https://www.bs-asahi.co.jp/sunday_scoop/interview/06/ 【養老孟司さんが語る“2019年日本論”】より
かつて社会現象となった、443万部のベストセラー「バカの壁」。それから14年、80歳の節目に執筆した「遺言。」(新潮社)。解剖学者・養老孟司さんが“言い残したこと”が書かれた「遺言。」には、今の日本を読み解くヒントが書かれていました。1月6日のBS朝日『日曜スクープ』は、平成最後の2019年、日本の今を語る養老さんのインタビューを放送しました。
■80歳の節目に書いた「遺言。」
山口
養老さんのこの「遺言。」という本ですね、読ましていただいて、すごく面白かったです。
養老
ありがとうございます
山口
どうして今回「遺言。」だったんですか?
養老
これはまぁしょうがない。特に考えてないんです。まあいろんな中身を示すような題も考えたんですけどね、一応。まあ年も年だし。
山口
まだまだお若いですよねぇ 。
養老
よく言われます。でも分かんないですよ自分じゃぁ(笑)でも変わっているはずなんですけど。
山口
あっ、そうですかぁ~
養老
イヤイヤ、なんか。
山口
やっぱり気持ちがお若いんですねぇ。
養老
そうですね、あんまり育たないんです。
養老孟司さんは1937年生まれ、現在81歳です。養老さんは東京大学で解剖学の道に進み、1995年、東京大学医学部教授を退官。養老さんはこれまで解剖学・脳科学の視点から現代社会が抱える問題を独自の視点で論じてきました。
養老
「解剖学とは何か?」とか言うと「先生、それ“解剖学”じゃなくて“哲学”です」って。
山口
ほぉほ~なるほど。
養老
そしたら「それ哲学」って言っているんだから言っている人は「哲学」は分かっているわけでしょう?
山口
まぁ、そういう事でしょうね。
養老
「哲学」とは何かが。
山口
う~ん
養老
「あんたの言う哲学ってなんなの?」って。そこから先話が進まない。
山口
つまり、そもそものところを考え始めると。
養老
そう、“だいたい逃げる”(笑)
■「便利」だけど「不自由」な日本
山口
もうすぐ平成も終わろうとしているこの時代になってきて、養老さんが80年以上生きてらっしゃって、今の日本ってどんなふうに感じてらっしゃいますか?
養老
非常に身近から言うと“暮らしにくい”。便利は便利ですよ。だけどなんか不自由。だいたいね、飛行機に乗ろうと思うと、周りの人含めて全部お客さんテロリストの容疑者ですもん。
山口
えっ?どういう事ですか?
養老
だって検査されるじゃない。
山口
そういう事ねぇ。
養老
ジャムも持って入れないっていう、飛行機にね。
山口
はい。
養老
分けわからない時代になっちゃったなと。
山口
あれが、僕ら当たり前だという前提に立っちゃっていますからね。
養老
そうしてね、あれだけ世界中の人があれに慣らされてるってことは、もうテロはあってあたりまえって社会でしょ?
山口
逆にそうですね。
養老
本当にそうなのかな?しょっちゅうそんなこと思いますよ。要するに非常に極端なところに基準を合わせると、普通の市民を全部統制できるんですよね。
山口
確かに今やろうとしていること、マイナンバーもそうですけれどもすべての国民を一つ一つデジタル化しているというか。
養老
そうです。そうです。
山口
ある意味、国からすると管理しやすくなっているわけですね。
養老
システムはそういうもので、システムは自分の都合でどんどん大きくなって行く、ある点超えるとですね。今のコンピューターもそうでしょ。ものすごいおかしいな、コンピューターって本来道具だったはずが人はいらねぇって言っているんだよ。
山口
確かにもうAIの時代になってきて、コンピューターが考えるようになってきていますね。
養老
だから、そのうちね、人がいらなくなるとか、バカなこと言ってるわけですよ。本来、道具だったはずのものが人を置き換えているわけでしょう?これってなにって話。素直に考えたらおかしいはずなんですよ。コンピューター自身が自分を改良するようになってきたら、もう人間いらないって話。
山口
確かに。
養老
じゃぁ、なんでそういう物を作っているんですか?自分のためって、忘れちゃったよ、もう、コンピューターはね。それは、だからさっきも言ったように空港もそうですけど、ああいうシステム作っていくとそれが当たり前になってくるんですよ。それがおかしいとも言わなくなっちゃう。
山口
確かに、時代が進むにつれて、ものすごく便利にはなってきている面もあると思うんですけど、世の中が。
養老
はい。
山口
均一化だったり、ある意味ミスを許さないっていうか、無駄のない社会になってきているわけで、そうすると、僕なんかも働いていて、結構、息が詰まるというか、そういう瞬間ってあるんですよね。
養老
だから合理的・経済的・効率的っていう、そういうモットーでくるでしょ。だから僕はね、そういう人はね、そう言っている人はすぐお墓入ったらどうですかって?
