https://committees.jsce.or.jp/hydraulic02/system/files/tashirotakashi_2018.pdf 【扇状地端部を流れる湧水河川の流れ場と水収支】より
○田代 喬(名古屋大学減災連携研究センター),片貝武史(同未来社会創造機構)
1.はじめに
扇状地では,頂部で涵養され伏流した地下水が端部で湧出する.断層地形などによる山地と平地の境界には,複数の扇状地が隣接して存在することがあり,そうした地域では扇端部からの豊富な地下水を集める「湧水河川」が形成される.湧水河川では四季を通じて一様な流況・水温環境を保たれ,独特な生態系が成立するが,河道内の表流水のみでは連続条件を満たさないため,既往研究では周辺地下水を含めた巨視的な水動態に関心が寄せられてきた.本報では,湧水河川における水理現象とそれが生み出す生息環境を記述することを目的とし,水位・水質の連続観測による流況把握を行いながら,河川地形と 3 次元流速分布を同時収集する超音波流向流速計(ADCP:Acoustic Doppler Current Profiler)を用いて流れ場を可視化することにより,流れ場と水収支に及ぼす湧水の影響を考察する.
2.材料と方法
対象河川は,濃尾平野西端に位置し岐阜県海津市を流れる揖斐川水系津屋川である.津屋川は,「養老の滝」に源を発し,急峻で脆い養老山地に沿って流れ,流域面積 71.2 km2,幹線流路延長 12.6 km を有する.右岸(西)側には急峻な養老山地と濃尾平野の境界に形成された扇状地が多数存在する一方,左岸(東)側には圃場整備により区画化された水田地帯を背後に抱え堤防が築かれているが,本川と接続する湧水池や後背湿地が一部残存する区間となっている.調査地は,揖斐川合流点から 8.3 km 上流に位置する平均勾配 1/450 の区間から,湧水池から連なる排水路が流入する,瀬・淵を含む約 60 m のリーチを選定した.Fig. 1 には,調査地とその周辺について,ドローン(DJI Phantom3 Standard)で撮影した画像を Agisoft Photoscan Professionalにて処理・作成したオルソフォト写真を示す.
2016 年夏季以降,湧水が流れる排水路(St. SPRING)とその流入前後の河川(Sts. UP / DOWN)において水深,電気伝導度を自記式測器(HOBO Onset Logger,U20L / U24)で連続計測する一方,出水期を挟む 2016年 6 月 7 日と同 12 月 3 日には,河川地形と流速分布を超音波流向流速計 ADCP(Sontek / YSI,River Surveyor M9)により計測した.一般にADCP は,センサー部に 4 つの送受信面を備え,発射した超音波ビームが水中の微小懸濁物(浮
遊物など)に反射して戻ってくる際に生じる周波数の変化を受信することで一時に多量のデータを取得できる(金子・伊藤,1994).本機器は,周波数の異なる 5 方向の超音波ビームを送受信可能なセンサーを備え,浅水域を含む広範な水深領域(20 cm ~ 80 m)で計測でき(米倉ら,2013),高精度な位置情報を取得可能な RTK-GPS(Realtime Kinematics Global Positioning System)も備えている.計測の際は,これら一式を小型艇に搭載して,調査範囲の水面を移動させながら,無線接続した PC上の制御ソフト Hydro Surveyor(SontekYSI)にてデータ収集・整理を行った.
3.結果と考察
Fig. 2 には,各地点における水温 (a),電気伝導度 (b)の変動状況について,当該期間中の降雨状況(松山観測所,国土交通省水文水質データベース,http://www1.river.go.jp/)とともに示す.湧水の水温は,若干の日周変動を伴いつつも年間を通じて安定している一方,本川の水温は降雨や季節によっても大きく変化した.
また,電気伝導度は時折急変しつつも地点間で差異が認められ,上流,下流,湧水の順に大きい期間が大半を占めたため(欠測を除く全期間の 72.5 %),湧水流入による希釈効果が示唆された.そこで湧水寄与率を求めたところ,全期間を通じ 49.3%,夏季に 31.6%(2016/8/12-9/2),冬季に 61.9%(同 11/11~12/2)となった.今回実施した 2 時期における 3 次元流れ場の計測では,河川流量は 6 月 7 日に平均 0.16 m3/s(最0.43m3/s),12 月 2 日に平均 0.21 m3/s(最大 0.47 m3/s),湧水流入量はそれぞれ 0.022 m3/s,0.027 m3/s と推定された.この結果は前記した冬季の湧水寄与率が大きくなることと合わせて精査する必要がある.Fig. 3 には,計測結果の一例を示すが,全体的に低流速ながらも本川上流部の淵と中下流部の瀬の分布が可視化され,縦断的に分布する瀬・淵によって大きく流量が変動する様子が確認された(平均値の 10~220%).以上から,本調査地では湧水水路の流入(約 3902515 m 地点)によらず,河床による湧出,浸透による水交換の影響が少なくない可能性が示唆された.
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