古代 ネアンデルタール人のゲノム解読、我々の病に影響

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/101000384/  【ネアンデルタール人のゲノム解読、我々の病に影響】 より

統合失調症や悪玉コレステロールとの関連も、クロアチアの化石の全ゲノムを解析

2008年に公開されたネアンデルタール人の女性の復元像。DNAの解析結果に基づいて制作された。(PHOTOGRAPH BY JOE MCNALLY, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

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 秋だというのにひどい日焼けをしてしまったとか、関節の調子が悪いのなら、その原因の一端はもしかするとネアンデルタール人にあるかもしれない。(参考記事:「ネアンデルタール人 その絶滅の謎」)

 5万2000年前のネアンデルタール人女性について、全ゲノムの高精度な塩基配列を決定したことを、ドイツ、マックス・プランク進化人類学研究所の研究者らが科学誌「サイエンス」に発表した。今回、解析されたのはヨーロッパ南部、クロアチアのヴィンディア洞窟で発見されたネアンデルタール人化石。全ゲノムの配列決定はネアンデルタール人では2例目となる。

 このゲノムや他のネアンデルタール人女性のゲノム、そして大勢の現代人のゲノムの分析から、ネアンデルタール人のDNAがホモ・サピエンスの遺伝的成り立ちにどのように関係しているか、さらには私たち現代人の健康にどのような影響を及ぼしているかについて、新たなヒントがもたらされている。(参考記事:「現生人類に残るネアンデルタールDNA」)


遺伝子の1.8~2.6%がネアンデルタール人由来

 今回の論文によると、ユーラシア系の祖先を持つ人々の全遺伝子の1.8~2.6%がネアンデルタール人の遺伝子に由来しているという。前回の見積もりでは1.5~2.1%だったので、割合がわずかに高くなっている。

 さらに、今回調べられたネアンデルタール人ゲノムのいくつかの領域が、一部の現代人のゲノム中にある、血中コレステロール濃度、統合失調症、摂食障害、関節リウマチなどのさまざまな健康問題と密接に関連している部分と一致していることも明らかになった。(参考記事:「ネアンデルタール人はゆっくり成長した、研究成果」)

 研究チームを率いたカイ・プリューファー氏は、すべての病気をネアンデルタール人のせいにしてはならないと釘をさす。遺伝子の発現には、数千まではいかないが数百の因子が影響を及ぼしているからだ。「あくまでも関連があるかないかという話です。特定の遺伝子バリアント(多様体)を持っているから病気になるとかならないとか、そういう話ではありません」と彼は言う。

 私たちがネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子の中には、役に立っているものもあるようだ。「例えば、LDLコレステロール濃度に関連する遺伝子です。ヴィンディア洞窟のネアンデルタール人女性が持っていた遺伝子バリアントは、体を保護する役割を果たすものでした」とプリューファー氏。「悪玉コレステロール」の別名を持つLDLコレステロールは動脈硬化と関連しているため、この遺伝子バリアントはそうした疾患を防ぐのに役立つ可能性がある。

「一般に、ネアンデルタール人から受け継いだものは好ましくないとされていますが、そうとは限りません」(参考記事:「人類はネアンデルタール人から高度な石器文化を受け継いだ?」)

【動画】ネアンデルタール人とは?

ネアンデルタール人は、どんな人たちだったのだろう?ホモ・サピエンスとネアンデルタール人に共通のDNAがあるというのは本当なのだろうか?ネアンデルタール人をめぐる事実や、彼らの特徴や使った道具、人類進化の物語における位置づけについて解説する。(解説は英語です)

シベリアの化石よりも現代人に近い

 今回の研究に用いられたDNAは、化石骨が発見された洞窟にちなんで「ヴィンディア33.19」と呼ばれるネアンデルタール人女性のものだ。

 ほかにも5人以上のネアンデルタール人についてゲノム断片の塩基配列が決定されているが、ヴィンディア33.19の化石骨には、ゲノム全体を詳細に分析できるだけのDNAが保存されていた。