山口
ほほほっ(笑)
養老
一番合理的で経済的で効率的でしょって。だって人生跳んじゃってんだもん。人生ってつまんないこと楽しんいでるわけでしょ。僕みたいに虫捕ったり、それで我を忘れている。それは合理的でも経済的でも効率的でもないですよ。だからもうシステムに人間の方が使われちゃっている。生きるほうがこっちに来ちゃって、システムをきちんと維持するのが中心になっている。
■最も影響を受けているのは子供たち
養老
実はね、それ僕、学校で起こっていることじゃないかって非常に疑っています。
山口
どういうことですか?
養老
つまり、だって夏休み、まず小学校の先生、全部学校にいるんだもん。
山口
いやそうですよね、忙しいですよね。
養老
だって子供がいないと、いない学校に先生が全部いて、どうするんですか。何のためにいるんですか?教育制度の維持でしょ?それで、もう一つ、今忙しいとおっしゃったでしょ?
山口
はい
養老
じゃあ、生徒減れば暇になりますよね、少しは。
山口
はい。
養老
今生徒どんどん減っているでしょ。でもそうするとなにをするかっていうと、小学校統廃合するんですよ。
山口
実際、そうなっていますね。
養老
なんでするんですか?だって忙しいんでしょ?一人一人の子供を丁寧に見るようにするんだったら、生徒が減ってきたら良いはずじゃないですか。だけど何だか知らないけど、生徒が減ったら学校が統廃合するもんだって、初めから決めているんですよ。
山口
あぁ~そうかぁ~
養老
その方が合理的・経済的・効率的でしょ?
山口
なるほどぉ~
養老
子供のため本当に考えています?考えていませんよ。だって保育園だってそうで、保育園が記事になったり、ニュースになったりするときは必ず待機児童の数ですよ。
山口
そうかぁ
養老
今ね、子供いなくなっていますだから。“いなくなっている”って意味は、子供の持っている権利がどんどん失われている。
山口
そうかぁ。
養老
それ、一番先に起こったのが30年代。すでに子供の遊び場がないっていう議論があった。遊び場がないなんて今いいませんよ。なくて当たり前。
山口
そうなんです、そうなんですよ。
養老
つまり子供は消されちゃっているんですよ。だから少子化って言っているけどあたりまえでしょって。子供だって生まれて来たくないよなって。じゃあ子供何か?と言ったら弱者ですよ。弱者の権利はどんどん剥奪されます、こういう社会では。
山口
やっぱり合理化なんですかね、世の中が。
養老
だから、要するにある一定のコストをかけて、それでお客さん減ってきたから、ああ小さくしよって。なにこれ?質なんか一切考えてないでしょ。だから、いったんその義務教育ってシステム、もう壊しちゃったほうがいいんじゃないのって、こっちは思いますね。そうすると世も慌てて「じゃあ子供どうしたらいいんだろう」って話、「学校入れような」って話、そうしたらどういうものがいるの?って話。いっぺんご破算でやり直した方が、実は子どもの方がハッピーじゃないかって。
山口
なるほど。
養老
大人が本気で考えてくれる。子供を幸せにするなんてえらい安いんですよ。そう思いません?
山口
例えばどういう事ですか?
