植物は動けない

Facebook・古谷 暢基さん投稿記事

【松葉茶のスラミンが輪苦珍被害から身体を守る=全くのウソ情報です】→どんどん拡散してね!

(まずお断り;私は和ハーブを普及する人間で、マツ葉が日本の伝統茶であり、何らかの健康効果があることを否定する内容では無く、そこはご理解の上でお読み下さい)

夏前ぐらいからですかねえ?

「輪苦珍を打っちゃった人の健康被害、あるいは(前回バシッと斬った)シェディングへの対抗策として、マツ葉に含まれる物質に①輪苦珍によるmRNAの遺伝子情報転写を阻害する効果 ②同じくスパイク蛋白の細胞取付きを阻害する効果・・などあって凄いぞ!」

という情報が広く拡散されました。

植物は私の専門ですが、マツのそういう成分を知らなかった。

同時に植物は動けないですから、虫・動物・カビ・細菌の忌避、あるいは彼らをブッ殺す武器“ファイトアレキシン”という成分を、どんな植物でも体内に合成します。

例えば今回言われるような、生物の細胞代謝を阻害する毒成分の代表が、同じ針葉樹和ハーブ「イチイ」に含まれる「タキシン」。副作用で多数犠牲者を出しているタキソイド系抗がん剤の原料成分となった物質です。

であるからして、講演などでは最新情報の解説程度に、こう伝えていました↓↓。

「松葉茶の成分にそんな作用があったとして、健康な細胞と輪苦珍に侵された細胞を見分けられるはずが無い。つまり“全身の細胞の代謝阻害”となり、抗がん剤の様な危険な副作用が出るリスクがある(実際にスラミンは抗がん剤としての研究も行われている)。

しかし松葉茶は昔からの伝統健康茶、そんな症状は一切出ない。つまり言われるような効果は全く無い、ということ!」

しかしその後、ブームはどんどん拡大。上の作用機序を謳い文句にして、ビジネスする人も多数出てきた。

で、僕の方にも「マツってやっぱり効くんでしょう?」という類の問い合わせが増加。

挙句の果て「古谷さん和ハーブの方だから松葉の入手情報を教えて。」と来た。で「神社やお寺、あるいは海岸の街路樹なのでそこで幾らでも取れるよ!」と伝えたら、キョトンとしてた(笑)。

で、やれやれと本腰入れて調べたら、10分もかからずこの情報がまったくのニセ、ということが判明しましたよ。

まずシンプルに「スラミンはマツに含まれないどころか、自然界には存在しない人工化学物質である!」という事実を受け入れましょう。

えー!信じられない‥と言う人に、一番簡単にご理解してもらうには、例えばWikipediaでスラミン=suraminを見てみて下さい。

https://bit.ly/2WMQt6R

この薬剤が1916年に発明され、アフリカ睡眠病や糸状虫症の治療に用いられると記されています。もちろん、松に関する文言は一切ございません。

そして多くの副作用があり、また“口から飲むものじゃなくて静脈注射の薬剤”ということも、しっかり書いてありますね(笑)。

他にも調べれば、スラミンが「トリパンブルー」という医学界では有名な、脳関門発見のキッカケになったアナログ(同じ機能をする別の物質)として開発された、という情報も多数出てきます。

そしてさらに深堀りすると、今回の情報源となったDr.ジュディ (あのDr.ファウチと対決してクビになり、反コロ情報を流す女性研究者)へのインタビュー映像が出てくる。

https://academyofdk.com/the-antdote-w-dr-judy-mikovits/

(全編英語で私のつたないもので申し訳ないのですが、下記にその部分を意訳します。英語分かる人は 19分35秒~21分辺りです)

ジュディ「どこかの誰かが”ジュディがスラミンは松の葉に含まれる物質と言った”という内容をアップしていた。けど、そもそもスラミンは松の葉から取れないし、そんな事は今日まで一度も言ったことは無い。

スラミンは1916年に最初に開発された人工化合物で、“トライパンブルー(トリパンブルー)”という化学物質を参考に作られた。これらの物質は、ウイルスの遺伝子増幅を妨害できるとされる。

そうそう、自然由来といえば“ピクノジェノール”という物質が松の樹皮にあり、(スパイク蛋白の)ACE2受容体への結合を阻害すると考えられ、それを私が過去に述べたことがあり、混同されたのかも。」

