てのひらを落ち着かせたる冬林檎
https://koutenn.blogspot.com/2019/11/ 【「てのひら」10句 岡田耕治】
冬紅葉Xという人を待ち 短日のバス内外を別ちけり
その中に色を失い冬夕焼 良い声の鮟鱇鍋に集まりぬ
淡海三句
空風や淡海の色を深くして 冬空がとらえていたる淡海かな
日本酒を唯々飲んで息白し 一人ずつ持場のありて銀杏落葉
てのひらを落ち着かせたる冬林檎 感覚を開きマスクを外しけり
https://bionet.jp/2019/11/16/apple/ 【秋から冬の果物、りんご】より
今、店頭にはさまざまな種類のリンゴが並んでおり、私たちの目を楽しませてくれます。
リンゴの旬は秋から冬にかけて。シャリシャリとした歯ごたえ、ほのかな酸味とさわやかな甘味のバランスがよい、人気の果物です。
生で食べるほか、お菓子や料理の材料としても広く利用されています。
今回は、秋から冬の果物、リンゴを取り上げます。
りんごの来歴(1)
原産地コーカサス地方~ヨーロッパ
はじめに、リンゴの来歴について見てみましょう。
リンゴは、あらゆる果物の中で、人類との付き合いが最も古いものといわれています。
古い時代には、「アップル」は「果物」を意味する言葉だったそうです。
リンゴの原産地は、西アジアのコーカサス地方(カスピ海と黒海にはさまれたカフカス山脈のあたり)。
栽培の歴史は古く、トルコでは約8000年前のものと見られる炭化したリンゴが出土、またスイスでも約4000年前のリンゴの化石が見つかっています。
◆原産地コーカサス地方からギリシア、ローマ、そしてヨーロッパへ
ギリシア時代、紀元前300年頃、アレクサンドロス大王がペルシャ(現在のイラン)に遠征したときに同行した哲学者のテオフラストスは、リンゴの原産地カフカス山脈を通ったときに、いくつもの野生のリンゴをギリシアに持ち帰ったといわれています。
そして、実の大きな栽培向きのものと、実の小さな野生種とを区別しました。テオフラストスは、リンゴを接ぎ木で増やす方法や、栽培法なども研究しました。
テオフラストスが持ち帰ったリンゴは、やがて広く栽培されるようになりました。
ローマ時代には、既に30品種ものリンゴが栽培され、リンゴはブドウとともにデザートとして食べられていました。
そして寒冷な気候を好むリンゴは、次第にヨーロッパの北の方へ伝えられていきました。
6~7世紀ごろから品種改良が始まりましたが、それは主にヨーロッパの北部で行われました。
◆飲料水のかわりに
さて、ヨーロッパの水はミネラルが多い硬水で、飲用には適さないとされます。
水の悪い地域では果物から飲料水を得ることが多く、例えばアフリカでは甘くないスイカの果汁を使います。
暖かくブドウがよく育つ南ヨーロッパでは、ブドウからワインをつくり飲料水や薬のかわりにしました。
このため、スペイン・フランス・イタリアなどのラテン系の人たちは、ブドウを大切にします。
これに対して、涼しく、ブドウの栽培ができない北ヨーロッパでは、リンゴを栽培し、リンゴを加工したサイダーやリンゴ酒を飲料水のかわりとして利用しました。
このことから、イギリスなどのアングロサクソンの人たちは、リンゴを大切にしています。
リンゴは、実の大きな改良種を「アップル(apple)」、野生種など実の小さなものを「クラブアップル(crab apple)」と呼び分けます。
主に、苦味や酸味のあるクラブアップルを発酵させ、糖分をアルコールと二酸化炭素にかえたものが「サイダー(cider)」=リンゴ酒です。
(フランス語では「シードル(cidre)」。英語で「ハードサイダー(hard cider)」はリンゴ果汁を発酵させたもの・リンゴ酒、「スウィートサイダー(sweet cider)」はリンゴジュース・発酵させないものを意味します。)
クラブアップル(クラブリンゴ)は、庭木や鉢植えなどの観賞用にも用いられますが、ヨーロッパにはサイダーやシードルをつくるための選ばれた品種があります。
ちなみに、ニュートンが万有引力を発見するヒントになったリンゴの木は、イギリスの田舎町ウールスソープにある母の家の庭に、サイダーやパイなどに利用するために植えられていた「フラワーオブケント」という品種なのだそうです。
【参考】
▼A Taste Of The Southern Home アメリカ南部の家庭料理/ホット・アップルサイダー
http://tastesouth.exblog.jp/12190323/
アメリカの林檎
りんごの来歴(2):アメリカへ
17世紀ごろ、多くの人々がヨーロッパからアメリカ大陸に移住しました。
このとき移住者は、アメリカの水がヨーロッパと同じように飲用に適さない硬水だろうと考え、飲料用のサイダーをつくるためにリンゴの苗木やタネをアメリカに持ち込みました。そして、開拓した家のまわりにリンゴを植えました。
その後、アメリカにリンゴが広まり、さらには19世紀以降、イギリスやアメリカで多くの品種がつくられ、リンゴ産業は世界に発展することになりますが、それは、「リンゴの聖者」と呼ばれるジョナサン・チャップマンのおかげだといわれています。
