https://www.suzuka.ac.jp/topics/2022/11/26/17730/ 【公開講座:俳句はカナダでどう詠まれたか】より
11月19日(土)に公開講座「俳句はカナダでどう詠まれたか-The Legacy of Canadian Nikkei Haiku from the Internment Years and the Post-War Years-」を開催しました。
講師は鈴鹿大学国際地域学部教授のアントニオ ジャン ピエール先生。講座は全て英語で行われました。
前半はアントニオ先生がカナダの日系人の第二次世界大戦の抑留中に書かれた俳句の紹介、後半は参加者のみなさんが俳句の翻訳に挑戦しました。
短冊に書かれた達筆を読みとり、俳句に込められたメッセージを読みとり、さらに翻訳。
難しそうな課題でしたが、参加者のみなさんは和気藹々とした雰囲気の中で、楽しく取り組んでいらっしゃいました。
いよいよ今年度の講座も次回で最終回となります。
次回は12月10日(土)に「猫の食事と健康」というテーマで鈴鹿大学短期大学部教授 櫻井秀樹先生の講座となります。
今猫を飼っていらっしゃる方、これから猫を飼おうかなと思っていらっしゃる方、ただの猫好きの方、ご参加をお待ちしております。
https://www.haiku-hia.com/overseas/primer/english/archives/3.html 【俳句紀行 - 第3回】より
花時も過ぎ、立夏です。今年は結社「晨」の大峯あきら先生や同誌の山本洋子編集長たちの吉野吟行に加えて頂き、山里の桜を堪能して来ました。また都会の夜桜を愛でる機会もあり、デイビッド・バーレイ先生や天理市の俳人で俳画家の清水国治さんご夫妻とポーランド大使館よりの帰途、千鳥ヶ淵に寄りました。遠景に東京タワーを置き、お堀の両側に照らされて白く膨らんで揺れている桜、桜、桜、素晴らしかったです。
平成18年3月29日にポーランド大使館よりカクテルパーティーに招待されました。アメリカ在住のポーランド出身の俳人・俳画家のリディア・ロズムズさんの俳画展と出版記念会の夕べです。『霰』(米国、ディープ・ノース・プレス社製作の種田山頭火のポーランド語訳・英語訳・日本語の原句を収めたカード形式の箱入りの句集)に使われたリディアさんの俳画を中心に彼女の作品が展示され、大使館の方による英訳付で村上護氏のスピーチも行われました。写真はリディアさんの俳画の前で、向かって左からリディアさん、筆者、清水国治さん御夫妻。清水さんはワールド・ハイク・アソシエーション主催の第33回俳画コンテストの選者でした。コンテストの結果はこちらから:http://www.worldhaiku.net/
日本の俳句について英語で講演する機会が3月17日につくば市にある二の宮ハウス(社団法人 科学技術国際交流センター)でありました。30分で古今集から現代までの日本の詩歌の歴史、そして作品鑑賞までを纏めるにはパワーポイントによるスライドショーしかないと初めてのパワーポイントに挑戦をしました。参考文献を炬燵に広げての夜なべ仕事です。この過程で、大事なことに気付きました。
私が1回目、2回目と紹介してきました英語ハイクですが、その視点は海外からのものでした。つまり日本の俳句を英語で解説するものではなく、現在アメリカやカナダでハイクポエットと呼ばれる人たちによって詠まれている英語ハイクの視点に立って、それを紹介してきたのでした。日本語の俳句が元になっているとは言え、既に独自の発展をしている海外ハイクですので、それを逆輸入的に日本の皆様に紹介し、彼らが培ってきた俳句紀行の方法から学ぼうという姿勢です。今回のパワーポイントのスライドショーは、日本の側に立ってこちらのものを英語を使って紹介するものでした。
日本にいる私たちにとって、また海外の俳人たちにとって、どちらのアプローチがより意義があるかを考えました。英語ハイクは英語で書く以上、英語の文法に従い、英語の修辞法を用います。ですから英語ハイクの現状から学ぶことは有意義と言えます。また世界中でハイクが作られている今だからこそ日本独特の俳句の世界を海外に紹介することは日本人としての大切な使命とも言えるでしょう。英語や他の言語でハイクを発表している日本の作家たち、あるいは母国語ではなく日本語で俳句を作っている作家たちのその努力と心意気に、筆者は熱い拍手を送りたいと思います。マブソン・青眼さん連載の『俳句』の「青眼句日記」を楽しみにしている読者は多いと思いますし、そのような作家の一人を今回の鑑賞では取り上げてみました。
皆様もどうぞそれぞれの声で、ハイクを世界へ発信なさってくださいませ。国際俳句交流協会(HIA)を初めとして数々の英語ハイクのコンテストが開かれていることですし、どんどんチャレンジしてみてください。工業製品でも工芸品でも、また古くは『源氏物語』など文学作品においてもその質の高さを誇ってきた日本です。俳句の分野でもその質の高さをアピールしてゆきたいものです!