はい、決定ですね。

ちなみにこのピクノジェノール、自然由来と言いながら“本場”スイスのホーファーリサーチ社に商標登録されている曰く付き(笑)。

これらの松葉茶のインチキ情報・・

どっかの反コロ有名ドクターや、どっかの別の反コロ有名ドクターや(笑)、どっかの反コロYoutuberが大々的に拡散したみたい。

それでシェディング、もしくはコロコロそのものが怖くて仕方ない人たちが妄信してしまったようで・・。

輪苦珍打っちゃう人より自分たちが正しい!と思っている反コロ思考の人たちも、“まずは疑い、自分で徹底的に調べ、積み上げて考える”という思考過程が大事。

これ抜きで、ある特定の情報やモノ、あるいは人物を妄信・崇拝する行動は、依存している対象や情報が異なるだけで、あなたたちが批判するコロ脳の人たちと同じかもしれませんよ。

今回の松葉茶の嘘については、前回投稿のスパイクタンパク質より構造が単純なのでご理解頂けると思っていますが、例によって①ピント外れ②文章をちゃんと読んでない③感情的反論④中傷などは無視、あるいは即刻削除させて頂きますのでご了承下さい(^^)。

P.S.

植物といえば、最高の解毒&健康効果を持つ”にほんのたからもの”「クロモジ」という和ハーブをテーマにした、能登半島の自然満喫できるツアーがあります。

15名限定で私も同行します!どなたでも参加可能なので、宜しければご参加下さい。

https://wa-herb.com/3859/

【受付中】クロモジの 植樹体験&能登の和ハーブと 有用植物文化に触れる2日間

日本の宝物である「クロモジ」の持続可能な活用をテーマに

貴重な2日間をご用意しました

昨年初開催して大好評だった和ハーブ協会主催

『クロモジの植樹体験&能登の和ハーブと有用植物文化に触れる2日間』

今年も開催が決定いたしました!

2011年に国連食糧農業機関の「世界農業遺産」に

日本で初めて指定された能登半島は、

豊かな里山里海に恵まれ、自然を活かした伝統的な農業、

漁業の営みや美しい景観が今なお残っています。

現在、和ハーブ協会が提携している「養命酒製造株式会社」と、

石川県能登町でクロモジ精油を生産している「ノトノカ」との取組で、

能登半島の森林にクロモジを植え、

育てるプロジェクトを進めています。

クロモジは昨今、日本中で静かなブームの一方で

和精油原料などの無造作な伐採により、

生息数減少が懸念される声も聞かれます。

日本の宝物であるクロモジの植樹や

当日限りの貴重な体験を味わいましょう!

【開催概要】

開催日:2021年10月18日(月)ー19日(火)一泊二日

集合解散:金沢駅

参加費:39,500円+税

★詳細&お申込は《こちら》から

https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=838 【植物の自己防御物質フィトアレキシンの多様性植物は自ら作る多様な抗菌性物質で病原菌に対抗する】より

長谷川 守文

茨城大学農学部

フィトアレキシンの単離・構造解析に関する研究は20世紀後半に盛んに行われ,非常に多くの成果が蓄積された.21世紀に入ってからのフィトアレキシン研究はその生合成や誘導機構に関するものが中心になってきており,いわゆる「モノ取り」的な研究はやり尽くされた感があった.しかし,近年イネ科やアブラナ科植物の研究で,従来考えられていたよりも多様な化合物がフィトアレキシンとして機能していることがわかってきた.

© 2017 公益社団法人日本農芸化学会

フィトアレキシンとは

フィトアレキシン*1(phytoalexin)とは1940年にMüllerとBörgerによって最初に提唱された概念である(1).現在はおおむね「健全な組織には(ほとんど)存在しないが,病原菌の感染を受けたときに植物がde novoで生合成する低分子抗菌活性物質」のように理解されている.植物の生産する抗菌性物質については,かつてはInghamの提唱した分類(フィトアレキシン,プロヒビチン,インヒビチン,ポストインヒビチン)(2)が用いられる場合が多かったが,現在はVanEttenらの提唱したフィトアレキシンとフィトアンチシピン(phytoanticipin)の2つに分類する体系(3)が広く受け入れられているようである.VanEttenらの定義では,フィトアンチシピンは「植物が生産する低分子抗菌活性物質でフィトアレキシン以外のもの」ということになる.しかし,これらの用語の使われ方にはやや曖昧な部分もあり,厳密にはフィトアンチシピンに分類されるべきものや昆虫による食害など病原菌以外のストレスに応答して生産される物質をフィトアレキシンと呼んでいる場合も散見される.