養老
大人が本気で遊んでればいいんだから。
山口
あぁ~そういう事かぁ。
養老
嬉しいでしょそしたら子供。子ども楽しませるのに、何千万何百万かかりませんよ。それで、子どもは人生面白く無いから。この先生きていてもしょうがなくて、自殺しているじゃないですか。
山口
多いですねぇ。
養老
思う存分遊んだら幸せでしょ?そしたら死にませんよ。人生幸せなことたくさんあるってわかっているから。それ、今子供に人生幸せってこと、教えてないんだからまったく。意地悪ですよね。
山口
ほんとですね、それでたぶん子供も親を見ているでしょうから、で、親が余裕がないのがわかっているので本能的にやっぱり。
養老
そう、おもしろくない。ああいう風になりたくない。
山口
そう!思っちゃうんですよね。
■人と動物の違いは「意識」
養老さんは田舎と都会を行き来し81歳になった今も、自然に触れ、大好きな昆虫を追いかけています。自然や生き物に触れ合う中で養老さんが注目したのが「人」と「動物」の違いです。「遺言。」ではその違いが「意識」にあると指摘しています。「動物もヒトと同じように意識を持っている。ただしヒトの意識だけが「同じ」という機能を獲得した。それが言葉、お金、民主主義などを産み出したのである」(「遺言。」から)
山口
人間は「意識」をする生き物だと思うんですけど、先生、まずここに着目されたのはどうしてだったんでしょうか?
養老
もうだいぶ長いこと、僕は仕事で動物やっていましたから。家でも動物飼っていたし。それで解剖学って人を中心にやりますでしょう?身体の違い、人と動物で身体の違いやるんですけど、それにしても人と動物違いすぎるよなって、社会がね。特にチンパンジーと人間比べるとよくわかるんですけど、チンパンジーの社会と人間の社会って全然違いますでしょ。だから、やっぱり人間が特別って考えるのは昔からある。それ、どっから来るかというと、脳みそなんですよね。その脳みその中で、じゃあなんだろうという話が案外ないんですよね。
動物は「感覚」を使って生き、人間の活動の大部分は「意識」に 基づく。その「意識」によって「わかる」ことが大切になった現代社会は、均一化や合理化ばかりを求めているというのです。
養老
案外、無感慨にどんどん先に行っちゃっている感じもありますよ。この炬燵もそうですけど、「炬燵」で良いんじゃ無いの?って言うのに全館暖房していますから。
山口
いや、今そうですよね。
養老
それやりすぎじゃないのって。炬燵のある会社ってないんですかね?なんでだめなんですか?
山口
そうか、本来ならこの方が確かにエコなんですよね。これだけで十分あったかくて。
養老
でも、ほんと、こんなのがあるから、隙間風が入る様な部屋でも大丈夫だったんですよね。
山口
あっ、これが(炬燵)があるからですね。
養老
それをピシッと閉めちゃって、そうすると今度ねぇ、中に匂いがこもるから煙草だめだとかね、やかましいことになってくんだよ、あいつ臭いとかね。においの問題も結局かなり厳しくなったでしょ。隙間風入ってたら問題ないんですよ。しょっちゅう空気、ひとりでに入れ替わっているわけだから。
山口
逆にそれがよかったりするわけですね。
養老
そうなんです。
■「意識」が行き過ぎた日本
養老さんは「遺言。」の中で「意識」が今の日本人に大きな影響を与えていると指摘しています。『現代人は「意識」の中で生きている。だから秩序正しく生きる』『(私が)なぜ「意識」について考えるかというなら、それが引き起こす害を防ぐためである』(「遺言。」から)
山口
日本の社会ってそういう意味ですと特に世界の中でもね、例えば新幹線がほとんど遅れがないとか、まあ山手線も遅れませんし、誰も遅刻しない社会で、でミスを許さない。均一化するから性能としては、ものすごい壊れないものを作れるんですけど、一方で、養老さんがおっしゃっている、すごく「意識」が行き過ぎちゃった国というか、社会というか、そこはいかがですか?日本の今っていうのは?