 プリューファー氏らは、ヴィンディア33.19が両親から受け継いだ2セットの遺伝子を区別することができた。過去にここまで詳細な分析ができたサンプルは1つしかなく、シベリアで発見された、いわゆる「アルタイ・ネアンデルタール人」の12万2000年前のDNAだけである。

 今回の研究によりネアンデルタール人の詳細な遺伝情報の量がほぼ2倍になったことで、研究者たちは、ネアンデルタール人のDNAが現代人にどれだけ残っているか、それらが厳密にどこから来ているかの解明に着手することができた。

 プリューファー氏によると、私たちの祖先と交雑したネアンデルタール人は、ヨーロッパから来たヴィンディア・ネアンデルタール人とより近い関係にあるようだ。「世界中どこで調べても同じです。アジア人でさえ、地理的に近いアルタイ・ネアンデルタール人よりもヴィンディア・ネアンデルタール人と近い関係にあるのです」

髪や目の色、睡眠パターンの影響も

 人類遺伝学の専門誌『American Journal of Human Genetics』に発表された別の研究では、マックス・プランク進化人類学研究所のミハイル・ダンネマン氏とジャネット・ケルソー氏が、同僚のプリューファー氏とは少し異なる観点からネアンデルタール人のDNAを調べている。プリューファー氏が疾患関連遺伝子を調べたのに対して、彼らは、現代人の外見や行動がネアンデルタール人の遺伝子によってどこまで説明できるかを調べた。

 ダンネマン氏とケルソー氏は、アルタイ・ネアンデルタール人の遺伝子を、ヒト試料を保管する英UKバイオバンクにデータを登録した北ヨーロッパ出身の11万2000人の遺伝子データや生理学データと比較した。ちなみに、生理学データの比較は今回が初めてだ。

 研究チームは、アルタイ・ネアンデルタール人ゲノムの15の領域が、UKバイオバンクにデータを登録した人々のゲノムの一部としばしば重なっていることに気づいた。これらの遺伝子は、髪や目の色、日焼けのしやすさ、睡眠パターン、朝型か夜型かなどを決定している。

 繰り返しになるが、この遺伝子を持っているから必ずこうなるという話ではなく、ネアンデルタール人の遺伝子が、ホモ・サピエンスの遺伝子と同じくらい影響を及ぼしている可能性があるというだけだ。しかし、ネアンデルタール人の遺伝子が私たちのゲノムに深く根をはっているのは興味深い。

 ダンネマン氏は、今回のヴィンディア・ネアンデルタール人のゲノムと50万人分まで増えたUKバイオバンクのデータを使って同じ研究を行い、隠れた関連をもっと明らかにしていきたいと考えている。(参考記事:「4代前にネアンデルタール人の親、初期人類で判明」)

なぜ今も私たちの体に遺伝子が残っているのか

 ナショナル ジオグラフィック協会のジェノグラフィック・プロジェクト(人類の遺伝プロジェクト)を率いるミゲル・ヴィラ氏は、ヴィンディア洞窟の化石骨のおかげで、ネアンデルタール人の歴史だけでなく、彼らの祖先が私たちホモ・サピエンスに及ぼしている影響についての理解も大きく進むだろうと考えている。

 同氏によると、特定の形質をピンポイントで探れるようになったことで、私たちの知識は大きく前進した。今回の研究は、ネアンデルタール人の遺伝子が、4万~5万年もの間、私たちのゲノムにとどまっている理由の解明に向けた一歩でもある。

「ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの間で交雑があったことは、10年ほど前からわかってきました。私たちはようやく、ネアンデルタール人の遺伝子が今日まで残っている理由の核心に迫れるようになったのです」とヴィラ氏は言う。「これらの形質が人類の進化にとって重要であった理由を説明できれば、より重大な真実をつかむことができるでしょう」(参考記事:「ネアンデルタール人、現生人類と交配」)


https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8819/  【現生人類に残るネアンデルタールDNA】 より