フィトアレキシンの単離が最初に報告されたのは1960年であり,エンドウのピサチンが初めて物質として単離されたフィトアレキシンである(4).その後,多くのフィトアレキシンの単離・構造解析に関する論文が報告され,フィトアレキシンの化学構造はフラボノイド,テルペノイドを中心に多岐にわたることが明らかとなった(5).一般に特定の植物の作るフィトアレキシンは基本骨格が同一の類縁体からなる場合が多い.また,マメ科植物のイソフラボノイド系フィトアレキシンやアブラナ科植物のインドール系フィトアレキシンのように科に特徴的なフィトアレキシンの生産が見られることもある.

イネのフィトアレキシン

1. イネのフィトアレキシンの発見

イネのフィトアレキシンに関する研究については,広島農業短大の植原による1958年の報告(6)が最も古い文献のようである.植原はいもち病菌胞子懸濁液をイネ葉身の付傷部に滴下し,24時間後に回収した懸濁液中にはいもち病菌胞子発芽阻害活性物質が含まれることを見いだし,イネはいもち病菌胞子との接触によってフィトアレキシンを生合成すると考察した.植原の発見以降,イネフィトアレキシンを物質として同定しようという試みが日本の研究者を中心になされたが,約20年間は物質の同定には至らなかった.そのような状況を打ち破ったのが1977年に発表された英国シェル研究所のCartwrightらのモミラクトンA, Bのフィトアレキシンとしての再発見の論文である(7).Cartwrightらは病原菌には直接的な抗菌活性を示さず植物自身の抵抗性を増強することによって病原菌の防除を可能とする薬剤(植物抵抗性誘導剤)の開発候補化合物であったWL 28325を処理したイネにいもち病菌を感染させた場合,その抽出物はWL 28325未処理イネの抽出物よりも高い抗菌活性を示すことを見いだし,抽出物中に含まれる抗菌活性物質としてモミラクトンAおよびBを同定した.モミラクトンA, Bはすでにイネ籾殻中に含まれる植物成長阻害物質として東北大の加藤らによって1973年に報告されていたジテルペン化合物であった(8).モミラクトンA, Bは健全葉にはほとんど存在せず,病原菌などのストレスを受けた葉で生合成が誘導されるため,イネの葉においてはフィトアレキシンとして機能していると考えられている.しかし,イネの小穂や根ではストレスとは関係なく生合成されるとがわかっており,イネの根から分泌されるモミラクトンBはアレロパシー物質であると考えられている(9).

図1■1997年以前に報告されていたイネのフィトアレキシン

2. 続々と報告されるイネのフィトアレキシン

モミラクトンに続き,1980年代には茨城大学の赤塚・児玉らのグループによってモミラクトンとは炭素骨格の異なるジテルペン化合物オリザレキシンA–Dがイネフィトアレキシンとして報告された(10, 11).これらは自然に発生したイネいもち病罹病葉の病斑部抽出物中から単離・構造決定された.その後,茨城大学のグループでは,より効率的にフィトアレキシンの生合成を誘導する紫外線照射を用いて,さらにオリザレキシンE(12), F(13),オリザレキシンS(14),サクラネチン(15)を報告した.これらのうち,サクラネチンだけがジテルペンではなくフラバノン骨格をもつ化合物であり,これはサクラの樹皮に含まれるフラボノイド配糖体であるサクラニンのアグリコンとして東京大学の朝比奈によって1908年に報告されていた化合物である(16).一方,明治製菓の古賀らは1995年にイネ紋枯病菌に感染させたイネ葉鞘からファイトカサンA–Dの単離を報告した(17).さらに,古賀らは1997年にジャガイモ疫病菌由来のエリシターで処理したイネ培養細胞からファイトカサンEの単離も報告している(18).

この時点までにイネのフィトアレキシンとして,ジテルペンが14種類,フラバノンが1種類の計15種類の化合物が報告されたことになる.ジテルペン系フィトアレキシンは基本となる炭素骨格に基づいて,ピマラジエン骨格をもつモミラクトンA, B, サンダラコピマラジエン骨格をもつオリザレキシンA–F,ステマレン骨格をもつオリザレキシンS,カサジエン骨格をもつファイトカサンA–Eの4つのグループに分けることができる.これらのフィトアレキシンの炭素骨格の生合成による作り分けは興味深い研究テーマであり,4種類の炭素骨格の形成に関与するジテルペン環化酵素遺伝子が同定されている(詳しくは本誌などの総説(19, 20)を参照されたい).

