『般若心経』

https://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/19_heart-sutra/index.html#box02 【『般若心経』】より

日本人にとって最もなじみが深いお経であり、今、改めてその価値が見直されている「般若心経」。今回は、2013年1月に放送され、好評を博した「般若心経」をアンコール放送します。

「般若心経」の「般若」とは「知恵」を意味する言葉です。その般若心経で最も強調されているのは「空」という概念です。

世の中は、様々な複雑な要因がからみあいながら、常に移り変わっています。そして世の中の変化のすべてを、人間が完全に予測することはできません。

例えば気候変動にしても、宇宙や気象のメカニズムからある程度のことは予想できます。しかし次の氷河期がいつになるか、はっきりとしたことはいえません。つまり人間は、何がいつどのような形で起きるかを、正確に知ることは出来ないのです。

古代インドの仏教徒たちは、この不確かな世の中をどうとらえるべきか、様々な考察をめぐらしました。その中から生まれてきたのが「空」の思想です。変化し続ける世の中の背後には、複雑すぎるがゆえに、人智が及ばない何らかの法則がある。その「見えない変化の法則」を「空」と呼んだのです。

「般若心経」は、私たちは「空」のもとで生きているとしています。そして人間が、どのような心構えで人生をおくるべきなのかを語っています。

番組では、日本人の心の原点ともいえる般若心経を読みときながら、「空」の思想を今どのように受けとめるべきかを考え、生きるヒントを探っていきます。

第1回 最強の262文字

【ゲスト講師】

佐々木閑(花園大学国際禅学科教授)

仏典を求めてインドに赴いた唐の玄奘三蔵は、厖大な経典を翻訳した。そのひとつが、日本に伝わった「般若心経」である。翻訳にあたって玄奘三蔵が工夫したのが「般若心経」を読経したときの「音の響き」であった。なぜ「音」が重要だったのだろうか?第1回では「般若心経」の基本をおさえると共に、「音」にこめた玄奘三蔵の狙いを明らかにする。

第2回 世界は“空”である

世の中は、様々な複雑な要因がからみあいながら、常に移り変わっている。そして世の中の変化のすべてを、人間が完全に予測することはできない。古代インドの仏教徒たちは、この不確かな世の中をどうとらえるべきか、様々な考察をめぐらした。その中から生まれてきたのが「空」の思想だ。第2回では「空」の基本をおさえることで、固定概念にとらわれない生き方を探る。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:佐々木閑『「日本で一番人気のお経」の新しい見方』

「日本で一番人気のお経」の新しい見方

多くの人が心に不安を抱えている時代です。震災の後遺症、長引く不況、高止まりのままの失業率、超高齢化の進行……。様々な理由から精神に不調をきたし、うつや引きこもりになる人もあとを絶ちません。そのような状況の中でいわゆる“心のよりどころ”を求める人たちの数も一層増えてきているように思います。そういう流れを受けて、仏教への関心も高まっているのですが、なかでもとりわけ人気の高いのが『般若心経』です。写経する人、音読する人、そして宙でそらんじることのできる人も大勢おられます。

仏教に親しもうと思っても、「坐禅」のような修行はそれなりの場所に行かないとできませんし、正しい指導も必要です。しかし『般若心経』でしたら、数分で読める短いものですから、どこにいても唱えることができますし、毛筆、あるいはペン字のお稽古帳のようなものを使って気軽に写経もできます。しかも、やってみるとこれがなかなかよいのです。思った以上に落ち着きます。精神安定にはかなり効果があると思われますので、多くの人の役に立っていることは間違いありません。

一年くらい前に、この「100分 de 名著」でブッダの『ダンマパダ(真理のことば)』を取り上げました。『ダンマパダ』は「世界の仏教国の中でもっともよく読まれているお経」です。これに対して今回取り上げる『般若心経』がどのような位置づけになるかというと、「日本でもっとも人気のあるお経」ということが言えるでしょう。もちろんお隣の韓国や中国でも人気はあるのですが、特に日本での人気はものすごいものだと思います。しかしその一方でタイやスリランカのような上座部仏教国(古い姿の仏教をそのまま守っている国々)では、人気がありません。人気がないどころかほとんど誰も知らないのです。世界に仏教国はたくさんあるのに、その中でもなぜ日本で人気があるのか、またお経は数えきれないほどたくさんあるのに、その中でもなぜ『般若心経』が一番人気なのか、その理由は、これからゆっくり述べていくつもりです。

実は、最初に告白しますが、今回この本の中で私は、そんなふうに日本人に愛されている『般若心経』のイメージをひっくり返してしまうかもしれません。もちろん貶めるつもりなどは全くないのですが、みなさんが抱いている理解と、私はたぶん違うことを言うと思います。

いま巷を見回すと『般若心経』の解説本が山のように出回っています。どれもイラストや図解をふんだんに使ってわかりやすく説明していて感心するのですが、何かしらしっくりこない、肝心なことに触れていないという思いが湧いてきます。そのもどかしさを解消して、たとえ今までのイメージとは違ったものではあっても、『般若心経』の本当の意味をお伝えしなければならないと思っているのです。