1774年、アメリカ北東部マサチューセッツ州ボストンの近くに生まれたジョナサン・チャップマンは、サイダー工場から出るリンゴの搾りカスからタネを集め、それを持って、西部開拓者たちとともに旅をして各地をまわりました。そして、農民や入植者たちにリンゴのタネを渡し、生育に適した場所にタネをまいて大切に育てるよう、指導して歩きました。
粗末な服を着て、白いあごひげを生やし、リンゴのタネの入った袋を背負って裸足で50年もの間、各地を歩きまわったといわれています。「種まきジョニー」のニックネームもあったそうです。
ジョナサン・チャップマンがタネをまいたリンゴの木は、大木になってアメリカ東北部の各地に根付き、いろいろな色や味の果実を実らせました。
このことによって、リンゴには多くの異なった特性とそれに関係する遺伝子があることが示されました。そして、これらのリンゴの木を親木として、新しい品種を育てる研究が続けられました。
その先に、現在のおいしいリンゴの品種があるといえます。
今でも世界中で栽培されており、生で食べたり、アップルパイやジャムなどの加工用として人気があるリンゴ「紅玉こうぎょく」は、アメリカの古い品種ですが、英語名を「ジョナサン」といいます。ジョナサン・チャップマンにちなんで名づけられました。
欧米では、リンゴは人々の伝統的な食文化に根づいた果物
上で見てきたように、欧米では、リンゴは古くから人々の生活に密接に関わってきた、大切な果物です。
元 長野県果樹試験場・場長の小池洋男さんは、編著書『そだててあそぼう[54] リンゴの絵本』(農山漁村文化協会、2003年)のあとがきで、このことがよくわかる、次のようなエピソードを書いていらっしゃいます。以下、引用してご紹介します。
国際会議などで欧米の国々を訪れて、リンゴが人々の伝統的な食文化に根づいたくだものであることを知らされました。
フランス・ブルターニュ地方の農家で味わったそば粉のクレープとリンゴ酒(シードルやカルバドス)、パリやミラノの路地裏市場に山積みされた小粒リンゴを買い求めて丸かじりしながら散歩を楽しむ人々、ブルガリア・ソフィア近郊の農家のデザートにふるまわれた酸味のきいたリンゴたっぷりのアップルパイ、息も凍るような厳冬のカナダ・オンタリオ湖近くの農家レストランで味わったメイプルシロップ入りホットサイダー(リンゴ酒)、イタリア・ドロミテアルプス山麓南チロル地方の農家民宿でシャルドネ種ワインとともに味わった焼き栗と焼きリンゴ、ニュージーランド北島ネーピア市で味わったアップルソース添えベニソンステーキ(鹿肉)、モスクワのホテルで味わった酸味のきいたリンゴスライス添えキャビア、アメリカ・ワシントン州コロンビア河沿いの大リンゴ農園で働くメキシカン労働者と丸かじりした酸っぱい青リンゴ・グラニースミスなどなど、“一日一個のリンゴは医者を遠ざける”のことわざ通り、リンゴが日常的に利用されているのです。
りんごの来歴(3):日本でのりんご
さて、日本では、もともと中国や日本原産のワリンゴ、リンキ、イヌリンゴなどが「林檎」の名で呼ばれていました。江戸時代には栽培もされていましたが、これは今のリンゴとは違う種のリンゴでした。果実が小さく、味もよくなかったようです。
秋から冬の果物、リンゴ
現在のようなリンゴが日本へ伝えられたのは、明治時代になってからです。
明治初期に欧米から導入されたアップルは、果実が大きく品質がよく、在来の林檎と区別するために「苹果(ひょうか/へいか)」、「西洋リンゴ」、「大リンゴ」と呼ばれるようになりました。
そして、在来の林檎は西洋種の導入とともに衰退し、現在は単にリンゴといえば西洋リンゴのことを指すようになりました。
日本での本格的なリンゴ栽培は、明治5年に明治政府がアメリカから75品種を導入したのが始まりです。東京青山で育苗が開始され、増殖した苗を各地に配布しました。この時のリンゴの苗が、今日の国内栽培の源になっています。
当初は津軽藩などの士族授産を目的とし、政府の内務省勧業寮や北海道開拓使が旧藩士らに苗木を配ったそうです。
当初導入された外来品種には、
・紅玉(原名:ジョナサン)
・国光(原名:ロールス・ジャネット)
・祝 (原名:アメリカン・サマー・ぺアン)(以上アメリカ産)
・旭 (原名:マッキントッシュ・レッド)(カナダ産)
など、日本名がつけられました。
これらの品種は、東北地方、北海道、長野などでさかんに栽培されました。
その後、大正になって、デリシャス・ゴールデンデリシャス・スターキングデリシャス(いずれもアメリカ産)など、多数の品種が導入され、各地に普及していきました。これらは原名のまま日本に根付きました。
◆品種改良
昭和になって、これらの品種をもとに品種改良が始まりました。特に紅玉と国光は重要な役割を果たしました。そして、多くの優れた品種がつくり出されていきました。
品種改良は、青森県南津軽郡藤崎町にあった元・農林省園芸試験場東北支場(その後の果樹試験場盛岡支場、現・独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 リンゴ研究拠点)と、黒石町の青森県りんご試験場(現・青森県農林総合研究センターりんご試験場)が中心となって行われました。
