Facebook清水 友邦さん投稿さん投稿記事 女神の記憶
古代の土器、壺やかめの製造は、女性の仕事でした。
現在も世界の諸民族の多くの土器作りは女性の仕事だということが知られています。
アメリカの文化人類学者G・Pマードックの調査によると世界224の民族の男女の土器(earthenware)つくり手の比率は女性が約80%を占めていました。
アフリカのズールー族の伝承では最初の壺は女が作ったことになっています。
世界中で女性を象徴する装飾がついた土器や壺が発掘されています。
女神を象徴する容器は呪力をもっていて土器を作ること自体が神聖な秘儀でした。
ギリシャの最初のお椀は女神ヘレナの乳房を型どったと言われています。
乳の雨で大地を養い、出産の時に体液を流す子宮は地底から涌き出でる泉であり、水を流す容器と同様でした。
女性と容器を同一視する信仰は地中海沿岸をはじめ全世界に及んでいます。
洞窟や子宮を表す容器は人間の源を表す神話のイメージとして出てきます。
古代ギリシャのエレウシスの地で行われた秘儀参入の儀式、「エレウシスの秘儀」では子宮を擬した聖なるピトス(甕・かめ)が死と再生の容器として用いられました。
パンドラ(万物を与える者)として女神が聖なるピトスに祝福を与えて死者は復活したのです。
のちにピトスは箱と訳されパンドラはネガティブなイメージにされ悪と災いを呼ぶパンドラの箱として知られるようになりました。
「正倉院文書」「浄書所解(天保2年)」によると女性が土師器の製作をして、男性が原料の土を採掘し、運んでこね、薪を作り、藁を準備し、製品を運んだといいます。(川崎保「縄文ムラの考古学」)
おそらく縄文土器も女性の手によって作られ巫女によって祭儀が執り行われていたのでしょう。
縄文土器は空気も水も通す多孔質なので陶器や磁器と違って直接火にかけても割れません。現代の土鍋と同じく煮物に適していました。 深鉢の底を炉の灰の中に刺して、とろ火で煮炊きが出来ました。 煮炊きによって食物を生み出す土器は食べ物を生む豊穣の大地と命を生み出す子宮に象徴されます。
北杜市考古館の顔面把手付深鉢( がんめんとってつきふかばち )土器は土器胴部正面中央部と背面中央部に人面が付けられています。母親の体から生まれ出ようと顔を出した赤ちゃんを見下ろす母の姿を表現しています。そして顔面把手付深鉢土器の模様は女性器に似ています。
女性と火は深い関係にあります。炉の形は女陰であり、 古代日本の女性の女陰の呼び方はホト、ヒと呼びました。
火は女性の「ソコ」にあります。女陰の「ソコ」を火で焼かれてイザナミは亡くなりますが、その間に食物の神や土器の神が次々と生まれました。
火(ホト、ヒ)をおこして、火を絶やさずにすることは女性の大切な仕事で呪術的宗教行為でもありました。
天皇候補を意味する言葉の日嗣の御子(ひつぎのみこ)は火を継いでいく巫女、すなわち「火継ぎの巫女 (ひつぎのみこ)」でもありました。
エクアドルのインディオたちは土器を作る粘土は大地と同じ女性であり女性の魂であると言っています。
南米アンデスの先住民の土器つくりの神話をレヴィ=ストロースが紹介しています。
「むかし、むかし蛇が年老いた夫婦を粘土のある場所へ導き、粘土と砂、あるいは炉床からとった石をあらかじめ砕いたものとまぜる方法を教えた。壺つくりは神聖な業であり、男は蛇を讃える儀礼を行い、宗教歌を歌う土器作りの女に近づいてはならなかった。」
東アフリカのナンディ族の男たちは女たちが壺を作っている小屋に近づきません。
見てはならないのです。
もし見てしまった壺を男が手にとって火にかけたなら男はかなず死んでしまうと信じられていました。女性は生死を司る霊力を持っていたのです。
子宮を象徴する壺つくりは命を生み出す神聖な秘儀であり、男性が関わることはタブーでした。
大地そのものが女神の巨大な子宮であり、そこからあらゆる命と人間が生まれています。
女神の乳房から流れ出る乳が泉や川でした。ガンジス川もセーヌ川も古代の川や泉の名前はすべて女神です。
チェロキー・ショーニー族は母なる大地を「われらの祖母にして偉大な創造者」と呼んでいます。
命を生み出す妊娠・出産・育児はまぎれもなく女性の仕事です。
ところが、男性原理が優位な社会になると女性の服装、役割、仕事などに厳しい宗教的制裁をくわえられて女性の行動は制限されました。
女性原理が行き過ぎると子供を飲み込む母となります。
子供を束縛する母親に憎悪と反発が息子に生まれます。
女性性と男性性の象徴が「聖杯と剣」です。
社会科学者のリーアン・アイスラーによると剣で切断して分離を促すのが男性原理です。
女性原理を象徴する聖杯が子宮を表す容器なのです。
女性原理は融合し、男性原理は母子の一体からの分離を促します。
男性原理の神話には憎悪する男神によって地母神が抹殺されて闇の中に排斥されてゆく過程が記されています。
慈愛の女神は男を惑わす邪悪な魔女にされました。
そして性の交わりは、男性による征服を示し、女性への性暴力の多くが正当化されました。
男性原理が優位な社会の起源神話は男の創造者が男に命を与え男の後に最初に罪を犯した女エバが作られています。
男性原理の神話では母なしで男性だけによって世界ができたのです。
女は穢れた不浄な存在であり、男よりも劣った存在とされキリスト教の教義の父なる神、子なるイエス・キリスト、聖霊の中に女性は含まれていません。
母系社会を築いていた古い時代の創造神は女神でしたが男性原理が優位の時代になると男性の神に取って代えられてしまい女神の記憶は失われてしまったのです。
父神と息子たちによる 一神教の神話は母殺しの過程を物語っています。
そしてユダヤの神秘主義はもう一つの神話を伝えています。
人間の罪によって天上の父神から女神は切り離されて闇の世界を放浪しました。
人間の善き行いによって女王は王のもとに帰還します。
王と女王は融合し宇宙は調和した光に包まれて世界の創造が完成します。
知恵の実を食べて楽園から追放されたアダムとイブですが、この神話は分離する前の人間の魂は永遠の楽園で暮らす不死の存在であった事を示唆しています。
世界はアイン・ソフ(無限)から誕生し、魂はアイン・ソフ・オウル(無限の光)中でアイン・ソフ(無限)に帰還します。
男性原理に傾きすぎるとバランスを取り戻そうと女性原理が表に出て来ます。
20世紀の後半から世界の潮流は女性原理と男性原理が融合した世界へと流れ始めています。
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