たとえば、「『般若心経』というお経は、誰の教えでしょうか?」と問えば、おそらく多くの方が「それは仏教なのだから、お釈迦様、つまりブッダの教えでしょう」とお答えになると思います。「『般若心経』こそが釈迦の教えのエッセンスである」などという言葉もよく聞きます。しかしそれは違います。『般若心経』の作者は、釈迦の死から五百年以上たって現れた「大乗仏教」という新しい宗教運動を信奉する人たちの中にいます。それがどういう人なのかは全くわかっていません。その大乗仏教という宗教運動には様々な流派があったのですが、そのうちの一派が、釈迦の教えを部分的に受け継ぎながらも、そこに全く別の解釈を加えて「般若経」と呼ばれる一連のお経を作りました。何百年もの間に、「般若経」という名のついたたくさんの新しいお経を作ったのですそして『般若心経』は、そのたくさん作られた「般若経」の一つです。ですから、『般若心経』が述べていることは必ずしも釈迦の考えではありません。それはむしろ、「釈迦の時代の教えを否定することによって、釈迦を超えようとしている経典」なのです。

ついでに言えば、昨年私が解説した『ダンマパダ』もまた厳密には釈迦が自分で作ったものではなく、釈迦の死後、あとに残された弟子たちがまとめた「口伝」です。しかしそこには、釈迦の述べたことがかなり色濃く伝えられていると思われますし、なによりそこには、釈迦の考えを素直に延長していこうという思いが溢れていますから、「作者は釈迦である」といっても構いません。でも、『般若心経』はそうではないのです。

一見、ありがたみが失せるようなことを述べてしまいましたが、私が言いたいのは「『般若心経』は、釈迦自身の教えとは違う別の道をわれわれに教えている」という事実です。『般若心経』には『般若心経』独自の価値がある、ということを申し上げたいのです。

日本人の暮らしの中に『般若心経』はごく自然に溶け込んでいるようです。たとえて言えば、「お茶」のような存在ですね。もし日常生活から「お茶」が消えてしまったとして、それが命に関わるような大事件になるわけではありません。しかしそれでも私たちは、かけがえのない大切な暮らしの支えをなくしてしまったような気持ちになることでしょう。お茶が、知らぬうちに私たちの暮らしの一部になっているように、『般若心経』の教えも、それを実際に読んだことのない人たちに対してさえ、なにがしかの影響を与えていることは間違いありません。だからこそ今回は、その『般若心経』の意味を正しくお伝えしたいと思っているのです。

言うまでもなく、『般若心経』は、由緒正しいれっきとした経典です。作者はわかりませんが、インド語で作られた正真正銘の仏教聖典です。しかもそれを漢文に翻訳したのはみなさんもよくご存じの玄奘三蔵、そう、『西遊記』で有名なあの三蔵法師です。他にもいろいろな訳本があるのですが、日本でもっとも普通に読まれているのは玄奘訳です。素晴らしい名訳です。今回は、その玄奘訳を使って解説していくことにします。

ということで、私流の“新・般若心経講座”を始めることにいたします。みなさんに「知らなかった、面白い」と言っていただけるか、「知らないほうがよかった」と言ってお叱りを受けるか、それはわかりませんが、ともかく『般若心経』の本当のありがたさを理解するには、その真の姿を知らねばならないという信念で、テキストを書き、出演しました。みなさんのお役に立てば幸いです。

第3回 “無”が教えるやさしさ

般若心経は、知識を得ることで満足してしまい、真実を理解する努力をしなくなることを戒めている。その一方で、悟りにゴールはないという。人間は永遠に未完成な存在であり、完成することはありえないからだ。第3回では、慈悲の心の大切さなど、“無”に秘められた、般若心経の中の優しさについて語る。

第4回 見えない力を信じる

【特別ゲスト】

玄侑宗久(作家/僧侶)

ゲストとして、僧侶で作家の玄侑宗久さんを招く。玄侑さんは、般若心経は「生きる勇気を与える呪文」だと語る。人間は言葉によって世界を認識している。しかし言葉には、実は限界がある。そこで人間の生命力に、直接働きかける「呪文」として生み出されたのが、般若心経だと言うのだ。最終回では、生きる力を取り戻す方法について語りあう。

こぼれ話。

「般若心経」こぼれ話

実は以前放送した「相対性理論」は、後の「般若心経」をにらんでの企画でした。

宇宙の法則について学んでおくと、般若心経で「空とは万物の背後にある法則である」と言われた時に、理解が早まるのではないかと思ったからです。さらに「星の王子さま」の回では、「見えない真実」に光をあて、抽象的な思考に慣れておくようにしました。

そしていよいよ、この「般若心経」となったわけですが、相当難しい内容なので、語り手の佐々木閑さんと、長い議論を重ねながら、解釈を考えていきました。「色即是空」「空即是色」についても、これまでの解説書とは異なる視点で紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

般若心経は、心のあり方を変えるための「触媒」(化学反応の反応速度を速める物質、物質自身は反応の前後で変化しない)のようなものであり、様々な見方があって当然ですので、これをきっかけにして、自分なりの考えを深めていくのも良いかと思います。

10月は随筆文学の名著「枕草子」をお届けします。どうか引き続き「名著」の奥深い世界をお楽しみください。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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