養老
もうちょっとまず、冗談が欲しいですね。真面目な人が多くて怒るんですよ、冗談言うと。
山口
怒る必要はないと思いますけどね。
養老
怒られる(笑)冗談ってね、怒るのと裏腹ですよね。今の日本の社会って特に寛容度が狭いですね。
山口
寛容度が狭い、たしかに。
養老
よく炎上していますよね、いろんなことで。
山口
炎上しますね、ネットもよく炎上しますね。
養老
日本だとテレビでうっかり言えない冗談、たくさんあると思う。
山口
いま本当にそうですね。
養老
だから逆に言うと冗談が全部、内輪になるんですね、テレビに出ている人たちの中での。そればっかりやっているから、見ている人はなんにも面白くない。もう一つ最近よく言われるんだけど、政治家のマネができないし、冗談にね、モノマネでも。昔やっていたと思うんですけど、田中角栄さんなんか非常にマネしやすい人。そういう意味の風刺が全然駄目になっちゃってですね。なんですかね、あれ。いわゆる眉をひそめるっていうかね、そういう人が増えちゃったんですかね。毒がないっていうかね。
山口
そういう毒があるものに対して、みんながこう、なかったことのようにしちゃうというか。
養老
なんというか余裕がなくなっちゃったんですね。つまり人生のある意味で幅が広くて、いろんなとこで生きていれば、こっちの方で、そういう毒があっても笑っていられたんですけど。これだけになっちゃった人多いんじゃないですかね。
■今こそ「寛容さ」が必要な理由
山口
世の中すべてが規律とかね、そういう世の中になってきていますよね。
養老
いっぺん崩していんじゃないですかね、もっとね。僕らはね、だって戦後通っていますもん、終戦後ってすごい価値観の変化でしょ。全然世の中壊れません、それでも。
山口
やっぱり、その現体験っていうか、それがありますか?
養老
それは大きいですよ。つまり世間で言われている、一番上の方にあったものが、じゃあ全部あれダメって話になっても、じゃあなんか壊れるかっていうと壊れないですよね。例えば、一番すごかったのは学校でしょ。昨日まで“本土決戦1億総玉砕”から始まって学校ではもう皇居に向かって再敬礼でね、次の日からケロッですもの。それでも世の中、壊れたかっていうと全然壊れてないですよ。人間が生きてきた常識みたいなのは、やっぱり変えようがないから変わらないです。
山口
無駄をなくすとか、それで行き着いた先が今の世の中っていうことなんですよね?
養老
はい。そうやってマス(集団)を、傾向をとらえてなんかしようと、本当は僕は犯罪に近いじゃないかって、逆にそっちがね。
山口
犯罪に近い?
養老
一人一人がまともに生きてくって、まあおかしいんですけど、素直にっていうか、普通に生きていくって考えたときに、マスとして、それを合理的経済的効率的に統制しちゃうのは、これが新しい意味のファシズムみたいなもんですよね。ファシズムって要するに、政治上の自由をできるだけ狭めてしまうってやり方だったんですけど、今度は人生そのものにかかってんじゃないかって。
山口
意味がないものと思い込んで、無駄なものを排除しちゃうっていう世の中ってことですよね?でも先生はそれが違うんだっていう思いを強く持ってらっしゃると思うんです。
養老
はい。意味がないものって、だからね、いつも「山行ってごらんなさい」「川行ってごらんなさい」。意味のないものだらけでしょ。石ころが河原に転がっていますけど、意味ないですよって。それが人間に応用されたのが19人殺しでしょ。
山口
相模原の障がい者施設ですね。
2016年、神奈川県・相模原市の障がい者施設で起きた事件。被告の男は「障がい者は生きている意味がない」と考え、19人の命を奪ったのです。
養老
ああいう人生にどういう意味があったのか。自分が世界の意味が分かると、わかんなきゃいけないと、最初から思っちゃっているんですよ。自分がバカだから意味がわかんないっていう、その謙虚さがないんですよ、今の人は。意味を追求するのって、自分の勝手だと思わなきゃいけない。世界は自分のためにあるのか?って、そうでしょう。
山口
はい。
養老
自分は世界のほんの一部にすぎない。自分にとっての意味ってならわかりますけどね、でも、世界は自分のためにあるのかって話で、そうじゃない。自分は世界のほんの一部にしかすぎない。
養老さんは「遺言。」(新潮社)の中でこう書いています。「山に行って虫でも見ていれば世界は意味に満ちているなんて誤解をするわけがない」「なんでこんな変な虫がいなきゃならないんだそう思うことなんて日常茶飯事である」
■日本の政治に言いたいこと
山口
日本社会の、今の政治については、どんなこと考えていらっしゃいますか?