図2■2013年以降に報告されたイネのフィトアレキシン

3. 最近報告されたイネのフィトアレキシン

新たなイネのフィトアレキシンはファイトカサンEの発見を最後にしばらく報告されなくなった.筆者もさすがにこの段階でイネフィトアレキシンはほぼ出そろったのではないかと考えていた.そこで,イネのフィトアレキシンに関する次の段階の物質レベルでの研究として,フィトアレキシンの生合成中間体や代謝産物を明らかにしようとする研究に取り組んでいた.筆者らはそのような物質を探索するために紫外線照射イネ葉抽出物と未照射の抽出物をGC/MSやLC/MSによって分析し,そのプロファイルを比較する方法で紫外線照射によって特異的に誘導される物質の探索を試みていた.その研究の過程で,既知のフィトアレキシンとは異なる新しいフィトアレキシンを発見することとなった.

2013年にはカスベン骨格をもつジテルペン化合物ent-10-オキソデプレッシンをイネの新規フィトアレキシンとして報告した(21).従来知られていたイネのジテルペン系フィトアレキシンは植物ホルモンであるジベレリンと同様にゲラニルゲラニル二リン酸が2段階の環化反応を受けて生合成されることが明らかにされており(19, 20),これらはラブダン関連ジテルペンという分類に属している(22).一方,ent-10-オキソデプレッシンはラブダン関連ジテルペンとは異なるカスベン骨格をもっていた.筆者らがent-10-オキソデプレッシンを報告するまでは,カスベン関連骨格を有するジテルペンはトウゴマ(英名はcastor bean)などのトウダイグサ科植物と軟質サンゴからのみ報告されていた比較的まれなタイプのジテルペンであった.ent-10-オキソデプレッシンのエナンチオマーである10-オキソデプレッシンも軟質サンゴSinularia depressaから単離された10-ヒドロキシデプレッシンの誘導体として得られたものである(23).

Parkらは紫外線照射したイネ葉に蓄積するN-ベンゾイルトリプタミンやN-シナモイルトリプタミンなどのアミド化合物がイネ白葉枯病菌などに対して抗菌活性を示すことから,これらをイネのフィトアレキシンとして2014年に報告した(24).筆者らも紫外線照射イネ葉にアミド化合物が蓄積することを確認し,そのうちN-ベンゾイルトリプタミンやN-シナモイルトリプタミンはイネいもち病菌に対して抗菌活性を示すことを明らかにした(25).さらに,筆者らはいもち病菌を接種したイネ葉にこれらの化合物が蓄積することも確認した.これにより,N-ベンゾイルトリプタミンやN-シナモイルトリプタミンもイネのフィトアレキシンであることが明確になった.

つい最近,鳥取大の石原らはオオムギ斑点病菌を感染させたオオムギから単離されたアミン類がイネごま葉枯病菌を接種したイネにおいても蓄積することを報告した(26).このアミン類はオオムギ斑点病菌胞子発芽阻害活性を有しており,オオムギの新たなフィトアレキシンであると考えられる.これらがイネの病原菌に対しても抗菌活性をもつことが明らかになれば,新たなイネのフィトアレキシンとなる可能性も高い.

4. イネの自己防御物質の多様性

これらの一連の研究の過程で既知のフィトアレキシンであるファイトカサンの類縁体ファイトカサンFも新たなフィトアレキシンとして発見されており(27),イネのフィトアレキシンは全19種類(内訳はジテルペン16,アミド2,フラバノン1)ということになった.現在までのイネフィトアレキシン研究の多くはジャポニカ種のイネを用いて行われている.一方,インディカ種や野生種のイネでは,ジテルペン生合成遺伝子の機能解析などにより,ジャポニカ種とは異なったラブダン関連ジテルペンフィトアレキシンも作るのではないかと推測されている(28, 29).また,フィトアレキシンではなくフィトアンチシピンに分類される物質であるが,イネ葉からは抗いもち病菌物質として酸化型脂肪酸(30)やセスキテルペン化合物(31),抗白葉枯病菌物質としてラブダン関連ジテルペンであるオリザライド類(32, 33)が報告されている.

