日本心理学会・俳句の心理学シンポ

https://docsplayer.net/180394361-%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%95%E3%83%AB%E4%BF%B3%E5%8F%A5.html  【日本心理学会・俳句の心理学シンポ】より

1 背景 マインドフル俳句俳句をマインドフルネスのツールとして使うために 関西福祉科学大学心理科学部 島井哲志 マインドフルネスは 第三世代の認知行動療法として注目されてきた マインドフルネスという言葉は 特定の介入技法として また それによってもたらされる心理状態として 用いられる 介入技法としては マインドフルネス瞑想を指すことが多く 呼吸などに能動的な注意を向ける技法が有名で Kabat-Zinn のマインドフルネス ストレス低減法 MBSR として提案されている 1 2 マインドフル瞑想 ( 春木ら, 2008) 咀嚼瞑想 : レーズンをゆっくり食べる 呼吸法 : 腹式呼吸 呼吸に注意を集中 ボディスキャン : 体の各部分に順次注意を集中 ヨーガ : 筋肉の緊張弛緩から身体感覚を覚醒 歩行瞑想 : 歩くこと自体に意識を集中 静座瞑想 :MBSR の中核 呼吸に注意 体が呼吸していることを意識 音を聞く 思いを聞く あるがままの意識 マインドフル瞑想の実践上の注意 目指すこと : 今ここにおける自己の存在感の実感 実践上の注意 何もしないことの訓練と学習である 自分で評価を下さない 忍耐強い 初心を忘れない 自分を信ずる むやみに努力しない 今の自分を受け入れる とらわれない 毎日続ける 実践的な瞑想技法の訓練 3 4 マインドフルネス技法の隆盛 臨床家には マインドフルネスは必須の手法となっていった PsycINFOにおけるMindfulnessがIndex termにある研究報告数の経年推移 Publication type Journal 6078 Peer Reviewed Journal 6073 Book 1625 Edited Book 1300 Dissertation Abstract 1165 Authored Book 325 Electronic Collection 87 First Posting 44 Peer-Reviewed Status-Unknown 5 Encyclopedia 1 年間千件以上の論文が公表される状況にあり 研究をフォローするのも困難 以下 2019 年に限る 学位論文も量産 (c) 島井哲志

2 2019 年の研究論文の掲載学術誌 マインドフルネス研究の評価尺度 (2019) Psychological Assessment Journal of Psychotherapy Integration Health Psychology Canadian Journal of Behavioural Science Psychology of Addictive Behaviors Journal of Consulting and Clinical Psychology Psychology of Consciousness: Theory, Research, and Practice SOURCES International Journal of Stress Management ストレスマネジメントを中心に 感情の基礎研究から 医療健康領域に広く展開 Emotion Journal of Occupational Health Psychology Self-Compassion Scale--Short Form Positive and Negative Affect Schedule for Children Freiburg Mindfulness Inventory Credibility/Expectancy Questionnaire Acceptance and Action Questionnaire II Alcohol Use Disorders Identification Test Toronto Mindfulness Scale Perceived Stress Scale FFMQ が全体の 3 分の 1 の研究で用いられている Five Facet Mindfulness Questionnaire Mindful Attention Awareness Scale 7 8 マインドフルな心理状態 マインドフルネス瞑想などでもたらされる心理状態は 今ここでの経験に評価や判断を加えることなく能動的な注意を向けること (Kabat-Zinn, 1994) FFMQ では 5 つの側面から測定 評価される 体験の観察 : 感覚などの内的 外的経験に注意を向ける 記述 描写 : 内的な経験の言語化 自覚的な行動 : その瞬間の行動への気づき 判断しない態度 : 感覚 認知 感情に対して判断しない 反応しない態度 : 思考や感情をそのままにしておく マインドフルネス研究のキーワード (2019) ストレスへの介入とや応用という側面が中心だが それに加えて ポジティブ感情やウェルビーイングも取り上げられている 9 10 マインドフルネスとウェルビーイング マインドフルネス瞑想をしなくても マインドフルな心理状態を日常的に経験する このマインドフルネスの経験には個人差がある マインドフルネスは 疾病の予防や健康増進と関連するウェルビーイングを高める 情動の受容などの適応的な情動制御を促進する 体験中に自分の感覚や思考に注意を向け 味わうことで ポジティブ感情や幸福感に寄与する マインドフルな日常生活 Chris Mace (1999) 構造化された練習 : セルフ モニタリング 問題解決 ミニ瞑想 : 例えば 3 分瞑想 マインドフル活動 : マインドフル食事 マインドフル掃除 マインドフル ドライブ マインドフル読書 : 特に 詩 俳句 マインドフルな俳句作りを続けることで その時点での注意の訓練である瞑想とは異なり マインドフルネスにつながる 持続した態度 思考や習慣 日常生活の過ごし方を身につける可能性があるのではないか (c) 島井哲志

