モダニスト

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFG0210Y0S1A100C2000000/ 【俳句、モダニズムの時代 都市の詩 いま読む新興俳句(2) 神野紗希(俳人)】より

カバーストーリー

2021年1月16日 2:00 [会員限定記事]

第1次世界大戦勝利による好景気で、日本の都市人口は一気に増大する。大正~昭和初期、都会には洋装のモボ・モガ(モダンボーイ・モダンガール)があふれ、カフェやバーが軒を連ねた。生活の変化を受け、文学でも川端康成や横光利一らが都市生活の機微を描写、新感覚派と称された。

このモダニズムの流れを俳句で展開したのが、ともに明治34年生まれの山口誓子と日野草城である。

誓子は、高浜虚子の俳誌「ホトトギス」で阿...


https://japanknowledge.com/articles/meyasucho/09.html  【モダニスト草城~日野草城~】より

日野草城は、山口誓子と同じ明治34年生まれだが、俳句では先輩格。誓子を俳句に導いたのは草城である。水原秋桜子や誓子のホトトギス離脱が、より根本的な俳句革新をめざす新興俳句運動の伏流となっていくのだが、それに先んじて、ホトトギス内部において、モダニズムの清新な風を吹かせ、新興俳句運動の一つの中心になっていく「旗艦」を率いたのも草城であった。ところが、彼に対する俳壇の評価は、秋桜子や誓子にくらべ格段に低い。時代が下るほど、その傾向が強くなる。なぜだろう。

春暁や人こそ知らね樹々の雨          春の夜のわれをよろこび歩きけり

春の灯や女は持たぬのどぼとけ         物種を握れば生命いのちひしめける

ところてん煙の如く沈み居り          春の夜やレモンに触るる鼻の先

ひと拗ねてものいはず白き薔薇となる      まのあたり静かに暮るる冬木かな

高熱の鶴青空に漂へり             見えぬ眼の方の眼鏡の玉も拭く

よく採り上げられる彼の作品を10句選んでみたが、どれもソツのないつくりで、つまり技術的な難は見あたらず、うまいと思う。特に比喩や取合せはさえていて、旧弊な俳句がもつ重くれがない。ということは軽いのかというと、そうなのである、軽いのである。この小器用さからくる軽さを山本健吉などが非難したあたりから、今日にいたる草城観がかたちづくられることになる。

草城が全俳壇的に注目される存在になったのは、昭和9年、創刊されてまだ2号目の「俳句研究」(改造社)に、「ミヤコ ホテル」と題する連作を発表し、これが毀誉褒貶の的になったからだった。

けふよりの妻めと来て泊はつる宵の春      夜半の春なほ処女をとめなる妻と居りぬ

枕辺の春の灯ともしは妻が消しぬ        をみなとはかかるものかも春の闇

薔薇匂ふはじめての夜のしらみつつ       妻の額ぬかに春の曙はやかりき

うららかな朝の焼麺麭トーストはづかしく    湯あがりの素顔したしく春の昼

永き日や相触れし手は触れしまま        失ひしものを憶へり花ぐもり

吉井勇の「君とゆく河原づたひぞおもしろき都ほてるの灯ともし頃を」などから想を得て、新婚初夜をモチーフに連作10句にまとめたもの。草城自身は新婚旅行はしていないので、あくまでフィクションである。これを久保田万太郎や中村草田男が激しく非難。対して室生犀星が擁護するといった論争が起きる。それは表面的にはモチーフをめぐるものであったが、根には作品自体のもつ軽さへの不満があった。いくらセンセーショナルにセックスを扱ったといっても、掘り下げはきわめて浅く、内容は常識の域を出ていないではないかというもの。

モダニズムとリベラリズムを彼は標榜するが、結局それは常識の範囲内に納まる程度のものだった。だから流行はつくれても、流行を超えるような作品を残すことはできなかった。これは新興俳句運動における彼の役割の限界も示している。多くの新興俳句系の俳誌が弾圧される中で、「旗艦」が弾圧を免れるのは、当時の国家権力にとって、それが弾圧するに値しなかったからである。「草城の仕事の性質は、何も合法非合法すれすれの線などといふ無理をしてまでやらなければならない仕事ではなかったのである」(神田秀夫)。

晩年、病床にある草城は、妻のすすめもあり、谷口雅春の「生長の家」に入信する。ここにも常識人・草城の横顔をうかがうことができる。


https://azzurro.hatenablog.jp/?page=1537901827 【モダニズム俳句】より抜粋

平畑静塔  (モダニズム俳句)

・花が散る村のポストへ看護婦が    ・そのころの解剖(ふわけ)の畫帳曝しあり

・舟鉾の螺鈿の梶があらはれぬ     ・瀧近く郵便局のありにけり

・燈籠と泳ぎ別るる荒男見ゆ      ・白き霧あふれて開く朝の門

・セツト輝(て)り含嗽ぐすりの色靑き  ・女優出て月光冴ゆるセツト裏

・大年の街を乙女は書を讀みつ     ・新春の人立つ書肆に今日も來る

・蛾の迷ふ白き樂譜をめくりゐる    ・ホテル裏花の墓場が昏れてゆく

・靑空に躁狂(マニア)の手なる凧澄めり  ・道中の娼家の鏡かゞやける

・傘止の生身の汗の光るとき      ・地圖賣の女(め)顴骨が灼ける寺

・死にはべる銀につめたき壺を抱き   ・ホスピタル算盤はじく夜をともり

・驅黴藥少女に注すと日は蝕えし    ・ギター彈く樹下狂人に日は蝕えし

・蜜柑咲き海峽音を聞けり寡婦     ・七夕のほろびたる朝移民發つ

・絕巓へケーブル賭博者を乗せたり   ・鳩の足路上に赤し泥激(たぎ)ち

・ホール裏密林帶に秋が來る      ・終電車手に靑栗の君を歸し

・蟬擲てば狂人守の夜が疲れ      ・冬園に尼となる身の犇と立てり

・聖女體煙のごとし訣れ去る      ・冬天よ田村秋子は亡ぶるな

・病院船牧牛のごとき笛を鳴らし    ・病院船海豚に花は棄てられる

・病院船晩餐の僧いや哄ふ       ・難民の踊る假面の眼を感ず

・難民と神父とのみに居らしめよ    ・ガスマスクやけに眞赤な雲だけだ

・混血のソロ低くせり除夜の家     ・力士默々と撲(う)ち去りぬ開港の夜へ

・聖誕日旅人三鬼の髯伸びし

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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