「河童と蛙」

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「河童と蛙」   草野心平 

るんるん るるんぶ

るるんぶ るるん

つんつん つるんぶ

つるんぶ つるん

 

河童の皿を月すべり。

じゃぶじゃぶ水をじゃぶつかせ。

かほだけ出して。

踊ってる。

 

るんるん るるんぶ

るるんぶ るるん

つんつん つるんぶ

つるんぶ つるん

 

大河童沼のぐるりの山は。

ぐるりの山は息をのみ。

あしだの手だのふりまはし。

月もじゃぼじゃぼ沸いてゐる。

 

るんるん るるんぶ

るるんぶ るるん

つんつん つるんぶ

つるんぶ つるん

 

立った。立った。水の上。

河童がいきなりぶるるっとたち。

天のあたりをねめまはし。

それから。そのまま。

 

るんるん るるんぶ

るるんぶ るるん

つんつん つるんぶ

つるんぶ つるん

 

もうその唄もきこえない。

沼の底から泡がいくつかあがってきた。

兎と杵の休火山などもはっきり映し。

月だけひとり。

動かない。

 

ぐぶうと一と声。

蛙がないた。

http://www2s.biglobe.ne.jp/koyukai/zkaeru11.html  【「蛙(堀悦子)」解説】 より

「蛙」の詩をテキストとした男声合唱曲は数多い。それは、草野心平による蛙の詩群自体が、音楽を要求しているからであろう。蛙に言わせれば「コーラス!コーラス!コーラスは

俺達の合言葉(スラング)!」(「行進曲」詩)なのだ。

 その蛙たちは草野心平の詩の深化にともなってあるいは哲学的に成長し、あるいは特殊な能力をそなえてゆくのだが、堀悦子氏がピアノ伴奏による男声合唱組曲のために選んだのは、生や死や性、歓喜や悲嘆、そして冬眠と、原初的な蛙の感情を歌い上げた、初期の六篇の蛙詩であった。よろこびにせよ、かなしみにせよ、テーマが単純であるだけにより深く力強い音楽表現が求められるのではなかろうか。

人間社会の戯画であることを頭の片隅に置きながら。

 1.いぼ

 春になって真っ先に地上に出てくるいぼがえる。擬人化した「春」を相手にぶつくさ喋りながら歩いているところが滑稽である。

この詩は初出では、福島県磐城地方の発音をとどめタイトル「えぼ」で、「ぼくたち仲間だ/大円の春の地べたに最初に声をあげるぼくたち仲間だ/ 青や赤や雨なんかもそのうちにはひ出してくるだらう/他の兄弟に魁けて唄ひ出す ぼくたち仲間だ」などと、仲間意識・地に根差した階級意識が濃厚であったが、 改訂によって蛙の春情に主題がうつされている。「そつちでもこつちでもぶつぶつなんか鳴き出した」のは先に交尾を始めた蛙であり、だから主人公は「やりきれんな」と繰り返すのであった。

 2.青イ花

 蛙の天敵は蛇と人間の子供である。この「青イ花」の場合は、まだ世の中をよく知らない 幼い蛙が、蛇の腹の中から母親蛙に残したメッセージである。

子供らしい片言をカタカナで表現している。その子は自分の「死」を理解できず、 青い花のような、それでいて燃えるような麻痺の感覚を蛇の逆歯の毒のために 味わいながら、もう帰れないことだけは感じているのである。幼いが故の天国的な死。

 3.河童と蛙

 月は生き物の狂躁状態を誘う。この河童は、大河童沼にて満月を愛ずるあまり、日頃鍛練のシンクロナイズド・スイミングの披露に及んだ。デュエットのお相手は水面の月。ぐるりの山と蛙が観客であった。

水の上に立ち上がるウルトラCのあと、直立に沈む鮮やかなヒキ。

沼は月の「兎と杵の休火山」まで映るような静けさにもどった。

「ぐぶう」、蛙のブラボーである。

 4.蛇祭り行進

 蛙の社会にゲリゲという名のカリスマ的ヒーローがいた。彼は敢然と蛇に挑み、しばしば蛇を斃した。勝利の夜はお祭りである。蛇をほふる大パレード。

蛍を口に含んでの提灯行列。たくさんの蛙のとりどりの歓呼。

風や星が祭りの装飾のようである。おしまいにはロンドの群舞だ。贄の残酷さに比例して 群衆の喜びは盛り上がる。蛇祭り行進は、<祭>の本質的エネルギーに満ちている。

 5.おれも眠らう

 冬眠態勢に入った二匹の蛙が、土の中でつぶやくような会話をかわしている。

「るるり」の蛙が一度鳴く。「りりり」の蛙が一度鳴きかえす。三回繰り返し。

四度目の「るるり」。返事がない。促す「るるり」。やっと「りりり」と返事。

また「るるり」。返事がない。「るるり」。まだ返事がない。「るるり」。

すると「りりり」。この反応の鈍さじゃあ、もう相当眠いんだな。そんなら「おれも眠らう」。蛙語版の「秋の夜の会話」である。

 6.祈りの歌

 この曲では詩の前半の状況設定の部分が省略されている。

「ごびろ」という名の蛙は生死の境をさまよい悪夢にうなされている。

その恋人の「りるむ」という名の蛙は祈りの歌を歌うしか手立てがない。

「りま りま‥‥」嘆きの歌。「死ぬいや、死ぬいや」の叫び。

しかし、最後にはその歌も微妙に変わる。

「いいる いいる おお いいる いいる よう」。

この時、「ごびろ」に死の安息が訪れたようだ。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

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