3 マインドフルネスと俳句 これまでの研究から マインドフルネスと俳句の関連 Mace の本 Heart and Soul (1999) の 12 章 Seventeen syllables for self with Myra Thomas Siegel の Clinical handbook of mindfulness(2009) の第 1 章 Mindfulness: What is it? Where did it come from? では 禅 俳句 の伝統の紹介されている そのほか mindfulness の説明に俳句が紹介されている 俳句の特徴 有季定型切字 / 歴史的仮名遣い 定型 :5 7 5 非常に短い :17 音 切れによって内容が分けられる 改行の代わり 季語 : 歳時記に収録された季節の言葉 決められた言葉を使うという制限 季節感を表現するというルール 季節の先取り?( 二十四節気 ) 詩心 : 感動 共感的理解 1 定型で十七音 品詞の数が限られる 名詞は 3 以上含まれることが多い 動詞は 2 以上含まれることは多くない 切れが中間に 2 つない ( 三段切れでない ) 2 以下の記述から構成 ( 二句一章が主流 ) 事物をそのまま表現して それに対する情緒的 / 感情的反応 ( 感動や共感 ) については読者に委ねる 季節感とマインドフルネス 幸福感 季節の手がかり 時候 : 言葉 概念 天文 : 月 風 雲 雪 地理 : 山 川 海 生活 : 食べ物 労働 行事 : 祭 記念日 動物 : 虫 鳥 植物 : 花 葉 実 季語を覚えることによる効果 気づきの増加 動植物 気象 慣習 先取りによる効果 些細な季節変化 時間への気づき 俳句を用いた実践研究 俳句の実践研究としては 皆川直凡. (2017). 歩き遍路体験を主題とする俳句の創作と学びの質との関係 : 学部授業 阿波学 における取り組みをとおして. 鳴門教育大学情報教育ジャーナル, 15, の一連の研究 Stephenson, K., & Rosen, D. H. (2015). Haiku and healing: An empirical study of poetry writing as therapeutic and creative intervention. Empirical Studies of the Arts, 33(1), (c) 島井哲志

4 感動 共感 Haiku and healing(2015) の研究の紹介 皆川 佐々木 (2014) では 俳句の内容を emotional intelligence の枠組みから 感動を俳句として表現することで 内省力 共感 協力 感謝という態度につながることを示唆 Ivcevic, Brackett & Mayer (2007) では emotional intelligence と emotional creativity の関係を検討し 創造性を測定するために American Haiku task を用いて検討しているが 情動知能との関連はなかった 対象 : 大学生 評価尺度 : 介入前後 意味尺度 創造的人格尺度 人生満足度 SWLS 主観的幸福感 SHS 不安とうつ 身体症状 身体自己関係尺度 記述課題 :3 日間連続 20 分間 1 物語対照条件 : 校舎について書く 2 俳句条件は 3 行 11 語で 内容で 対照 ( 建物 ) 自然 ネガティブな出来事の 3 条件 参加者はランダムに 4 条件に振り分け 条件の参加者の文章例結果の概要 物語条件で 不安とうつの低下 俳句条件では 創造性とトピックへの感受性が増加している傾向 マインドフル俳句のめざすこと マインドフルネス俳句の道筋 マインドフルネスを プロセスと位置づけて 最終的には 人生満足感や充実感 幸福感 ウェルビーイングの実現をめざす 実際の経験にかなり直接的に結びつく表現にする これまでの俳句の伝統をできるだけ活かす しかし 伝統がマインドフルネスにつながらない場合には こだわらない (c) 島井哲志

5 マインドレスになる可能性のある要因 検討するべき事項 現在の考え 文芸として完成をめざす 目標が異なってくる? 創作 架空の物語 実際の経験を深めることにつながらない 日常生活の言葉から離れる 歴史的仮名遣いの今後の役割は? 競争形式あるいは優劣をつける 競争している自分をありのままに受け止めることもできるかもしれないが 写生 / 創作 イメージだけではない経験中心 定型 緩やかに守る 季語 緩やかに守る 詩心 優先的な条件ではない 切れ こだわらない 歴史的仮名遣い こだわらない 英語俳句 可能性を検討 今後の可能性 俳句通じてマインドフルネスに近づくために 写真とのコラボの可能性 課題として : 日記 数を決める 兼題の機能 俳句を通じてマインドフルネスをシェアするということは どういうことなのか = 選句という作業と味わう savoring との関係 ありがとうございましたご連絡 お問合せ 研究成果の HP は (c) 島井哲志

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