ネアンデルタール人と現代人の解剖学的比較。

Photograph Joe McNally, National Geographic

 約6万年前にアフリカを出た現生人類は、眉毛が太くたくましいネアンデルタール人とユーラシア大陸で出会う。この2種類の人類には、交雑があったことが確認されている。非アフリカ系の現代人が、DNAの1〜4%をネアンデルタール人から受け継いでいるからだ。「Nature」誌と「Science」誌に発表された最新の研究によると、わずか1〜4%とはいえ、そのゲノムは重大な影響力を保持している可能性が高いという。

 特にその影響は、皮膚や毛髪の遺伝情報が絡んだ領域などに出やすい。ネアンデルタール人の遺伝子に何らかのメリットがあったからこそ、世代を超えて受け継がれてきたと考えられる。

「アフリカを出た現生人類がネアンデルタール人と出会い、交雑したときに、新天地の気候条件に合った遺伝情報を選択的に取り込んだのだろう」と、「Science」誌の論文の責任者で、アメリカ、のワシントン大学に所属するジョシュア・エイキー(Joshua Akey)氏は話す。

 逆に、影響がまったく見られない領域では、旧人の遺伝子が何らかの問題を起こしたため、自然選択により排除されたと推測できる。

「Nature」誌に論文を発表したハーバード・メディカルスクールのスリラム・サンカララマン(Sriram Sankararaman)氏とデイビッド・ライシュ(David Reich)氏は、解読済みのネアンデルタール人のゲノム配列を基準に現代人1004人分のゲノムを精査、交雑の結果による特徴的な配列がないか調査した。

 例えば、ネアンデルタール人と非アフリカ系現代人共通のDNA断片が、アフリカ人やその他の霊長類で見つからない場合、その遺伝情報はネアンデルタール人の遺産と判断できる。また、現生人類に比較的最近取り込まれたゲノムは、細かく分断されずに大きなまとまりとして残っているはずだ。

 ワシントン大学のエイキー氏とベンジャミン・バーノット(Benjamin Vernot)氏も、同様の統計的特徴を利用して現代人665人のゲノムを調査。当初は解読済みの配列を参照せずに実施したにも関わらず、合計でネアンデルタール人の全ゲノムの20%に相当する断片を特定している。

◆皮膚、毛髪、病気に影響が残る

 2つのチームの調査方法は異なるが、結果に大きな違いはない。結論として、皮膚や毛髪、爪を形成するタンパク質「ケラチン」の生成には、ネアンデルタール人の遺伝情報が大きく関与しているという。

 例えば、皮膚関連の遺伝子「POU2F3」は東アジア人の約66%で、体色と関係が強い遺伝子「BNC2」はヨーロッパ人の70%で見つかっている。

われわれの祖先が新天地の環境に適応できたのは、既に適応を果たしていたネアンデルタール人の遺伝子のおかげかもしれない。「彼らは数百年、もしくは数千年前からユーラシアで暮らしていた。たどり着いた祖先が素早く適応できた背景には、交雑による遺伝情報の継承があったと思う」とサンカララマン氏は指摘する。

 同氏は、エリテマトーデス、胆汁性肝硬変、クローン病、2型糖尿病などの発症に関連するDNAも発見したが、その影響力はまだ確認できていない。

 今回の2つの研究では、非アフリカ系現代人のゲノム配列に、ネアンデルタール人の影響がまったく見られない領域があることも確認された。この大きな空白地帯には、協調運動に関与し、言語活動で重要な役割を果たす「FOXP2」などの遺伝子が配置されている。

 この「空白地帯」はX染色体で特に大きく、睾丸で活性化する遺伝子が含まれている。この事実からネアンデルタール人の一部の遺伝子は、交雑時に不妊を引き起こす原因となったため、いつの間にか消滅した可能性も出てきた。ただし、数百世代という長い期間での話で、交雑の結果産まれた男子すべてに影響が出たわけではないという。

 今回の研究結果は、「Nature」誌と「Science」誌のオンライン版に1月29日付けで発表された。

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