悲劇の英雄という形になっていて、原典よりそちらのほうで人気が高まった気配をいろいろなところから感じられます。
――原典とは別にファンのあいだで盛り上がったということでしょうか。
カルナは日本でいう源義経のようなところがあります。民間で人気があったから伝説になって――あの、チンギス・ハン伝説ってご存じですか? 源義経は史実では岩手県の衣川で死んでいるんです。でもあまりにも人気があったから、民間の人々が「実は義経は死んでいなかった。大陸に渡ってモンゴルの英雄、チンギス・ハンになったのだ」という伝説を作ったんです。そのくらい愛されていたと言えますし、インド人におけるカルナ人気も、義経的なところがあるかもしれません。
今際の際にしゃべりまくったビーシュマおじいさん列伝
――『マハーバーラタ』の登場人物のなかで、沖田先生が個人的に印象的な人物はいますか?
ビーシュマおじいさんですね!戦争の初期に敵方で活躍した将軍で、パーンダヴァ五兄弟にとっては大叔父にあたります。ものすごく徳の高い無敵の英雄で、普通の手段ではまず倒すことができません。そこでビーシュマおじいさんが「女には矢を向けない」という誓いを立てていたのを利用して、前世が女性だったシカンディンを盾にしてアルジュナが倒すという策をとりました。
――それは、やや卑怯というか......。
善悪どうなってんだってことになりますよね(笑)。ビーシュマおじいさんは自分の死期を自分で決められるという恩寵を授かっているので、倒した後もすぐには死なないんです。致命傷を負って横たわったまま語った内容が『マハーバーラタ』のおよそ2巻分になります。
――今際の際が長すぎますね!?
そうなんですよ!2巻分と言えばかなりの膨大な量です。
(※『マハーバーラタ』は全18巻)
何度でも人生を生きていく、インド神話の魅力
――『マハーバーラタ』の印象深い人物やエピソードをたくさん伺ってきたのですが、とくにインド神話ならではの魅力というのはどういうところだと思いますか?
そうですね......。循環していく世界観、というのはすごく大きいと思います。インドの世界観はすごく円環的なんです。ブラフマーが世界を創造して、ヴィシュヌが維持して、最後にシヴァが破壊する。それで終わりではなく、そのあとまた新しく創造されて、維持されて、破壊されて――というのが繰り返されていきます。
――ほかの神話は循環しないのですか?
そうですね、古代世界においてごくシンプルな循環思想は普遍的ですが、それを特に強度に練り上げたのがインドだと思うんですよ。そしてこれは何か、救いのある思想だと思っています。
現代の我々は、一方向に進む直線的な世界観を生きています。生きて死んだらそれで終わり。あとは最後の審判を待つだけという一神教的な世界観は、何かちょっと怖いものがあると思うんです。
でもインドでは円環のなかで何度も生まれては死んでを繰り返す。苦しい人生を何回も生きなきゃならないので、それはそれで苦しい世界観だとインドの人自身は思っているんですけど、私はそこに救いも見出すことができるかもしれないなと。まさに輪廻転生。
――それは『マハーバーラタ』に登場するような神や英雄であっても等しく当てはまることなのでしょうか。
そうです。結局みんな死んでしまうというか......インドにはシャーンタ・ラサという、なんとも言えない寂しさを表す感情があるんですが、これもひとつ『マハーバーラタの』大きなテーマですね。生きているあいだの業をカルマって言うんですけど、それに応じて時には神に生まれ変わることもあるし、人間に生まれ変わったり、あるいは動物とか虫とか、いろんなものに生まれ変わる可能性もあります。
アルジュナは神の化身として生まれた大英雄ですが、決戦のあとはだんだん力を失っていき、彼自身が愕然とするシーンがあります。神から授かったガーンディーヴァという弓も返還し、山に死出の旅に出るんです。アルジュナほどの優れた英雄であっても、最後には力を衰えさせて死んでいく。単なるハッピーエンドの英雄物語ではないところも、『マハーバーラタ』の深いところだと思います。
【プロフィール】
沖田瑞穂
神話学者、文学博士、大学非常任講師。主な著書に『マハーバーラタの神話学』(弘文堂)、「マハーバーラタ入門」(勉誠出版、2019年4月発売)、翻訳を担当した「勝利の詩 マハーバーラタ」(上下、原書房、2019年4月25日発売)など。
https://blog.goo.ne.jp/cinemaasia/e/0c5472b2826791d97bf9a22480077444 【『バーフバリ』好きなら必読! 『マハーバーラタ』が読みやすい2巻本で発売中!!】より