養老
だから何考えてんだかよくわかんないっていう結論ですね、政治やる人が。自分のため考えてんのか、国家のためって、おかしいんですけど、皆さんのため考えてんのか、よくわかりませんね。僕80年生きてきて一つ感じるのは、人の成熟っていうことがあまり話題にならないし、問題にならないですね。政治家見ていて大人って思います?
山口
いやぁ~
養老
逆でしょ?子供っぽくなった。泣いている議員がいたりするからね。子供でよくなっちゃったんですよ、逆に。じゃあ、さっき言ったように、子供を本気で見ているかっていうと、子供はほっぽりっばなしで、いなくてよろしいっていう。
山口
はい。
養老
子供の幸せを考えたことない、そういう世の中作っちゃっている。人が成熟するのはなかなか難しいんで、それにはいろいろ苦労もしなければならないし、努力もしなきゃならない。今一番ね、たぶん結構深いところで深刻な問題って、このデフレの問題じゃないですかね。デフレそのものが問題ってよりも、これに対して、一方の意見は財政均衡論で、まあ財務省が典型的にとる考え方で、子孫に借金を回すなって。
山口
そうですね、迷惑をかけるなっていう。
養老
そうです。もう一つの考え方が、そんなこと言っていからデフレになるんだと。政府の役割は経済活性化することで、それをやるためには政府がもっとお金使わないと、だめじゃないかっていう、どう思いますこれ?
山口
いやぁ・・・
養老
それが表に出て国会で、その議論やっているかっていうとやってないですよ。もうだから、こういうのはそれを主張する人たちそれぞれの信念になっちゃっていて、僕、日本の上層部っていうか、そういう政治やっている人、二つに本音は割れていると思いますね。
山口
なるほど。
養老
どっちを取るか。ほとんどの政治家が自分で分かってないんじゃないですか?どっち取るべきなのか。
山口
かもしれませんねぇ。
養老
要するに財政均衡論取る人は国民がゆすり、たかりで、ねぇ(笑)権利を主張して、なすべき義務を果たしてないと、そう見ている。
山口
財務省的な見方ですね。
養老
そうです。一方で、借金、借金って言うけども、その借金貸してるやつは誰なんだって。なんと貸している人は全員国民ですよ。1千兆の借金っていうのは1千兆貸している人がいないと成り立たないわけで、そうでしょ。そしたら貸してる方は大金持ちじゃないですか。なに心配してんだよって話。困ったらその金持ちに頼めばいいだろ。
山口
確かに、そうなんですよね。
養老
我々、いったいどういう社会を作りたくて、っていうことで、どういう社会で暮らしたら自分たちが幸せなんだろうってそうでしょ。
山口
そうですねぇ。
養老
そこに戻ってこないといけない。だから言っているんですけどね。こうやって暮らしたらどうですかって。
■最近のニュースに思うこと
去年12月に成立した改正入管法。外国人労働者受け入れをめぐり世論が真っ二つに割れた、この法案、養老さんはどう思ったのでしょうか?
山口
入管法改正案というのが通りましたね。そうすると外国人を受け入れるのかどうかというのが一つの大きなテーマになっています。先生はどう思いますか?