図3■トウモロコシのフィトアレキシンとフィトアンチシピンの代表例

トウモロコシのフィトアレキシン

イネと並ぶ重要穀物であるトウモロコシでは,古くからDIMBOAなどのベンゾキサジノイド化合物がフィトアンチシピンとして知られており,病原菌に対してだけではなく食害昆虫に対する防御物質としても機能していると考えられている(34).一方,フィトアレキシンについては近年まで報告がなかった.しかし,2011年にSchmelzらはクモノスカビを接種したトウモロコシにジテルペン化合物カウラレキシン類が蓄積することを見いだし,これらが抗真菌活性と昆虫の摂食阻害活性を示すことを確認し,カウラレキシン類がトウモロコシのフィトアレキシンであることを明らかにした(35).さらに,同じ研究グループは赤かび病菌を接種したトウモロコシからセスキテルペン化合物ゼアレキシン類も発見し,これらもフィトアレキシンとして働くことを明らかにしている(36).

図4■アブラナ科植物のフィトアレキシンの代表例

アブラナ科植物のフィトアレキシン

アブラナ科植物のフィトアレキシンは,シロイヌナズナのカマレキシンやハクサイのブラシニンをはじめほとんどがトリプトファンを生合成前駆体とすると考えられるインドール化合物である.この分野の第一人者であるカナダ・サスカチュワン大学のPedrasらは精力的にアブラナ科植物のインドール系フィトアレキシンの単離・同定を続けており,その成果は総説にまとめられている(37, 38).しかし,最近になってアブラナ科のオランダガラシ(クレソン)やフユガラシからトリプトファンではなくフェニルアラニンから生合成されると予想される新しいグループのフィトアレキシンであるナスターレキシン類がPedrasらによって報告された(39, 40).

フィトアレキシンの多様性には必然性がある

植物病原菌は宿主植物のフィトアレキシンに対する耐性をある程度獲得してきたと考えられており(41),そのような耐性機構の一つとしてフィトアレキシンの解毒代謝が挙げられる(42).たとえば,エンドウのフィトアレキシンであるピサチンはNectria haematococcaの作るチトクロムP450酵素であるピサチンデメチラーゼにより抗菌活性の低い化合物へ変換されることが知られている(43).アブラナ科植物のインドール系フィトアレキシンについてはPedrasらによって病原微生物による多くの代謝変換の例が報告されている(38).筆者らもイネのフィトアレキシンであるモミラクトンAとサクラネチンがイネいもち病菌によって抗菌活性の低い化合物へ代謝されることを発見している(44~47).このように植物の抵抗性に対抗して進化する植物病原菌に対応するためには,植物側も自己防御物質を多様化するのは必然的なことだと考えられる.

ここまで紹介したように,イネ,トウモロコシ,アブラナ科植物などで2010年以降に続々と新しいフィトアレキシンが発見されている.しかも,既知フィトアレキシンの類縁体ではなく,その植物にとっては新しいタイプの構造をもつ化合物が報告されている.フィトアレキシンを植物から単離して構造を明らかにするという研究は20世紀後半に盛んに行われて,やり尽くされた感があった.しかし,最近の研究の進展を見ると,従来知られているフィトアレキシンは氷山の一角だったのではないかと思えるようになってきた.イネ科やアブラナ科植物において新たなフィトアレキシンが続々と発見された理由は,たまたましつこく研究を続けている研究者がいたからに過ぎないのかもしれない.今後はここで挙げたような植物以外でも予想外のフィトアレキシンやフィトアンチシピンの多様性が明らかになっていく可能性もあるのではないかと期待している.

Reference

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12) H. Kato, O. Kodama & T. Akatsuka: Phytochemistry, 33, 79 (1993).

13) H. Kato, O. Kodama & T. Akatsuka: Phytochemistry, 36, 299 (1994).

14) O. Kodama, W. X. Li, S. Tamogami & T. Akatsuka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 56, 1002 (1992).

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16) Y. Asahina: Arch. Pharm., 246, 259 (1908).

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18) J. Koga, N. Ogawa, T. Yamauchi, M. Kikuchi, N. Ogasawara & M. Shimura: Phytochemistry, 44, 249 (1997).

19) H. Yamane: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 1141 (2013).

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21) Y. Inoue, M. Sakai, Q. Yao, Y. Tanimoto, H. Toshima & M. Hasegawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 760 (2013).

22) R. J. Peters: Nat. Prod. Rep., 27, 1521 (2010).

23) Y. Li, M. Carbone, R. M. Vitale, P. Amodeo, F. Castelluccio, G. Sicilia, E. Mollo, M. Nappo, G. Cimino, Y.-W. Guo et al.: J. Nat. Prod., 73, 133 (2010).

24) H. L. Park, Y. Yoo, T.-R. Hahn, S. H. Bhoo, S.-W. Lee & M.-H. Cho: Molecules, 19, 18139 (2014).