* お知らせですが、7月6日午後6時半より東京の日本記者クラブにて英語ハイクのお勉強会が開かれます。詳しくは日本英語交流連盟のホームページ (http://www.esuj.gr.jp/)をご参照ください。筆者が講師を勤めます。6月20日締め切りの事前投句になります。当日席題あり。
英語ハイクの鑑賞
1984年に渡米し現在はサンフランシスコ在住、俳人協会会員、米国俳句協会会員、『天為』同人の青柳飛氏の英語の第二句集『In Borrowed Shoes(借り物の靴)』が4月17日Blue Willow Pressより上梓されました。日英のふたつの言語で俳句を自在に発表し続けている俳人、フェイ・アオヤギの俳句とハイクの魅力に今回は迫ってみたいと思います。
Hiroshima Day-
I lean into the heat
of the stone wall Fay Aoyagi
広島忌 私は石壁の熱さへ寄りかかる
石壁の熱さへもたれ広島忌
「広島忌」というのはアメリカでも記念日とされているのでしょうか?アメリカで同時通訳として活躍しておられる飛さんには、日本からの移民であることをテーマとした作品群があります。この広島記念日の句もその一つ。じりじりと焼けた石の壁にもたれていく過程、じかに接触している皮膚が悲鳴をあげそう。でもじきに体温でさめてくるし、衣服をとおした熱は心地よくも感じられる。61年前の夏に広島を一瞬にして焼き尽くした熱を思い、またその鎮魂のために祈る。嘆きの壁ではないのでしょうけれど、壁という人為的な境界はこの句にあって象徴的な働きをしています。(飛さんは戦後生まれです。)
snip, snip
of the scissors-
a New Year’s dragon Fay Aoyagi
ちょきんちょきんと鋏の音 新年の龍一尾
ちょきちょきと春節の龍鋏より
サンフランシスコには世界でも有数の中華街があります。飛さんの家からは歩いていける距離にあり、時々食事や食料品の買出しに散歩をするそうです。この龍は旧正月の中国街をうねり歩くドラゴンでしょうか。紙からそのドラゴンを切り抜いている作者。最初の擬態語のスニップ、スニップの繰り返しが、紙を回しながら複雑な龍の輪郭を切り取っていく様子を思わせて佳句。
Thanksgiving dinner
none of us on this side
are parents Fay Aoyagi
感謝祭の晩餐 こちら側の私たちの誰一人として親にはなっていない
なるほど、そういうこともありうるでしょうねと思わせる句。家族が集まってお祝いをする感謝祭の晩餐の卓のこちら側についた人たちは、誰も子供がいなかったという発見。家庭を持ち家族という絆を大切にしていた時代の祝祭と、個人の可能性を追求することを美徳とする時代に生きる面々。キャンドルを点し、七面鳥の焼け具合に鼻をくんくんさせているのは、いつしか大人ばかりになってしまったある家族のダイニングルーム。あるいは家族という単位ではもはや行動をせずに個人的な繋がりで集まった感謝祭のレストラン風景。アメリカ社会を一言で言えば多様性、ゲイや生まない選択をする女性たちも堂々とアメリカを成しています。アメリカの断面をうまく捉えていて感謝祭が季語として動きません。
期せずして3句のいずれにも季語となる「広島忌(原爆忌、8月6日)」、「新年(春節、旧正月)」、「感謝祭(11月第4木曜日)」が入っています。どれも人事の季語でしたが、サンフランシスコの坂の中腹に住み都会暮らしをもっぱらにしている作者の心のありどころや生活スタイルが反映されている句でもありました。主題となる季語があって、それに自身の中から掬い取った景を取り合わせているように感じます。つまり飛さんの句は、季感や自然を詠むことを目的としたハイクではなく、自己を表現するハイクなのです。句集の最後に作者は次のように述べています。
For me, haiku is the most suitable poetry format to express who I am, how I live, how I see and how I feel. (私にとって俳句・ハイクとは私自身や私の生き方、私の見方感じ方を表現するのにもっとも適した詩形です。)