2019-05-06 | インド映画
10連休の最終日、東洋文庫ミュージアムで開催中の「インドの叡智展」に行ってきました。(5月19日まで。HP参照)古代から近代に到るまでの、インド文化の様々な「叡智」をわかりやすい展示にして並べたもので、東洋文庫所蔵の文献資料をフル活用する展示となっています。インド関連資料だけでなく、浮世絵(国芳の作品があって嬉しい❤)や歴史地図など様々な資料が引っ張ってこられていて、さらに地味な印象を払拭するためか、サリーやヒンドゥー教の神々のマンガチックなイラスト図等々も登場していました。「Kalia Mardan(クリシュナが毒蛇カーリヤを退治する)」の絵図が2箇所で使い回されていたりとか、ちょっと残念な点もあったのですが、よく考えられた展示でした。
その中に、やはり登場していました「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」の本。展示されていた「マハーバーラタ」は1931-33年にマドラス(現チェンナイ)で刊行された18巻本で、やはり「インドの叡智」の代表格なんだなあ、とあらためて思った次第です。そんな「マハーバーラタ」ですが、実は最近、とても読みやすい「マハーバーラタ」全編網羅訳本が出ました。次の本です。
デーヴァダッタ・パトナーヤク[文・画]、沖田瑞穂[監訳]、村上彩[訳]「インド神話物語 マハーバーラタ」(上・下)原書房、2019.各1,900円+税
上の写真でおわかりになると思いますが、原本は「Devdutt Pattanaik "JAYA An Illustrated Retelling of the Mahabharata" Penguin Books India, 2010」で、その全訳となっています。アマゾン沼でのサイトはこちらです。原題の「ジャヤ」は、「ヴィヤーサは物語を『ジャヤ』、”勝利の物語”と名付けた」と文中にもあるように、「マハーバーラタ」の作者とされる聖仙の命名した書名から取られています。本書には、作者パトナーヤクによるマンガチックなイラストがふんだんに使われていて、それだけでも読み進むのが楽しいのですが、途中に登場人物の家系図やコラムが入り、退屈しないで読めるようになっています。デーヴァダッタ・パトナーヤク、なかなかの作家ですね。訳もこなれた日本文で読みやすく、さすがご恵存下さった沖田先生が、「インド神話を専門とする研究者である沖田と、翻訳家の村上先生が協力して翻訳にあたった、研究者+翻訳家による英語の翻訳出版という、おそらく、これまでにあまりなかった方向性で(中略)、仕上がりは非常に満足のいくものとなりました」とおっしゃるだけのことはあります。映画『バーフバリ』のファンの方で、「マハーバーラタ」を読みたいけれど...、と思っていらした方には、まさに福音のようにやってきた「マハーバーラタ」翻訳本と言うことができます。
沖田瑞穂先生は前後して、「マハーバーラタ入門 インド神話の世界」(勉誠出版、2019、1,800円+税)という本も出しておられるので、上の本を読んだ後はこちらも読んで、いろんなことに「そうだったのか!」と目からウロコ体験をしてみるのも面白いと思います。「マハーバーラタ」の「18」の謎(18個の謎があるのではなくて、なぜか「18」という数字がまとわりついているんですね、「マハーバーラタ」には)、なんて、読むとそれだけで推理に夢中になりそうです。「マハーバーラタ入門」でも主要なストーリーは押さえてあるので、ダイジェスト版としてこちらから読む、というのもアリですし、さらに「マハーバーラタ入門」には索引が付いているので、これも大いに役立ってくれます。アマゾン沼のサイトはこちらです。
『バーフバリ』シリーズのほか、「マハーバーラタ」をベースにして現代の物語にしたインド映画では、古くはシャーム・ベネガル監督作『Kalyug(末世)』(1981)や、マニラトナム監督作でラジニカーントが主演した『ダラパティ 踊るゴッドファーザー』(1991)がありますし、割と最近では、プラカーシュ・ジャー監督作でランビール・カプールが主演した『Raajneeti(政治)』(2010)があります。この『Raajneeti(ラージニーティ)』、珍しくメイキング&脚本収録の豪華ムック本(上)も出ていて、ヒンディー語を学ぶ人にもありがたい資料となっています。インド映画ファンなら押さえておいて損はない「マハーバーラタ」、この機会にぜひお読みになってみて下さい。
0コメント