養老
まあ総論から言えばね、なんでちゃんと辛抱できないんだって気がしますけどね。現場の人は困っていると思うから。だからそれはいいんですよね。でも、本当はそこで辛抱すれば楽なんです、後がね。それうまくいくのかいけないのかやってみなきゃ分かんない。そういうことやることがむしろ、教育になっていいのかなって一方で思っていますけど。日本は移民問題を解決できるのかって。将来、起こってきますから。
山口
これは起こってきますよねぇ。
養老
そうです。日本の場合は理想主義じゃなくて実利でやっていますから。逆に追い出すときは追い出すんじゃないかって気がする。理念でぶつかっている場合はまあしょうがないって、かなり許すでしょ。日本の場合は理念じゃない、実用ですから。いらなくなったらテメェら出てけって言いかねないでしょ。楽に言えるもんだって。外国人であるうちは良いんですよ、むしろ。外の人ですからその世間のルールを押し付けない。だから「外人」なんですよ。あの「外」っていうのは世間の外っていう意味ですからね。だからやる以上は腰を据えてやるしかないですね。
続いて世界を席巻するあの人のことも伺いました。
山口
一つ伺いたいんですけど、トランプ大統領に対してはどんなことを感じています?
養老
アメリカらしいなって。
山口
うんうん。
養老
だいたいトランプで世界が動くかってそうじゃないんですよ。そうでしょ。今中国との対中問題、対ロシアの問題で、おそらくトランプに反対する方が結構力持っているわけですから。そう簡単じゃないと思うんですよ、政治の世界は。よく感じるのは、アメリカに文句言うのを遠慮するっていう、忖度ですね。そんなこと言うとアメリカ怒るんじゃないのっていうと気持ちの中にそれがあって抵抗しない。じゃあ、あの国に正面から喧嘩売った人たちはどこに行っちゃったんだろう。それも行き過ぎだけど、今みたいに初めから万歳で言っているのも行き過ぎですよ。
■養老さん 新時代に思うこと
天皇陛下の退位によって、4月30日に幕を閉じる「平成」。新時代の行方を養老さんに伺いました。
山口
2019年がどういう年になると思われるか?何か簡単な言葉でも良いので
養老
(大笑い)
山口
簡単というわけにはいきませんね。
養老
(大笑い)
山口
養老先生ならではのメッセージというか、注目しているポイントでも良いんですけど。
養老
2019年かぁ、全然考えたこともねぇなあ。
山口
あぁ、まず名前から書くんですね。
養老
(フリップに書いて)知らないヨ!って(笑)
山口
あ、いいな~、これ養老先生らしいですね。知らないヨ。養老先生らしい。やっぱりこう自由ですね先生は。
養老
考えてないですよ。勤め先もないしね。
山口
いろんな時代の変化見てらっしゃると思いますが、平成ってどうでしたか先生にとって?
養老
第二の人生って言ったらおかしいんですけど、務めたのは昭和なんですよね。で平成に入ってしばらくしてから辞めたんですけど、だから平成っていうのは僕にとっては自由に生きた時代。それで案外平成が人生の中で大きいんですよね。
山口
やっぱりそうですよね?
養老
昭和はだって本当に大げさに言うと国家の官僚でしたからね。国立大学の教授でしたから。
山口
東大の医学部でいらっしゃって。
養老
そうすると、やっぱり縛りあったし、その中でカチっと生きてきたわけで、そっから、平成になってからはもう、勝手気ままじゃないですけどね、その部分が表に出てきましたから。
山口
これからも我々新しい時代を生きてく中で、日本人に対して考えてほしいこととか、伝えたいメッセージってどんなことでしょうか?
養老
やっぱり自然に還るとうか、自然に親しむっていうことでしょうね。普通の言葉でいうと。もうちょっとそうしたら。で仕事で忙しい人が一番それをやんなきゃいけない。だから仕事そのものに関しては、むしろ手抜きになっちゃうんですけど、それが必要なんじゃないかな?本当に肩に力が入っちゃって、いるんですよね。
山口
あぁわかるなぁ~。
養老
だからそこはもう、みなさん余裕をもって生きてください。
山口
余裕。
養老
人生どういう風に生きるか、改めて青臭い疑問を考えてほしい。
山口
いやぁ~すごい染み入る言葉ですね。余裕ですね。
養老
はい、もっと余裕がないと。
養老さんは新時代を生きる私たちにこんなメッセージを送ってくださいました。「仕事で忙しい人ほど自然に親しむことが大切。肩の力を抜いて余裕をもって生きてください」
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