第一英語句集『Chrysanthemum Love(菊の愛)』でアメリカハイク協会のメリットブック賞を受賞している飛さんは、日本でも『天為』(有馬朗人主宰)の新人賞を受賞しました。最後に彼女の最新の日本語の俳句を一句、『天為』平成18年5月号よりご紹介します。
春愁や始祖鳥どこまで飛べたらう 青柳 飛
青柳 飛さんのホームページ
http://www.bluewillowhaiku.com/
(和訳は筆者)
ワンポイント・俳句の英訳
ピエブックス社から出版予定の井上博道さんの写真入の山頭火の句集の英訳を担当しました。自由律の俳句を英訳する場合は、三行にこだわらず、原句の息遣いにより一行や二行、あるいは四行というように訳しました。
また今回英訳をすることになって調べますと、山頭火の句には英訳が既に多くあることを知りました。最初にご紹介しましたリディアさんもジョン・スティーヴン氏の英訳からさらにポーランド語に訳しています。またもう一つ気が付きましたことは、山頭火の句を仏教的な悟りという観点から捉え賞賛している場合が少なくないということでした。今回の私たちの訳では、禅宗のお坊様の悟りの俳句としてではなく、俳人山頭火の人間くさい俳句ということで、山頭火の言葉をそのまま淡々と訳してみました。字面がそのまま英語になる句もありました。
山のいちにち蟻も歩いてゐる 山頭火
a day in the mountains
the ants, too, are walking Santoka
名詞の単数・複数は訳の際に問題になることですが、ここでは蟻を「一匹の」とはせずに複数形にしました。歩いていてふと下を見ると蟻もまた歩いている。蟻は一匹ではなくて、山道のあちらこちらで見た蟻。蟻の道ともいうように蟻が行列をなしていることも考えられます。
日が山に、山から月が柿の実たわわ 山頭火
sun into the mountains, moon from the mountains
persimmons heavily laden with fruit Santoka
「たわわ」という表現が今風の表現であるかどうか、すこし古風な言い方であると思いましたので英訳はheavily laden with fruitとしてみました。それから太陽と月に定冠詞は付き物と文法の時間に習ったと思いますが、ここでは付いていません。俳句や詩の中の冠詞・定冠詞の扱いについては次回のテーマとしたいと思います。
(Translated by Emiko Miyashita & Paul Watsky)
ワンポイント・英作ハイク
shower of petals-
confetti from yesterday
still in my pocket Emiko Miyashita
花弁のシャワー 昨日の紙ふぶきの紙片が まだポケットの中に 惠美子
2000年4月にアメリカ、イリノイ州ディケータにありますミリキン大学を会場に行われたグローバルハイクフェスティバルでの吟行句です。故ロバート・スピース『モダンハイク』編集長の特選をいただきました。大学の構内で盛んに落花を見せていた桜よりやや花弁の大きい花。コンフェティはパレードやパーティーなどで撒かれる紙ふぶき。ポケットに残っていた小さな紙片はお祭り騒ぎの名残り。毎年この時期になると思い出す一句です。
「切れ」を意識して当時は一行目の終わりにダッシュを入れました(『モダンハイク』vol.XXXI No.3、 2000) が、無くても十分意味上での切れがあります。英語ハイクにおける「切れ」は具体的には文法上の途切れですので、明らかに分かる場合はダッシュやコロンなど不要なのです。例えば、余韻を強調したければ「. . . 」を入れてみたり、長い休止を意識したいときにはダッシュを入れたりしましたが、最近の傾向としては、不要なパンクチュエーション(句読法)を用いないようになってきているようです。
ロバート・スピース氏の命日は3月13日でしたが、今年の3月11日にはボストンにカジ・アソウスタジオを開き俳句を含む日本文化を長年紹介してこられた麻生花児氏が永眠されました。ご冥福をお祈りいたします。
それではまた次回まで! ごきげんよう。
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