25) K. Horie, K. Sakai, M. Okugi, H. Toshima & M. Hasegawa: Phytochem. Lett., 15, 57 (2016).

26) A. Ishihara, R. Kumeda, N. Hayashi, Y. Yagi, N. Sakaguchi, Y. Kokubo, N. Ube, S. Tebayashi & K. Ueno: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 1090 (2017).

27) K. Horie, Y. Inoue, M. Sakai, Q. Yao, Y. Tanimoto, J. Koga, H. Toshima & M. Hasegawa: J. Agric. Food Chem., 63, 4050 (2015).

28) K. Miyamoto, M. Fujita, M. R. Shenton, S. Akashi, C. Sugawara, A. Sakai, K. Horie, M. Hasegawa, H. Kawaide, W. Mitsuhashi et al.: Plant J., 87, 293 (2016).

29) T. Toyomasu, K. Miyamoto, M. R. Shenton, A. Sakai, C. Sugawara, K. Horie, H. Kawaide, M. Hasegawa, M. Chuba, W. Mitsuhashi et al.: Biochem. Biophys. Res. Commun., 480, 402 (2016).

30) T. Kato, Y. Yamaguchi, T. Uyehara, T. Yokoyama, T. Namai & S. Yamanaka: Naturwissenschaften, 70, 200 (1983).

31) S. Taniguchi, S. Miyoshi, D. Tamaoki, S. Yamada, K. Tanaka, Y. Uji, S. Tanaka, K. Akimitsu & K. Gomi: J. Plant Physiol., 171, 625 (2014).

32) M. Watanabe, Y. Sakai, T. Teraoka, H. Abe, Y. Kono, J. Uzawa, K. Kobayashi, Y. Suzuki & A. Sakurai: Agric. Biol. Chem., 54, 1103 (1990).

33) Y. Kono, A. Kojima, R. Nagai, M. Watanabe, T. Kawashima, T. Onizawa, T. Teraoka, M. Watanab, H. Koshino & J. Uzawa: Phytochemistry, 65, 1291 (2004).

34) H. M. Niemeyer: Phytochemistry, 27, 3349 (1988).

35) E. A. Schmelz, F. Kaplan, A. Huffaker, N. J. Dafoe, M. M. Vaughan, X. Ni, J. R. Rocca, H. T. Alborn & P. E. Teal: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 5455 (2011).

36) A. Huffaker, F. Kaplan, M. M. Vaughan, N. J. Dafoe, X. Ni, J. R. Rocca, H. T. Alborn, P. E. A. Teal & E. A. Schmelz: Plant Physiol., 156, 2082 (2011).

37) M. S. C. Pedras & E. E. Yaya: Phytochemistry, 71, 1191 (2010).

38) M. S. C. Pedras, E. E. Yaya & E. Glawischnig: Nat. Prod. Rep., 28, 1381 (2011).

39) M. S. C. Pedras & Q. H. To: Phytochemistry, 113, 57 (2015).

40) M. S. C. Pedras, M. Alavi & Q. H. To: Phytochemistry, 118, 131 (2015).

41) H. VanEtten, E. Temporini & C. Wasmann: Physiol. Mol. Plant Pathol., 59, 83 (2001).

42) M. S. C. Pedras & P. W. K. Ahiahonu: Phytochemistry, 66, 391 (2005).

43) J. J. Coleman, G. J. White, M. Rodriguez-Carres & H. D. VanEtten: Mol. Plant Microbe Interact., 24, 368 (2010).

44) S. Katsumata, K. Hamana, K. Horie, H. Toshima & M. Hasegawa: Chem. Biodivers., 14, e1600240 (2017).

45) M. Hasegawa, I. Mitsuhara, S. Seo, K. Okada, H. Yamane, T. Iwai & Y. Ohashi: Molecules, 19, 11404 (2014).

46) T. Imai, Y. Ohashi, I. Mitsuhara, S. Seo, H. Toshima & M. Hasegawa: Biosci. Biotechnol. Biochem., 76, 414 (2012).

47) M. Hasegawa, I. Mitsuhara, S. Seo, T. Imai, J. Koga, K. Okada, H. Yamane & Y. Ohashi: Mol. Plant Microbe Interact., 23, 1000 (2010).

*1 一般的には英語の発音に近い「ファイトアレキシン」と表記されることが多いが,文部科学省学術用語集では「フィトアレキシン」と掲載されているため,本稿では「フィトアレキシン」を用いることとした.

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