津軽の地からは、ふじ・あかね・はつあき・ひめかみ・さんさなど、多くの優れた品種が送り出されました。なかでもふじは、国内生産の約半分を占める日本一の品種となりました。中国、アメリカ、ブラジルなど海外でも広く栽培されており、世界でも最も生産量が多い品種です。「世界で一番おいしいリンゴ」ともいわれます。
真っ赤に熟したりんご
◆日本の家庭の食卓に定着したりんご
このように、日本での(西洋)リンゴの歴史は長くありませんが、リンゴは、今ではすっかり日本の食卓に欠かせない、私たちにとってなじみの深い果物となりました。
国内の果物の生産量では、リンゴは第2位です。(第1位はミカン)
栽培には、涼しくて雨の少ない地域が適しています。
栽培面積は、青森県が約50%、次いで長野県が約20%となっています。その他、岩手県・山形県・秋田県・福島県・北海道・群馬県などからも出荷されています。
一方で、ふじのように温暖な地域でも栽培できる品種もあり、栽培は各地に広がっています。
りんごの花
さまざまなりんごの品種
世界には、約15,000種ものリンゴの品種があるといわれます。
日本でも、約2,000種の品種がつくられてきました。そのうち、実際に栽培されている品種は数10種です。
上でふれた品種のほか、青森からは、陸奥・東光・王鈴・恵・世界一・つがる・北斗などが育成され、リンゴ業界を支えています。秋田からは千秋・アキタゴールド、福島からは王林、北海道からはハックナイン、群馬からは陽光・新世界・赤城、長野からはシナノゴールド・アルプス乙女などが育成されています。
なお、リンゴの中には「サンふじ」「サンつがる」など「サン~」と呼ばれるものがありますが、これは袋がけせずに日光に当てて育てたものです。
袋がけしたものと比べると見かけはよくありませんが、糖分が多く甘味が強いため、人気があります。ビタミン類なども有袋栽培のものより多いそうです。
「1日1個のりんごは医者を遠ざける」
さて次に、リンゴの栄養・効能について。
ヨーロッパには、「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」(1日1個のリンゴで医者いらず)ということわざがあります。
古くから栄養価の高い果物として親しまれてきたリンゴ。
リンゴに含まれる、注目の成分について見てみましょう。
◆果糖
果物の糖分、ブドウ糖・果糖・ショ糖にはそれぞれ働きがあります。
リンゴには果糖が主に含まれています。果糖には脂肪をエネルギーに変換する作用があるので、運動の際に必要なスタミナ補給源として適しています。
◆カリウム
リンゴには、利尿作用があるカリウムが含まれています。
高血圧の原因となるナトリウムが水分と一緒に体外に排出されるので、血圧を下げるのに有効です。心臓病や脳卒中の予防に効果があるといわれます。
◆リンゴ酸
リンゴの甘酸っぱさの成分であるリンゴ酸には、炎症を抑える作用があり、せきを止めたり、粘膜を保護する効果があります。
風邪のときなどにすりおろしたリンゴを食べるのは、このような効果があるからです。すりおろせば楽に食べられますし、消化もよいです。
また、リンゴはナシやモモ、ミカンに比べると体を冷やすことがなく、体力の回復に最適です。
◆ペクチン
水溶性の植物繊維ペクチンには、腸の働きをととのえる作用があります。便秘の解消、大腸ガンの予防に効果があります。
ペクチンは熱に強い成分なので、調理して熱を加えても、効果は失われません。ただ、ミキサーにかけると、急速な回転のため成分が壊れてしまうので、要注意です。
◆ポリフェノール
リンゴの赤い皮にはアントシアニンが、白い実の部分にはフラボノイドの一種ケラセチンが含まれています。
これらはいずれも強い抗酸化力のあるポリフェノール類で、血液中のコレステロールの酸化を抑制して、動脈硬化を予防します。
また、最近の研究では、リンゴを食べていると中性脂肪が増えないこと、免疫力が高まること、アレルギーが抑えられることなどが明らかになったそうです。
そしてイタリアでは、禁煙にリンゴがいいといわれているそうです。
リンゴを食べながらタバコを吸うことを毎日続けていると、だんだんタバコの味がまずくなって、禁煙できるということのようです。これは、リンゴに含まれる成分とタバコの成分ニコチンが反応するためと考えられています。
こうして見てくると、古くからいわれているとおり、リンゴはとても身体によさそうですね!
リンゴは生食されることが多いので、ビタミン・ミネラル類がストレートに吸収されてとても効率がよい、ということもポイントです。(野菜にもビタミン・ミネラル類が豊富に含まれていますが、調理することで壊れてしまうことが多いのです。)
また、毎日少しずつ食べられるので、これらを微量でも毎日体内に取り入れることができます。
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